第29話 それぞれの夏(サブタイトル・恋人たちの午後)
やってきました夏休み・・・。だが戦士たちに安らぎは無い。厳しい夏合宿が待っていたのだ。そして、アメリカンフットボール部だけではない。野球部も、甲子園に向けての快進撃を開始していた。そして遂に・・・神奈川県大会決勝である。
我等南武高校は怪物・松崎大介を擁し、去年の夏、今年の春に続く3連続出場を目指していた。相手は強豪・大海大相模・・・。合宿の途中ではあったのだが・・・。
「ハーイみんな!わたくしの大介がいよいよ、明日甲子園を賭けた試合よ!拓也君!たまには練習を休んで、応援に来なさいよ!わたくしと玲子でバッチリ取材よ・・。本当は大介の傍にいたいんだけど・・・。肝心の大介の試合でしょ。
あっ、そうだわ・・いつも頑張っている女子マネのみんなに、ペアチケットをプレゼントよ!好きな男の子を誘って、大介を応援しに来てね♪」
「ワーーイ!」
「リコさん・・戴いてしまっていいのですか・・・・?」
「気にしない気にしない・・・。でも男の子たちの分はないわ。自腹でね。」
「リコ・・・さん、オレは?」
「あ、サトミちゃんは選手だけど女の子だからあげるわ」
「サトル・・!」
ところが・・
「サトルくん、行きましょう?」
「う、うーん・・。でもキャプテン、本当にいいんですか?合宿中ですけど・・」
「いいよ。たまには行き抜きも必要だ。今年のキャンプはハードだったからね。」
「応援に行かない者も、明日はゆっくり休んで、明後日からの合宿に備えるように!」
「オス!」いつになく元気がいい部員たち・・・。そりゃ、7日ぶりの休みである。
それにしても、女子11名に渡された、ペアチケット・・・。一体誰と行くのか・・。
「拓也♪もちろん、明日あいてるわよね♪」
「チカちゃん・・・。」
「明日ショッピングに行こうと思うの。もちろん、松崎君の試合見た帰り。でも、荷物多くなりそうなんだ〜。た・か・ら♪拓也持ってネ♪お・ね・が・い♪」
「うん、いいよ。じゃあ、○×前で待ち合わせ」
「楽しみだわ。お休み、拓也♪」
(やったーっ!明日はチカちゃんと・・・) 大喜びの拓也。
一方、同室の馬場鉄平は・・・
「おい、ヒロミ!例のチケット、当然おれと行くんだよな?」
「えーーっ!何で兄ちゃんと?信じられない」
「まさかお前、誰かいるのか?」
「いいじゃん。あたしもう大人だもん。かまわないでよ。それに兄ちゃん野球なんて好きじゃなかったはずじゃない?」
「で、でもおれは・・お前が心配で・・・」
「大丈夫。ヒロミはお兄ちゃんが思ってるほど子供じゃないの。さっさとキャプテンの部屋に帰りなさい!おやすみ!」
こちらは・・。
「まなみたん、誰と行く?」
「かなみたんと行く!」
「かなみたんも!」
「じゃあ、これいらない」
「ピュー」紙飛行機にして、高価なチケットを2枚も飛ばしてしまった。二人はどうやら一緒に行くらしい。それを拾ったのは、誰だろう・・・。
一方
「清どん」
「おハナちゃん・・」
2人は、2人の時はこういう呼び方をしている。
あるとき清が、誤って自分を「おいどん」と言ってしまったのだ。それを聞いた花子はクスクス笑う。馬鹿にされたと思った清は激怒したが、よくよく聞いてみると・・・
「わたしね、おじいちゃんちが宮崎の小林なの。だから薩摩弁ってなつかしいのよね。大河原君は鹿児島生まれだって言ってたけど、何処?」
「おいどん・・いや自分は吉松たい。」
「へぇー、吉松と小林って県は違うけど近いのよ。なんか親しみが湧くわ。それに・・無理して難い言葉使わなくても、「おいどん」のほうが似あうわ。ね、清どん?」
「おハナちゃん・・・」
こうして凸凹コンビは同郷ということもあり、愛を育てていったのである。
「明日は、野球見に行こうね」
一方・・・
「サトルくん・・・。ごめんなさい。わたし、やっぱりお兄ちゃんと行くわ。
だってサトミちゃんがかわいそうよ・・」
「でもみゆきちゃん・・・サトミは妹だし、やっぱりみゆきちゃんとボクは行きたいな」
「サトル・・オレのことならかまわなくてもいいんだぜ。そうだなあ・・信彦くんか、オサムちゃんか・・馬場ちゃん、丘くん・・殉教の新島さんあたりでも誘おうかなっ!あたしさ、ヒロインだからモテモテなのよね。」
「サトミ・・・。やっぱりボクと行こう・・。みゆきちゃん、ごめんね」
「いいのよ、やっぱりその方がいいと思うわ」
「待ってよ!なんでそうなるの?アタシかみゆのどちらかが我慢するとか、そんなの無いよ。そうだ!3人で行こうよ。あたしと、サトルとみゆと!いいでしょ、サトル」
「うん、そうしよう。」
「あーあ、チケット1枚余っちゃった。リコさんに返してこようっと」
律儀にも事情を話し、リコに返したサトミ。
「サトミちゃんたら・・折角のチャンスだったのにね。でもまあいいか。貴方たちは3人一緒がお似合いよ。」
こちらは。
「佐藤先輩・・」
「どうしたんだい花田さん」
「明日のことですけど・・も、もしよかったら・・」
「野球?」
「ええ。お嫌いかしら?」
「ううん、ボクも野球はやってみたいと思ったこともあるし。でも、ボクでいいのかい?」
「・・・。」
恥ずかしそうに俯く唯理。
「じゃあ、明日はお付き合いするよ。よろしくね」
(そうか・・唯理さんはボクのことを・・・。でもボクはいずれ福島の鬼婆みたいなお婆ちゃんのところに帰らなくてはならない身。ボクも唯理さんに初めて会ったときから惹かれていたけど・・・そのことを考えると声が掛けられなかった・・。でも、これがいい機会だ。本当の気持を伝えよう・・・そして・・・いつの日か、唯理さんを連れて帰ろう・・)
厳しい祖母に鍛えられた義信にとっては、清楚でやや地味な唯理が理想のタイプだったのだ。その唯理もまた、誠実で純朴な義信に・・・。
沙羅は、遂に男子に声を掛けれなかった・・・。「サトル君はどうせみゆきさんかサトミちゃんと行くんだろうし・・武田君は多分あの子・・どうしよう・・」だが、まなかなが2人で行くのを知り、保護者として同行することにした。これでチケットは現時点で、4枚余ってしまっている(うち2枚は、捨てられてしまった)「まな・かなだけでスタジアムなんて・・・変質者に狙われたら大変だわ・・・・」
真亜子が選んだ相手は・・・なんと飯田監督。
「原尾君・・・なにもこの年寄りを・・・」
「勘違いしないでください。野球の戦術をご一緒に勉強させていただくためですわ」
「相変わらず、研究熱心じゃのぉ・・・」
そして、四葉が選んだのは・・・
一方、サトミと沙羅から回収されたチケットは、京王の高橋&千代の手に渡った。
「ヨリ、どっち応援する?」
「もちろん、南武だろう。大海大は大学のほうで汚い手を使ってウチを苦しめているいわば仇だからね」
「それに、このチケットだって南武OGの人からもらったものだし」
「ふーん、ヨリって律儀ね。でも・・・こうしてフットボールと関係ない試合ヨリと一緒にゆっくり観戦できるなんて・・。嬉しいわ。いつもグランドでも家でも、お父様にフットボール漬けの毎日・・・。たまに他のスポーツに触れるのもいいわ。そういえば、ヨリも中学では・・・」
「そうだね。ボクも甲子園で投げて見たかった。松崎君とも対戦してみたかったな。ボクと拓也で、松崎君を打ち崩したかったよ」
「ヨリ、本当は野球が・・・」
「ううん、ボクはやっぱりフットボールのほうがいいよ。こうして千代と一緒になれたし」
「ヨリ、ホント?お父様への遠慮じゃなくて?」
「そりゃ、最初は怖かったよ、君も義父さんも。でも、今は違う。さ、明日は早いし、いつまでも話しこんでると義父さんにしかられるよ。お休み」
「お休み、ヨリ・・愛してるわ」
そしてあくる日。澄み切った青空。ここ横浜スタジアムは超満員。入場ゲート前。そこに近づく2組のカップル・・・。
一組は、
赤銅色の肌を、ボタンを開けてワイルドに曝した、角刈りで筋肉質の長身の男。その恋人は、長身にピンクのタンクトップ、白のホットパンツのロングヘアのスタイル抜群の美人。なかなかのお似合いである。
反対から近づくもう一組は・・・
カジュアルな雰囲気のシャツを着た、陽気そうな少年と、翳りのある、細身でベリーショートの美女の取り合わせである。彼女のほうが落ち着いた大人の雰囲気であり、男のほうは少し子供っぽかった。見ようによっては、この美女には少し勿体無い気もする。そして二組がゲート前で鉢合わせ。
「あーーーーーっ!お兄ちゃんに四葉!こんなところで何してるのよ!」
「そ、そういうヒロミこそ、武田と何してやがるんだ!」
「だから昨日言ったでしょ、今日の試合、行く人決まってるって!そういうお兄ちゃんこそ、ヒロミのこと誘っておきながら、なんで四葉と一緒なのよ!説明しなさい!」
「フフ。ヒロミ、あたしが馬場先輩を誘ったのよ。悪かったかしら?」
「わ、悪くないけど・・・四葉も悪趣味よ。こんなだらしないお兄ちゃんなんか・・」
「あら、そうは思わないわ。アタシね、去年の旺盛戦で、サトミ先輩を庇って玄田さんを止めた馬場先輩を見て、京王女子の推薦蹴ってうちに入ったのよ。好きな女のためなら、自分を犠牲に出来るなんて素敵だと思うわ」
「でもおかしいじゃん。お兄ちゃんが好きなのはサトミ先輩のはずよ。なんで四葉なのよ!」
「フフ。先輩は諦めも早かったみたいなのよね。そしてあたしも努力したし。あんたが男の子に混じってマネそっちのけでボール追いかけたとき、あたしはみゆき先輩からテーピングをしっかり教わって・・そして、ね、鉄さん?」
「あ、ああ。」
「でもね四葉、お兄ちゃんはわたしを誘おうとしたのよ」
「あたし誘ったの今朝だったし。まさか誘われるとはおもってなかったんじゃないの」
なんとなくむくれる馬場。
そのムードを変えたのは武田だった。
「アニキ!というわけだ。悪いけど俺、ヒロミとつき合わせてもらってます。てことは馬場先輩、あんたは俺のアニキ同然!これからも頼むぜアニキ!」
その逞しい手をさしだす信彦。
「ちょつと信彦!わたしあんたの彼女にはなったけど、アニキだなんて・・結婚はまだでしょ!わたしまだ高1なのよ!」
「おいヒロミ・・・、他の部員の居る前では先輩って呼べよ・・」
「うるさい!」
「武田・・・おれはまだ許してはいないぞ・・」
「ふふ。お似合いね、おふたりさん。」
「ハーハハハハ。」最後は4人で大笑い。
「アニキ!アニキのいるサイドは安心だ。俺もこれで縦横に暴れられるぜ。頼んだぜアニキ!」
「武田・・いや信彦!お前こそ、攻守の要だ!」
武田信彦と馬場鉄平は、ここに今までにも増して強い友情と信頼で結ばれることになった。攻守の中心である2人が仲良くなったことは、南武高校にとって大きな財産となった。
そして、ヒロミと四葉も。
「四葉・・・たよりないお兄ちゃんだけど、よろしくね。もうわたしつきっきりじゃなくても安心だわ」
「ヒロミと武田さんもお似合いよ」
こうして4人は、一緒に観戦とあいなったのだ。
そして、サトミと、サトル、そしてみゆきは仲良く3人で・・・サトルはまさに両手に花。サトミもみゆきも持てるので、まさに垂涎の的。だが、モテモテなのはサトルも同じ。この3人組での行動は、以外と多くの者の恨みや妬みを買うことに・・。そしてここにも1人。
まなかなの捨てたチケットを拾ったのは・・・陽一。
「クソっ!あの女、先輩とちゃっかり手を繋いで・・・。大体において、兄と妹がデートするなんて、神様が許すはずがないんだ!それに先輩には西本先輩というれっきとした彼女が・・・。西本先輩はともかく、あの女に握られる手はないはずだ!右手が西本先輩なら・・・左手はボクのもののはずなのに・・!よし、尾行して邪魔してやるぞ・・・」
しかし陽一君、男同士で愛し合うのも神様は許さないと作者は思うぞ・・・
おまけ・吉本工業高校の夏休み・・・。
さて、試合のほうは・・・・
もちろん、大介の投打に渡る大活躍で大海大相模を完封!今年も甲子園だ!リコも狂喜乱舞。(当然、甲子園も優勝した。本編と関係ないのでこの辺はあっさりと解説しておく)
そしてサトミたちの激しい練習も続く。決戦の秋まで1月。だが、京王の高橋、吉本工業の島田、関西の神学館、そしてまだ見ぬ強豪がサトミの前に牙を研ぎ爪を磨いて待ち構えているのだ・・・・。負けるなサトミ!戦えサトル!
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