第31話 頑張れオサムくん!
蝶のように舞い、蜂のように刺すような華麗な陽一のブレー!だが、その華麗で可憐な陽一を、サトミと誤認して女だと思い、卑劣な股間へのタックルをかましてきた大海大の選手・・。幸い、エッチが目的のタックルのため、大怪我には至らなかったが、大事をとっての治療と、後半の作戦のため、陽一は一旦ベンチに下がった。だが、その際のサトルの「後半、必ず出番を作る、君が絶対必要だ!」の言葉に感激した陽一は素直にベンチに・・。だが腫れたチンコを自分で治療しようとするも、男勝りなマネージャー・馬場宏美に無理矢理治療されてしまった・・。その結果、彼の未成熟なおちんちんと、全く毛の生えていないことが女子全員にばれてしまったのだ・・・。
さて、代わって入ったレシーバーは、♯9、五十嵐修、2年生である。26話でも登場した選手であるが、彼は名門・優秀館中学出身の秀才で、かつ中学時代は短距離の記録を持っていた。だが・・・。
入部以来、彼は伸び悩んでいた。同期には、天才・東サトル、鉄人・武田信彦がいるハイレベルな代であり、他にも優秀な選手が多く、この1年間に、昨年の全国制覇の経験もあり、皆さらに力と自身をつけていった。体も一回り大きくなった選手も多い・・・。
だが、そんな2年生の中、2人だけ1年時よりも体力・成績が落ち込んでいた選手が居た。
その1人が、なんと昨年の全国高校MVP選手で、かつ現在日本唯一の公式女子高生フットボウラーの東サトミ・・・。そしてもうひとりがこの修であった。
サトミの場合、あの決勝戦の劇的な「血染めのタッチダウン」以来、その心と体の奥深く眠っていた、「本来の彼女自身」、即ち女の部分が目覚め、1年時においては、天才と言われた双子の兄・サトルとほとんど変らない、少年のような引き締った肉体であったのが、丸みを帯びた女性らしい体型に急激に変っていき、まだ同世代の女性に比べて十分とはいえないが、単なる胸板に過ぎなかった胸に、小ぶりだが形の良い乳房が膨らみ、お尻も太もももどんどん丸くなっていった。それは彼女がいかに筋肉トレーニングしようとも食事を改善しようとも、容赦なく襲い掛かる変化であった。髪も伸ばした。もはや双子でほとんど同じ顔とはいえ、サトルと間違えるものはいない。
しかし、身体能力が衰えても、彼女には幼稚園以来という長いキャリアがある。また、天才と言われている兄・サトルと最も息の合うプレーヤーであり、また、逆に女性であるがゆえに高く上る脚と、並みの男性に匹敵する体格から来るパワーにより蹴りだされるキックを駆使し、接触プレーが無理でも、キッカーとしての活躍も見込まれることから、チームにとって彼女は必要不可欠であった。また、女ながらも健気にハードな戦場で戦う彼女の存在自体が、チームメートの士気を鼓舞し、彼女自身の負けず嫌いな性格もあり、ムードメーカーの役割を果たしていた。さらに、女子であるから、11人目のマネージャーも兼ねていた。一方、この修は・・・。
修は、確かに脚は速かった。それは今でも、衰えてはいない。むしろ僅かだが伸びているぐらいだ。だが・・・彼はフットボール選手としてはあまりにも体が細く、パワーがなかった。またスタミナもなく、練習の際のランニングで、周回遅れになることもしばしばであった。
チームで5番以内の俊足でありながら、防具を着けての走りこみでは、2,3週で息切れし、最も鈍足な大河原にさえ抜かれてしまう始末・・。さらに悲劇的な、深刻な事態が発生した。副キャプテン、馬場鉄平の妹、宏美はマネージャーだが、本来はプレーヤー志望で、中学時代はバスケ部のキャプテンとして活躍、身長もチームの女子では最も大きい177センチもあり(サトミは1年時173cm→175cmに成長)、全てにおいて甘いキャプテン、上村拓也の許可もあり、時折プレーヤーに混じり練習に参加することもあるのだが・・・。なんと、宏美のほうがあらゆる面で修より優れていたのだ。(ただし、宏美には防具は着せず、彼女へのタックル及び、彼女自身のタックルは禁止なので、当りでの比較は不明)
「おっ!さすがオレの妹!やるじゃんか!いっそオサムの代わりにヒロミを選手にしたほうがいいぜ!コイツ(オサム)は女以下だからな!」
鉄平は、妹の実力を目にあたりにし、思わずこういってしまった。ところが・・
「アニキ!今の言葉を取り消せ!オサムはな、この1年間だれよりも真面目に練習してきたんだ!女以下とはなんだよ!」いきなり上級生、しかも副キャプテン、その上彼女の兄である鉄平を殴る信彦!
「信彦!いてーなっ!なにしやがる!本当のことじゃないか!それにお前の馬鹿力で殴られたらおれ、死んじゃうじゃないかよ!」
取っ組み合いになってしまった2人。
「お兄ちゃんも信彦もやめて!」
宏美が割って入ってやっと鎮まる2人。というか2人とも宏美を溺愛しているので、宏美にはめっぽう弱いのだ。
「ちょっとお兄ちゃん、いくらなんでも言いすぎよ!そりゃあたしはバスケやってたから、パス回しとかは得意だけど・・タックルなんて死んでも出来ないし、防具の分軽かったし・・・。オサムさんだって、相手が女だから、ちょっと油断しただけよ、ね?」
オサム「・・・」恥ずかしそうに俯く。
「信彦も、友達思いなのはいいけど・・なにも殴ることないじゃない!お兄ちゃんは、副キャプテンだし、わたしのお兄ちゃんなのよ!それに女以下って、お兄ちゃんだって怪我ばかりしてるし、小学生のときはあたしより遅かったじゃない。さあ、握手握手!」
無理矢理2人を仲直りさせた宏美。さらに・・・。その手に二つの手が加わった。
「鉄平・・きみも副キャプテンなんだら、チームメートを傷つけるような発言はよくないな。信彦も、暴力はよくない。そしてオサム・・・。君は頭はいいし、短距離は速いんだ。そのことを生かした工夫が君ならできるはずだよ。フットボールは力だけではなく頭脳のスポーツだからね」
キャプテンの拓也が、オサムの手をとり、自分の手も重ねた。すると、マネージャーを含めた全員が次々と手を重ねて行った。
キャプテンの拓也は、前キャプテン剛と異なり、強力なリーダーシップもない。選手としても2流である。だが誰よりも優しく、人の輪を重んじる紳士だった。そのため、みんなが彼を慕っていたのだった。このようなタイプのキャプテンもまた必要なのだということなのだろう。その彼を、技術面ではサトルと鉄平が、リーダーシップ面では信彦が支えていった。
さて、宏美は長身で運動神経抜群、しかもチームで一番脚の速い馬場の妹。そのうえリーダーシップもある。1年生ではあるが、控え目な上級生マネを差し置いて、マネージャーたちの中の事実上のリーダー格である。とはいえ、単なる女子マネージャーに過ぎない彼女にまで劣っていると判明してしまった修は、拓也の期待とは裏腹に、さらに伸び悩むことになってしまった・・・。
春の京王との練習試合でも、ろくな活躍が出来ずわずか1プレーでの退場となった。その彼が、いよいよ公式戦、しかも関東大会出場を賭けたこの試合での登場となった。
「おい拓也・・・本気か?おれたちだってやっと喰らいついている大海大だぜ・・・。本当にオサムでいいのか?まだ1年を使ったほうが・・・。」
「うん、ボクもちょっと不安なんだが・・・サトルくんに策があるみたいなんだ・・。」
「でもよ・・・。あっ、オレにも策があるぜ。オサムのユニを、ヒロミの奴に着せて出そうぜ!ばれたら失格だけどよ、身長も同じだし、な?」
「ちょっとお兄ちゃん!なんてこと言うのよ!あたしがあの変態ゴリラにタックルされて怪我したらどうするのよ!」
「あれ、お前、いつも「アタシも思いっきりぶつかりたいわ〜」って言ってたくせに」
「相手にもよるわよ!」(実に身勝手なような発言だが、所詮誰が相手であろうと自分が出ることは出来ない、またそのつもりはないとわかった上での発言である。そのことは鉄平も拓也も承知の上)
「なにはともあれ、修、たのんだぞ!」
「はい」
♯9を着けた細身の修が登場だ。しかし・・・。
やはり、敵の動きにもついていけない。サトルの絶妙なパスも落球してしまった・・・。
しかしサトルは何故かニヤニヤしている。まさかオサムに恥をかかせようと企んでいるのか・・?まさか、サトルに限って・・。サトルは、サトミを手招きして何かささやいた。
「OK、サトル♪」
再びオサムのミスで、攻撃権はあっさり大海大に移ってしまった。再びベンチに下がる修。いったい何のために・・・。
だが、信彦と鉄平の、義兄弟連携タックルで、あっさりと再び攻撃権を奪取した。
「よし!キャプテン、QBを頼みます。レシーバーは、打ち合わせどおりボクと、サトミと、岬君と、オサムくんで」
「本当に僕が投手でいいのかい?君のほうが上手いと思うけど・・・」
「いいえ、どうしてもサトミと僕が一緒でないとだめなんです。お願いします」
「よし、天才の君のいうことだ、頼りない投手だけど、頼んだよ」
「任せてください」
さて、試合はいつものように1タッチダウン差を南武が追う展開(いつもこの展開ですみません・・・)
サトルたちは、大胆な作戦に出た。サトル、サトミ、陽一の美少年?トリオが、まるで敵を挑発するかのような動きを見せたのだ。
美少年のサトル、その双子の妹の美少女で、かつ美少年にも見えるサトミ。そしてその2人よりももっと可愛い陽一。サトルにしては非紳士的な、大胆な行動であった。怒り狂った敵は、3人を徹底マーク。しかし、3人に対する敵マークには、さらに信彦、鉄平、義信をつけるという(その分、フリーになる敵が出てくる)必殺の陣。
「ライン勝負なら清君が3人ぐらい吹っ飛ばせる。あとは僕と信彦君と馬場先輩の運動量でカバーだ。・・・。キャプテンとオサムくんが、失敗しなければ・・・。これで勝てるはずなんだ」
サトルは勝算があった。
お尻を振りながら走る陽一とサトミ。追う敵。しかしサトルに対するマークは外さない。
最初のパスは、陽一に。陽一はわざと追いつかれそうに演技しながら、サトルにパスをした。突っ込んできた敵は信彦がガッチリブロック。サトルも陽一も無事だ。そして繰返される攻撃。陽一には、前もってパスのタイミングと、球筋を教えておいた。投げキッスをかます陽一・・。
「しめた!」
サトルはほくそえんだ。
敵のマークが自分に複数ついたのだ。当然、オサムがノーマークに。
オサムがヘタなのは、先ほど敵は承知済み。どうぞ虐めてくださいといわんばかりの挑発をつづける女の子と美少年に、卑しい邪心が向かう。また、そうでないまともな選手は、エースのサトルを狙う。
そして、クォーターバック・拓也の球は・・・オサムの手に!
拓也の、平凡なパス。これこそオサムには丁度いい。先ほどサトルは、オサムでは絶対に取れない難しいパスを投げ、わざと失敗させていたのだ。独特のスピンのかかったサトルのキラーパスを楽に取れる選手はそうはいない。愛より深い絆で結ばれた分身ともいえる最愛の妹・サトミ、器用で華麗な陽一、そしてスピンをものともせず怪力で強引に掴み取ってしまう信彦ぐらいのものだ。(大河原や剛は同様に怪力だがラインなのでパスを受けられない)
「オサム君!走れ!」
あわててオサムを追う敵。オサムは速かった。だが、息切れも速い。あっというまに減速してしまうオサム。エンドゾーンはあと僅かなのに・・・。巨漢の田端と藤本が迫る・・。そして、藤本の巨体が、オサムを押し倒したのと、オサムがエンドゾーンを越えたのは・・・
ほとんど同時であった。オサムはボールを放さなかった。
審判の手が水平に上る・・・同点だ!
しかし、オサムは動けない・・。担架に乗せられて退場していくオサム。
「オサムくん!同点タッチダウンだよ!」
「オサムちゃん!あとはあたしのキックで逆転だからね!あとで勝利をお土産にお見舞いに行くからね!」
「オサム!」「五十嵐!」
「うう、ぼくは、ぼくは・・・」
そして、約束どおり、サトミのキックが決まった。
最後の大会大の反撃も、本当に強くなった鉄平の活躍もありシャットアウト、南武高校、2年連続の神奈川大会優勝である!そして舞台はいよいよ東京へ!
「畜生・・・」すすり泣く大海大主将・佐原・・・。兄弟揃って南武高校に破れたのだ。
「しかし、オレのフットボール人生はまだ最低4年はある。大学では絶対武体大に勝ってみせる・・・」誓いも新たに挑戦を続ける佐原彼もまたスポーツマンだった。
さて、病院。
「オサムちゃん!勝ったよ!」
「サトミちゃん・・。」
オサムは、藤本のタックルで複雑骨折して、関東大会には出れそうに無かった。
「みんな、ごめん・・サトミちゃんと2人にしてくれないかな」
「まあ、今日の殊勲コンビだから、いいか」
「ぼくは・・。ぼくは、本当に得点できたんだね・・。」
「泣くなよ、男の子でしょ、女のあたしだって泣かないよ」
「ぼく、みんなの足引張ってばかりで・・なんども辞めようかと思ったんだ。でも、サトミちゃん信彦君が励ましてくれたから・・こうして・・。
大好きだよ、サトミちゃん・・・・」
「えっ!まじ?あたしもオサムちゃん好きだよ♪頑張りやだし、勉強教えてくれるし」
「フフ。いいんだよ。サトミちゃんには他に心に決めた人が居るのは僕だつて知ってるさ。ところで僕がどうして南武高校を選び、アメフト部に入ったか知っているかい?」
「うん、気になってた。優秀館ならもっといい高校行けたとおもうし。」
「実は、見たんだよ、君を・・中学の関東選抜VS神学館。そして一目ぼれ・・。恥ずかしいな、ぼく・・・」
「えっ、そうだったんだ・・・。ありがとね♪」
そこに乱入してくるみんな。
「オサム!おまえ、どさくさにまぎれて告りやがって!いい度胸あるぜ!怪我が治ったら、その度胸で体も鍛えてやるぜ!」
こうして、南武高校は神奈川大会を制した。
だが、まだ6合目。関東大会には、宿敵・吉本工業高校、好敵手・京王高校のほか、まだ見ぬ強豪が待ち受けているのだ。