60話 勃発!英仏代理戦争(後編)
ハーフタイムに、不意に恋人、聖羅の訪問を受けた南武高校新エースの陽一。
そして、後半開始。
後半は、満を期してサトルが投げる。さすが日本最高選手、投手交代後は鹿鳴館の追撃を寄せ付けない。
だが・・・ポジションを交替した陽一はなぜか急に不調になってしまった。絶妙のパスを落球してしまったのだ。しかも返事もない。
しかし、それでも勢いは南武に。
当然怒り狂うのはデビットだった。
サトルのパスが、陽一に通る!この瞬間に全てを賭けていたデビットのクリーンヒットが決る!
崩れ落ちる陽一。
「兄さん、やったぞ!俺は遂にあの仏蘭西野郎を倒したぞ・・・これは反則じゃない。正当なプレーだ・・・。」
しかし、陽一は倒れたままびくりとも動かない。
「ま、まさか死んだのでは?」さすがにやりすぎだと思ったデビットは陽一を抱き起こす。
!!!
「あっ!なんということだ・・・」
デビットが抱き起こした陽一のメットが脱げる。すると、中からはオレンジの髪がはみ出すはずが、金髪が・・・。確かにオレンジ色の髪も遠めには金髪に見えるが・・・。
「まさか、こんな・・・」
そこに、気づいたサトルたちも駆け寄る。
「デビットさん、すぐメットを被せてください。審判は気づいていません」
サトルは英語で囁いた。
担架が用意される。
「サトミ、このことは内緒だぞ・・・悪いけど一旦外してくれ。みゆきちゃんと一緒に介抱を頼む・・・そしてすぐ戻れるように唯理ちゃんと沙羅ちゃんに引き継ぐんだ。」
「交替お願いします。怪我をした4番と、2番を下げて9番と25番を入れます」
南武高校は選手の交代をした。
それにしても・・・。
なんということだろう。後半急に不調になった陽一。だがそれもそのはず・・・。全く素人の女の子、聖羅と入れ替わっていたのだ。
本物の陽一はすぐに発見された。
「聖羅ちゃん・・・一体これは?」
聖羅を介抱するサトミとみゆきは尋ねる。
「わたし・・わたし・・・。デビット兄ちゃんが私怨で陽一クンを潰そうとするのが堪えられなかった。英国紳士の恥だわ・・。それに、わたしは・・陽一クンと兄ちゃんにもう戦って欲しくなかった。だから・・・だから・・・」
「もう喋らないで・・・安静に・・。幸い骨には異常はないみたいね・・」
そこに陽一が。
「聖羅!なんて無茶なことを・・・!」
「ごめんなさい、わたし、わたし・・・」
聖羅は口紅に眠り薬を混ぜて陽一を眠らせて入れ替わったのだ。2人の体格は、男女の差はあるがほとんど同じだった。
幸いなことに、後半は陽一が投げないことは事前に知っていた。自分が犠牲になることでランスロット家とプランタン家のつまらぬ因習を断ち切ろうとしたのであった。
そこに宏美が駆け込んだ。
「サトミさん、陽一クン、出番よ・・・!オサムさんもやられたわ!」
「聖羅・・・ボクは行くよ!」
「嗚呼、陽一・・・」聖羅は目を閉じた。
本物の陽一とサトミは再び出陣。残されたのはみゆきだけ。
試合のほうは・・・あの事件以来取り乱したデビットだつたが、王子の華麗なプレーと、デーブの猛烈なタックルで、鹿鳴館は反撃した。そして陽一とサトミの代わりに入ったオサムたちがその餌食になってしまったのだ。
しかし・・・サトミと陽一の復帰した南武高校にもう敵はなかった。試合終了・・。
南武高校が鹿鳴館高校を下したのだ。
そしてその後・・・
控え室に見舞いに来た面々。もちろん、このことがバレれば両校とも失格(さらに聖羅の所属する殉教も失格)し、クリボーへは京王が出場することになってしまうのだが・・・。
「聖羅・・・なんてことを・・・俺を、オレを許してくれ・・・」
「いいのよ兄ちゃん・・・。それより、兄ちゃん、陽一クンを許してあげて・・・」
「だが、こいつは・・」
そのとき、ひとりの貴婦人が現れた。
「ボンジュール・・・。ちょっといいかしら?」
「ママ!」
「え、この人が・・・」
そこに現れたのは陽一の母、岬フランソワーズ・マリー・シモーヌ・プランターナ・翔子だったのである。
「ボンジュール、はじめまして。陽一の母です。ミスター・デビット、息子の粗相や無礼をお許しくださいませ」
「貴女が・・・」
あまりの美しさに驚く一同。
「知ってのとおり、この私こそ、貴方の憎むプランタンの娘です。でも、わたしはもう終りにしたいの。貴方だけじゃなく、わたくしたち姉妹も幼い頃から両親から貴方の家についていろいろ言われて辛い思いをしてきましたの。だから・・もうおしまいにしませんこと?もううんざりだわ」
「しかしマダム、知ってのとおりバダンは・・・」
「あれは確かに悪質な反則でした。姉に代わってわたくしから謝りますわ・・・。でも陽一は、バダンが従兄ということを知らなかったのです。それに・・・。
わたくしたち姉妹はお爺様の顔を見たことがありませんの。なぜなら、第2時大戦で、祖父の「シェルブール」は貴方のお爺様の「ドリンコート」に沈められてしまったから・・・。父はそのことを恨み、毎日のように私たち姉妹に聞かせていましたわ。いつかきっと料理の不味い国の海賊どもを皆殺しにしてやる、このプランタン家か・・・と。でも幸か不幸か、わたくしたちは二人姉妹。軍人にならなくてもよかったのですわ。
そしてお姉さまと誓い合ったの。プランタン伯爵家はお父様の代で終らせると。そして姉はアルジェリア人に、わたしは日本人に嫁ぎ、後継者はいなくなりましたわ。陽一は日本の単独国籍を選択しましたわ。これで許していただけないかしら?」
「兄ちゃん、私からもお願い・・・」
「そうだったのか・・俺が馬鹿だった・・・」
「わかってくれたのね・・それじゃ陽一と握手して」
「聖羅、ボクは・・・。ボクはそれでいいよ!」
「陽一!」
陽一は自ら手を差し伸べた。
それを見た王子は「デビット!さあ早く!これはボクからの命令だよ」
「陽一!これで俺たちの家の呪いは消えた。全国大会頑張ってくれよ!そして聖羅を頼む」
「ミスター・デビット!ボクは絶対負けないよ・・・それに応援に来てくれるよね?」
1000年に亘る呪われた因縁が今、氷解した。
「残念だけど、それはできないよ」
代わりに答えたのは王子だった。いつのまにかケイ卿らも来ている。
「本当はもっと早く行かなくちゃいけなかつたんだけど・・・クリスマスは印度で過ごさなくてはならないんだ。だからもし勝ったとしてもボクたちは全国大会には出ずに出国しなくてはならなかったんだ・・」
「そうだ!印度大使の娘、アンジェ=バーバラ=エリザベス=ブリジストン公爵令嬢様が待っているのだ。アーサー・・いや王子の婚約者のな!」
「デーブ・・恥ずかしいよ・・」
そして、陽一と聖羅の交際は公式に認められた。もう、両家の間の因縁は二人の愛の前に砕け散ったのだ。
「ハハハ」みんなに笑顔が戻った。
なお、この日はサトミの生理日であったが、幸いそれは試合終了後にやってきたのだった。
「聖羅・・・。がんばったわね!そうよ、女の子の愛は1000年の因習にも打ち勝つ力よ。わたしは貴女を信じていたわ・・・。」その様子を陰から見守っていたのは姉の麗菜。眠り薬やニセのユニフォームも実は麗菜の手によるものだった。
そして、戦艦プリンスオブウエールズは印度に向けて出帆。いろいろな想いでを日本に残し、一行は去っていった。日英同盟はゆるぎなく、仏蘭西との関係も王子の代には改善されるであろう。
「よし、あとは零君だけだ・・・絶対に勝つ!」
感動の輪から冷静に一歩下がっていたサトルは改めて決意を。いよいよ彼の高校最後の試合が1ヵ月後に迫る。
だが相手は怪獣人間安東零・・・。打つ手はあるのかサトル!
←前話 →次話