第20話 開幕・クリスマスボウル!
12月24日・・時折小雪の舞う、寒いこの日。ここは神戸・王子スタジアム。ついに、関東代表・武蔵体育大学付属南武高校「ゲーターズ」VS地元関西代表・神戸神学館高等部「ホーリーナイツ」の決勝戦「クリスマスボウル」の火蓋が切られた。
選手入場。赤いユニフォームは関東代表南武高校。青と白のユニフォームは神学館。両校とも、大応援団を引き連れての試合だった。
昨年、本年と、連覇している西の名門神学館に対し、関東では強豪と呼ばれていたものの、初出場の南武高校。初出場といえば、この栄えある決勝戦に、初めて女子の選手が出場することになっている。その名は、東サトミ、16歳。南武高校の1年生でポジションはワイドレシーバー兼キッカー、時としてラインバッカーやランニングバックもこなす。
身長は173センチ、体重60キロ強、フットボール選手としては小柄だが女の子としては大柄である。神奈川県大会MVP、関東大会でも優秀選手に選ばれている。雑誌の「トップボーイ」に女の子として初めて紹介され「トップガール」とも呼ばれた。だが人は彼女をこう呼ぶ「炎のジャンヌダルク」と。(ちなみに彼女のテスト答案は、I am fineをI am fireと誤回答・笑。文字通り「私は炎」)その燃える闘志と、南武高校の真っ赤なユニフォームからの異名だった。女の子でありながら、ほぼ倍の体重の男子とのぶつかり合いを制し、ここまで勝ち上がってきた、奇跡の少女である。だが、もっと凄いのは彼女の双子の兄で、関東MVP選手、東サトルだ。彼は日本アメフト史上最高のQBになるかもしれないといわれている神童で、顔はサトミと全く同じだった。そして彼らの主将・西本剛!身長230センチ・体重150キロの大巨人。彼もまた、史上最大最強のセンターと呼ばれている。そして指揮をとる老将・飯田源蔵73歳。日本アメフト創世期から活躍する、重鎮だ。
対する無敗の帝王・神学館はミッション系の幼稚園〜大学一貫校。中等部、大学もまた、アメフト界の頂点に君臨しているが、その中等部を初めて昨年破ったのが、関東選抜チームQBだったサトルだった。基督教精神に貫かれたこのチームの大黒柱は、セント・アンドリューと呼ばれる主将でQB/RBの安東竜、ラインバッカーの田所譲司(聖ジョージ)、タイトエンドのデビット関根(聖デビット)、DB/RBの服部緑郎(聖パトリック)の通称「神学館四聖人」と呼ばれる3年生であり、他にも小学校からの経験者を含む、鉄壁の布陣であった。指揮を執るのはザビエル高山。日系アメリカ人宣教師である。
そして、今、KICK OFF!
先攻は、王者神学館。ということは、キックオフは後攻・南武高校。つまり、この記念すべき第一撃を蹴るのは・・東サトミ!大会唯一の女子選手である。その、女性ならではの股関節の柔らかさを活かした、高々と上った足から今、ボールが蹴りだされた!
ガッチリキャッチした神学館のパトリック。かなり押し返されてしまった。ここから、最初の攻撃が始まる。クォーターバックは、アンドリュー(安東竜)だった。
いよいよ伝家の宝刀・ユニオンジャックが出るか!
いや、出ない。しかし素晴らしいパスがデビット関根に通った。さらにジョージに、そしてパトリックに、またアンドリューへと次々渡る。いわゆるショットガン戦法なのだが、より激しく、より縦横へのゆさぶりが激しく、南武側タックルが翻弄されてしまう。
「これが、神学館の基本戦術・クロスファイヤーだ!」
あっという間に、先取点を挙げられてしまった。
「うう、さすがは神学館。」剛も歯軋りして悔しがった。
剛を中心とするディフェンス陣も食い下がるが、四聖人の縦横無尽の動きをなかなか封じ込めることが出来ない。そんな中、ついにジョージを止めたものがいた!
「鈴木!よくやった!」今日からスタメンのディフェンスラインに抜擢された、1年の鈴木武だ。この半年間、剛の命令で、スピードを落とすことなく、体重を15キロ増すことに成功し、今日の晴の舞台に踊り出た選手だった。もう、かなりの点を取られてしまったが、今日はじめての南武高校の攻撃である。
クォーターバックは、東サトル。彼も1年である。そして、その投じた球は、彼の分身ともいえる双子の妹・サトミの手に渡った!彼女は言うまでも無く、女の子である。その彼女に、敵のタックル陣が迫る!だが、武田が、佐藤が、彼女を護る!そしてどんどん突っ走るサトミ。ついにタックルされてしまったが、かなりのランを稼いだ。ヘルメットの中の愛くるしい顔から、ウインクして兄に合図するサトミ。タックルされたため、フッパンには既に土埃がついていた。
続く2回目の攻撃。またサトミに!と思いきや、フェイントで、武田信彦に渡った。武田は、パワーとスタミナ溢れる選手。敵のタックルをものともせず、引きずり振り落として前進する。彼は、旺盛・玄田、吉本工業・西山という超強力ファイターのタックルをまともに喰らいながらも、ただ1人無傷で耐えたほどの強靭な肉体の持主なのだ。走る武田を敵だけでなく味方も追う。武田はふいにバックパス。そこには、万能選手、サトルがいた。南武高校の最初のタッチダウンは、クォーターバックの、東サトルだった!
そして蹴るのは妹のサトミ。鮮やかに決まるキック!
「やったぞ!あの神学館から点を取った!」
喜ぶ観客。だが
「点を取ったぐらい何だ!南武は必ず勝つんだよ!」
「そうだわ。さあ、あたくしたちも!」リコ率いる、チア軍団。リコが結成した正式チアだけでなく、女子学生ほぼ全員を引き連れてスタンドがまるで菜の花畑のように黄色く埋め尽くされている。さらに、特別に京王女子校の紺色のユニフォームのチアも加わった。
南武高校の生徒・関係者だけではない。関東での激しい戦いを繰り広げたライバルたち、京王高校の福沢・大森・高橋、旺盛二高の玄田、そして、松葉杖姿が痛々しい殉教の新島の姿も。
「新島!お前大丈夫なのか?」
「やぁ福沢君。ボクのサトミちゃんの晴れ姿だもの、病院で寝てはられないよ」
「まて、今なんと言った?ボクのサトミちゃんだと?」
「それよりも新島さん、殉教はたしか神学館の兄弟校、あっちの応援しなくていいんですか?神様の撥があたるんじゃ?」
「高橋君、キミは耳に痛いことをいう子だね。」
「ハハハ。おっ、それより見ろ!サトミだぞ」
サトミは、この試合でも、女の子だということを感じさせない大活躍を見せていた。
その数時間前、東京駅。
「おい紳の字!まじで行くのか?」
「ワイはどうでもええんやが、麗菜がなぁ」
「キャプテンー」「おお、ブー子、どないだった?」
「ダメだす。わだす、1回1000円に値切られちまっで、これしか・・・」
「サブ、お前たちのほうは?」
「小学生相手じゃ、このぐらいしか・・・」
「こうなったら仕方ない。この金で入場券を買うんや。新神戸まで2時間半。車掌が来たらトイレに隠れる。向こうの改札の突破は麗菜が造ったこの道具で。あとは駅員をぶっ飛ばしてでも」
「だけどこの人数じゃ、目立ちすぎるぜ」
「うーん。」
「紳の字、キャプテンのおめーと、姐さんだけで行けよ。姐さんなら、なんとか切り抜けられるぜ。女の武器も小道具もあるしよ」
「女の武器だって?バカにしないでよこのゴリラ!」
「痛―――っ」
というわけで、吉本工業の主将、島田とマネ長、麗菜も神戸入りした。
といっても、南武高校の応援のためではない。東兄妹に、嫌がらせをするのと、島田の出身地・関西の名物を、麗菜にご馳走するためだった。
しかし、関係のない試合まで、妨害しようとするとは・・・。
閑話休題、試合に戻ろう。
神学館優位のまま、試合は進み、南武高校も、必死に食い下がっていた。だが、神学館の必殺技はまだ飛び出していない。温存か、それとも南武を見くびってのことなのか・・。
南武高校主将・西本剛には確信があった。
「奴等が、グランドクロスを出した時こそ、我々の勝利の時だ」と。
彼らには秘策があったのだ。
そしてハーフタイム。
今日のサトミは手回しが良い。防具の下にチアの衣装を着込んでいた。だが汗でびっはょ皺だらけ・・・。
ハーフタイムのチアシヨー、リコたちの並ぶ中に、飛び込むサトミ。そして元気よくハイキック!
他の選手がアイシングや打ち合わせする中、男性に混じっての激しいタックルやラン、そしてキックの繰り返しをしていたサトミが、さらにチアにまで参加するとは・・・。底知れぬ体力、そして素晴らしい笑顔。そう、彼女にとっては、スポーツをしている瞬間の積み重ねることが何よりものエネルギーなのだ。そして、いそいそとあわただしく再武装して後半に備える!
さあ、逆転の秘策はあるのか!