第10話 関東大会への道
いよいよ、神奈川県大会決勝を迎えた。対するは、強豪・旺盛大学第2高校ウォーホークスだった。部員数200名を越す大所帯で、関東一円から引き抜いた選手たちで構成され、全国大会出場経験も多い。
試合前、飯田監督からの訓示があった。
「えー諸君。今日までいろいろと厳しいことを言ってきたが、本当によく頑張ってくれた。ワシが言いたいことはもうなにもない。ただ、悔いの残らないようにだけな、カッカカカカ・・・・」
「ありがとう御座います!」
一堂45名は、バスに乗り込んだ。会場の横浜スタジアムは満員。月間アスリートの西尾記者が書いた記事のせいで、南武高校に注目が集まっていたのも理由のひとつだ。
会場入りしようとする南武チーム。だが・・・
「うわーっなんて人だかりだ!」
旺盛のベンチ入りできない選手、応援団の数に圧倒されてしまったのだ。
しかし数ではない。気合と実力だ!
キャプテン「声では負けるなっ!やるぞー!」
「オーーーーっ!」
勇ましい雄叫びだ。
南武側に、記者のリコと、殉教学院の新島も応援に駆けつけた。
「サトミちゃん・・・。僕たち殉教も埼玉大会通過したよ。決勝か準決勝で当るはずだから、きっと旺盛に勝ってね。待ってるよ」
「ありがとう!じゃあ今度アタシも守備で出てタックルしてあげるわ」
サトル「おいおい・・・。」
どうやら、新島はサトミが好きになってしまったようだ。
リコは「サトミちゃん、あなたの記事のおかげであたしボーナス出ちゃったのよ♪ありがとう。この調子でどんどん勝ち進んでね」
一方、女子高生の大群も押し寄せてきた。「キャー!あれがサトル君よ〜」「押さないでよこのブス!」「ブスとはなによブタ!」目当ては、1年生ながらエースQBのサトルだ。リコの書いた衝撃的な女子高生フットボーラーの記事にかくれているが、なんといっても実力・活躍はサトルのほうが格段上。しかもである。アメフト選手といえばたとえば剛のように巨漢だったりするのだが、サトルはその実力の割には小柄で、1年生ということもあり童顔、いや、女の子にも見えるような可愛い顔。女子高生だけでなく大学生のおねいさんにも大人気なのだ。東兄妹の人気で、旺盛の大応援団にも負けない黄色い声援が送られた。
「サトルくん、サインして〜」
「オレ、サトルじゃないよ、本物はあっち」
「何だ、妹のほうか・・・。女の癖に生意気な子ね。」
「何よ!」サトルと間違えられた上罵られ不機嫌なサトミ。
「静まれっ!練習の時間だ。支度しろ!」
西本主将の号令が響く。
狭い控え室で戦士に変って行く選手たち。例によってサトミも一緒・・・。
「ねえサトル♪今日の試合、パット交換しない?なんかサトルの身につけているもの付ければ、パスも通ると思うんだ〜」
「え〜?いきなり何を・・・」
「ね、いいでしょ、オレたち双子なんだし、サイズは一緒のはずよ」
「うーん、まぁいいか、でも面倒だなあ・・・」サトルはほぼ着替え終わっていたのだ。
「ワーイ!これであたしたち一心同体!」
サトルはサトミ、サトミはサトルの防具(フッパン含む)を身につけてこの試合に臨むことになった。もちろん、背番号の関係でジャージだけは自前だが。
サトミは、このチームの中では小柄なほうで、特に西本主将と比べると身長は半分強、体重は1/3しかない。(最も剛は巨大すぎるが・・・)だが、普通の女の子と比べると実は身長は頭1つ半ぐらい大きく、実は大女なのだが、この中にいると本当に小さく見えてしまう。それはサトルにもいえることだが、一般男子もほほ同じぐらいの体格なので、サトミほどのギャップはない。
それにしても・・・いかに双子とはいえ、男と女・・・。にもかかわらず、サトルとサトミの体型は殆ど同じ。顔もそっくりである。はっきり区別する方法は金玉のついているほうがサトル、ないほうがサトミと言われているほどなのだ。実際には、サトルのほうが眉が太く、錨肩なのに対し、サトミは眉が細く、なで肩で、本の少しだがお尻が丸いという違いもあるのだが、防具をつけてしまうと顔や肩のラインは隠れてしまうため、背番号以外では区別できなくなってしまう。「サトミ」という名前の男性もいないことはないため、サトミを男子だと思っている者も今だ多い。
試合前の公式練習だ。
パントされたボールをランニングキャッチ。二人一組での柔軟。同じくぶつかり稽古。
サトルとサトミはいつもペア。
「おい、お前たち、あれを試してみろ!」
「ハイ!行きます!」
それは、サトルとサトミの二人が、絡み合い、また急に離れたりして、分身・合体のように敵に迫り、大柄な選手に二人でタックルする技だった。しかし何度試しても、剛を倒せなかったのだ。
「ガシーーーン」
「ウャオオ!」今日、はじめて剛の手を地面に付ける事が出来た!
「合格だ。サトミ、この試合お前を初めて両面で使うぞ。ただし、決して1人ではタックルに行くな。お前が潰されるとキッカーがいなくなる。それに・・・あ、なんでもない。
いいか、この技で必ず玄田を倒すんだ。玄田さえ抑えられれば、あとはお前たちのやりたい放題だ。このオレ様より大きく強い奴はいない。オレを倒せたなら、玄田も倒せるはずだ。」
「ハイ!」
「サトル・・・。サトミに決して無理をさせないように見張れよ」
「ハイ!」
「フン♪信用ないのね、あたし・・・」
「お前いつも無茶するからだよ。こんな体中擦り傷だらけの女の子なんてどこにもいないよ」
「兄貴面するな〜もう、二言目には女のこの癖にって!」
そして規定の練習時間が終わった。整列。
それにしても凄い数だ。ベンチ入りできない選手がさらにこの倍いるという。
見るからに獰猛そうな、つわもの揃いである。
その中でも一際大きく、強そうなのがエースRB兼DB兼WRの、玄田鉄男だった。玄田は今大会、剛に次いで2番目に体が大きいが、ラインマンではなく、その巨体に似合わず、俊敏で、しかも力強く、どんな敵でも強引に突破してタッチダウンしてしまう、恐怖の男だった。旺盛の黒のユニフォームから連想されるように、蒸気機関車、それも国鉄最大最強で、北海道の山奥で急行「ニセコ」を猛スピードで牽いていた、C62型にそっくりな印象を受ける。
余談だが、同機関車は「スワローエンジェル」という愛称だったため、玄田もまた、その強面にもかかわらず「エンジェル」と呼ばれることもあった。
南武の守備陣で、玄田のパワーとスピード、両方に対抗できるものは、残念ながら1人もいなかった。剛も、パワーでは絶対負けないのだが、スピードで抜かれてしまい、他のタックル陣では、弾き飛ばされてしまうのだ。そこで剛は合宿の時、自分を仮想玄田に見立て、サトル・サトミの兄妹連携による対抗策を練ったのだ。つまり、彼ら一人一人ではパワーで負けてしまうが、二人でやるというのだ。抜群の相性を誇る双子の連携に、全てを託そうというのだ。そして、ついに試合が始まった!
先攻は旺盛・・・・。早くも湯気を出して闘気をむき出しにする玄田!
さあ勝てるかサトル・サトミ!