26話 新生!京王高校の逆襲

 

 春合宿も明日はいよいよ最終日。強豪・京王高校を迎えての練習試合でその成果を試すのだ。今日はその予行練習も兼ね、OB戦を行ったが敗れてしまった。

 人数は増えたのだが、剛たちが卒業した穴が大きく、新3年生は実力・人数とも足りないため、経験不足の下級生に頼らざるをえないことが大きくクローズアップされた。だが明るい材料もあった。それは、剛なき後、センターの穴が最も大きかったが、柔道部を蹴ってまで入部してくれた大河原が、なんとか間に合ってくれたのだ。しかしラインそのものは、昨年から活躍している新2年の鈴木猛を含め、まだまた他校のラインより力負けしているといわざるを得なかった。そして、力なきキャプテン上村拓也は悩むのであった。

 2人の副キャプテン、馬場鉄平とサトル、そして主務の千佳の4人は、その夜も遅くまで作戦会議をしていた・・・。

「キャプテン!ボクとキャプテンの、ダブルQB作戦はどうでしょう!」

「それも名案だが・・キミとボクとでは差がありすぎる・・拮抗してはじめて有効だと思う。それにレシーバーは・・」

「拓也、岬くんはどうかしら?みたところ体が柔らかそうで器用そうよ。」

「オレがタイトエンドから回るか?」

「いや、鉄平はいまのままがいい。キミは怪我にさえ気をつければ県下ナンバーワンのタイトエンドだからね」

「よし、明日はダブルQB作戦で行こう。2年生主体で・・そうだね、1年では大河原君と岬君を試してみるか」

「はい。」

「じゃあ遅いから、もう休もう。高橋君・・明日は負けないぞ!」

拓也の「高橋君には負けない」というのには別の意味もあった。千佳の顔をちらりと盗み見る拓也。(千佳ちゃん・・・。高橋君には・・・。)

 「じゃあね、拓也♪女の子が男の子の部屋にこんな時間までいるのはいけないわ。おやすみ♪」

投げキッスとともに去っていく千佳。その気配には甘い香りがかすかに残っていた。

 その頃、サトミとみゆきは・・・。

「サトミちゃん・・ごめんね。さらしきつく巻きすぎちゃったみたい。真っ赤だわ」

「まあいいってことよ。それより、明日は先制タッチダウンは絶対あたしがとるんだもんね!」

「まあサトミちゃん・・・頼もしいわ。前から言ってたけど、サトミちゃんは、単なる1選手じゃなく、わたしたち女の子全体の代表なんだからね。みゆきの分も頑張って」

「じゃあ、おやすみ・・。脇に寝てもいいかしら?

「うん、いいよ。家でもサトルと一緒のベットだし」

「まあ」

「でもあいつ、こんな美少女が一緒の布団に寝ているのに何もしないんだぜ。ばっかみたい」

「だって兄妹でしょ。うちのお兄ちゃんだってそんなことはしないわ」

「そうよね・・・おやすみ、みゆ・・・」

 

 部屋割りは女子が11名のため、当初はサトミは去年同様サトルと一緒のはずだったが、急遽、リコとOGの静香・玲子が参加したため変更となり、リコ&玲子、静香&千佳、サトミ&みゆき、原尾&花子、唯理&沙羅、宏美&四葉、まなみ&かなみ、となった。

一方、男子の部屋では・・・。異変が起きた。

「ギャーーーっ!」


サトミよりも女の子らしい顔をした仏蘭西帰りの美少年、岬陽一はなんとホモだった!襲われるサトル!

悲鳴。誰の?サトルのである。

「み、岬君、キミは・・・」

「先輩・・・いいでしょ、さあ」

なんと、岬は寝ているサトルを襲ったのだ。いや、むしろ促している。

「キミはそんな趣味があったのか」

「仏蘭西では普通ですよ。それに・・先輩は男にしておくのはもったいない。そしてボクも・・。どうしてボクたちはこんなに美しいんだろう・・。でもこの美しい先輩をいつも独り占めしているあの女・・・。男の世界に居座るあのブスをボクは許さない!そしてあなたはボクのもの・・・」

「ちょっと待て、あのブスってサトミのこと?ボクの妹を悪く言うのは許せないな。それに、ボクと同じ顔なんだからブスのはずがない!」

「顔じゃない。男になりすまして男の世界に入り込み、先輩を独占しているその心が醜いんだ。」

「でも僕たちはもともと双子だから、フットボールと関係なくても生まれる前からずっと一緒なんだよ・・・そんなことより、明日はキミをスターティングで使うんだ。体力を温存するためにも、早く寝よう」

「ハイ・・・わかりました・・」

サトルは、恐怖を感じ、拓也と馬場の部屋にこっそりと避難した。

 

そしてついに、夜が明けた!

 

早朝からのトレーニングを終え、京王の到着を待つ部員たち。

1年生たちにも、真新しいユニフォームが渡される。大河原は78番、陽一は、1桁の良番「4」が与えられた。「1」「2」がサトル・サトミ、「3」「4」が拓也・陽一であり、背番号からもホットラインが2本に増えたことを暗示していたのだった。


陽一には♯4が与えられた。

そして

「あっ!むらさきのバスでしゅ!」まなみ・かなみがハモって叫ぶ。

そう、高橋頼伸率いる、京王高校ペガサスの登場だ!

「拓也〜!」「ヨリ!」

ガッチリと握手する両主将。

「拓也〜、いいなぁ、お前んとこ・・女の子がたくさん居てさあ。ボクんとこは男子校だからね、野郎ばっかなんだ」

「何をいうんだヨリ・・・。キミこそ女の子には不自由してないじゃないか。それに別学とはいえ京王女子は同じ敷地だし」

「へへ。あっ!サトミちゃん、綺麗になったねぇ〜♪覚えてる?ボク京王主将の高橋です。

「ヨリくん」て呼んで貰えると嬉しいな。

「よっ!ヨリくん。今日はわざわざ負けにきてくれてありがとう♪」

「言ってくれるね!」

「あっチカちゃん、あいかわらずブルマが似合ってるね♪」

「まあ、高橋君たら・・」真っ赤に頬をそめ照れる千佳。千佳が自分を愛していることなど知らない。一見軽くみえる高橋だが、意外なことに声をかけるだけで女の子に手を出したことはなかった。まあそれには訳があったのだが・・・。

にこやかに談笑しながら、メンバー表を交換するふたり。実は同じ中学の出身でともに野球をやっていたのだった。

 拓也は3番サード、高橋はエースで4番だった。

ところが・・・突如、握っていた握手を振りほどき、険しい表情で拓也を睨みつけ、

「練習試合とはいえ、拓也、貴様をこのオレが叩きのめしてやる!覚悟しろ!」

表情だけでなく言葉遣いも急に荒々しくなった高橋に、部員たちは驚く。千佳は白目を剥いてしまった。

だが、拓也はその豹変の訳を知っていた。そして、京王ベンチのほうに深々と頭を下げた。

(そうか・・・今日は監督が来ているんだな)

去年の関東大会、京王の監督は不在だった。高齢のため入院したためであった。だが今日は、その監督が来たのであった。「雷神の化身」と言われているその監督の名は・・

「立花豪雪(たちばな・たけゆき」」。飯田監督より1つ上の75歳。筋骨隆々、ハゲ上った大きな頭、意思の強そうな太い眉、握り緊めた竹刀・・みるからに豪傑、猛将といった雰囲気の武人である。いきなり頼伸を竹刀でぶっ叩く立花監督・・・。

「立花さん、変らないのぉ・・・・」


京王高校監督
立花豪雪(たけゆき)75歳

 飯田監督も目を細めてそれを見つめた。

そしていよいよコイントス!先攻は京王、キックオフはもちろん、我等がヒロイン、サトミ嬢である。

スパーん!高々と上った足から放たれたボールは敵陣奥深く突き刺さり、そこから攻撃開始!センターの位置には、1年ながらこの試合から抜擢された、西郷隆盛の生まれ変わり、大河原清が入った。守備スタートのため、サトミはベンチに一旦下がる。

ハット・ハット・・・ガチャーン!

ついに激突する両校!大河原はいきなり相手センターをアオテンさせた。その姿に劣らぬ手柄である。だが、京王QB・高橋の正確なパスが次々決まり、どんどん前進してくる京王。その攻撃に喰らいつくのは、2年になりさらに筋量を増し、どんな敵にも攻守にわたって喰らいつく、武田信彦♯5であった。そして、馬場鉄平♯21も負けてはいない。なぜなら今年は彼は副キャプテン。それに妹の宏美が見ている。実は宏美のほうが運動神経がよく、失敗したら笑われてしまうのだ。

「お兄ちゃんしっかり!」

宏美も声援を送る。

 だが、奮戦空しく、ついに先制されてしまった。

 しかし、そこで諦めないのが南武高校。続く攻撃で、武田と馬場の活躍で、相手のレシーバーを完全に封じ込め、ついに攻守交替!サトル、サトミの出番だ!そして陽一の初陣。真新しいユニフォームの背中に4番が輝く。

 南武高校はQBWRを2人づつ置くツインQB作戦。大河原のスナップは、いったいどちらに・・。

 敵のデイフェンスは、当然エースQB、サトルをマーク。ボールも、サトルにスナップされたかに見えた。だが、それはフェイク、ボールは拓也に!そして鮮やかなパスが、陽一に渡った。相手ディフェンスを縫って走る陽一のランは、まるで絵画のように鮮やかであった。のちにフィールドのアーティストと呼ばれることになる、陽一の独走!その小さな体を爆発させての、見事なゲインで、20ヤードの前進を獲得。新星の誕生に、歓声を上げる両軍ベンチ。

 あわててマークをつける京王だったが、次の攻撃こそ、南武超黄金コンビ、東兄妹による合体技!走るサトミのメットからは、髪が揺れる・・・。


メットから覗く髪を靡かせてサトミのタッチダウン!

そして同点のタッチダウンは、やっぱりサトミ!サトルと抱き合って喜ぶサトミはキックも決めた。さあ、今度は逆転だ!

だが・・・。「チェっ!ボクにパスしてくれれば、もっと早く得点できたのに・・。あの女がいるかぎり、先輩はボクには振り向いてくれないんだ・・」味方の得点にもかかわらず、陽一は不満であった。

 続く攻撃も、サトル・拓也の2人のQBの鮮やかな分担で、京王のマークを外していく。

南武のランナーはサトミや陽一だけではない。ランニングバックとして攻撃に参加する武田信彦は相手のタックルをものともしない豪快な走りで、南武2個目のタッチダウンを決めた。「よし!やれるぞ!」

だれもがそう思った。

つづく攻撃。サトルの絶妙なパスは、サトミに通った!かに思われた。だが、それを強引にカットして、奪い取ってしまった選手が居る。敵ならインターセプトだが・・・

「何するんだてめー!」サトミは大激怒

それは陽一だった。陽一は得意のステップで敵陣深く突き進んだが、タックルされて止められた。

その陽一を抱き起こしたサトル。サトルに抱き起こされ、興奮する陽一。だが・・「パシッ!」


勝手なプレーをする陽一にサトルの怒りの張り手が!だがドMの陽一はその意味を取り違えて興奮して自分を見失ってしまった・・。

「岬君!どうして勝手なことをするんだ!ボクの頭の中にはサトミのランコースも入っていたんだ。キミにだってちゃんとパスするからこういうことはやめてよ!」

 「は、はい・・・」

しかし、陽一は別の反応を示した。

「嗚呼、サトル先輩のぬくもり・・・。愛の鞭なんだ・・」彷徨とする陽一はミスを連発した。そして、ついにベンチに下げられてしまったのだった。

 代わって入ったレシーバーは、2年生の五十嵐修だった。修は学業が学年トップ、また中学では陸上の短距離記録を持つ俊足の選手だった。(ちなみに、学業2位はみゆき、3位はサトル)しかし、体格がやや貧弱なため、1年のときの試合出場記録はなく、これが練習試合とはいえ、初めての舞台だった。張り切る修。

しかし、これが裏目に出てしまった・・・・。

 「あっ!オサムくん!」

京王高校のタックル、伊藤にモロにタックルされたオサムは、痙攣して起き上がれない。

すぐにサトルとサトミが抱き起こし、チームドクター・西本と、医務担当マネ・みゆきを呼ぶ。


活躍できず退場する修

 サトミと西本に肩を支えられて退場していくオサム・・・。わずか10分足らずの出場に終わってしまった。

 その後試合は膠着し、南武1タッチダウンリードのまま、前半を終わった。

「岬君!いいかい、勝手なことはしちゃだめだ。ボクが必ず合図する。わかったね?」

「サトルくん・・オサムくんはもう大丈夫よ。骨折や捻挫はしていないわ。」

「ありがとうみゆきちゃん。」

ハーフタイムにも、マネージャーたちはそれぞれかいがいしく働く。重い水を運んだり、選手のテーピングをしたり・・・。原尾真亜子はスコアブックのチェックに余念が無い。だが・・まなみとかなみはグランドの土で砂遊び。

「こらっ!遊んでないでこれを運びなさい!2年になり、先輩の貫禄が出てきた沙羅に怒鳴りつけられ、半ベソで水を運ぶ二人・・だが重すぎた。

「あたしも持ってあげるわ」

「わーい、ゆいりねえはやさちいでしゅ!」

 

「ねえ拓也・・・!あれを見て!」

悲鳴にも似た千佳の声。

京王ベンチでは・・

防具を脱がされた部員たちが、立花監督に滅多打ちにされている!

 「これは、後半・・・大変なことになりそうだな。」青ざめる拓也たち・・。

そして後半スタート。南武の攻撃によるキックオフだが・・・。

京王ベンチから、奇妙な選手が登場した。細身で足が長く、実際の身長よりかなり背が高く見えるその選手は、顔面を全て覆い尽くすアイシールドで顔を隠し、また、公式にはつけられない、「00」番の背番号をつけていた。その選手の鮮やかなキックは、南武側エンドライン際までボールを運び、南武はかなり不利な位置からの攻撃になってしまった。

「うっ!」拓也だけは、その選手の正体を知っているようだった。キックを終えたその謎の男は、そのままDBの位置に入った。そして、拓也の投げたパスを・・・


謎の男のインターセプトで京王に同点に追いつかれてしまった。

インターセプトして、そのままタッチダウンしてしまった!短い距離ではあったが、見事な、手本にしたいようなランだった。続いてキックも決め、同点に追いつかれてしまった。

そして再び攻守交替・・・。その選手は、ベンチのサトミを挑発するしぐさを見せた。

「あっ、あいつ!アタシに喧嘩売ってやがる!」歯をむき出して怒り狂うサトミ。

「先輩!サトミを出しましょう。挑戦は受けてたつのが僕たち南武のしきたりです。売られた喧嘩は5倍返し。それが前主将の残した言葉のはず。ボクもカバーしますから!」

基本的に、部員の数が増えたので攻撃・守備は別々、さらに元々守備にはやや難があるサトミは今年は攻撃だけで使う予定だったのだが、これは練習試合、それも挑発を受けたとあってはサトミのプライドが許さなかった。そしてサトルはそのことを誰より知っている。

「よし、でもクリボーのときみたく、2人でやるんだよ。決してサトミちゃんだけに突っ込ませないようにね」

「ハイ!」

そして、高橋の投げた球は、寸部狂わず♯00の覆面に通った。タックル陣が殺到するが、京王の選手たちは異様なまでの厚い護衛でその選手を護り、寄せ付けない。だが・・・。

サトミだけが、マークされていなかった。

「キャプテンはダメって言ったけど・・ここはアタシが止めて見せるわ!」

姿勢を低くして、00番の華麗なステップに照準を合わせたサトミ。

「ロック・オン!」

「ガシャーーン!
見事だ!攻撃での活躍には定評のあったサトミだったが、守備では、その大雑把な性格、女であるがゆえの若干のパワー不足から、直接的な結果を残してしなかったサトミ(ただし、マークの人数あわせや、サトルとのコンビによる囮としての活躍で守備にも間接的に貢献はしていた)の、初めてのクリーンヒットだ。零れ落ちるボール・・。そして、動かなくなった00番を抱き起こし、メットを脱がせたとき・・・

「あっ!」

声にならない絶句が・・・

はたして一体何が

 

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