第22話 血染めのタッチダウン!
「アンドリュー!どないこっちゃ!まだ引き離せないで」
「ヘイ、ボス、『ユニオンジャック』ヲスルノヨロシ!」
「フっ。さすが東サトル・・・」
「アンドリューはあの1番をしってるんか?」
「ああ、あいつとは小学生の時一緒にやっていた。当時から、凄いやつだった・・・。そしてあの2番、実は女なのだが、奴の双子の妹・・・。まさか、まだやってたとはな。」
「女?部員登録はともかく、この決勝で使ってくるとは東夷もよほど選手が足りぬみたいだな」
「いや、あの子は小学生の時、4年でレギュラー盗ったすごい子だったよ。あの頃は既に天才と言われていたアニキよりちょっと足が速いぐらいで・・・。小学生だからな、他にも女の子が何人かいたけど、他の子は練習にだってまともについてこれないような子ばかり、だいたい5年生ぐらいになると辞めるかチアに回ったな。でもまさか・・高校、それも関東で続けていたとは・・・・」
「まさかあんたの初恋ってわけじゃ?」
「アホ言うな。それより・・・!敵で要注意なのは、あのデカ物とサトルだけだ。うちのセンターには可愛そうなことをしたが・・奴だけは仕方ない。迂回するしかないな。それでも我々のランとパスは今までもこうしてリードしてきた。だが、そろそろ止めを刺す時が来たようだ」
「すると、いよいよ・・」
「そうだ。『ユニオン・ジャック』で決定的な追加点を取ると同時に、相手のディフェンスを粉砕だ」
「やるぞ!」
神学館のハドルは以上のようなものであった。
一方、南武のハドルは・・。
「いいか、我々の予想外の粘りに、奴らは痺れを切らし、必殺技を敢行するはずだ。だがそのときが、攻撃権奪取の最後のチャンスだ。そして、守備に回った奴らは、最大奥義「グランドクロス」を出すはずだ。だが、そのときこそ我々の勝利の時なのだ。いいか、奴ら4人に対し、我々は5人で当る。そのため他の守備・・そうだな、タイトエンドを突っ込ませるから、ラインの片端が空く。だが俺様が中央2人分カバーするから心配ない。」
そのとき、剛を遮って鈴木が発言した。
「主将の負担は、1.5で十分!おれも1.5人分防ぎます!」
「タケシくん!」
「鈴木・・言うようになったな。だが今日のお前は、1.5までは行かないがここまで1.2ぐらいの力を出しているぞ。今日のお前なら、1.5、いや1.8ぐらいの力が出るかもしれん。頼んだぞ!」
「ハイ!」
「そして、肝心の5本目の矢だが・・・。サトミ、お前だ!お前はこの試合、マークが薄い。たぶん女だとばれているから舐められているからだろう。「ひっどーい!剛ちゃんまでアタシのこと・・」まあ、そこが吉本との違いだが・・。だからこそ、お前だ。そしてサトル・・・。最後に来てすまないが、いつも大事なQB、無理するなと言ってきたのに矛盾してしまって済まないが・・・この試合、お前は死んでくれ。最後の瞬間まで、最後の矢はお前だと安東に思い込ませなくてはならない。そしてグランドクロスを直撃されるのはお前になる。だが、俺たちの勝利にはそれしかないのだ」
「判ってますキャプテン。でもボクだってそう簡単に消されはしません。サトミ・・・」
「サトル!」
南武側のハドルも終わった。そして、神学館の攻撃・・・。
QB安東の投げた球。それを、正面、斜め右、斜め左からデビット、田所、服部の3人のレシーバーが交差するように走る!一見、3人が同じ地点に行くのでタックルしに行くのも判りやすいように見える。だが、3人の並外れた運動能力とパワー、そして最終的に誰がボールを持っているか判らない、そしてこの陣形・動きを真上から見ると、丁度英国旗「ユニオンジヤック」に似ていることから、「ユニオンジャック」と名づけられた必殺攻撃である。温存されていたこの技が、ついに今披露され、見事決まった!手も足も出ない南武。つづいて勢いに乗り次のダウンも2つ奪う。対策がしてあったわけではなかったのか・・・?そして、いよいよ、次のダウンでタッチダウン、というところまで迫った神学館。このタッチダウンが決まれば残り時間からして、南武の勝ちは無くなる。そして今日2回目の、「ユニオン・ジャック!」
そのときである。マンツーマンで、サトミ、武田、佐藤、丘の4人が四聖人に突っ込んで行った。あらかじめの徹底マークである。「何?」投げた安東も、ユニオンジャック体制を完全に読まれたことに驚く。そして、自分はいつもなら、4人目のランナーとして追うはずが、佐藤に密着され、追えない(投げ終わったQBにはタックルは出来ないが、ブロックは出きる)そう、南武高校は、京王三銃士&、関東の破壊王・人間機関車、旺盛の玄田を練習台に、血のにじむようなユニオンジャック破りの特訓をしてきたのだ。そして、危険を顧みず、あえて最初のユニオンジャックを成功させ、その破壊力を確認の上、失敗すれば即負けというまさに背水の陣で、それをやってのけたのだ。そして、さらに驚いたのは・・。
ボールを最終的に持った、田所のマークに飛び込んだのは、サトミのはずだった。ところが、いつの間にか、サトルがダイブしてきたのだ。一方、武田は、巨漢ながらも素早い服部対策に、日夜玄田との特訓をしてきた。そのため、見事彼を封じることに成功したのだ。丘は、残念ながらデビットに倒されてしまった・・・。そして、このギリギリのところで、こぼれた球・・・。地面に落ちただけで、きわどいところだが攻守交替、南武のチャンスとなる。だが、それは、サトミの手に握られたままだった。あっけにとられる敵味方の全員・・・。
インターセプト、だ。ユニオンジャックのインターセプト。呆然とした四聖人だったがすぐに我に帰る。
サトミは走る、走る、追う四聖人。そしてついに、守備での超必殺技、ボールをもつランナーを、十字串刺しにして完全に粉砕される、「グランドクロス」を繰出してきた!
「グランド・クローーーーース!」安東の掛け声で、田所、服部、デビットの3人と安東自身が、自らの体を巨大な銛として、ランナー・サトミに迫る!サトミも速いが、彼らはもっと速かった。そして、それをさらに追う、武田と佐藤もまた速い。
そしてついに、巨大な死の十字架が、サトミにロックオン!
「ガシャーーーーン」
複数の人間のぶつかる音がした。南武高校の攻撃もここまでか?だが!5人の男が倒れている。四聖人とサトルだ。サトミは?まだ走っている!
サトルは文字通り、グランドクロスを受け、四聖人全員のタックルを受けて倒れた。しかし何故サトルなのか。
そう、サトルは攻撃権がサトミのインターセプトで移った直後から、サトミと密着して、互いが死角になるよう重なって走っていたのだ。その前の守備の際も、突っ込む直前に、サトルが突っ込み、サトミと入れ替わったのだ。これが特訓の成果だった。
「東君!」スタンドでガッツポーズをする福沢。
残り数秒。そのとき、やっと駅員と警察を振り切った島田と麗菜がスタジアムに現れた。
「どないしたんや!」
もはや、妨害どころではない。彼もまたフットボーラーのはしくれ。この展開に釘付けになった。それを見ていた麗菜も(あんた・・やっぱりフッボールのこと考えているあんたが一番ね・・)とつぶやいた。
ベンチでもみゆきたちが黄色い声を張り上げ声にならぬ叫びを上げた。
スタンドではリコ率いる大応援団が。
普段は起きているのか寝ているのか判らず目を細めてお茶をすする飯田監督も目を見開いて立ち上がった。
その間、なんとサトルと安東は立ち上がり、サトミを追った。他の三人はまだ動けない。
あと5ヤード、4、3、2、1・・神学館の伏兵、明石が追いついてきた。タックルか!だが、それより早く、サトミは白い太線を超えた!
だが!「ひぎぃっ!」サトミは、今まで16年生きてきて経験したことの無い、不快感と、全身が裏返るような、激痛に見舞われた。それは、まさしくタッチダウンの瞬間、線を踏み越えた時だった!
サトミの銀色のフッパンの、股間が見る見る赤く染まっていく。それは太ももに伝わり、やがて雫が落ち始めた。と動時に、サトミはその場で倒れた。
審判の両手が上る。同点のタッチダウンだ!だが、キッカーも勤めるはずのサトミはそのままうずくまり、小さいうめきをたてながら、びくりとも動けない・・・。
一体何が?
そう、この瞬間、サトミは文字通り「女」になったのだった。
元々女?と思うだろう。だが、サトミは今日この日まで、女であって女ではなかった。つまり、まだ初潮が来ていなかったのだ。通常10〜13歳で訪れる、幼女から、少女、そして女へと変る通過儀式・・・。それが驚くべきことにこのサトミにはまだなかったのだ。そして今、この劇的な瞬間に、ついに!
女子アスリートの生理というものは、別にこれが初めてのものではない。マラソンにおいて旧東独の選手が、やはり股間を真っ赤にしてゴールした記録もある。だが、これはアメリカンフットボール、しかも高校日本一を決める試合。女の子が参加するということは通常、想定されない試合だった。加えて、サトミにとってはこれが、初めての・・・・。
審判の笛が鳴る。医務担当マネージャー、西本みゆきと、その父でチームドクターの西本幸男が駆け寄る。主将・西本剛、兄のサトル、主務(マネ長)の江間静香も。そして審判団も教義する。
そのとき、サトミは目を開けた。
「みゆ・・」
「おめでとう、サトミちゃん・・・」しかし、これには別の意味もあったのだ。
(サトミちゃん・・・。これであなたも、わたしたちと同じ、れっきとした女の子・・・。これからは着替えとかはわたしたちと一緒ね。でもライバルが1人ふえちゃったかな・・・)
「決まったんだね!こうしちゃいられない、キックしなっきゃ!決まれば逆転優勝、外しても延長!」
「サトミ!大丈夫か!ボクが蹴るよ!」
「ううん、あたし絶対決める!」
審判に飯田監督は告げた。交替なし。ただし血で汚れたフッパンは新しいものと交換(関東大会決勝の際、2枚破ってブルマで蹴ったので、今回は少し余分に用意しておいたのだ。ブルマファンの皆様、ごめんなさい・・・そのかわり7人の美人マネは全員ブルマです・・)
スパーーン!
決まった!この瞬間、本年度の全日本高校アメリカンフットボール大会の優勝は、関東代表・武蔵体育大学付属南武高校と決まった!駆け寄るメンバー。殊勲のサトミを胴上げだ!大巨漢・西本剛も号泣!
神学館の10連覇ならず・・。V9に終わった。
そして整列。
ガッチリ握手を交わす両校のメンバー。
安東はサトル、サトミに声をかけた。
「サトル・・いいQBになった・・・。そしてサトミ・・・まだやってたなんて知らなかったぜ。サトル・・・大学で再勝負だ!」
「安東さん・・・ボクは小さい頃のお手本だった安東さんに勝てて、本当に嬉しいです。でも・・・ボクは日本の大学には行きません。高校でたら渡米します。安東さんこそ、日本に閉じこもるレベルじゃない。NFLで、この勝負の続きをしましょう!」
「生意気な!」がっちり笑顔で握手する両天才QB。だが、サトミの顔色はどんどん悪くなっていく・・。そして整列終了、「シター!」のお辞儀と同時に、彼女は倒れ、昏睡状態に陥った。
宿泊地のホテルの一室に運び込まれたサトミ。西本親娘とサトル、それに女子マネだけが見守る。男子部員は主将の剛を含め締め出されていた。
「あれだけの活躍、そしてこれが初めてという・・・。無理もない。疲労も重なったし、出血量も多かった・・。さあサトルくん、あとはみゆきたちに任せて、私たちも退散しよう。ここは男のいるべきところではない、判るね?」
「はい。でも最後に」
サトルはサトミの手を握り緊め、その手の甲にキスをした。そして後を女子マネに託し、西本とともに部屋を出た。
「まさか・・・初めてだったとはな・・・」
そして部屋には女性だけが残された。すやすやと眠るサトミ。
「ここは、西本さんに任せて、あたしたちも出ましょう」
「はいマネ長!」静香以下、みゆきを残して全員退室した。そして、2人だけになったみゆきとサトミ・・・。
やがて、うっすらと目を開けたサトミ。まだ意識が朦朧としていた。
「みゆ、あたし・・・」
「サトミちゃん・・・。わかる?サトミちゃんは、これで完全な女になったのよ。おめでとう」
「そんな・・・。」絶望と、希望の入り混じった複雑な心境のサトミ。サトミの中の、「男の子のように、サトルのようになりたい」という願望と、「男のような殻を破って本来の女性である自分を取り戻したい」という、無意識の中の二つの心。それは常にサトミの内面でくすぶり続けていたものだった。
そして皮肉にも、「女」の部分は、男の中の男のスポーツ・アメフトの頂点を極め、全国全ての男子高校生フットボウラーを凌駕したその瞬間に、ついに「男」の部分を突き破り、さなぎから蝶が孵るかのように発現したのであった。
「シクシク・・・」
「泣かないでサトミちゃん・・・。女の子は誰でもが通る道よ。わたしは12歳、6年生の時だったわ。早い子だと4年生、普通は遅くても中2ぐらいには来るんだけど・・サトミちゃんはまだだったのね。初めてのときは、本当に・・・。これはね、2回目の誕生なのよ。人として生まれたのが最初の誕生日。そして、女になったのが、今・・・」
「でもあたし、女になったら辞めさせられちゃう」
「ううん、もう大丈夫だわ。もうサトミちゃんはゲーターズの、欠かすことの出来ないスタープレーヤーよ。正直うらやましいわ」
「みゆだって、やればよかったのに・・・。そんなに難しくないよ」
「難しい,易しいの問題じゃないわ。わたしの体格・体力でお兄ちゃんや武田君にぶつかられたら死んじゃうわ。」
「それもそうだね。えへ」
「あ、やっと笑ってくれた・・。やっぱりサトミちゃんは笑顔が一番よ。サトミちゃん・・」
「うぐっミ(ゆ、何を・・)」みゆきはいきなり、サトミの唇を奪った。
「ずっと憧れてたの・・・。大好きだった。サトルくんより・・・でも、もうサトミちゃんはわたしと同じ女の子。これからは、女としてのライバルよ。」
「みゆ!」
「さあ、みんなが待ってるわ。祝賀会よ。サトミちゃん・・気を失ってたけど・・聞いて驚かないで!大会MVPなの。女の子がMVP取るなんて、多分最初で最後の快挙だわ。サトミちゃんは、わたしたちフットボールに関わる女の子全員の代表なの。女の子だって、男の子に負けないぐらいフットボールが好きなんだから・・・。でも一緒にはできないだけなの。それが出来たのは・・サトミちゃんだけよ!さあ、いきましょう」
「みゆ・・」
みゆきに手を引かれ、サトミはホテルの宴会場の扉を開けた。
そこで待っていたのは・・・