59話 勃発!英仏代理戦争(前編)
京王高校、殉教学院高等部を破った南武高校は、最後の対戦相手、鹿鳴館高校と対戦することになった。なお、この試合の前に、2勝したチームが存在しないため、既に関東大会優勝を果たしており、全国大会での関西代表・神学館との対決は決定済みだが、完全優勝を目指す主将・東サトルは必勝を期していた。
鹿鳴館は貴族・富豪の子弟が通う超名門校で、外国貴賓の子弟の留学を受け入れていることで有名である。今年は、なんと英王子とその側近2名が留学し、アメフトのみならず、サッカーや馬術、アーチェリー、柔道などでも大活躍をして注目を集めていた。
アメフト部の指揮を執るのは鹿鳴館大学4年の細川隆之氏で、細川隆斉元総統の孫であった。王子たちのほか、日本人選手も皆大金持ち若しくは権力者の子弟である。
体育会系の荒くれ集団・南武高校とは対照的なチームであった。
さて、この試合に誰よりも熱い闘志を燃やす男がいた。デビット=ランスロット。王子の側近中の側近で、名門・ランスロット侯爵家の次男であった。
ランスロット家は、有名な円卓の騎士、「湖の騎士ランスロット」をその初代に仰ぐ伝説の名門で、1000年以上にわたり英国にランスロット家あり、と呼ばれた武門の名門である。
彼の父は第三次大戦で活躍した英海軍軍人にして大実業家で印度と南アフリカでダイヤモンド鉱山を営んでおり、兄のゲーリー=ランスロットはサッカーイングランド代表主将で得点王、しかも14歳のデビュー以来一度も反則をしたことがないという最高の紳士であった。また、祖父は第二次大戦の時、戦艦「ドリンコート」の艦長として、宿敵仏蘭西の戦艦「シェルブール」を撃沈する大手柄を立てた。代々に亘り、特に仏蘭西相手に手柄を立ててきた由緒ある家柄なのである。
そして、そのランスロット家には宿命のライバルがあった。それは仏蘭西の貴族、プランタン伯爵家であった。現伯爵は、ナポレオン10世の側近として絶大な力を持ち、やはり印度に大金山を持つ大富豪である。英仏戦争、第2次・第三次大戦と常にランスロット家とプランタン家は対立を続けていた。
更に、スポーツにおいてもサッカーのワールドカップ決勝の際、仏蘭西主将・バダンは反則によりゲーリーを負傷させ退場させられたが、そのことが原因でイングランドは敗戦し、仏蘭西が優勝したのだったが、バダンは父親はアルジェリア人だが、母はプランタン伯爵の長女であった。
そして、その妹、つまりプランタン伯爵の次女が、日本の外交官と恋に落ちて生まれた子が、南武高校♯4、岬陽一なのだ。
英王子歓迎レセプションの際、陽一の正体を知ったデビットは、彼を倒すために日本に留まり、アメフトを始めたのだ。それに王子と、もう1人のお供、デーブ=パーシバルも付き合うことになったのだ。王子は身軽で華麗、パーシバルは怪力の巨漢で、英柔道少年チャンピオンの上、サッカーイングランドユース代表キーパーでもある。
そして、益田聖羅は・・・。彼女の父は、日本人と前伯爵の妹の間の子であり、かつ、妹が現伯爵の後妻(デビットの実母で、ゲーリーの継母、いとこ同士で結婚。つまりデビットにもわずかだが日本人の血が混じる)という複雑な間柄であり、聖羅とデビットは、いとこ、かつ、はとこである。(ゲーリーとは、はとこ、かつ義理のいとこ)。母親は日本人だが、父親が日本人でありながら75%英国人で南アフリカ共和国との2重国籍者であり、見た目は外人そのものであった。
なお、過去2年に亘り南武高校を苦しめてきた吉本工業高校の辣腕マネージャー、永森麗菜は、姓が異なっているが両親を同じくする実の姉である。(父親が、悪者の陰謀で死んだことにされたのち、母が再婚したため姓が異なる。)
さて、その因縁めいた試合が今始まる。
先に述べたとおり、この試合の勝敗に関係なく、神学館と対戦するのは南武高校であるが、デビットは私怨で陽一を懲らしめるためにこの試合に臨んでいた。
陽一の従兄、バダンによって足を怪我した兄、ゲーリーはその後プレミアムリーグでも不調となり、無念の代表落ちを余儀なくされた。その仇を討とうとしているのだ。
一方王子とデーブは好奇心から新しいスポーツに挑戦しようとしていた。
だが、サトルはそんなことはどうでもよく、ただ眼の前の敵は誰であろうと倒し、完全優勝してアメリカに乗り込む決意に燃えていた。そしてサトミは・・・。生まれる前から一心同体であった最愛の双子の兄・サトルと一緒にプレーできる最後の瞬間までその命を燃やして戦い抜くことを胸に秘めて戦いに望む。
この試合も、サトルはQBを陽一に託した。一方の鹿鳴館は、王子がQBである。
センター対決はデーブと清。日英柔道中学チャンプ同士の激突である。
キックオフ、リターン・・・。
先攻は鹿鳴館。王子のパスが九条に、さらに綾小路に。懸命にブロックする信彦ら南武ディフェンス陣。
鉄壁の守りの前に、前進を阻まれたかに見えた鹿鳴館・・・。万事休すか?
だが・・・!
「なぜあのデカ物がここに・・!」
そう、ラインの選手はボールに触れられないため(人数が少ないチーム等で前もって申請した場合は別だが、その場合でも1連のプレー中のポジションの変更は認められない)、通常は最初の激突で相手を倒すか倒されたらお役御免なのだが・・なんとデーブが前線まで突出してきている・・・。
そして、信じられないプレーを見せたのである。
ボールは王子の手に戻った。その王子にタックルしようとする信彦。そこに割って入るデーブ。誰もが、ブロックだと思った。
だが、真実は異なる。
「何?」さすがの鉄人も唖然とする珍プレー。
なんと、ボールを持った王子を体ごと巴投げして、そのままエンドラインを割らせたのである。タッチダウン・・・!
「ガハハ、ボールに触れてはならないが味方選手を投げてはならないとはルールになかったぞ」
「うーん、なんて奴。そしてなんという怪力なんだ・・」
「それよりあの巨漢でありながらここまで詰める走力・・只者じゃない!」
デーブは怪力の持主で英少年柔道チャンピオンだが、パワーも柔道も、清には僅かに劣る。だが、走力に関しては俊足とまではいかないものの、体型からは信じられない速さだったのである。
しかし、やられ放しですまさないのが南武高校。サトル、サトミ、陽一、信彦を中心に大反撃ですぐ取り返した。
「いいか陽一!鹿鳴館のみんなは皆ぼっちゃん育ちで、王子様たちの力を借りなければここまで上り詰めることは出来なかった人たちだ。
僕たちは旺盛、京王、殉教に複数回勝ったことがあるチームだということを忘れるな!王子たちの素人の子供だましのトリックプレーは2度は通用しない。そしてキミもまた華麗な貴公子だということを、あそこで見ている貴族たちに見せ付けてやるんだ!」
「ハイ!」
思えば、外務副大臣(前仏蘭西大使)を父に、仏蘭西貴族を母に持つ陽一は、本来であれば対戦チームの鹿鳴館に入らなくてはならない少年だった。
だが、練習試合で見初めたサトルの存在と、家から近いという理由で体育会系の南武高校を選んだのだった。当然両親は南武入りもアメフトも反対したが、押し切っての活躍である。今では両親も応援してくれていた。
父の同僚や母方の親類たちも向こうの応援をしている。だが、陽一はアメフトとサトルが大好きだった。そして南武高校ゲーターズが大好きだったのだ。
「まるで蝶だ!」
陽一の小さな体は舞い踊り、相手を翻弄して鮮やかに得点を重ねる。彼を阻む者は、武田信彦によって粉砕されてい
く。
そして本来のエース、東サトルも負けてはいない。双子の妹、サトミとの息のあったコンビプレーで得点していく。
一方、デビットも気迫の突撃で得点を重ね、試合は白熱していった。
そして迎えたハーフタイム・・・。
陽一はトイレの後、不意に聖羅に声を掛けられた。
「陽一♪」
「聖羅・・・」
手を取り見つめあう2人。言葉もなく2人は唇を重ねる・・・。
そして迎える後半戦・・・。
続く