第27話 鬼姫の挑戦!タッチフット大作戦(前編)
「あっ!あなたは・・・!」
00番のメットを脱がせたサトミは動けなくなった。駆け寄る両軍選手も然り。
ヘルメットの中からは・・・おそらく丹念に畳まれていたのであろう・・・・腰まで届く、長い黒髪が現れた。そして、濃いオレンジ色のアイシールドに隠されていたその素顔は・・・。
真っ赤な唇。そして、長い睫・・・。
そう、サトミ同様、「女」だったのだ。しかし何故、男子校の京王に、女の選手が・・・。それは背番号00番が全てを物語っていた。00番は試合で使えない背番号。つまり彼女が正規の選手ではないことを意味していた。
そして呻いてゆっくりと目を開けるその美女。
抱き起こしたサトミの手を払いのけて
「あんたが東サトミね・・・。あんたの実力はこの体で試させてもらったわ。見てのとおり私は女・・・そして京王の生徒じゃないから、公式戦には出れない。そして、当りでも、あんたには叶わないことがよくわかったわ。このわたしでさえ果たせなかった、男子に混じってのプレー、褒めてあげるわ。そして羨ましい。だけど負けッ放しでおさまる私じゃないの。ここであなたに挑戦状をたたきつけるわ。聞くところによるとそっちの学校もうちの真似して、タッチフット始めたそうね。実は私、京王女子でタッチフット部の主将を務めているの。1月後、タッチフットで女同士の再戦よ!それまでにせいぜいドンくさいあの子らと一緒に練習することね。言っておくけど、わたしはランやパスキャッチではあんたは勿論、男にだって負けやしない。でも悔しいけど私は女。タックルされれば、このザマよ。でも!タッチならタックルは厳禁。わたしに勝てるプレーヤーは日本には居ないわ。わかったわね!逃げないで!」と言い放った。その目は挑発的だった。その切れ長の目と、太い眉は意思の強さを物語っていた。
そこに頼伸が寄り添い、「千代・・・。ボクから拓也にも話しておくから、もうベンチに戻ろう。もう無茶しちゃだめだよ。義父さんも怒っているよ」
「頼伸・・・」
「千代」と呼ばれた美女をお姫様抱っこしてベンチに運ぶ頼伸。そして監督を「義父さん」と呼んだ・・・。そして頼伸と千代の関係は、どうみても選手とマネージャー以上の関係だった。試合のほうは、この衝撃の出来事もあり、引き分けに終わった。
「というわけなんだ。拓也も知っての通り、うちの千代は言い出したら聞かない。来月、サトミちゃんを含んだ女子でチームを編成し、千代たちペガサスレディと対戦してくれないか?」
「うん、いいよ。お手柔らかに。それにしても・・・。まさか千代ちゃん、本当にスタイルして出てくるとはね」
「うん・・。サトミちゃんの活躍を見ていてもたってもいられなくなったんだ。本来なら、関東初の女子選手は千代になるはずだったからね・・・」
「じゃあ、今日は本当にありがとう。来月また会おう」
ガッチリ握手する2人。それにしても拓也は全てを知っているようだった。
「ねぇ拓也・・・高橋君と千代さんって?」
「・・・婚約者だよ。そして、千代さんは立花監督の一人娘なんだ。」
気絶する千佳・・。
「そこからはワシが話そう」
「監督!」
「立花さんは、ワシの1級上で、京王のエースじゃった。そしてこのワシは、旺盛のエースで、良きライバルだったんじゃ。丁度、今の高橋君とサトルのようにのぉ・・・。関東大学の竜虎と呼ばれておったんじゃ。そして立花さんが卒業した後、ワシのライバルとして立ち向かってきたのが、お前たちもしっちょる吉本工業の監督、横山なんじゃよ。
そうそう、その前に立花監督の生い立ちからはなしてやろう。立花さんはのぉ、九州・大分の剣道道場の息子として生まれたんじゃが、その日、普段は暖かく雪の降らない大分に、大雪が降ったんじゃ。12月24日、クリスマスの夜じゃった。それでご両親は「豪雪」と名づけたのじゃが、子供の頃から体が大きく、スポーツ万能。そして京王大に進学して鎧球を知ってからは・・・その申し子のようになったんじゃ。卒業後もコーチを経て監督になり、60歳の定年後、高校のほうの監督にまわったのはワシと同じじゃ。そしてその実績は、知っての通りじゃ。実は去年も含め、うちが京王に勝ったのは、いずれも立花さんに不都合があった年だけじゃった。去年だって、もし病で倒れず立花さんが指揮を執っていれば、うちではなく京王だったかもしれん。」
「で監督、でも千代さんがお嬢さんだとしても、ちょっと年齢的に・・・」
「そうなんじや。立花さんは、大学の時の二級下のマネージャーだった奥様と、奥様の卒業と同時に結婚し、仲むつまじくしていたのじゃが、どういうわけか子宝に恵まれなかったんじゃ。そして諦めかけていた時、そう立花さんが57歳、奥様が55歳の時、やっと授かったのが千代さんなんじゃ。立花さんはそれはそれは感激してなぁ・・。だが、その喜びが、立花さんの最大の悲しみに変ってしまったんじゃ。つまり、生まれてきたのが女の子・・・千代さんじゃったが、これでは自分の後を継いでフットボール選手には出来ない。そしてもっと悲しいことに・・55歳という、世にも珍しい高齢出産が祟って、奥様はそのまま亡くなってしまわれたのだ。その悲しみのため、立花さんは一夜にして髪の毛が全て抜け落ち、あのような姿になってしまわれたのじゃ。」
「かわいそう・・・」
「じゃが、それでも立花さんは千代さんに幼い頃から、フットボールのいろはを教え込んだ。千代さんも、それをどんどん吸収した。そして、また悲劇が起きた。」
「どういうこと?」
「一般に、女子のほうが男子より成長が早い。まして体格の良い立花監督のお嬢さんである、千代さんは小学生の時、体格は男子を完全に凌駕し、どんなスポーツをやらせても一番だった。そこで立花さんは・・・やってはならない過ちを犯してしまった。」
「え!」
「千代さんを、丸坊主にしたうえ、名も「竹千代」とし、性別を偽って京王中等部に入学させたんじゃ。だが、元々男性的な顔立ちの上、まだ胸も大きくなっていなかった千代さんはまんまと男子として京王に入学し、立花さんは併せて中等部にもフットボール部を設立しようと動いた・・。その矢先」
飯田監督の視線は、このときサトミ一人に注がれた。
「サトミくん・・・。去年のクリスマスボウルは覚えているね。」
「えっ、あの・・MVP!監督、覚えてくれてたんですね♪実力っすよ、実力・!」
「違う・・・あっちのほう。」
顔を赤らめる女子たち。「監督ったら〜」
「そう、あれと似たようなことが、その直後起こったのだ。もちろん、フットボールの試合中ではなく、普通の体育の授業中だったが・・・。女の子だとばれた千代さんは退学させられ、京王女子中学に強制転校させられた上、立花さんは京王を解雇され、有印公文書偽造の罪で、執行猶予付きの有罪判決を受けてしまったのだ。前科が皆無なこと、娘を思うあまりの情状が認められたわけじゃが・・・。その年、ワシは初めて京王を破りクリスマスボウルに出場した。
だが、このワシも発起人の一人となって署名を集め、翌年には復帰された。そして再び、関東を制することになったのじゃ」
「へぇー、そんなことがあったんだ」
「もう少し話をつづけてもよいかな?だが、立花監督は、どうしても自分のフットボール選手としての全てを伝えたいという気持が根強く、2年後、養子をとることになったのだ。それが、あの高橋君だ。高橋君は、監督のお姉さんの孫にあたる。養子の条件は、優れた体格・運動能力を持つこと、立花さんと、近すぎず遠すぎない血縁関係があること、そして立花さんに対して従順なこと、千代さんと年が近いことの4つ。その全てを満たしていたのが高橋君じゃった。だが、まだ中学3年生のいたいけな少年にとっては、おそらく海坊主に拉致・監禁されたようにも感じただろう。いきなり姓が高橋でもかまわないから千代と一緒になってくれと言われてものぉ・・じゃが、高橋君は見事立花さんの期待に応えた。」
「じゃあ、高橋さんはあの海坊主に攫われて、般若みたいなのと無理矢理婚約させられて無理矢理フットボールやらされたっていうの!許せないなあの海坊主!」
「これこれ、めったなことを言うものじゃない。たしかにきっかけはどうあれ、いまや高橋君は関東で1,2を争うフットボール選手じゃ。千代さんとも仲むつまじくしておる」
千佳は正気を取り戻して、拓也に詰め寄った。
「拓也!高橋君にフィアンセがいたこと、どうしてチカに言ってくれなかったの?大キライ!」
「千佳ちゃん・・・。それは・・・」
「千佳・・。主将はあんたを悲しませたくなかったから・・。わかってあげなよ。」
日頃無口な真亜子が口を開いた。その真亜子にすがって泣きじゃくる千佳。大失恋であった・・・。
「監督・・・」
サトルは監督を見つめた。
「千代さんのことを知っていて、それでもサトミのことを使ってくださったんですね・・。」
「うむ、正直サトミが高校になつてまだだったとは思わなかったし、体格も実力もおまえたちの代では上位だったからのお。じゃが、あのこともある。今日は練習試合じゃったのでちょっと試してみたが・・・秋は蹴るほうだけになるかもしれんのぉ」
サトミは幸い聞いていなかった。
「じゃが、タッチフットとは渡りに舟かもしれん。サトミの欲求不満の捌け口になってくれればええのじゃが。お前も力になっておくれ」
「はい、任せてください!」
それにしても、サトミよりも前に、フットボールに挑戦しようとしていた女子が居たとは・・・。
さて、千代の挑戦を受け、タッチフットの選手6名の人選に入った。一応、サトミを含めた全員がタッチフットの練習を日頃からしていた。
「サトミちゃんはご指名だとして・・補欠も含めた7名以上という要求よ」
「あたし、絶対やりたい!男の子と混じってやるのは、やっぱりダメだったけど、相手が女なら、絶対に負けないわ!」
「オレからも頼む。こいつに毎晩練習につき合わされているんだ。」
じゃあ、宏美さんも決まりね。
「でも、マネージャーがいなくては部のほうが・・・。」
「じゃあ、ギリギリの7名で。マネ長として指名するわ。
まず千佳。サトミちゃん。宏美さん。唯理。沙羅。そして四葉さん。補欠はフットボールの知識が豊富なみゆきちゃんってことで」
「まなみたんとかなみたんは・・・」
「ごめんね、あとで御菓子あげるから我慢してね」
「はーい」そして翌日から、ペガサスレディスとのタツチフット対決に備え、選抜された7名はマネージャーとしての激務の傍ら、タッチフットの練習にも励んだ。もちろん、男子部員たちの協力で練習そのものにタッチフットを取り入れてのことである。
だが、どうしても本業のマネージャー業が手薄になってしまった。
「クソっ!女どもめ・・・さぼりやがさって」
大河原は不満だった。
だが・・。
ウォーターは大容量。とても女の子1人で運べるものではなかった。しかしタッチフットの練習のためマネージャーが不足し、選手から漏れた4人、副マネ長の真亜子と1年生3人は大変な思いをしていた。とくに、まなみとかなみがあまり真剣でないため、真面目な花子には負担が多くなっていた。「あっ」
無理してウォーターを運ぼうとした花子は、足の上にその巨大な容器を落としてしまった。
「大丈夫か!」ちょうど水を飲もうとしていた大河原が駆け寄る。
「大丈夫よ」
「無理するな」「大河原くんって本当は・・」
「オホン。」赤くなる大河原。
大河原は、花子を片手で抱き、片手で軽々とウォーターを運ぶと、西本に花子を診せた。
「捻挫してるな。わたしが手当てをしておこう。それとみゆきを呼んでくれたまえ」
「みゆき・・そういうわけだ。お前なら練習しなくとも大丈夫だし補欠だから、マネのほうを頼む」
「わかったわパパ。でも・・大河原君っていつもわたしたち女の子のこと馬鹿にしたり悪口ばかり言っているけど、本当は優しいのね。顔だけじゃなく、そういうところもおにいちゃんと似てるわ」
「そうだな・・・。そういえば剛のやつ、どうやってるかなぁ」
「お兄ちゃんだもん、心配ないわ。それにしても・・・。サトミちゃんにタッチフットって、ぴったりなんじゃないかしら。それに宏美ちゃんも」
「うん、そうだね・・・。」
そして、どんどん日にちがたって行ったが・・・。
「アニキ!紳一アニキ!それに姐御!」
「どうしたサブ・・。騒々しいぞ。こっちはお楽しみちゅうなんや」
「それが・・・」
「なんやそのタッチフットってのは・・・・」
「ヘイ、あっしが調べたところによりやすと、ホラ、シロー、資料!・・ヘイ兄い・・
防具なし・タックル禁止のフットボールで、女子大生の間で人気らしいんですが・・南武のマネージャーたちと、京王女子が試合するみたいなんでがんすよ」
「フっ、くだらねーな。タックルなしじゃ面白くもないし、女同士の試合なんだろう。そんなことより、ジャンプ買って来いや」
「お待ち!その試合、いつなの?東サトミはでるのかしら?」
「待ってました姐御!そのことなんでやすよ。サトミの奴が出るって話しなんでがす」
「ふふ。ガン子、ブー子・・・あと4人集めてきな。サブ、これを南武と京王に届けるのよ。そんな面白いこと、この麗菜様に無断でやろうったってそうはいかないわ!」
さらに・・・
「千佳〜♪」
「あっ静香さんに玲子姉!それにリコさん!」
「聞いたわよ。こんど京王女子とタッチフットの試合やるんですって!」
「そうよ・・・でも誰から?」
「バカにしないで。わたしたちはこれでもジャーナリストよ。それに、その試合に混ぜてほしいっていうチームがもう2つあるのよ。ひつとはこれ。このきったない字の挑戦状・・。さっき預かってきたんだけど、吉本工業の麗菜ちゃんたち。そして・・もう1つは
あたしたちよ!京王女子の千代さんと麗菜ちやんにも伝えておいたわ。折角だから、この試合、わたしたちアスリートレディスが協賛して、創刊記念試合にすることに決めちゃった!」
「でも玲子姉・・姉さんと静香先輩、それにリコさんのほかに、あと最低でも3人要るのよ・・」
「それは、あたしたちが出るわ!」
「あっ!江川キャプテン!」
「いつだったか、おたくのサトミちゃんに助っ人に来てもらったことがあったから、今度はあたしが玲子の助っ人よ。そしてあと2人は・・・バレー部の、現主将の小林知子と、もう1人は・・」
「このあたし。」
「この方は?」
「全日本女子大学アメリカンフットボールリーグ(タッチフットリーグ)代表で武体大OG、つまり私たちの大先輩マネだった・・」
「雷神ミラよ。あたしがタッチフットを普及させたのよ。」
雷神ミラ・・・金髪で気の強そうな23歳。かつて南武高校と武体大でマネ長を務めたが自らプレーすることを諦めきれず、タッチフットリーグを作って女子大生の間に流行させたのだった。これで参加は四チームになった!
そしてついに、女の戦いが始まった!