62話 キックオフ
いてつく寒さの王子スタジアム。今、運命のキックオフ。
東の神奈川県代表・武蔵体育大学付属南武高校VS、西の兵庫県代表・神戸神学館高等部の激突である。1年ぶり5度目の出場の南武高校が、一昨年に続き優勝するのか、20年連続関西大会を制しながらも、2年続けて関東勢に敗れた神学館が3年ぶりの優勝を飾るのか。いずれ劣らぬ好チーム。
先攻は神学館。南武高校のキックオフ。
ホールドするサトル。アイコンタクトで囁く。2人に言葉は要らない。うなずくサトミ。
スカーン! 青空に吸い込まれるボール。敵陣深く突き刺さる。しかし猛烈な突進で押し戻す神学館。ピー!ここからが勝負だ。
しかし・・!「何だと!」
悔しさの余り思わず声を荒らげる南武ラインメン。なんと、神学館のセンター位置には油屋渕弥が入っている。「怪獣人間」安東零はベンチスタートだ。舐めているのか?
格下との対戦に怒りを燃やす大河原清は、油屋渕弥と、その弟の丹波の2人をまとめて吹き飛ばし、攻撃権を奪取した。
「よし!行くぞみんな!」攻守交替、飛び出すサトル、サトミ、陽一。
サトルの絶妙なパスはサトミに。髪をなびかせ突き進むサトミ。
だが、それは神学館の罠だった。
あえてサトミにボールを持たせたのだ。
「フフ、大胆なねーちゃんだぜ。気にいらねーな」
真正面に方岩が!
「ピピー!」審判の笛。
「この野郎!」
ヘルメットを叩きつけ、起き上がり方岩を突き飛ばすサトミ。だが。
パシっ!
「みっともないことをするな!」なんとサトルがサトミのほおを張り手する。
そして、赤くなって俯き、「・・・早く穿けよ・・・。」
「え?」真っ赤になるサトミ。方岩のタックルでフッパンがずりおち、下半身すっぽんぽんで方岩に喧嘩を売っていたのだ。
サトミのダウンと、方岩の反則タックルが認められ、さらに攻撃権を得た南武高校。
「これは行けるぞ」
今日のサトミは絶好調。他の選手の出る幕がないほどの縦横無尽の突撃で、ダウンを奪う。エンドラインはもうすぐた。
しかし手をこまねく神学館ではない。
今度は、「破壊マシーン」須田が迫る。
須田は、予選で18人ほど相手を病院送りにし、その中の1人は死亡、1人は脊髄を痛めて半身不随、5人は全治1年、その他も全治10日〜半年の重傷を負っている。相手を「破壊」することが生きがいの危ない男だ。
その須田の、丸太のような左腕が迫る。サトミの太ももより太いその腕。まともに喰らえば・・・。
だが、吹っ飛んだのは須田のほうだった。
「サトミ!油断するな、もう一人来ているぞ!」
武田だ。守護神武田信彦の黒がねの腕が、須田を逆にノックアウトしたのだ。しかし、もう1人、「狂虎」虎丸新も迫っていた。彼は印度人の血を引く凶暴な男だ。
しかし「ありがと信彦ちゃん♪」軽やかなステップで虎丸をかわしたサトミ。
だが、まだ諦めない神学館。方岩が追いついてきた。すごいスピードだ。
「喰らえ!」方岩のダイビングタックル。
「ピーーー!」
方岩は追いついたが、サトミは彼を引きずってそのままタッチダウンした。
そして鮮やかに決るキック。ここまでサトミの一人舞台だ。
「みゆ!」
「やったわね、サトミちゃん♪」マネージャーのみゆきと抱きあい喜ぶサトミ。
だが、それを見た方岩たちは・・・。
「畜生!」完封するはずがまさかの先取点を奪われた悔しさ。
「ボス、俺たちも本気を出そうぜ」
「そうだな兄弟・・・まだツープラトンも出していないし・・・・。バケモノも今ごろベンチで歯軋りしているだろう。だが、お楽しみはもう少し後までとっておこう。」
「そうだな。ヘタに暴れさせて退場させられたら元も子もない。奴にはあの兄妹を完全に再起不能にさせる道具になってもらわにゃな」
「ハハハ、そういうお前こそ、その左腕で頚動脈を叩ききってやりたい、て顔に描いてあるぜ」
「ハハハ・・・」
その頃、ベンチに鎖でつながれている零は、雄叫びを上げて興奮していたが、従姉のなつがなだめていた。
「レイくん、辛抱や。今に出番がくるで!」
その後も攻撃が続く南武高校。サトミだけではなく、陽一も飛び跳ねる。しかし、2人に対するマークはきつく、追加点が取れない。
サトミには、方岩と須田、陽一には虎丸と馬田鹿之助がマークについている。
一方、圧倒的な重量とパワーと技を持つ神学館ライン陣だが、大河原清にとっては役不足だった。「早く出て来い、おいどんの相手はおはんだげじゃ!」
安東零がベンチにいるということは、神学館はまだ余力を残しているということだ。それなのに1回しか得点できない。逆に、押されてきてしまった。
こちらも、清たちラインに加え、信彦と佐藤兄弟のディフェンスによりなんとか凌ぐ。
そして、第一クォーター終了・・・・。両チーム最初のタイムアウト。
神学館ベンチ。
「方岩はん、零くんや!零くんを使って南武をへこますんや!」
「そうだな。おい、行けるか?」
「ウーーーーーッ!」
「それからハンセン、ブッチャー、タンバ、デイック、シン、馬鹿之助、作戦Zだ」
「おお、いよいよやるか?」
「そうとも、あいつ等を1人ずつ消していって、東兄妹を丸裸にして叩き殺してやるのさ。」
「イヒヒ・・・。ワイ、あのねーちゃんのマ○○鷲掴みにしたるで!」
「オレは、あの小学生みたいなパツキンのガキのキン○マ握りつぶしてやるぜ!」
「それよりボス・・・。俺たちではあのデカ物に歯がたたねー。アレとぶつけないと俺たち勝てないぜ」
「そうだな。だが・・・あいつはあまりにも・・・」
「ウチにまかしとき!ええか零クン、ウチの指揮棒をよく見てから襲うんやで!」
「ウウ!」
「そうや、いい子や〜」
(フ・・・何を偉そうにこのアマが・・・怪物を手名づけているからベンチにおいてやっているのに監督気取りかよ・・・てめーもいつかボロ雑巾にしてやるぜ・・・)内心、なつを嫌っている方岩であった。
一方、南武ベンチ。
「ええか諸君、出だしはいい。じゃが、神学館はまだ本気を出していない。大河原君、いよいよ出るぞ安東君が。この勝負の鉤を握るのは、君が安東君に負けないことだ。出来れば勝ってほしい。」
「おいは必ず勝ちますたい!」
「みんな、ドリンクよ」
「おお、気がきくな!」南武高校の自慢は美人揃いでしかも優秀なマネージャーだ。
「はい、おじいちゃんはお茶♪」監督の孫、美穂もマネージャーとしてベンチ入りしていた。
「よし、みんな行くぞ!」
「おーーー!」飛び出すメンバーたち。
そして遂にその巨体を現した怪獣人間、安東零・・・その巨大な壁を打ち破れるのか南武高校・・・