42話 混戦
美しい両軍チアの競演も終わり、再び激しい戦いが始まった。
「おのれ山名のくそ爺いめ!」
(あの・・あなた様は御幾つでしょうか・・・・)
細川元総統は劣勢に怒り狂っている。しかし、たった2歳しか変わらず、自らも95歳なのに、山名知事を爺と呼ぶとは・・・。
「お爺様♪隼人クンがきっとがんばってくれるわ♪」
「おお、由香、そうじゃったのぉ・・」
隼人と由香。由香の頁 |
この、天真爛漫にして生きているお人形のような美少女は細川由香。細川総統の長男・故・細川忠元海軍大将(戦死時少将・2階級特進、第三次世界大戦で壮烈な戦死を遂げた)の長女で、数多い孫の中でも総統が最も可愛がっている自慢の姫君であった。皇太子殿下(長女が皇后)や、跡継ぎの隆之(由香の兄)よりも溺愛している。その公認のお相手がこの加藤隼人。
総統の次男・細川春彦宇宙工学博士の親友だった、加藤博士の忘れ形見であった。九州男児の父の血を引く彼は、身長195センチ・体重100キロで、その筋力は常人の10倍近くもある、超人的肉体の持主であった。細川総統により、あらゆる武道を仕込まれていてスポーツ万能。特に、剣道は強すぎて相手がいなくて困っている。
その隼人が、今劇的なタッチダウン・・・。
「キャー、隼人クン♪」由香は大はしゃぎ。
だが、ベンチに引き揚げてくる隼人・・。
「ご隠居、行ってまいります」
「うむ。」
なんと、隼人は近くの会場で開かれている、弓道と剣道の試合と検定にも出場するのだ。だがこの試合は日没まで続く。隼人もいずれ戻るだろう。
「待って♪由香も連れていって〜」
目を細めて2人を見守る細川。いつも厳格なこの老権力者も、この孫娘にだけは異様に甘い・・・。
一方、西軍では、山名総帥の檄が飛ぶ。
「アズマエビスどもを、全員打ち殺してしまうのじゃ!
畠山!お前は紺の24番を狙え!赤松は赤の1番じゃ!京極高校の選手たちにマークの指示をする。山名元帥の若い頃はまだアメフトは行なわれていなかったため、直接プレーしたことはないが、英国、独逸の陸軍大学に留学してラグビー、サッカーの名手として知られた山名元帥は、さらに格闘技の達人でもあり、格闘球技・アメリカンフットボールの指揮はお手の物であった。なんと、この試合自らも選手登録してある・・・・。もちろん、年齢制限オーバーなので(満21歳未満のところ、97歳)実際は出れないが・・オーバーエージ枠最後の1枠を自分にしていたのだった。(後で年齢制限を知り悔しがる)
他校の選手たちにも遠慮はない。四聖人といえども、僅かなミスも見逃されない。
「安東よ、貴様ともあろうものが!」
大迫力の山名元帥。迫力の点では、細川総統を上回っている・・・。
山名・細川両元帥は、もう80年も前から何事につけても競い合う宿命のライバルであった。いや、祖先からの因縁で600年前からの宿敵である。だが、本当は相手を尊敬しあい、高めあって長生きしてきた2人であった。
さて、一時劣勢の東軍は、隼人の活躍で追いつき、その後、「主役」の登場、そう双子の東兄妹の活躍で、リードを広げた。
山名総帥は、体の小さなサトルや、女であるサトミに翻弄される西軍に怒りを爆発させた。「安東!なんとかせい!」
安東も、関西ナンバーワンプレーヤー、いや今年の大学新人王で、神学館大学が関東代表の京王大学を破った(高校は、逆に京王高校が、神学館高等部を破った。(38話参照)立役者。また、去年、高校最後のクリスマスボウルを、東兄妹の活躍で(21〜23話参照)敗北し、有終の美を飾れなかった悔しさは、他の誰よりも強い。
特に、サトルの頭脳プレーにより、必殺のグランドクロスを破られた悔しさは忘れられるはずもなかった。あの時、サトルは4人で行なうグランドクロスに、5人のマークを付けてこれを破った。ならば・・・。安東の頭に、作戦が閃いた。
彼も「聖アンドリュー」と呼ばれる四聖人筆頭。今日は、仲間の四聖人も揃い、頼もしい後輩たちもいる。そして、ベンチには妹のナッちゃんも。
「お兄ちゃん、サトルはんたちはウチが見張る。そして、スキを見せたら、合図するわ。」
「頼むぞなつ」
ナッちゃんも、アメフトのことは子供の頃から何でも知っている。サトルやサトミのことも知っている。ベンチの中とはいえ、彼女に監視されるということは・・・・。
そんなことは知らない東兄妹は、元気一杯に走り回る。そして得点を重ねる・・・。
サトルの今日一番のパスが、サトミに通った。チャンスだ!
だが、西軍ベンチのナッちゃんが、頭の輪に指を通した。それを見た安東・・・。
そう、最大のチャンスは、同時に最大の油断、失敗の可能性もあるのだ。
パス自体は成功し、サトミはこれを、一旦味方に戻し、再びサトルを経由して決めるのがいつものパターンだった。そして最初のパスは大成功。だが、今日は連合チーム。一度目のパスの相手の京王の選手とは、今日初めてであった。そのため、サトルに球を戻すタイミングが僅かに遅れた。サトルは、このぐらいの遅れなら・・と思い、再びサトミにパスをした。だが、これを安東はナツちゃんの協力もあり、完全に読んでいた。あらかじめ、この連携の不備のために遅れた0.5秒を計算の上、グランドクロスの支持をした。
しかも、四聖人に加え、西の破壊王,須田と方岩もフォローするという完璧さ。
ガチャーン!「キャーーーー!」
女の子の悲鳴が響く。サトミだった。
気丈なサトミが、普通の女の子のように悲鳴を・・・。そう、今まででも一番というぐらいの、完璧なグランドクロスが炸裂したのだ。6人合わせて500キロ以上の衝撃を、走りながら受けて数倍のダメージを受けてしまったサトミ・・・。女ではあるが、並みの男以上に鍛えぬかれ、その上チタン合金と強化プラスチックの複合材の防具を身につけていたとはいえ、この衝撃はあまりにもすさまじかった。
サトルは自らのミスを悟り、絶叫して駆け寄った。
「サトミ!」
サトルに抱き起こされるサトミだったが、衝撃でしばらく動けなかった・・・・。
サトルに抱きかかえられ、ベンチに下がるサトミ・・。そしてサトルも失敗と、サトミの傷が心配で下がった。というより2人は食事以外ほとんど休まず出続けていた疲労の蓄積も限界であった・・・。
そのサトミを、ベンチの裏にみゆきが連れて行く。
「サトミちゃん、大丈夫?ここなら男の子はいないわ。ユニフォームを捲くってみせて」
「みゆ・・・」
「あっ!」
みゆきが絶句したのは無理もない。重さ5キロ、チタン合金の枠に強化プラスチックをはめ込んだ強固な防具が、金属部分はひしゃげ、プラスチック部分は無惨にも砕け散っていたのだ。
「サトミちゃん、ちょっとごめんね・・」
みゆきは、サトミの胸をまさぐった。
「くすぐったいよみゆ・・・」
「ごめんなさい、今骨を調べたの・・・。大丈夫、骨は折れていないわ。防具のおかげね。
でも、この防具、もう・・・・」
「防具なんてなくても、い、いてて・・・」
「無理しちゃだめよ、すごい衝撃よ。今は大丈夫でもきっと明日あたりからは痛みがしばらく続くわ。それにもう6時間以上も戦ってきた疲れが・・・。今はここで少し休んで・・・。
でも、防具がこんなんじゃ・・・」
「みゆ・・どうしよう・・・」
「今は防具のことより、自分の体のことよ」
「うん。」
一方の安東たちは作戦の成功と攻撃権の奪取に狂喜していた。ナッちゃんもおおはしゃぎ。
そして、ベンチに下がった東兄妹に代わり、選手の交代が告げられた。どうやらかなりの入れ替えになるようである。そして、そのとき会場が割れんばかりの大歓声が上った。
しかし、それをみゆきとただ2人、控え室(200人以上の選手全員がベンチに入れないので、出番の少ない選手たちは控え室で待機している)をカーテンで仕切った空間で遠く聞いたサトミ・・・・。はたして試合は?そしてサトミは・・・?