第49話 ようこそ「PRINCE OF WALES」!
太平洋をゆっくりと進む、白い船。その船は商船ではない。艦尾に「ホワイト・エンサイン」を掲げ、さらにメインマストに英国旗と皇太子旗を掲げて・・・。
その艦の名は、「プリンス・オブ・ウエールズ」英国の誇る最新鋭戦闘艦で、巡洋戦艦に類別されていた。日本の天才造船学者、平賀伴内博士が実用化した、海水のイオンを原子分解して核融合を起こし、その超エネルギーを元にビーム兵器「メガ粒子砲」の装備も可能になった夢の軍艦。帝国海軍の巡洋戦艦「八甲田」の設計を元に、同盟国英国で作られた、排水量2万トン、メガ粒子砲8門、対艦ミサイル、対空高性能機関砲、対空迎撃ミサイル、対潜魚雷、最新の電子機器を満載した英国の誇りだ。
同型艦として「ウォースパイト」「デューク・オブ・ヨーク」「レナウン」も造られた。
この技術は、日本と英国、それに独逸のみが持ちえている。米国は独自に類似システムを開発したが、装置の小型化に失敗し、いずれも軍艦というよりは移動島ともいうべき超巨大空母ばかりになっている。英独が戦艦級を開発した頃、日本では既に次世代の小型機関が開発され、なんと駆逐艦にまで採用されていた。さらに、ビームの出力を下げることにより無駄なエネルギー消耗をなくし、射程・威力の減少と引き換えに、半永久的連続照射が可能となり、文字通り「光の弾幕」を張って敵の砲弾・ミサイルをブロックしてしまうのだ。
今回、英国では16歳になった皇太子・アーサー(伝説の王から命名)が、親善航海に出発し、そのお召し艦となったのだが、実は真の目的は、日本の最新対空兵器、ビーム弾幕装置の搭載にあった。
さて、御年16歳になられるアーサー王子は、幼い頃両親を事故で亡くされ、祖母であるビクトリア3世女王陛下の愛情を一身に受けて逞しく清く正しく育った美少年で好奇心旺盛。また、日本文化に興味があり、日本語を習得し武道のたしなみもある。さらに、乗馬、サッカー、ゴルフ、ポロなどの名手でもある。
王子に付き従うのは、乳夫でもあるサー・リーチ・フィリップ艦長とその子息、ケイ、
名門ランスロット伯爵の次男で、英国サッカー・ジュニアユースイングランド代表にも選ばれているデビット=ランスロット、そして英国柔道チャンピオンで同じくユース代表キーパーでもある、デーブ・パーシバルの5人である。更にデビットの父、ガラハッドも別の所用で同行している。
一路横須賀を目指す「プリンス・オブ・ウエールズ」
そもそも「プリンス・オブ・ウエールズ」とは英皇太子を意味し、アーサー王子本人に因んで命名されていた。いわば王子の分身とも言うべき存在であった。
その頃、横須賀では、細川隆斉元総統を初めとする要人たちが、熱烈な歓迎の準備に追われていた。この世界では、世界の平和と安定は、全て細川の指導の下、強固な日英同盟を核とした地球防衛軍によって委ねられていた。
第三次大戦と第二次南北戦争でその任を負えなくなったアメリカに代わり、日本の協力を得て英国が再び世界の盟主に返り咲いたのである。
その英国の、たった一人の正統な後継者を危険な旅をさせるというのもなんだが、王子に王としての試練を与えるため祖母・ビクトリア女王が下した決断であった。
花火が一斉に打ち上げられる。礼砲が轟く。
遂に、「プリンス・オブ・ウエールズ」は横須賀に入港した。
細川以下、山名、伊達、上杉、島津らの名門や、現総統の岩原兄弟らそうそうたる面々が出迎える。岩原軍団によって完璧に警備される。
そして、舷門に降り立った王子一行の姿を見るなり人々は口々に叫ぶ
英皇太子・プリンス・オブ・ウエールズ=アーサー王子 小姓、右から サー=デーブ=エリクソン=パーシバル サー=デビット=マクシミリアン=アレキサンダー=ランスロット サー=ケイ=ジョン=ポール=フィリップス |
「やあ、日本のみなさん!僕、アーサーです!みんなよろしく♪」
流暢な日本語で挨拶する愛くるしい王子の姿に観衆は大感激。
「プリンス・オブ・ウエールズ万歳!」「日英同盟万歳!」
細川はここで宣言した。
「この戦艦プリンス・オブ・ウエールズ号の入渠したドックを、本日より「プリンス・オブ・ウエールズドック」、埠頭を「プリンス・オブ・ウエールズ埠頭」と名づけることにする!また、特設駅までのこの道を「プリンス・オブ・ウエールズ通り」とする!
岩原!総統は貴様じゃ。今すぐ手続きをとれ!」
「ハっ!」
この日のために、15年ぶりに目覚め徹底的に整備されたお召し機・EF5861牽引のお召し列車は、天皇・皇后両陛下や日本の皇太子殿下夫妻の待つ東京を目指す。
沿線にも溢れるユニオンジャックと日の丸の小旗・・・
貴賓室では、王子と細川が乗車していた。
「ねえデューク・細川!あなたとおばあさまのロマンスのこと聞かせて♪」
「王子様・・それは・・・」
実は、細川とビクトリアは恋仲にあったことがあったのだ。だが身分と国籍、宗教の違いから就実することない悲恋に終わったのだ。
「あ、マウント・富士が見えるよ♪」
王子はおおはしゃぎ。
その日は、両陛下並びに皇太子夫妻、さらに細川一家との晩餐。そして翌日から、王子の冒険、活躍が始まった!
まず、乗馬が大好きな王子は、祖母・ビクトア3世女王陛下から賜った白馬、その名も「プリンス・オブ・ウエールズ」を同行させていた。そして、日本で一番優れたジョッキーは誰?と訪ねた。
細川は、「英国でもその名が轟いていた青沼志具馬は残念ながら昨年落馬のため命を落としました・・・その息子、駿はまだ19歳ですが、父親同様の名手と存じます」
「じゃあ、デューク細川、その駿と競争したいな」
「はっ、かしこまりました・・」
早速馬事公苑に呼び出された駿。妹のさくらや、友達の赤沼牛太郎、黄鶏翔、猪俣桃子、白井羊一らも駆けつけた。
レースは一進一体・・・だが、最終コーナーでついに、プリンスオブウエールズが、駿のネプチューンを振り切った。
王子は英国から連れてきた愛馬「ブリンス・オブ・ウエールズ」で日本最強ジョツキー・青沼駿と対決して勝利した。駿の父、シグマは英国でも有名な騎手だった。その遺児、駿の健闘を称え、しかもその上シグマの墓参まで・・駿は感激した。 |
「駿、素晴らしいよ!きっとイングランドの重賞にも来てね♪」
「身に余る光栄・・亡くなった父も喜ぶと思います」
「そうだ、シグマの墓参りに行こう!ボク、ファンだったんだ」
「王子様・・」駿の目に涙が光った。異国の1ジョッキーの墓参をしてくれるというのだ・・。
翌日、王子、ケイ、デビット、デーブを含めた在日英国人たちのチームと、四菱エメローズの親善試合が行なわれた。イングランド代表エースストライカー、ゲーリー・ランスロットの弟で、次期エース、現ユース代表のデビットの活躍と、重量級キーパー、デーブの固い守りにより、英国チームが勝利した。
続いて、デーブは柔道の試合を申し込むため、武蔵体育大学を訪れた。しかし、武体大、南武高校の柔道部員は誰もデーブに勝てなかった。
「うう、いかに王子様のお供とはいえ、異国人に柔道でまで負け放しとは・・誰かおらぬか!嗚呼、日本柔道も世も末じゃ・・」細川、山名は嘆く。そのとき、「おいどんが!」おいどんが勝負じゃ!
アメフト部センター、大河原清だ。彼は今や関東高校ナンバーワンセンターとして活躍しているが、元々は柔道の重量級チャンピオンだった。
そして、デーブとの対決・・ずっしりとした感触を確かめ合う2人・・・。びくりとも動かない。先に動いたほうが負けだ・・しびれを切らしたのは、清。だが
「一本!」僅かな畳の隙間の感触から見切り、自分より10キロ重いデーブを見事背負い投げだ!
「負けたよ、さすがジュードー・ニッポンだぜ」
「いや、うちの柔道部員たちを総なめにしたあんたこそ」
2人の巨漢はガッチリ握手した。
「ところで気になるんだけど・・・キミ、フットボール部員って言ってたけど・・ボクたちの知っているフットボールとはなんか様子が違うな。変なの」
そう、英国ではフットボールとはサッカーのことで、サッカーという言葉は存在しない。
「アーサー、これはアメ公が勝手に作ったアメフトとかいう競技です」
「へぇー、面白そうだな・・ボクもやってみたい!」
「ならば、この学校ではなく、オレの従妹がマネージャーをしている学校があるんで・・・そっちに行ってみよう!」
「デビット、この俺様にもなんだか向いているような気がするぞ!」
一行は、埼玉県の殉教学院に向かった。
「デビット兄ちゃん!」
「セーラ・・3ヶ月ぶりだな・・・また綺麗になった」
「にいちゃんたら♪」
「紹介するぜ。オレの親父の従兄の子でかつお袋のアニキの子・・つまりいとこ同士で結婚したんでオレから見るといとこかつはとこに当る、セーラだ。とはいえ、実際は兄妹として育ったんだが・・」
「初めましてセーラ。ボク、アーサーです。」
「王子様、初めまして。益田聖羅です。わたしにも英国人の血が流れているの。王子様に直接声をかけていただけるなんて光栄ですわ」
「その王子、てのやめてよ、アーサー、って呼んで」
「はい、アーサー♪」
「セーラちゃん、オレさまのことは知っているよな?」
「デーブさん、また太ったわね・・」
「ウソだろう?」
(以上の会話は全て英語で行なわれています)
「王子、僕がここのキャプテンの細川天平です。よろしくお願いします」
天平も流暢な英語で挨拶した。
「あのさ、ボク日本語話せるよ!」
これにはみんな驚いた。
「王子、これが防具です」
「うわー、カッコイイ!」王子は目を輝かせる。どんなことにでも関心を持つ純真で天真爛漫な王子・・それだけにお供の苦労も絶えない。
早速練習に参加した王子たちは、3日目には基本戦術を全てマスターし、殉教のレギュラー以上の実力を発揮するようになった。
「そうだ!この前のあの大きな子のいる学校と試合しよう!」
「実は、先月練習試合で完敗したんです」
「なら、ボクたちの力で勝ってみせよう」
聖羅は、
「嗚呼、また陽一クンに会える♪」と内心大喜び。
そして、南武高校との再戦が・・・
「えっ!英国の王子様が殉教に混ざって、僕たちと再試合を望んでいるんだって!」
「いや、本当らしいぜ。麗菜さんも妹の応援に来るって言ってた」
「よし、相手が誰であろうと負けはしない」
そして迎えた試合・・・
王子たちの実力は、素人とは思えないものだった。日頃よりあらゆるスポーツを嗜む彼らの基礎体力と順応力によるものだ。
しかし、来る日米戦の主力となる南武高校。結局、前回に引き続き、勝利した。だが前回と違い、楽勝ではなかった。
アメフトの存在そのものにも驚いた王子たちだったが、日本最強チームと言われる南武高校のレギュラーの中に女の子、東サトミがいたことにも大いに驚いた。
「ミス・サトミ、ユーア、ワンダフルガール♪」
王子はサトミに口付けした。
「あっ、何を・・・」
「あっ、サトミちゃんいいな〜」羨ましがるマネージャーたち。
そこでささやかなレセプションが講堂で開かれた。
お偉いさん方も駆けつけた。
「美味い!こんな美味い料理は初めてだぜ」デーブはガツガツと食べ捲くった。彼は英国人には珍しい肥満体型で食欲旺盛であった。
だが、それを見て嘲笑した者がいた。
「あーあ、みっともない、だから料理の不味い国の奴らって困るんだよな」
「こら、陽一!お客様に失礼だぞ!」
キャプテンのサトルが叱る。
「だってキャプテン・・ホントのことだもん。ママの口癖なんだ」
だが・・
「聞き捨てならないぞ、今の言葉!取り消せ!」
「デビット、止めろよ・・」
「アーサー・・いや王子、こいつはわが祖国を・・?まてよ、貴様日本人じゃないな、その顔は!」
陽一の母・フランソワーズの実家・プランタン家は、ランスロット家とは1000年にわたる宿命のライバルだった。デビットは陽一を倒す決意をした。陽一は知らなかったが、陽一の従兄、バダンはサッカー・ワールドカップの際、デビットの兄・ゲーリーを故意に傷つけたことがあったのだ。そのことが直接的な憎しみの原因となっている。 |
デビットは陽一の首根っこを掴み、まじまじとその顔を覗き込んだ。
「苦しいよ放せ・・ボクが悪かったよ、ごめんなさい・・」涙声で謝る陽一に、さすがのデビットも手を緩める・・。
ところが、陽一のペンダントを見て再び檄高した。
「貴様、やはりフランス人だな!しかも、その紋章は・・・わが宿敵プランタン家のもの・・貴様一体何者だ!」
「ボクは岬陽一・・南武高校2年、父親はこの国の外務副大臣、その前は駐仏大使・・ママはフランス人だけど・・このペンダントはママから貰ったんだ」
「やはりそうか・・陽一といったな!貴様の母親の実家、プランタン家とわがランスロット家は、1000年以上前からの宿敵なのだ。100年戦争、ナポレオン戦争、第一・二・三次大戦、そして・・去年のワールドカップでも、オレのアニキ、ゲーリーは貴様の従兄、バダンの汚い反則で負傷退場させられ、優勝を逃したんだ!だから貴様とオレは、戦う運命にあるのだ」
「そんな・・ボクは日本人だよ・・フランス人じゃない!」
「だが貴様のその顔、その髪、その紋章は紛れもなくプランタン家の証・・・
アーサー王子、幼き日より傍近くお仕えしてきたこのデビット=ランスロットですが、今日限りその任を解いてください。私は・・この憎い仇敵を倒すため、この日本に残ってアメフトをしなくてはなりません」
「ダメだね!」
「そうだデビット、そんな勝手が許されるはずがないぞ。それに我々はこのスポーツは素人だ」
「デーブ・・」
「デーブ、違うんだよ・・ダメなのは、ボクの側近を辞めることであって・・・アメフトをやるのは僕も大賛成だ。よし、ボクも日本に残り、一緒にプレーしよう。キミたちはボクの側近として、ボクを守る義務があるぞ、これは王子としての命令だ!それとケイ兄さんは、おばあさまに至急連絡して、印度行きを延期してしばらく日本に残ると伝えて!」
「かしこまりました。」
「というわけだよ天平、僕たち三人の転入手続きを・・」
「王子様、残念ですがそれは出来ません。当学院の生徒は全員聖ポピー修道院の洗礼を受けなくてはなりません。しかし王子はやがて英国王となられる身。国教会以外は信じてはならないはずです。それに、年度途中での部員登録は難しいです」
「ならば、我輩が面倒をみよう!」
来賓の中から声を上げたのは、細川総統の嫡孫、隆之だった。彼は鹿鳴館大学の生徒であった。
「わが鹿鳴館では、貴族の子弟を優先的に入学させ、かつ、貴族であれば随時どの競技にも参加できることになっています。外国貴賓の子弟も準用する規定があるので、王子たちはわが鹿鳴館高校がお引き受けいたします。ケイ卿は是非鹿鳴館大学にお越しくださいませ」
「よく申したぞ隆之、さすがはわが孫じゃ」
細川総統は褒めた。なお、王子たちは鎌倉の細川屋敷の別宅に住むことになり、目白まで通学にあわせて655系登場によりお役ごめんになったクロ157による特別列車が運行されることになった。
なお、鹿鳴館高校には、王子の来日を記念して「プリンス・オブ・ウエールズ講堂」が建設された。
こうして、アーサー王子たち3人は、鹿鳴館高校に留学・転入扱いとなり、冬の大会に出場することになった・・・。
だが、聖羅は複雑だった。
「どうしてなの・・わたしも陽一クンも、日本人なのに・・どうして外国の血が入っているだけで戦わなくてはならないの・・デビット兄ちゃん大嫌い・・それに折角日本に住むのに兄ちゃんとも別の学校だなんて・・」
「聖羅・・これは運命よ。でも絶対負けちゃダメだからね。あたしも応援するわ」
「お姉ちゃん・・」
麗菜の胸の中で泣き崩れる聖羅。
陽一は、母親がフランス人だということはもちろん知っていた。だが彼女が名門貴族の娘で、かつサッカーのフランス代表主将、バダンが従兄だとは知らなかったのだ。
「ボクも貴族だったんだ・・・知らなかった」
そしてもう一組、数奇な運命を感じていた2人がいた。
「う、あの殉教の子、我輩と同じ細川姓・・それに由香と顔がそっくりだ・・・」
「細川様と僕の苗字が同じなのは偶然だと思っていたけど・・あの人を見ているとなんだか懐かしい気がする・・」
南武高校はじめ日本の若きアメフトマンたちは、来月に迫った「黒船」の来襲に備えていたはずであった。しかし、その前にひょんなことからやってきた「白船」によって、多くの人間の運命の歯車が大きく回りだした。
特に聖羅は・・愛する陽一とデビットが避けて通れない宿敵だったことを知り、その小さな胸を痛めていたのであった・・・
そして、黒船の来襲も目前に迫る・・・・