第32話 ピンクの罠!男だ陽一ど根性!(前編)
激戦の末、大海大相模高校を破り5年連続の関東大会出場を決めたサトミたち南武高校。東京では、順当に高橋率いる京王と、島田率いる吉本工業が勝ち進んできた。だが・・・!
埼玉・千葉・茨城地区代表は、聞いたこともない学校だったのだ。新島が卒業し戦力ダウンしたとはいえ埼玉代表の殉教に圧勝しての進出・・・。さすがの真亜子も、データー不足に悩んでいた。
「プルルルる・・・」
「ハーイ♪あ、誰かと想ったら真亜子!どうしたのよ急に・・」
真亜子は、すがる思いで携帯を手に取り、連絡した先は・・・玲子であった。
「あ、あそこか・・・。データーないのは無理ないわ。だってあそこ、去年まで女子高だったんですもの。なんでも去年になって急に理事長がアメフトに関心をもって、アメフト部を作るためだけに今年から男子の募集をしたらしいわ。だから部員はほとんどが1年生。ただ、それだけじゃさすがに無理と思って、他校から何人か・・そう、韓国からも引き抜いているみたいね。あっちでも最近アメフト盛んだから・・・。それと、これはびっくりだけど、確実な情報よ。驚かないで!あそこの監督、去年引退したばかりの、社会人Xリーグ強豪・ネルソン=バンガーズの、南条英機選手なのよ!」
「え、あの南条英機選手が・・?」
そう、南条英機・・アメフトファンなら知らぬものが居ない、日本で人気・実力ナンバーワンのスタープレーヤーだった。今プレーしている選手の大半は彼に憧れてアメフトを始めたといっても過言ではないだろう。派手だが確実な、「魅せる」プレーでファンを魅了し続けてきた英機。タッチダウンを決めたときに、指を立てて決める「ヒデキ、感激!」は真似するものが後を絶たないボーズとなっている。また余談ではあるが大のカレー好きで全日本カレー愛好家連盟会長でもある。だが、肝心の選手に対する情報は、さすがの玲子も知らないという・・・。
真亜子は、持ち前の頭脳と情報力、洞察力で自分なりに考えてみた。
「ヒデキさんが監督なら・・・きっと派手なプレースタイルになるはずだわ。なら、うちは京王よりずっと有利なはず・・。だって、うちにはサトルくんとサトミちゃん、それに陽一君がいるんだもん・・。あの子たちだって、魅せ方では南条さんに負けてないはずよ。あとはみんなを信じるだけ・・・。」真亜子は徹夜で資料を作った・・・。そして翌日。
目を赤く腫らして部室に来た真亜子を待っていたのは・・・怒りと驚きに肩を震わせる主将の拓也と主務の千佳であった。
「どうしたの、キャプテンに千佳・・・」
「真亜子、これを読んで・・・挑戦状よ」
「え?」どうやら資料どころではない状況になってきた。読んでみると・・
「ヘイ!南武高校のみんな!元気かい?ヒデキも元気さ!ところでキミたちの学校に、どうみてもボクらの仲間に相応しい子がひとりいるんだなっ!一目見たときからもうヒデキ、感激!というわけで、もし今度の試合ボクらが勝ったら、その子はうちに転校してもらうことにするよ!このことはもうウチの理事長とそっちの理事長の間でも話しはついているみたいなんだ。ま、万に一つもボクたちが負けるってことはないと思うけど・・もしキミたちが勝った場合、ボクがプロデュースしている、「おうちカリフォルニアカレー」1年分を進呈し、次の試合の前にボクが臨時コーチになってあげるってのでどうだい?というわけで、岬陽一君は次期からはボクらの仲間だぜ! 京葉花園学園高校監督 南条英機。」
「なんと身勝手な・・・。陽一だってようやく僕たちの戦力になってきたというのに・・。」
「あーあ。あたしもヒデキに憧れてたのに・・・ひどいわ。それに陽一君ってカレー1年分の価値しかないのかしら・・・。」
「2人とも、幹部なんだからみんなをもっと信じるのよ。これは不確実だけど今ある情報から作った、対京葉の資料よ。鍵を握るのはやっぱり東兄妹と陽一君だわ。3人はプレースタイルが派手で南条さんと似ているから。」
「真亜子・・その目・・・まさか徹夜?」
「いつものことよ・・。」
そこに他の部員たちも入ってきた。陽一も・・・。だがとてもこの挑戦状のことは彼には言えなかった。
そして試合当日・・・。アウェー。千葉マリンスタジアムへ殴りこんでの試合となったが・・・。
一面ピンクの花園・・・。
女子生徒の大群がピンクのブレザー・ピンクのスカートの制服でスタンドに陣取る。そして驚くべきことにユニフォームもピンク・・。まるで女子チームのユニフォームではないかと思うような、ショッキングピンクと白のユニフォームに身を固めた選手たち。メットには赤いハートまであしらわれている。
「キャー!ヨシ坊、キムタク、チョーさん、ジローくん、慎二ちゃん〜♪」
選手はイケメン揃いだった。中でも1番から連番で一桁の番号をつけた主力に声援が集中する。♯1は2人だけの3年生の1人、永井義広。主将でクォーターバック。守備でもSSとして活躍する。精悍な顔立ちの選手。女生徒からは「ヨシ坊」と呼ばれる。♯2は、5人の中でも跳びぬけて美形のエースレシーバーで守備ではDBを務める、金 卓(キム・タク)、在日韓国人である。続いて頬のこけた極度に痩せて鰓の張った♯3はやはり韓国人だがこちらは本国から引き抜いてつれてきた選手で、趙 南敢(チョー・ナンカン)という。彼もレシーバー兼DB。♯4の翳りのある男は板垣次郎、やはりレシーバー。この3人が2年生、同格の副キャプテンである。そして♯5番の一番背が高く、一番童顔なのは、1年生の鹿島慎二。1年生で、かつ男子で、エースプレーヤーの一人だが、主務(マネージャー長)も兼ねている。ポジションはタイトエンド。器用さの求められるポジションで、もちろん何処でも守れる上マネージャーの仕事もこなす。愛嬌がよく、料理や部室の掃除も得意で、他の選手やマネージャー(女子マネージャーには3年生もいる)たちからも好かれているようだ。(永井主将は単に最年長というだけの主将(実力はあるのだが・・)性格が悪く他の選手からはあまり好かれていない。金と板垣も性格が悪い。趙は優しい性格だが、言葉の壁から完全にはみんなと打ち解けないでいた。そのため幹部と他の部員たちの橋渡し役としても、慎二の存在は大きかった)
「すごい人気だな」武田と馬場は驚く。
「なんじゃい!女々しか!」清はこういう雰囲気が大嫌いなので怒りに燃えていた。
それにしても、去年まで女子高、しかも制服もピンク・・・。ほんとうに目のやり場もない。
「見ろよ信彦!向こうのマネさん♪ピンクのホットパンツの2人に白いミニスカの4人・・」
京葉花園学園高校アメフト部マネージャー。左から 副務・中村 雪江(ユッキー) 3年生 小堺 美奈子(ミーナ) 2年生 赤川 千代子(ちょこたん) 1年生 小熊 愛子(あいこりん) 1年生 ☆4人のイニシャルを合わせると「YMCA」になる。チアも兼ねている。 |
「アニキ、そりゃないぜ・・・。宏美や四葉に聞かれたら殺されるぜ」
「もう聞いちゃったわよ。何よ、あんな子達。お兄ちゃんも信彦も、試合中向こうのベンチばかり見ていたらドリンクもテーピングもあげないからね!」
「フ。どうかしらね・・・」あくまでいつも冷静な四葉であった。
さらに・・チア軍団も繰出してきた。
拓也「うーん・・・。まるで女の園だ。実際に戦うのはメンバー表見る限り全員男だが・・。2000人の女性を相手に戦うみたいだ・・・。」
「ならアタシに任せて!あたし一応女だからね。」
サトル「一応じゃなくて、お前はボクの妹なんだから・・。」
「アニキ面するなよ!」
「でもサトミ・・おまえ、自分のこと「オレ」って言わなくなったな・・・」
「そんなのアタシ・・オレの勝手でしょ」
「無理に言わなくてもいいよ。もうお前を男の子だと思う人はいない。可愛い年頃の女の子だよ」
「アニキに言われてもなぁ・・・」本当は、誰よりもサトルに褒めて欲しいサトミ・・・。だけど兄と妹・・・。決して受け入れられることはない恋であった。
そして、そのサトミに焦がれている選手も多い。前の試合で重傷を負い今日は出られないオサム、同級生の丘、鈴木・・・。鉄平だって、四葉が入学してくるまではサトミ狙いだったのだ。鉄平と似た境遇なのは野球部のエース、大介。彼の場合は本当はサトミが中学の時から好きだったのだが・・リコ姉さんの虜になってしまい、今では完全に・・・。義信も、唯理という彼女はいるものの、境遇からサトミに対しては誰よりも優しかった。殉教OBの新島や京王OBの福沢もサトミが大好き。さらにあのキャラも。そしてもう1人・・・サトミをおそらくこの世で一番深く愛している漢がいるのだが・・・あえてここではその名を明かさずにおく。他にもたくさんの男たちが、口に出さないけどサトミが大好きで、狙っているのだ。吉本の島田だって・・。サトミにちょっかい出しただけで恋人の麗菜から拷問を受けてしまった。それだけサトミという女の子が魅力的で、ヒロインとしての資質を持っているということなのだろう。(基本的に、今までの作中で彼女の居ないキャラは全員サトミ狙いと考えて差し支えない)
逆にサトルもモテモテ。一応、公認の恋人・西本みゆきが存在するものの、サトミのほか、沙羅、そして男の子だけど・・・陽一も一途にサトルを想っていた。
さて、ついに決戦の体育の日・・・。南武高校は後攻。キックオフは恒例のサトミ。
高く上った脚から、放物線を描くボール。これを慎二がガッチリキャッチ。信彦にタックルされたところから、京葉の攻撃が始まった。まずはライン勝負。ガシーーン!
清と相手センターは、がっぷり4つに組んで一歩も引かず、2人とも動けない。一方隣の猛は・・完全にアオテンされてしまった。清が引き分け、猛が完敗となると・・。ライン勝負でも互角かやや不利だった。そしてクォーターバックの義広は、4人のレシーバーに自在にパスし、それを自分に戻して鮮やかに先制!
「ふっ!これがボクの現役時代に得意だった連携技の一つ「ブーメラン」さ!ヒデキ、感激!」
「おにいちゃん、おめでとう♪」
「おお、英美に奈保子♪」このピンクのホットパンツをムチムチに履いた女性二人は生徒ではない。2人ともヒデキの妹で、英美はトレーナー。奈保子は京葉学園の保健の先生、つまりスタッフなのだが、ベンチ入りしていた。しかし2人とももう30は過ぎているというのに・・悩ましい格好である。他にも3人の大人がベンチ入りしていた。ヘッドコーチの元山弘雅。長身で浅黒く、毛深く逞しい男性ホルモンの塊のような男で、ヒデキの後輩に当るが、やはり先ごろ引退して後進の指導に当っている。もう1人の真ん中わけ、ピンクのジャージの男は、アメフト部の顧問の先生、薬師寺英裕で、男性だが家庭科の先生である。そしてヒデキの妹、英美の夫でもある。2人の間には8人も子供がいるのだ。最後の1人の、地味〜な顔をした白衣の男は、古川和敏といって、南武高校でいう西本幸男に相当するチームドクターだ。モッさん、ヤッさん、フッさんと呼ばれる3人は、仙台市の中学の同級生であった。(担任は伊達宗幸先生)。
「フっ。ブーメラン成功か・・・。だがオレは、ギャランドゥの方をやれと命令したんだけどな・・。しかし肝心のターゲットがベンチじゃなぁ・・。もう少し点を取ったら、少し手を抜いてターゲットをベンチから引きずり出さないとな」
元山ヘッドコーチの、逞しくも怪しい目が光る。そして作戦「ギャランドゥ」とは何か・・。
凄い勢いで攻撃を続ける義広たち。5人一体になった踊るような連続技に、サトルも、信彦も苦戦する。
ベンチでは・・「あたしが止める!」
サトミが歯軋りしている。だが、キャプテンの拓也はサトミを守備で出すつもりはなかった。攻撃でさえ、通用するかどうかわからないのだ。増して、自ら体を張って相手を止める守備は、もはやサトミの体では、県大会までが精一杯だった。関東を勝ち抜いた強豪相手に、タックルすれば、弾き飛ばされて怪我をさせられるのがオチだ。だが、天才クォーターバック・サトルの球を誰より確実にキャッチでき、しかもキッカーとしては既に全国1,2のサトミを、ベンチから外すわけにはいかなかった。それに攻撃には護衛をつけられる。
だが、全員が敵にぶつかる守備では・・サトミをカバーする余裕はどこにもなかった。
サトミだけではない。同様に拓也や陽一、今日は怪我のためいないが修などのパワーのない選手は攻撃専門で、守備のときはベンチウォーマーなのである。攻撃、守備両方に同一の選手が出る、「両面」は、よほど選手が足りないチームか、逆にずば抜けた体力とどこでもプレーできる才能をもった限られた選手のどちらかであった。
京葉の主力5人や、サトル、武田、馬場、京王の高橋などが、後者の典型例である。
1チーム、同時に出場するのは11人だが、攻守総入れ替えを考えると22名、それにキックや特殊プレーの専門家、怪我が付き物の競技だけに交代要員を考えると、30人いてもまだ足りないぐらいで、45〜50名規模が適正である。南武高校はまさしくその人数であった。
また最低16名の選手が居ないと、出場が認められない。ということは、11名中、少なくとも5名は片面の選手でなくてはならないということだ。
「サトミちゃん・・。サトル君を信じるんだ。きっと僕達の出番を作ってくれるはずだよ。」
サトミ「・・・」
また決まった敵の攻撃。だが・・
あっさりと鉄平は敵をブロックして、攻守交替になった。
サトルは「おかしい・・・。わざと攻撃権をくれたような気がする・・。うちの攻撃プレーヤーの誰かを、意図的に潰す策略では・・・。サトミ!サトミがあぶない・・」
サトルは天才的直感から、京葉の陰謀を察知した。だが、奴らのターゲットは、彼の最愛の妹、サトミではなかった。この天才の僅かな勘違いが悲劇を呼ぶ。
実際、このプレーは元山ヘッドコーチのサインによる、わざと止められたものであった。
そして攻守交替に持ち込まれたところまではサトルの推理は見事的中していた。元山もまさかサインが気付かれたとは夢にも思っていない・・・。
「よし、出番だ。いくぞサトミちゃん、陽一!」
勇ましくメットを被り、ベンチを飛び出す拓也、サトミ、陽一・・・。
ライン組と、サトル、信彦、鉄平、義信を除く選手は、拓也たちと交代だ。
アメフトの醍醐味の一つに選手の交代が自由自在で、得手不得手、作戦に応じて自由に選手を起用できることがある。
さて、南武高校の攻撃パターンは、拓也とサトル、2人のQBと、サトミと陽一、2人のWRを配置し、縦横にパスを通し、カットしようとする敵を、パワーランナーの信彦らがブロックするという作戦であった。マークは、義信が義広、陽一が金、サトミが趙、信彦が次郎、鉄平が慎二になっていた。そして投げ終わった二人が随時、やや弱いサトミと陽一のカバーに入るようになっていた。奇しくも、敵のマークも金が陽一、趙がサトミ、慎二が鉄平となっていたが、義広と次郎は、義信と信彦を無視し(義信を無視し信彦を恐れて)、それぞれ拓也とサトルを狙っているようであった。
サトルは、サトミのマークについた趙を見て、「あの体格なら、サトミでもなんとか耐えれるかもしれない・・・」と少し安堵した。義広や金、慎二には体格が完全に劣っていた。
だが、拓也とサトルは、陽一と、敵のエースである金のミスマッチに気付かなかった。
本人が聞いたらショックを受けるかもしれないが、2人は自軍のウィークポイントをサトミと考えていた。当然である。いくら経験豊富で実績があるとはいえ、サトミは女なのである。幸い、月の真ん中、月からの使者の心配は今日はなかった。また、過去において、サトミが女であることを理由に集中攻撃してきたチームもあった。だが、チームでも抜群の実力の持主で攻撃の要のサトミを、拓也はどうしてもベンチから外せなかった。
そしてサトミ自身も、自分がまさか味方からもウイークポイントと思われているとは露知らず、やる気満々、闘志に燃えていた。
そして、攻撃開始!サトルの絶妙なパスは、陽一に!
もはや陽一は、サトミとほとんど同じ呼吸タイミングでサトルに合わせられるようになっていた。蝶のように舞い独走する陽一。だが!彼のマークは、敵の最エース、金卓!
そしてそのタックルが見事に決まった!そして勢いあまって、フッパンがずり落ちてしまった。あらわになる陽一のかわいい部分・・・。
「うふふ・・・♪」貴賓席で不気味に微笑む謎の人物。そして貴賓室に敬礼する本山ヘッドコーチ。
「ギャランドゥ!」
元山は叫んだ。なんと、はじめからフッパンをずり下げるが目的だったのだ。だが・・・
「コーチ、全然ギャランドゥじゃないッスよ・・・」
ギャランドゥとは、相手の下半身を露出させ戦意を喪失させる、元山ヘッドコーチの卑怯な作戦で、それをいかにわざとらしくなくやってのけるかが、決め手となる。ギャランドゥの語源はかつて流行した歌謡曲の歌手某が毛深かったことに由来するが、陽一には毛が生えていなかった・・・。
「フ.これでいいのさ。あのお方もお喜びだろう。」
「あのお方」とは・・・。
どうやら、元山ヘッドコーチは、監督であるヒデキではなく、貴賓室にいると思われる何者かの指令を受けて、このような卑怯な作戦を執行していようであった。
幸い、ファーストダウンを奪った陽一。続く攻撃・・。
またしても、陽一を執拗に狙う金と義広。
「大丈夫か陽一!」
「はい。大丈夫です」
よし・・敵の狙いは陽一だったのか。ならば・・・
サトルのパスは、サトミに!
ガッチリキャッチしたサトミは走る・・・。そしてタッチダウン寸前・・趙に止められてしまった。趙は細身だが、足も速く、力強かった。
そして、なかなか起き上がれないサトミ・・・。趙は、彼女を抱き起こした。
そして・・彼はこの瞬間、第2の新島になってしまった。
「女ノヒト・・・。嗚呼、女のヒトガ・・・」
独走するサトミ・・・だがタッチダウン寸前、趙のカミソリタックルを受けてしまった!惜しくもタッチダウンならず・・・。だが!趙は一年前殉教の新島が感じたのと同じ、タックルの際の違和感を覚えた。柔らかく、しっとりとした触感・・・。そう、自らが押し倒した敵は、女の子・・・・。趙はその後悔と興奮から覚めることは出来なくなってしまった・・・。 |
そして次のプレー。サトルは自ら走り込んで1タッチダウン返して、サトミのキックも決まった。反撃はここからだ。
敵のマークが陽一に集中している以上、彼を囮にするか、無視して他の選手にボールを集めるのがセオリーだ。だが、敵は主力5人のほかに、6人目の凄腕が現れて、こちらのホットラインや相互カバーをかき乱し、結果的に一時的に陽一をフリーにさせ、彼に投げるしかないように仕向けてきた。そして、あらかじめマークをチェンジして陽一を・・。
その6人目の、まるでサッカーのリベロのような身軽な選手の名は、林。林 和行だ。
林の出現で、攻撃権は保持しているものの、ペースは京葉に握られてしまった。
陽一はもう4回もまともにタックルを喰らっている。小柄な彼にはもう限界だ・・。
第一クォーターはあとわずか。サトルは、苦し紛れにサトミにフィールドゴールを決めさせた。もちろん得点したが、そのことによって攻撃権を失ってしまった。だが、まもなく第一クォーターが終了し、陣地の交替と、僅かな作戦タイムが取れたのだった。
そして京葉側では・・・。
「理事長、思ったとおりです。完全なショタでした。」
無線機で連絡を取る元山コーチ。
「ウフフ。あたしの理想のコだわ・・。ぜったいモノにするのよ。」
「了解です」
京葉花園学園理事長、北村憲一の野望とは・・・。
うっすらと判ることは、北村理事長が、普通の人間ではないということ。
おそらく男色家。そして元山はその相手の1人であるということ。
大のイケメン、ショタ好みだということ・・・。完全に狙われている陽一。
だが、南武高校には陽一のほかにも、美少年がいる。そのことが北村理事長に知られたら・・。
おそらくターゲットは、そちらにも及ぶであろう・・・・。
続く第2クォーター。
いつまでも一方的にやられる南武高校ではない。攻守にわたって、敵の進撃をガッチリとブロックする赤銅色の腕。そう、東サトルと並ぶ南武高校の2枚看板の1人、「鉄人」武田信彦だ!
「信彦♪」ベンチの宏美も大喜び。
「ちょっと宏美ちゃん、はしたないわよ・・・。それにいくら恋人でも、先輩なんだから信彦君を呼び捨てしちゃだめじゃない」
「はーい♪」
「別に学校外とかではいいのよ」
さりげなく注意する千佳。少しはマネ長らしくなってきた・・・のかな?
「よっしゃ、信彦だけにいいカッコは見せられないぞ。オレにだって先輩の意地がある。それに・・四葉が見てるからな」
馬場鉄平もガンガン当る。去年までとは別人のような力強さだった。単に足が速いだけの彼が強くなったのは、恋人の四葉と妹の宏美の献身的努力により、苦手の魚と牛乳を克服し、カルシウムを大幅に摂取できるようになったのと、義弟?になる予定?の信彦に対するライバル心からだった。
「よし、武田君や馬場先輩に負けてられない。僕だって止めて見せるぞ。」2人の活躍に、佐藤義信も奮発する。普段は真面目でおとなしい彼だが、鬼神の如きタックルを決めた。
「義信さん・・きっと止めてくださると思っていましたわ・・・」ベンチでは、唯理が手を合わせその活躍を見つめる。宏美のように飛び上がって狂喜したりしないのが彼女の奥ゆかしさであった。一方、恋人の鉄平の活躍にも冷静な四葉・・。いったい彼女は何故にこの若さ(16歳)で、こんなにも落ち着き払っているのだろう。彼女が喜怒哀楽を示したり興奮した姿を見たものは誰も居ない。
一方、予備のボールで遊んでいるまなかな・・・。
「真面目に見ていなさい!」沙羅はすっかり2人のお守役に・・・。まな・かなは南武高校のマネージャーとして登録されているものの、ほとんど何もしていない。要はマスコットガールなのである。だが2人の無邪気な笑顔に、ピンチのとき皆が癒されるのだ。
そして、最後はサトル。攻撃権を奪い返した。
「うん、いい相手だ。ヒデキ、感激!」戦いは全くの互角となった。南条監督も、素晴らしい試合展開に感激している。だが・・・
「畜生・・遊んでられないぜ。」元山ヘッドコーチの陰謀は、いつ炸裂するのか・・。
南武高校の反撃!南武高校は、いきなりレシーバーの陽一やサトミをスルーして、ランニングバックの信彦に通した!信彦の、鉄の走り!彼の師匠の旺盛大学・玄田は、C62のような突進だったが、それには若干及ばないものの、D51のような力強い走りで独走タッチダウンだ!
「サトル!あたしにも決めさせて!」
「よし、岬君、サトミ、あれをやるぞ」
サトミと陽一を無理矢理握手させるサトル。
「うわーっ手か腐る!」
「こっちのセリフよ!」
「まあまあ・・。僕のこの球を捕れるのはキミたち2人だけなんだ。そして敵のマークは岬君。だから僕は投げない。いいかい、3人一緒に突っ込むんだ」
「OK、練習どおりね」
サトルは、投げる振りして走った。そしてサトミ、陽一と重なる。そして素早くパス回しをして進む。去年、これと似た技をサトミと2人で成功させたが、今度は陽一を加えた3人だ。最後はサトミと、空中で抱き合うようにパスして2人同時にタッチダウン!
そのまま抱擁する2人。兄と妹ではあるが・・・恋人同士にも見えた。悔しがる陽一。
「あっ、ずるいよ先輩・・・。」
「拗ねるな、次はキミとのランデブーだよ」
「は、はい!」目を輝かせる陽一。そして、このブレーにより、フィールドゴール分リードで前半を終えた。