第43話 真のエース登場
会場が、割れんばかりの大歓声が上った。東軍側の、選手交代である。一体何が・・・・。
これまで、双子の東兄妹を中心とした南武高校主体の構成が、サトミの負傷退場をきっかけに、京王高校主体に変ったのだ。だが京王主力は今までも出ており、特に驚かれることはないはず・・・。だが、この歓声である。まるで今日の主役が登場したかのようだ。
いや、まさしくそのとおりだった。
東軍ベンチを飛び出す長い影・・・・・。かなり長い脚をしていることが影からもわかる。そしてその長身にそぐわず、あまりにも細いその体・・・。
「先輩、僕たち京王の真のエースの姿を、この満員の観衆に見せてやろうぜ」
「OK!ヨリ、本当に久しぶりだな、このユニットは」
「高橋君、西軍も京葉の連中も、皆驚くだろうな」
「南武の連中は薄々気付いているとは思うけど、ネ、先輩♪」
久しぶりのユニット・・・。そう、昨年まで「京王三銃士」と呼ばれていた、福沢俊吉、大森貞明、高橋頼伸の無敵ユニットの復活だ!福沢と大森の卒業により、頼伸1人になってしまい解散した名ユニットの復活。これは歓声があがるのも無理はない。だが、彼ら3人は脇役に過ぎなかった。
「ヨリ、行くわよ。遠慮は無用。今日は思いっきり暴れさせてもらうわ!」
なんと、交替選手として告げられた最後の1人は・・女。あの長い影、細い影の正体は・・
高橋(旧姓・立花)千代、背番号00であった!
ウソではない。メンバー表に、ワイドレシーバーとして登録されている。4強の選手ではなく、「京王女子高校」から、「東軍監督・飯田源蔵」ならびに「東軍総帥・細川隆斎」の推薦選手としてエントリーされていたのだ。アメフト部が存在するわけもない女子高からの推薦・・・。不思議であろう。だが京王高校や南武高校、それに吉本工業高校の選手たちにとっては、なんら不思議なことではなかった。
彼女、千代は確かに、名門・京王高校の選手ではない。生徒ですらない。だが彼女が京王高校アメリカンフットボール部・ペガサスのかけがえのない一員であることを、仲間たちや親しいライバルたちは知っていた。彼女こそ、暮に亡くなった日本アメフト界最大の功労者・京王高校監督、立花豪雪の一粒種の忘れ形見・・・。女ではあるが、幼い日よりその偉大な父から、フットボールの全てを叩き込まれて育て上げられていたのだ。しかし彼女は女・・・。いかに技術が優れていようとも、肉体は女であり、また、進学先が女子高であったため、(京王は、男女別学で、同じ学校法人・同じ敷地だが男女で京王高校、京王女子高校と別々の学校という扱いになっている)当然公式戦に出場したことは一切ない。だが彼女は父を補佐する、「コーチ」として京王ベンチに常に入り、さらに、南武高校ほかとの練習試合には、顔をシールドで隠し、長い髪を丹念に束ねて隠して出場し、タッチダウンやインターセプトまで見せ付けていた。
当然、日頃の練習には京王の他の部員と全く同じメニューをこなしていた。東サトミと同様、「女子高生フットボーラー」だったのだ。ただ、彼女のほうがサトミより少しばかり早く「女」としての覚醒が早く、また父の勤務先の都合で、京王女子に進まなくてはならなかったため、公式戦には出れず、また出られたとしても、万が一タックルを受けた際に、十分に耐えうる体ではなかったため、活躍の機会がなかったのだ。もし、京王高校が共学であれば、関東初の女子フットボール選手は、サトミではなく、この千代になるはずだったのである。そして、彼女のレシーバーとしての実力は・・福沢の言葉を借りれば、
「京王の真のエース」であった。
そして、主催者が、防御に不安があり、また公式戦の実績が全くない彼女の出場を特別に認めたのは、この試合が彼女の父、立花豪雪監督の追悼試合であったからでもある。
「東エビスめ!よほど人がおらぬと見える。また女を出してきおった!実にけしからん!
須田、方岩!、遠慮はいらぬぞよ!」
「ハっ!」威厳のある山名総帥の前であったので一瞬びびったが、方岩たちはにやりとした。「総帥の御墨付を戴いたぞ・・サトミの次は、あの女も」
「キャプテン、あのサトミという小便臭い小娘より、こんどの方が色っぽいぜ・・」
千代の、雪のように白い肌、真っ赤な唇は、ヘルメット越しからもはっきりとわかる。また、今日は堂々と「女」として出場できるので、髪も束ねておらず、その長く、膨大な量の髪を背中に垂らしていた。そのため、立った状態では真後ろからは背番号が見えなかった。
ハット、ハット・・・ガシャーン
試合再開である。
新たな女性選手、それも飛び切りの美人と見て、西軍選手たちは踊りあがって挑みかかってきた。
しかし、クォーターバック、福沢は迷わず彼女、千代にパスをする。
青空に、細く、長い腕がするりと伸びる・・・。そして、ガッチリとボールを掴み取る・・。
パス成功だ!だが、当然これは読まれている。迫り来る敵。
だが千代は、まっしぐらにエンドラインを目指す・・・。
彼女は防具を付けているが、女である。しかも、かなり細い。先ほど、彼女よりもかなり頑強な肉体を持つ女子選手、東サトミが負傷のためベンチに下がった。鍛えぬかれ、並みの男を上回る筋肉を持ち、さらに防具を付けていても、である。したがってもし千代が、サトミと同様のタックルを喰らえば、どうなるかは、火を見るより明らかであった。にも関わらず千代はまっしぐらに、なにも恐れずに突進する。無謀だ!須田が、方岩が、畠山が迫る・・!だが!彼らを悉くブロックしていくのは彼女の忠実な騎士(ナイト)たち・・・そう、京王三銃士の福沢・大森・高橋だ!
♪京王、京王、みやこの王者、京王〜
京王の応援歌が響き渡る!
「ハハハ!驚いたか!おれたち京王の真のエース、幻のエースの実力を!」
勝ち誇る福沢。
そして今、千代はタッチダウン!
「要は、千代にタックルさせないようにすればいいだけのことなんだ!」
「そういうこと!」千代の、パスキャッチ能力や、ランコースの選択眼は、人並みはずれた優れたものであり、幼い頃からの鍛錬の賜物である。
練習試合の際、京王の一番の決め技はこの4人の連携によるランプレー。QBがパスを千代に通したら、何があっても全力で全員が千代の楯となり、彼女の進路を切り開き、タッチダウンさせる・・・。これこそが京王の、真の決め技だったのだ。だが、実際には千代は試合に出ることが出来ない。だからこそ、「幻のエース」と呼ばれていたのだ。 そして、本人も仲間たちも、そして敵も、一目見ただけでわかるように、彼女はビルダー並みに鍛え抜かれたサトミとは違い、肉体的には背が少々高いだけで普通の筋量の細身の女性。タックルをまともに一度でも喰らったら、ジ・エンドであった。しかしこの戦法は応用され、京王はパスよりラン主体のチームとなっているのだ。さて・・。
続いてキックも決めた千代は、ヘルメットを脱ぎ捨て、頼伸に駆け寄る。
「ヨリ!」「千代!」
一目をはばからず、濃厚な接吻をする2人・・・。実は先日入籍したばかりの、18歳カップルであった。
そして、千代はまた万雷の拍手に送られてベンチに戻る・・・。わずか1プレーだけでは惜しい気もするが、実はこれが彼女の「選手」としての限界でもあった。代わって久々の出番の小公子、陽一が登場。たちまち活躍した。
そして、千代はベンチに戻らず、そのまま真直ぐ控え室に向かった・・・。
サトミと、みゆきのところへ・・・。
「千代さん!」
「サトミちゃん、仇はとってきたわ・・。ちょっといいかしら?」
みゆきは一歩下がった。
「サトミちゃん、あんたは本当に偉いわ・・・。こんなにボロボロになって、こんなに傷だらけになって・・・。そしてこんなにも長い時間・・・。わたしも経験者ではあるけど、あなたのように、フル出場なんてとても出来ないわ、悔しいけど・・・。今も、1つタッチダウンとって、すぐ引き上げてきたわ・・・。ボロが出ないうちにね。それにしても、それは・・・」
千代は、ガラクタのように床に転がるサトミの防具を見て絶句した。
「サトミちゃん、まだ行くでしょ、行けるわよね?あなたは、わたしたち女の子みんなの代表なんだから・・このぐらいの傷じゃへこたれないわよね?」
先ほどの心配とは一見矛盾するようなことを突然言い出す千代。
だが聞いていたみゆきも同じ思いだった。
(そうよサトミちゃん・・・・。千代さんの言うとおりだわ。フットボールが大好きな女の子は、たくさん居るのよ・・わたしだって・・・。練習している子だっているし、千代さんのように活躍できる人だっている・・・。でも、男の子と全く一緒に最後までプレーできる女の子は、少なくともこの日本ではサトミちゃん・・・あなた1人よ・・・。だから見ていて痛々しいこともあるけれど、あなたには頑張って欲しいの・・・わたしたち女の子全員の代表として・・・でも、そのサトミちゃんでも、活躍できない「日」が毎月来るのよね・・・。)
言い終わるや、突然千代は、ユニフォームを脱いだ。そして、防具を外す。
「わたしの出番はもう終わったわ。お父様へのタッチダウンも、あなたの仇もとった。だからもうわたしにはこれはいらないわ。あなたにあげる・・・」
「千代さん・・!」
「さあ、早く、出番はすぐよ。防具無しじゃ出れないでしょ、南武高校のジャンヌダルクさん!」
「サトミちゃん、千代さんの言う通りよ」
「千代さん、みゆ・・」
サトミは、千代のぬくもりのまだある防具を手に取ってみた。
「!」
サトミは驚いた。みゆきも驚いた。
手にとって見たその防具は、通常のものとは形が違っていた。丸みを帯び、僅かではあるが、胸のふくらみを逃がす窪みが裏にある。そして表もそれに対応して膨らんでいた。
「それね、アメリカから取り寄せたのよ。向こうでは、さすが本場・・女子のフットボールもあって、女子専用の防具もあるのよ。そしてこれがそれ・・。
わたしも、相手も含めて全員女なら、通用すると思うんだけど、日本ではやりたい女の子を皆集めても1チームになるか・・・。男子だって部員不足で休部になる学校あるぐらいだもんね・・・。競技人口の差か・・残念だわ。
あ、それね、はじめからあなたにあげるつもりで買ったの。わたしの胸ではちよっときつかったけど、あなたには丁度いいはずよ。背丈はわたしよりちょっとだけ小さいくらいだから・・・。サトル君と共用して思いいれのある防具だったかもしれないけど、あなたも女なんだから、もっとここを大事にしないとね。」しかしサトルと防具を共用していることなど、よく知っているものだ。
「どうして?」
「それは、わたしが「女」だからよ。」
千代は悪戯っぽくサトミの乳房に触れた。
千代はサトミの胸に触れた。自分のものと比べているようだ・・・。サトミは女としては千代に比べ、まだまだ未成熟だが、割れた腹筋は、並みの男子を遙かに凌駕するものである。たが、いつかはサトミも千代のように完全な「女」となり、誰かの子を宿す日が来るかもしれない・・・。 |
一瞬顔をしからめるサトミだったが
「ありがとう千代さん・・使わせてもらうわ・・」
「サトミちゃん、手伝うわ」
「あっ!ぴったり!どうしてこんなにぴったりなんだろう!」
「それは、わたしがあなたをよく偵察して、サイズやカップを目視して、そのデータを元に注文したからよ。ライバルのことは常に注視していなくちゃね」
「千代さん・・これ、本当に?」
「ええ、言ったでしょ、はじめからあなたにあげるつもりだったって。まさかこんなにタイミングよく、今までのが壊れるとは思わなかったけど・・。さっきも言ったけど、双子とはいえ、あなたはもうサトルくんとは別の体なのよ。彼と一緒の防具を使いつづけたら、いつかは体に合わなくなって怪我をするはずだったわ。これからは、この防具を身につけて、私の分もがんばってね」
手を差し出す千代。
「千代さん、がんばる!あたし負けない!女の子だってできることをこれからも証明しつづけるわ!」
「でも千代さん、大学に行けば、そう、キッカーとしてなら京王大学でできるんじゃ・・そのとき防具が要るんじゃ?」
「ううん、わたしやらない・・・。」
腹をなでながら話す千代。
「わたし、ヨリの子出来たの・・。だから来年の今ごろはお母さんね。とてもフットボールどころじゃないわ。ヨリと一緒に卒業したいから・・最低限しか休まずに産み育てるつもりだし・・それに官舎に大学卒業するまで住んでいいって学長先生もおっしるし・・・それに、万が一またフットボール始めたら、ちゃんとわたしのサイズのを買うわ」
「おめでとう千代さん!そしてありがとう!」
千代から授けられた新たな鎧を纏って勇気100倍のサトミは、みゆきといっしょにベンチに戻った。ところが、西軍に追いつかれていたのだった・・・。
さあ、どうするサトミ・・・