第33話 ピンクの罠!男だ陽一ど根性(後編)
初出場とは思えぬ、京葉の実力に、さすがの南武高校も、苦戦してのハーフタイム。
さて、ここで華やかなハーフタイムショーだ。
両軍のチアが繰出す!
いったい何百人いるかわからない京葉チアの、指揮をとるのは・・・なんとマネージャーの4人。名曲「ヤングマン」に合わせての華麗なダンス!ユッキーが「Y」、ミーナが「M」、ちょこたんが「C」、そしてあいこりんが「A」の文字を体を張って再現する!
「さあ、私たちも負けてられないわよ!」アスリート・レディス編集長、西尾リコ率いる南武チア。その中にも、マネージャーたちが含まれていた。そして・・・唯一の女子選手、東サトミの溌剌とした姿も・・・。もはやアメフトよりも、こちらを本職にしたほうが良いのでは?
というぐらいのはまり具合だった。そして、やはり華があるのは長身・長髪の宏美。彼女も何をやらせてもサマになる。男子生徒の憧れの的だが・・・彼女には公認カップル、武田信彦がいる。鉄人と言われる信彦を押しのけて宏美を奪い取るのは並みの男にはまず無理だろう・・・。まなみ・かなみも可愛らしく踊る。
京葉の白い花、南武の黄色い花が咲き誇るハーフタイムショー。そのさなか、事件が起きた。
「キャー!なにをするんだおばちゃん!」
トイレで小用を済ませた陽一を、京葉ヘッドコーチ、元山が羽交い絞めにする。そして、ピンクのパンツスーツ姿の貴婦人(に見える男)が、陽一のかわいいおちんちんを扱いたのだ。
「可愛いわ・・・。キミが陽一くんね・・・。あなたは京葉の生徒になるべきよ。そして、あたくしの可愛いペットに・・・」
「うわーーん、痛いよぉ・・」
そこに
「何をしているんですか!」
サトルがたまたま入ってきた。
「あら失礼。!あら、あなたも可愛いわね?お名前は?」
「ボクは南武高校2年の東サトルです。ここは男子トイレです。ご婦人はお隣の女子トイレでお願いします。」
「オーホホホ。あたくしこうみえて殿方なのよ・・・。」
「控えろ小僧。このお方をどなたと心得る。恐れ多くも京葉花園学園高等学校理事長兼校長の、ジェニー北村こと、北村憲一理事長様だぞ!」
元山はそう言った。
「それは失礼いたしました。では僕たちも後半の支度があるので失礼します」
間一髪、サトルの救援。もしサトルが来なければ・・・北村と元山はこのまま陽一を拉致するつもりだったのだ。
「大丈夫か陽一?」
「エーーン・・きもいおばちゃんがボクのおちんちんを揉んだら白いオシッコが出たんだ・・・痛かったよ先輩・・・」
「そうだったのか・・・。噂には聞いていたがあれが・・・。北村理事長!ボクはあなたを許さないぞ!」美少年コレクター・ジェニー北村なる怪人物の噂は前々から流れていたが、それが京葉の理事長だったとは・・・。
一方、北村は・・・。
「モッちゃん!残念だわ・・。でもあの子。たしかサトルくんとかいったわね。あの子も欲しいわ。」
「お任せください」
しかし元山は複雑な心境だった。元強豪アメフト選手にして体育教師の彼のたった一度の過ち・・。男色の道に引きずりこまれ北村に飼いならされてしまった自分。しかし逆らえば、秘密を公表されて今まで築き上げてきた実績を失うことになる。
「嗚呼、オレは・・・」そしてそれは、友達の薬師寺や古川、そして京葉の主力選手たちも同じだった。
そして、後半のキックオフ。前半と違い、京葉のセンターが代わっている。前半のセンター♯76は隣、猛の対面になり、猛の対面だった♯77がセンターに。背は♯77のほうが高いが、体は一回り細かった。
「相手のセンターが小さくなったぞ。前半の奴でさえやっと引き分けだったのに、大河原に勝てるとでも思っているのか?」誰もがそう思った。だが!
ガシャーン!
いきなりアオテンされたのは大河原清のほうだった!
そう、逆であった。先ほどの76番が清を倒せなかったので、最強の77番をぶつけてきたのだ。
「なんてことだ!大河原をアオテンさせる奴が、西本先輩のほかにもいたなんて・・・」
一体、♯77は何者なのだ?
メットをとった77番は、巨漢のわりには美形だった。そして誰かに似ていた。
「あ、誰かに似ている・・・。そうだ、元大関鷹之浜の、藤原親方だ!」
そうである。この♯77こそ、「相撲の王子様」藤原親方の次男、浜田光なのだ。後の大横綱、鷹乃浜である。そして♯76は、2人だけの3年生の1人で、光の兄、正男だった。
この2人の入部の経緯を教えよう。実は、元々アメフトをやりたかったのは、兄の正男のほうだった。しかし怠け者の彼は、いきなりレギュラーになるためには新設校が良いと思い、京葉に転入しようとしたのだが・・・。
面接の際、北村理事長に、「うちはあんたみたいなキモいデブはいらないのよ」と言われてしまったのだ。ところが・・。たまたま、弟の光が同行していた。光は、巨漢だが父親似の美男だった。一方、正男は伯父の双子塚親方(元横綱・鷲乃浜)似で不細工だった。
「ちょっとまって。キミ、いくつ?」
「はい、中三です。」
「うちに来ない?特待生として授業料全額免除の上、アメフト部のレギュラーを3年間約束するわ」
「お断りします。僕は高校には進学せず、父に弟子入りして力士になりたいんです。」
しかし、藤原親方が・・・
「光、その気持は嬉しいが、せめて高校3年間だけでも、相撲から離れて、羽を伸ばすのもよいかもしれないぞ」
「父さん・・」
「北村理事長、やはりそのお話、お受けいたします。しかし、一つだけ条件があります。兄も、兄の正男も転入させて、アメフトをやらせてください。兄は子供の頃から大のアメフトファンだったんです。」彼は、南条英機選手の大ファンだったのだ。
「わかったわ。それと、監督はヒデキにお願いしたからね」
「え、ヒデキって、まさか?」
「そうよ、ネルソンの南条英機。あたしが頼めばそのぐらいわけないのよ」
「やったー!」「よかったね兄ちゃん!」
こうした経緯で兄弟は、京葉のラインの主力となっていたのだ。実力的には弟の光のほうが優れていたが、兄であるのと、正男も、光には及ばぬものの、かなりの実力があったため、センターの座を譲っていたのだが・・・。光の闘志を掻き立てたのが大河原清だ。
「う、兄ちゃんと互角だなんて・・・。奴に太刀打ちできるのは俺だけだ。兄ちゃんにはわるいけど・・」「光、お前の言うとおりだ。オレは正直、次にあいつに当ったらアオテンされる。奴の強さは半端じゃない。」
ということでポジションを交替したのだった。
「清どん!」まさかのアオテンに花子は失神寸前。だが!、この屈辱が、清の薩摩隼人魂を呼び覚ましたのだ。「このままでは終わらせんたい!」
これが・・・のちに相撲界を再興した、鷲・鷹兄弟VS桜島の、因縁の対決の始まりだったとは、まだ誰も知る由はなかった。
さて、試合のほうは一進一退・・・。
元山コーチの怪しいサインが。
「キム、作戦「愛の十字架」の命令だぜ」
「OK!」愛の十字架とは・・・。
サトルのパスを受け快走する陽一。その陽一に、義広、キム、次郎、慎二の4人が四方から同時にタックル!
「あっ」無残にもボロボロにされる陽一。だが執念の一歩が、攻撃権を確保した。
「あれは、グランドクロス!」
そう、「愛の十字架」は、神学館の必殺技、「グランドクロス」と同じ技だった。しかし1年生の陽一はそのことを知らなかった。
グランドクロスのオリジナルは、そもそも英機の考案した「愛の十字架」だったのである。
それをさらに凶悪に改良したのが、北村理事長の指令を受けた元山だった。
「大丈夫か陽一!」
「先輩・・。よういちって呼んでくれた・・それだけでボク、元気になれました♪」
「そうか・・。あの技の破り方を、ボクとサトミは知っているんだ。去年、あれと同じ技を僕たちは喰らったが、克服したんだ。奴らは次もキミを狙ってくるはずだ。そのときは、ごにょごにょ・・」
「OK、でもあの女と一緒はちょっとな・・・」
「こら、また始まった・・・」
「えへ♪」
そして、次の攻撃・・・グランドクロス、いや愛の十字架がまたしても炸裂!と思われたが、ターゲットはサトルだった。理事長の指令だったのだ。だが、簡単にこれを突破したサトルはあっさりとタッチダウン。サトミのキックも決まる。
「うーん、あいつやるじゃん。ヒデキ、感激!」自らの考えた必殺技をものともせぬサトルに、ヒデキは感心していた。ヒデキは、敵味方関係なく、良いプレーには異常なまで全身をふるわせて感激してしまうのだった。
そして、ライン対決。
清は、合宿のときの剛の言葉を思い出した。
「重心だ。重心を頭1つ分下げれば、体重を1割増しにしたのと同じ効果がある。お前は強い。そして大きい。だがお前がもし小さい相手に負けることがあるとすれば、そいつは重心の取り方の天才に違いない。ならばお前もそれを身につければ、鬼に金棒だ」
そしてビーチフットを思い出した。小柄な丘や、女の子の宏美にまであしらわれて悔しい思いをしたが、サトルの励ましで、不慣れなボール回し(ラインの選手は基本的にボールに触れてはならないので、本来は必要ない練習)を経験しフットワークを磨いたのだ。
「ずしーーん」確かな手ごたえがあった。今度は、清の勝ちだ!
大河原 清(南武)VS浜田 光(京葉)の巨漢同士の大激突・・・・。 のちに相撲界を2分する実力者となる、大横綱、「櫻島」(井関部屋)VS「鷹乃浜」(双子塚部屋)の、初めての対決になろうとはこの時点では誰も知る由はなかった・・。 ★清が「桜島」、光が「鷹乃浜」となる。 |
そして、「愛の十字架」でその攻撃を止めようとする京葉の面々。
ターゲットは、陽一!
しかし、これこそサトルが待ちわびた瞬間だった。
「何?」いつのまにか陽一とサトルが入れ替わり、ボールは2人とも持っていない。
京葉の4人とサトル、陽一が倒れている。では?
サトミだ。サトミが独走!
しかしサトルのグランドクロス破りで同士討ちして倒れた義広たちは追えない。
「趙!頼む、止めてくれ!」「愛の十字架」に参加していなかった、趙 南敢がフリーだ。俊足の趙はサトミを追う・・・絶対絶命、タックルするのは今だ!趙は、重心を低く落とし、タックルの体制に入った。趙の剃刀のように切れ味のあるタックルには定評があった。
「サトミ、後ろ!」
「サトミちゃん!」ベンチのみゆきと千佳も思わず目を覆う。前半にもサトミは趙のハードタックルを受けて負傷していた。
だが・・・。
立ち尽くす趙。そしてサトミはタッチダウン!
「趙!何故タックルしなかった!」殴りかかる義広。しかし趙は反撃もせず、立ち尽くす。そして片言の日本語で、
「女ノコ・・。アノコハオンナノコ。ボクハオンナノコニハタックルデキナイ・・」
「畜生!女を出すなんて卑怯だぜ!」
攻撃を止める絶対のチャンス。だが趙の、優しい、特に女性に手出しできない欠点が突如暴露され、これ以後試合のペースは南武に。そしてこれがきっかけで京葉主力組に不協和音が流れ、連携も上手く行かなくなった。
ヒデキや元山が絶叫して指示を出しても、選手たちはもはやバラバラだった。
そして、今度は陽一が。迫るタックル陣。モロに後ろから当られる!だが陽一はそれを引きずって、そのまま突進。「ボクも男だ!」そして豪快にタッチダウン!
「サトミ先輩・・ボクに蹴らせて!」
いきなり、普段ボロクソに言っているサトミを先輩付けで呼んだ上、代わりに蹴らせてくれという。
スポーン。ボールは鮮やかに・・・とんで行ったが・・・方向がめちゃくちゃだった。
「バカ!ヘタクソね。あーあ、1点損しちゃった」サトミはあかんべーして怒る。
そしてボールは・・・。
ガシャーン。わざとではなかった。しかしその球は貴賓室のガラスを破り、宿敵、北村理事長に命中、ヅラが取れる・・・。理事長はハゲだった。
そして・・試合終了!
「やったーーーっ!」南武高校の面々は狂喜乱舞。一方、京葉は・・・。
「お前のせいだ!」「貴様がヘタだからだ」
なんと味方同士で乱闘が始まってしまった。ヒデキたちが止めてもどうしようもない。
「嗚呼いやだ!オレは辞めさせてもらう」なんと、林がその場で退学届けをたたき付けて去ってしまった。退部ではなく退学届けである。
そこに、さらに悪いことが重なった。
貴賓室で手当てを受けていた北村理事長に、警察官が迫る。
「北村憲一。淫行及び青少年保護条例違反並びに覚醒剤取締法違反で逮捕する」
前々から黒い噂の耐えなかった理事長だったが、ついに観念する時が来てしまったのだ・・。
数日後、京葉高校合宿所・・・。
「モト・・どうする?あと2試合残っているけど・・選手はあんなだし・・理事長はパクられたし・・。俺たちも首だよなぁ」
「ヤクちゃん、子供8人もいるのに・・・」
「お前たちはまだいいさ・・・捜査次第では一番危ないのはオレだ・・・。オレはお前たち2人だけはなんとしても類が及ばないようにしたい・・・。」
「嗚呼、こんなとき、先生がいてくれたらな・・」
古川はつぶやいた。
「そういえば俺は、サッカーの選手になるのが夢だった。そしてヤクのは笑えたなぁ・・」
「そうそう、ヤッちゃん、総理大臣になる!って言ってた・・・」
「そういうフルこそ、野口英世の本ばかり読んでいて・・本当に医者になっちまったじゃないか・・・」
「俺たち、喧嘩ばかりしてたな・・・。フルを苛めた奴のこと半殺しにしたり・・・。ヤクとタイマン張ったりよぉ・・」
「でも、いつも先生が・・・。先生のギター、また聴きたいなぁ・・・」
「嗚呼、あの頃に帰りたいなぁ・・・。」
そして、そのときである。振り向いた古川の目に入ったのは・・。
「先生・・伊達宗幸先生・・・!」
「おお、元山、薬師寺、古川・・・・!相変わらず仲良しだな、お前たちは・・」
「先生・・・」
「ばかもん、いい大人が泣くんじゃない。」
「でも先生だって泣いてるぜ・・・」
3人は、子供のように泣きじゃくり、恩師との再会を喜んだ。
「ところで先生・・。どうしてここに?」
「おお、そのことじゃ。知っての通り、北村先生は逮捕されてしまった。そしてワンマン経営だったこの学校は崩壊寸前。だが生徒や教職員には罪はない。そこで、わたしが宮城県教育委員会から派遣されて、新しい校長になったのじゃよ。」
「え、本当ですか?」
「そうだ。薬師寺は今までどおり、本校の家庭科の先生。暴れん坊のお前が家庭科の先生、それも8児の父親とはなぁ・・。元山は体育の先生。お前は昔から運動神経がよかった。そして古川・・よかったなあ、お前本当に医者になれて・・。お前が本校の校医だ。」
「先生・・・」
「元山、お前が北村先生に利用されていたことはわかっている。だが北村先生はお前のことを何もしゃべらなかった。逮捕状も一度は準備されたようだが、嫌疑不十分でお咎めなし」「本当ですか!」
「うむ、だが本当に心を入れ替えるんだぞ。まあ、わたしがついているから大丈夫だとは思うがな。」
それを聞いていた英機は、大粒の涙を流して感激した。
「うう・・なんという師弟愛・・ここはボクの居るべきところではないな」
「元山!キミに監督の座を譲るぞ。ボクはこの学園を去ることにした。伊達先生といっしょに、この学園を建て直してくれ!」
「そんな・・監督はどうするんですか?」
「ボクかい?フフフ。見たまえ!」
上着を脱いだ英機が着ていたのは、ネルソンと並ぶXリーグ強豪、帝急エクスプレスのジャージだった。
「ボクはこの前の試合を見て、監督なんてつまんない、もっと現役でいたいと思ったのさ。北村さんにカレーで釣られて就任した監督だったけど・・やっぱりボクは生涯1選手さ!応援頼むぜ!それとヤク!英美をよろしくな。まさかお前、本当に10人産ませる気か?あいつ今9人目身ごもってるぜ」
「監督、いやヒデキさん!」
「よかった。よかったなあ・・」
「おれさ、本当は総理なんてなれなくてもよかったんだ。卒文にはハッタリで総理になる!なんて書いたけどさ、ホントは・・・伊達先生みたいな先生になりたかったんだ!」
「俺もだ!」「僕も・・・」
「ハハハ・・・・。でもさ、別々の高校、別々の大学に進み、それぞれ結婚してさ、いろんなことしてきた僕たちが、こうして3人一緒に、伊達先生と一緒に学校にいられるなんて・・・。夢みたいだ。」
「古川、夢じゃないぞ・・・。これからは私たち4人はいつも一緒だ。そして生徒たちに愛と夢を教えるんだ。」
「先生・・・・・・!」
こうして、京葉高校にまつわるくらい影はすっかりなくなり、ヒデキは現役復帰し、アメフト部も元山新監督のもと、再出発したのであった。
その後、関東大会は2試合とも(京王と吉本に)負けてしまったが、以後千葉県では最強のチームとして君臨することになる。なお義広と正男、ユッキーは卒業した。そして、兄の卒業・入門と同時に、光も退学して双子塚部屋(藤原部屋が改称)に入門した。「鷲浜田」「鷹浜田」の誕生である。のちの横綱3代目鷲乃浜、初代鷹乃浜である。
新キャプテンにはキムが選ばれた。公正な試験のもと、選手たちが集まってきたようだつたが、やはり伝統的にイケメン揃いである。
京葉高校のピンクの校舎。そこに君臨していた魔王は去った。そして、今は伊達先生の優しい笑顔が生徒たちを見守っている・・・。