第37話 決着!
京王優勢のまま迎えた後半・・・。だがその京王に異変が・・
老将・立花監督が倒れたのだ。というより、以前の試合終了直後落雷を受け、本来であれば指揮をとれる状態ではなかったのに無理に指揮を執っていたのだ。
病室に運び込まれた監督。
だが、それが反撃のきっかけだった。陽一のインターセプトを皮切りに、次々得点していく南武高校・・・。
病室
「お父様・・・しっかりして!」
「千代・・。お前は行け。頼信を、選手たちを、お前が励まさず誰が励ますのじゃ」
「だってお父様・・」
「喝!」
「お父様・・・」
「これを持って、早く行け、すぐにじゃ・・」
「これは・・」
千代は、重態ながらも、迫力のある父の言葉にたじろぎながらも、父から託された竹刀を手にベンチに戻った。
「千代、おまえ・・・ついてやらなくていいのか?」
「ええ。そんなことよりもお父様は南武如きに追いつかれたことのほうでカンカンよ。だらしないわね!」
「千代・・・」
「みんな、監督はたいしたことはないそうだ。気合を入れて行こう!」
「オー!」
一方南武ベンチ
「うう、夏より確実に強くなっている・・・。それにあのラインの男、なかなか出きる・・」
「清君、君が大久保君を抑えられれば,勝機が・・・」
「おいどんにまかせっそ!」
「清どん、がんばってね♪」
「おハナちゃん・・」
さて試合の方は、一旦は追いつかれた京王が、再び巻き返してきた。しかし、必死に喰らいつく南武高校は、ついにサトルの天才的プレーにより、逆転した。
そのとき・・
「誰か、わたしの具足を持て!」
「具足って?」
「バカね、防具のことよ」
なんと、千代が防具を装着し、竹刀を手にした。頭には真っ赤な鉢巻を締めて。
「ここからは、わたしが指揮をとるわ!わたしをお父様だと思って動くのよ!」
そこからの京王は、前半と同じように、一糸乱れぬ連携を見せて、あっというまに再び南武を突き放した。
千代の竹刀一つで、屈強の男たちが自在に動き、南武のプレーを全て封じ込めてしまうのだ。
「なんていうことだ・・・。」
だが、そのままで終わる南武高校ではない。相手の僅かな隙を突き、カウンターを食らわして追いついていく。そしてライン対決!大河原が、ついに大久保を完全に制した。クォーターバック・東サトルは今、自在に投げられる。
迫る敵のタックル。しかし、こういうときこそ、冷静に、慎重に・・・。
「よし!」
サトルが投じた球は・・・。
「行くわよ!」
最愛の妹、サトミの手に・・・。
しかも、投げる時、サトルは体を拓也の方に向けていた。また、もはやエースレシーバーに成長した陽一には、敵エース、頼伸がついていたのだ。
だがこの試合、いまいち調子の出ないサトミは、フリーに近かった。
「しまった!やっぱり東君は最後は妹だ・・・追え!あの女を止めろ!」
頼伸はサトルのフェイントに引っかかったことを悔やんだ。そして自らが先頭に立ち、サトミを追う・・・。
サトミは走った。精一杯、今日一番の素晴らしい走りを見せた。エンドラインはもうすぐだ。タッチダウンしてキックを成功させれば同点・・・しかも攻撃権確保。
逆転も夢ではなくなる。
「走れサトミ!」
「サトミちゃん、もうすぐ・・・」
ドクン、ドクン・・・サトミの心臓はいつになく高鳴った。あと10歩・・・そのときである。
「あっ!」
声にならない声がサトミから漏れた。
敵はまだ追いついていない・・・。
にも関わらず、ぽとりと落ちるボール・・・。
そしてうずくまるサトミ・・・
審判の笛が鳴る・・。
タッチダウンならず。だが攻撃権確保、ここから再プレーということになったのだが・・・
サトミが動けない。
南武ベンチ
「みゆき!今日は何日だ?」
「パパ、23日よ・・あっ!そんな・・・」
「どうしたみゆき・・・」
「サトミちゃんの生理日は24日・・・。1日ぐらい早くなることってありうるわ!」
「まさか!」
そう、そのまさかである。サトミは今からほぼ13ヶ月前の12月24日、クリスマスボウルの決勝点を挙げたと同時に、16歳7ヶ月にして初潮を迎えた。その後不安定が2,3ヶ月続いたが、夏ごろからは24日前後で安定していた。神奈川大会の第一試合、9月23日は大事をとって欠場(翌日予定通り)していたのだが・・・。
「サトミ!」
駆け寄るメンバーたち。
念のためタンポンに加えナプキンも初めて付けていたが、サトミの人並み外れた量の出血に、わずかではあるが赤い染みが滲み出てきていた。
「畜生・・・なんで今日なのよ・・・」
サトミは、今日ほど自分が女として生まれたことを呪ったことはなかった。
プレーは再開された。だが、勢いは京王に・・・。南武もそれ以上の加点は許さなかったが、遂に・・・。
神奈川県代表・武蔵大学付属南武高校は、東京都代表・京王高校に、1タッチダウン差で、敗れてしまったのだ・・・・・。
「畜生!」
地面を叩き男泣きする馬場鉄平。3年生の彼にとってはこれが最後の試合であった。
「負けた・・終わったんだ、僕の3年間は・・・・」キャプテンの拓也は呆然としている。
そして、サトルとサトミ・・・
「悔しい・・あたしのせいで・・あたしのせいで・・・・」
「違うよ、京王が強かったんだ。おまえのせいで負けたなんて誰も思っていないよ・・・」
「でも、あのときあたしが落とさなかったら・・・」
「サトミ、もうよせ」
「でも、あたしが男だったら・・・!なんでなのよ!なんであたしは女なのよ!こんな体に産んだパパとママが憎い!」
「パシーーっ!」
「甘ったれるな!産んでくれた親を悪く言うような奴は僕の妹じゃない!それに、もしお前が落とさなかったとしても、あと3歩で高橋さんのタックルが決まっていたかもしれないんだ。それに、あそこでお前が落としても攻撃権はまだこっちのもの・・・それで点を取れなかったのは、クォーターバックの僕の責任だ!うぬぼれるな!お前1人のミスで勝ち負けが決まるようなスポーツじゃないんだ。そんな気持ならお前は今日限り辞めてしまえ!」
一目をはばからず、妹を平手打ちするサトル。
「うぬぼれているのはサトルよ!」
「うん、僕も有頂天になっていた・・。たたいたりしてごめんね。さあ、整列だ・・・。
スポーツマンらしく、高橋さんたちを称えてあげよう・・。」
「うん」
「ありがとう御座いました!」
ガッチリ握手し互いの健闘を称える両主将。
「拓也・・この続きは大学で続けようぜ!」
「ヨリ・・・。それより監督は・・・?」
「そうだった・・。」
勝った京王の監督、立花豪雪は病院に運ばれていた。勝利の喜びも半ばに病院に急ぐ高橋たち・・・。
「監督!勝ちました!いよいよ神学館と・・・・」
「よくやった、といいたいが・・・少しばかり点を取られすぎだ!」
病人とは思えぬ迫力の監督に頼伸以下、ひびる・・・。
一方、南武控え室・・
「うう・・」先ほどまで堪えていた涙が止らない拓也。
「拓也!泣いてもいいのよ・・・。今日は泣いてもいいのよ・・。わたしの胸で思いっきり泣いて・・・チカも一緒に泣いてあげる・・」
「チカちゃん・・・」
2人は抱き合って号泣した。連鎖的に号泣するメンバーたち。
飯田監督と西本は、何も言えなかった。
少し離れたところでみゆきとサトミ・・。
「みゆ・・・。負けちゃった・・。京王じゃなくて、あたしの中の女に・・・」
「サトミちゃん・・・。それは言わない約束よ・・・」
「でもみゆ、悔しいよ・・」
サトミとみゆきも抱き合って号泣していた。
だが、頬に涙の筋をつけながらも、新たな目標に向かって決意を新たにする男もいた。
「アニキ!もう泣くなよ!オレが必ず、来年クリスマスボウルに宏美と四葉を連れて行く!だからアニキは安心して、西本先輩の待つ武体大に行ってくれよな!オレも必ず行くぜ!そして、2年後に黄金コンビ復活だ」
「信彦、お前・・・」
「そうよお兄ちゃん!わたしも絶対来年は行くわ。そのために全力で信彦を支えるわ」
「鉄さん、あたしも、武田君のためにつくすわ」
「お前たち・・・」
馬場鉄平はまた泣いた。しかしこんどは嬉し泣きである。
「サトルくん、見てのとおり僕達の代の役目は終わった・・。今日これからは、君が南武高校のキャプテンだ!名実ともに君の・・・君のチームとして・・・。僕たちが果たせなかった夢を、たのんだよ」
「先輩、任せてください!」
「サトル・・・あたし・・」
「サトミ、来年もたのむぜ!やっぱりお前と僕とは2人で一人前だからね。」
「サトル・・・」
南武高校は早くも、次年度に向けて目標を新たに再出発しようとしていた。
一方、頼伸と千代
「ヨリ・・・みんなには内緒だけど・・・お父様危ないの。今日のうちに海軍病院に緊急移送・・・。知ってるわよね、お父様の秘密・・・」
「ああ、知っているとも。まさか、あんなことが・・」
「どっちにしても神学館戦の指揮は無理だわ。年を越せるかどうか・・・」
「千代、だからこそ僕は必ず勝つ。」
「ヨリ・・・」
戦いは終わった。南武高校は善戦空しく、高橋率いる京王に僅差で敗れた。
だが、試合終了直後、新キャプテンに指名された東サトルを中心に、次年度に向けてのリベンジが始まった。
そして・・・勝った方の京王のほうが、暗い雰囲気に包まれていた。ここまでの快進撃を支えてきた、立花豪雪監督が危ない・・・
そして1月後に迫るクリスマスボウル・・・・。
頼伸の運命はいかに・・・