第30話 開幕・2年目の県大会!
9月・・いよいよ全国高校アメリカンフットボール大会が開幕した。まずは神奈川県予選を突破しなくてはならない。
第一シードの南武高校は今年も3回戦からの登場である。天才クォーターバック・東サトル、ジャンヌダルク・東サトミ、西郷隆盛の生まれ変わり・大河原清、鉄人・武田信彦、オールラウンドプレーヤー・馬場鉄平を擁した南武高校は、3回戦、4回戦と勝ち進み、ついに決勝を迎えたのだが・・・。また、この2試合の中で急速にその力を伸ばしてきた選手が居る。それは♯4、岬陽一だ。陽一は神奈川県で最も小さい選手だったが、その小さくて身軽な体を活かし、まるで蝶のように舞いながら戦う姿から「フィールドのアーティスト」「妖精」と呼ばれていた。唯一の女子選手としてもはや有名になった、東サトミよりもしなやかで色っぽいプレーに、人気がブレークしていたのだ。
そして。
「えっ!旺盛が負けた!」
南武ベンチにもたらされた情報。部員数200名を超える強豪、昨年の神奈川2位、旺盛二高が準決勝敗退したという。やはり人間機関車・玄田の卒業が響いたのか・・・。
とはいえ、南武高校も大巨人西本剛を卒業で失い、全国ナンバーワンを誇ったライン陣が大幅に小型化し、まだ1年の大河原1人の巨体に頼らざるを得ない状況だった。大河原は体が大きく、パワーもあり、柔道で鍛えたガッツと敏捷性もあったが、所詮は1年・・フットボール選手としての経験は未熟だった。
当然、南武高校の飯田源蔵監督は、決勝の相手は旺盛を想定して戦術を組んでいた。実を言うと、飯田監督は旺盛大学出身でもあった。
「原尾君、西本君・・・。相手は何処なんじゃ?」
「それが・・・大海大相模なんです」
「大海大!それは大ちゃんたちが甲子園賭けて県大会戦ったのと同じ学校じゃない!」
「なんでも、大海大の監督は、野球部の仇を討つんだと張り切っているらしいわ」
「うーん。データーは?」
真亜子「こんなこともあろうかと思って一応調べておいたわ。それと、玲子先輩からもビデオが」
「おお、さすがレイコねえ!」
早速、分析と研究が始まった。
「うーん、見たところたいしたことはないみたいだが・・・」
「うっ!この選手を見ろ!どこかで見たことがないか?」
「あっ!あれは・・・!大ちゃんと投げ合った投手にそっくりだ!」
「双子、か・・・」
そうであった。大海大相模の主将でエースの、佐原大は、つい先ほど甲子園を賭けて松崎大介に敗れた同校野球部エース・佐原太の双子の弟だったのだ。
野球の兄と、アベック出場を目指していた太は、打倒南武に燃えていた。それだけではない。大海大の蔵前武義理事長は、金にモノを言わせて全国から優秀選手を集めていたのだ。選手は全員185cm以上。平均体重も85キロを超えている。体格で彼らを凌駕しているのは大河原だけであった。
体格だけではない。技術面でも、あの強豪・旺盛を破っての決勝進出である。どうする、南武高校・・・。
そして決戦の朝を迎えた。
拓也「はっきり言って、僕たちは体格とパワーでは彼らに勝てない。だが、彼らは所詮金で集められた選手たち。チームワークと、頭脳では僕たちに歩があるはずだ。それに彼らも確かに上手いが、どうしても大きい分、小回りが利かない・・・。そこでだ。今日は、サトミちゃんと、陽一にボールを集めたい。だが、女の子のサトミちゃんと体のまだ完全に出来上がっていない1年生の陽一には、防御面で不安がある。だから、他のみんなは、自分の得点や個人成績を犠牲にしてでも、2人を全力で護るんだ。特に鉄平と信彦は頼りにしているよ。それから、練習試合のときと同じように、僕とサトルくんのツインQB作戦で行く。それと清、ラインでは君だけが頼りだ。任せたぞ!」
「ハイ!」
「まかせておけ!」
千佳「マネージャーのみんなも、今日は忙しくなるわよ」
「はーい」
そして遂にキックオフ。蹴るのはもちろんサトミ。サトミの蹴った球は大海大陣地奥深く突き刺さる。だが、大海大のランニングバック、正木はあっという間に押し戻してしまった。そして、遂にQB・佐原太の出番。
佐原の投げた球は、鋭いスピンと、不規則な変化をしながら、南武選手をあざ笑うかのように正木の手に。
正木は185cm・80キロと丁度武田とおなじぐらいの体格で、パワーとスピードを兼備えたランナーだった。次々決まるゲイン。武田、馬場、丘、義信らは必死に止めようとするが、追いつけない。正木は元々はラグビーの選手だったため、武田の渾身のタックルも、すぐ起き上がってしまう。止めても止めても突進する正木に、ついにタッチダウンを決められてしまった。
一方、後攻のため、サトミ、陽一、拓也はベンチだったが、サトルはDBとして守備にも参加していた。
「うう、出きる・・。信彦君より早く、頑丈だ・・・。彼を封じないと、攻撃できない・・・」
サトルは、一度攻撃権を奪取すれば、攻略の糸口を掴んでいたのだ。しかし・・・大海大の攻撃は激しかった。
正木だけではない。藤本、田端らの選手も佐原のパスで次々突進してくる。得点を重ねていく大海大・・・。まずいぞ!
そして正木の攻撃が!だが!
「キャーっ!お兄ちゃん!」宏美の絶叫。
なんと、馬場鉄平が、サックを決めたのだ。しかも、自らも無事である。
馬場鉄平は、チームで1、2の俊足と運動量で、今までもチームに貢献してきた選手であり、特に今年からは副将も勤め、ラインとQB以外なら何処でも出きるオールラウンドプレーヤーだった。だが・・・。体の線の細さから、敵にタックルしたり、されたとき、怪我をしてしまい一瞬の活躍に終わることが多かったのだ。だが今彼は、見事敵QB・佐原を倒し、健在である。
「宏美・・・合宿の成果ね」
「四葉!」
ここで合宿の回想シーン。今年の合宿は、茅ヶ崎のビーチで海の家のバイトも兼ねたものだった。女子マネも混ざってのビーチフットボールや遠泳も取り入れた、ハードさと楽しさを両立したものであり、OBたち全面協力もあったのだが・・。
食事も、自分たちで採った海の幸を生かした海鮮バーベキューも何度か取り入れたのだったが・・・。
「お兄ちゃん!ダメじゃない、お肉ばかり食べちゃ。魚や野菜も食べないと、また怪我するわよ!」
「だって俺、魚嫌いなんだもん」
「鉄さん・・先輩?これ食べてみて?」
「四葉・・なにこれ、美味そうだね」
「いいから食べてみて」
「美味い!これは何?」
「これ?これは鰯を大葉と海藻で包んで、薬味をつけて揚げたものよ。手が込んだけど・・これなら生臭身も消えて先輩でも食べられるんじゃないかと思って・・・」
「うん、おれ、鰯がこんなに美味いものだとは思わなかったぜ。もっとないか?」
四葉の工夫を凝らしたバーベキューで、馬場は苦手の魚を克服した。その結果、当りに強くなれたのだ。 楽しい合宿の様子はこちら・・・。 |
「たくさんあるわよ・・あっ!信彦君に清君、だめよ!貴方たちの分はこっち!」
「四葉、あたしにも造り方教えて!わたしお兄ちゃんの食事改善してみせる!」
その他、やはり苦手だつた牛乳も克服した鉄平。その影には、恋人の四葉、妹の宏美の献身的な愛があったのだ。
また砂浜でのビーチフットボールでは、足を砂に取られて動きづらいという欠点と、タックルされても痛くないという利点があった。この合宿でもっとも成果があったのが鉄平だったのだ。
「よっしゃ!やっと攻撃だ!」
元気よく飛び出すサトミ、陽一、そして拓也。
清のスナップは・・・サトルだ!
サトルのパスは、サトミ・・と見せかけてフェイクを入れ、陽一に。
陽一は大きな敵の懐に飛び込むように突き進む。昨年、サトミは敵を飛び越えて突破していったが、陽一は潜り抜けて突破。そして信彦がぴったり張り付いて敵のタックルを防ぐ。
縦だけでなく、横にも。信彦に渡ったボール。信彦は陽一とは打って変わり、強引に突き進んでいく。学校は違うが、信彦のフットボールの師匠は旺盛の昨年の主将・玄田。その旺盛を破って進んできた大海大に一泡吹かせたいという気持もあった。敵のタックルを喰らっても、弾き飛ばす信彦。だが彼はパワーだけの選手ではない。味方を信頼する友情に厚い男でもあった。パワフルな信彦に2人かかりのタックルが迫る。
「ヨシ!」
タックル寸前、ボールは義信に。さらに間髪入れずサトルに。そして追撃のタッチダウンは、サトルが!そしてキックを決めるサトミ!
しかし・・・最初に大活躍したのにタッチダウンできなかった陽一はちょい不満。
だが何はともあれ、勢いが出てきた南武高校の追い上げも開始!
今度はキャプテンの拓也が投げる。ライン勝負も清は負けない。
サトルはレシーバーの位置に入り、拓也のボールをガッチリキャッチ。そして、サトミへ。そして再びサトル。そしてまさかのトリック的パスで陽一に。
「このパスを取れるのは岬君だけのはずさ!」
その期待に応え、陽一、ついに公式戦初タッチダウン!
サトルに抱きつき狂喜する陽一はどさくさにまぎれてサトルのケツを撫でた。
「・・・」複雑な表情のサトル。
だが、この陽一の活躍が大海大の闘志に火をつけてしまった。
「おい、南武には女がいると言ったが・・あの4番だな?」
「うん、あの背の低さ、ウエストのくびれ、それにメットからはみ出した髪・・恐らくそうだろう。」
ちなみにこの試合、サトミは髪を束ねてメットの中に入れていた。
「よし、あの生意気な女に一泡吹かせてやろうぜ!」
大海大ディフェンス陣の、怪しい目。そして悲劇が。
サトルの素晴らしいパスが、陽一に通った・・かと思われたとき・・
大海大のタックル、藤本のタックル。藤本は陽一にまともにぶつかり、その上股間をドサクサにまぎれて握った。
「ぎゃーーーー!」
悲鳴を上げて倒れる陽一。
「ゲつ!なんだ、男か・・・」
陽一は男の子だが、ファールカップはつけていなかった。その可愛いおちんちんが、巨大な手で握られてしまったのだ。
「ウウーン・・・」
呻いて起き上がれない陽一。審判は一応反則は取ったが退場には至らなかった。
「わりー、わりー・・・。でも坊やカップはつけてたほうがいいぜ!」
「まて!言うことはそれだけか!」怒る信彦、清。
「やめろ信彦君、大河原君・・・。それより・・」
「大丈夫かい岬くん・・・」
陽一を優しく抱き起こすサトル。陽一はそれだけでも大満足。股間の痛みもどこへやら・・・いきなりサトルにキスをした。
「ゲっ!」思わず突き放すサトル。
「先輩・・ボクのこと・・」
「それより怪我は大丈夫かい?いいかい、君はボクが考えた必殺技にどうしても必要なんだ。ここは一度オサム君と交替して、休んでくれないか?後でボクがきっと出番を作る。約束だよ!」
小指を突き出すサトル。
陽一は大感激。
「先輩・・・」その目は彷徨としていた。陽一、素晴らしいタッチダウンを決めるも一時退場・・・。
代わって入ったのは、五十嵐オサム・・・。
一方「クソっ、4番は女じゃなかったのか。じやどいつだ?新しく入った9番か?」
「違う、2番だ。メンバー表見なかったのか?」
「おお、そういえば・・。だが偵察の時はもつと女っぽかったし、4番のほうがよほど女に見えたからぁ・・・」
大海大の選手たちは吉本とどっこいの悪党揃いだった。
ところで、ベンチに戻った陽一の治療・・・。
マネージャーたちが顔を赤らめる・・。
「いいよ、自分でやるから・・・スプレー貸して・・・ギゃー・染みる〜う」
「ちょっと診せてみなさいよ!」
「あっ!何をするエッチ!」
宏美に無理矢理治療されてしまった陽一くん・・・
「宏美・・・」
「あたしおにいちゃんのいつも見てるから平気なのよね・・・それにしても・・・陽一君、毛が生えてない・・・!」
「え!」
「恥ずかしいよぉ・・」ベソをかく陽一・・・。
さて、試合のほうは一進一体。そして、これがやはり公式戦初出場のオサムは・・・