第24話 嵐の新学期
あの劇的なクリスマスボウル優勝から4ヶ月・・・。西本剛たち3年生は引退し、そして今日、卒業式を迎えた。主将の西本剛、副将土井耕造以下部員14名、主務(マネージャー長)江間静香、副務(副マネージャー長)論戸玲子の、計16名の先輩たちが、南武高校を巣立ち、新たな道へと進んだ。とはいえ、そのほとんどは、専用の橋を渡った対岸、武蔵体育大学にそのまま進むのだが・・・。そんな中、玲子は某大学通信・定時制に進むとともに、アスリート社に就職した。憧れのスポーツカメラマンへの道を一歩踏み出したのだった。アメフト部だけでなく、バレー部も主将の江川由美が卒業、既に全日本入りを決めている彼女は,進学か実業団入りかを悩みぬいた末、実業団最強チーム・帝急に入社した。ライバル・多々良麻子の入社したシブチカとはまたしてもライバル同士・・・・。
さて我等がヒロイン、サトミは・・・といえば、この間、毎月末に襲ってくる、赤い恐怖との戦いの日々。
「サトミちゃん・・わたしのお部屋に来て」
「なに、みゆ?」
「その・・・・大きな声じゃいえないんだけど・・・・。そのね。月のモノ・・・。
これを使うと、血が漏れなくなるの」
「なんだい、その紐のついたでっかい綿棒みたいなやつ?」
「(顔を赤らめて)サトミちゃん、下を脱いであそこを開いてみて」
「どうしちゃったんだよみゆ!」
「これを、ここにこうして入れるの。」
「ひぎっ!」
「これでよし。慣れればなんともなくなるわ。それから、短パンだと紐が見えちゃうから、これを入れている日はブルマのほうがいいと思うわ。スカート穿くのもいいかも」
「ふーん、なんだか妙な感じ〜」
こうしてみゆきの協力をえて、女としての階段を一歩づつ上っていくサトミ。
卒業式の当日
剛「貴様ら、手を抜いたりしたら俺様が向こう岸から怒鳴りつけてやるからな。覚悟しろ!そして貴様らが来るのを待つぞ!」
由美「わたしはもう明日から全日本の合宿所に入るわ。みんなともしばらくお別れね。東さんも、新年度からでもバレー部に転部すれば、きっと全日本に入れるはずよ。これは卒業するわたしからの最後の忠告よ」
「もうキャプテンったら・・またその話し〜」
剛「サトル!新3年生は6人しかいない。お前たち新2年生への期待がいやおうなく大きくなってくる。中でもチームで一番実力のあるお前が頼りだ。上村(新主将)を助けてやってくれ!」
「はい、先輩。がんばります!」
「MVPのサトミちゃんもいるから大丈夫だよ剛ちゃん♪」
「おお、そうだったな!」ガッチリとしたその手で、サトミの差し出した手を握り返す剛。だが、その笑顔や言葉とは裏腹な心境だった。
「可愛い・・いや綺麗だ・・おっと俺様としたことが・・・。だが11ヶ月前10数年ぶりに再開したときとは、もはや別人・・・。完全な女になっている・・・。お前のフットボールにかける情熱はわかるが、果たして・・・・。」
サトミは、髪を伸ばしていた。以前はサトルと全く同じ髪型だったのだ。散髪も足り一緒だった。ところが、女性ホルモンの分泌がさかんになったサトミの髪が早く伸びてしまい、切りに行きたかったのだが、サトルに「ボクはまだいいよ」と言われて延期しているうちに、耳が隠れ、サトルが散髪に行くころには肩に届いていた。そしてサトルが
「サトミ・・・なんか似あうよ!このまま延ばしたほうがいいかも。可愛いよ」
「えっまじ?でもちょい邪魔だなぁ・・・」
そこにみゆきも「とっても可愛いわ。サトミちゃんは元々髪質がいいから、どんな髪型もお似合いで羨ましいわ。わたしなんて伸ばすと反るし、顔が大きくてショートが似合わないからいつもおかっぱなの」
と、こんなぐあいの経緯で、セミロングになっていた。もはや、いかに顔がサトルと似ているとはいえ、間違えられることは無い。それに・・・
サトミのセーラー服の胸にくっきりとポッチが・・・。まだ、それでも同年代の女子にくらべれば貧弱で平な感じだが、あきらかにサトミの胸は膨らみはじめていた。しかし未だブラを付けようとはしないので、こうなってしまうのだった。
一方、京王、殉教、旺盛、神学館では、3年生たちがそれぞれ系列大学にエスカレーター式に進学していった。殉教・新島は吉本工業の西山の激しい当りにより負傷し、選手生命を一時は絶たれたと思われたが必死のリハビリを続けてなんとか普通に生活できるレベルまで奇跡の回復を遂げた。しかし、まだ選手としてはダメだった。それでもフットボールに対する情熱を失わない彼は、トレーナーとして入部し、リハビリをしながら選手復帰を目指すことになった。神学館四聖人は、神学館大学でも入学と同時にレギュラーの座が待っていた。そして京王の福沢も・・・。不祥事のため3年生がいなかった吉本工業では、卒業式はあまり縁がなかったが、西山がまたしても落第しそうになっており、麗菜の造ったカンニングマシーンでようやくクリヤすることが出来たようだった。西山徳男は成人高校生となってしまった。
そして4月!ついに新学期。
「あの、マネージャー、部室はどちらでしょうか?」
「あ〜っ!誰がマネージャーだって!オレはこう見えても選手だぜ。それも」
「おいサトミ、自慢はよせよ」
「えっじゃあ貴方があの!でもアスリートの写真と全然違う人みたいだったんで・・」
「その写真より美人だってことね」
「はい・・。写真はスタイルしてたせいもあるけど・・・男の子みたいだったんで・・」
「男の子みたいで悪かったわね!さっ、ここが部室よ!」
新1年生に早速絡まれながらも部室にたどり着いたサトル、サトミ。
そしてまた一騒動・・・。
「ゲッ!サトミ・・・やめろ!」
サトミはいつもどおり、部室に入るなりいきなりバッグを放り投げ、脱ぎ脱ぎしたからたまらない。シャツを脱ぎ捨てたそのはだけた胸には・・小ぶりの可愛らしいおっぱいがぷるりと。
「サトミ!お前今日からこっちで着替えろよ・・・去年とは違うんだよ、去年とは・・・・」
真っ赤に赤面したサトルはサトミの胸をぼろきれで隠すと、無理矢理手を引いて女子更衣室に連行した。
「なにするんだよサトル〜放せ!」
「キャー!」
サトミの手を引いて更衣室に入ってきたサトルにマネージャーたちは悲鳴をあげた。だが次の瞬間。「なんだサトルくんか・・・よかった。他の人だったら失神しちゃうところだったわ。」
「サトルくん、顔だけみれば女の子でも通用するし、他の男子とちがっていやらしさが全くないのよね。」「ねーっ!」
サトル「・・・。」すごすごと退散。
そしていよいよ。
「整列!」新キャプテンの号令がかかる。だが剛とちがい、地の底から轟くような迫力がない・・・。
「ボクが新キャプテンの上村拓也だ。よろしく!」
「チカが主務よ。よろしくね♪」
新主将、新主務の挨拶だ。
上村拓也、3年生・・ポジションはQB。だが、天才・サトルが入部したため控えに回されていた。数も少なく、実力も乏しい新3年生の中にあっても特に実戦経験が少なく、線も細く優しげな顔立ちの、頼りない男だった。まして前任者があの大巨人・・・。
主務にしても、厳しかった静香と比べ、千佳は優しげだった。
「みんな、よく集まってくれた。知ってのとおり、僕たち新3年生は数も少なく、力もいまいちだ。「谷間の世代」と陰口を叩かれているのも知っている。だからこそキミたち下級生にもチャンスがあるし、それに期待せざるをえない。そこでなのだが・・・本来、副キャプテンは3年生から選ぶのが筋だけど、チームで一番実力のある、東サトルくんを指名したいと思うけど、どうだろうか?」
「異議ナシ!」ぱちぱち・・・
「待ってください!先輩を差し置いて就任するのもそうですが、ボクとキャプテンは同じポジション・・・。別のポジションの3年生から選ぶべきだと思います。」
「しかし、これはボクたち3年生の総意だし、前キャプテンの西本先輩の意思でもあるんだ・・。うけてくれないか。」
「わかりました。しかしやっぱりボクは2年生。ボクのほかに、守備担当の副キャプテンとして、馬場先輩にもなっていただけるなら、お引き受けします。」
「よく言ってくれた。頼んだぞ副キャプテン」
「それから、副務は真亜子のほか、みゆきさんにもなってもらうわ。チカを助けてね♪」
こうして幹部人事も決まりいよいよ新1年生の自己紹介となった。昨年の優勝もあり、今年は去年を上回る、25人の部員が集まった。
「大河原清!柔道3段、ライン希望です!」
「大河原君は、たしか柔道の推薦で・・・」
「ハイ!しかし前主将・西本先輩の活躍を見て、自分には鎧球しかないと思ったのであります!西本先輩の穴は、自分が必ず埋めて見せます!よろしくお願いします!」
「おお、今うちが最も必要としていた男だ!頼んだぞ。しかし・・・柔道部からは恨まれるだろうなあ・・・」
「北村和彦、バックス希望です」
「真田一郎、セーフティ希望。」と元気よく次々と挨拶していく。
そして。
「おい、キミ、名前ぐらい言ったらどうだ?」
「・・ボクは岬陽一・・・。ワイドレシーバー希望。ボクは東先輩、あんたから東サトルのパートナーの座を奪ってみせる!」
いきなり、この翳りのある無口な少年はサトミに挑戦状を叩きつけて来た。
「岬君はたしか、中学は仏蘭西だったよね。」
「はい。仏蘭西でもアメフトは最近盛んになってきたんです。外交官の父の任期が終わったので、こっちに来ました。」
さらに、
「あれ?ここは部員の列だよ?キミたちは?」
「あの・・・女の子でも選手になれるって聞きました!わたしたちも入れてください!」
「うーん、困ったなあ。」
「でも東サトミ先輩は・・・。」
サトル「サトミ、ちょっと防具を」
サトミ「はいよっ!」
サトル「きみ、中学でのスポーツは?」
1年女子「はい、バスケ部のキャプテンでした。体力には自身があります」
サトル「じゃあこれを付けて走ってみてよ。これはサトミ、あ、ボクは双子の兄なんだ・がいつも使っている防具だよ。そしてこれがメット。」
防具とメットを被った新入生女子。
「あっ!暗い・・・重い・・フラフラする・・」
「ハハハ。普通の女の子には無理だよ。サトミは幼稚園の頃からずっとやってるから平気だけと、どんなに体力があっても普通の女の子には難しいな。『ちょっとサトル、あたしが普通の女の子じゃないみたいじゃん!』ま、そのうち馴れるとは思うけど・・・うちでは女の子だからといって甘やかしたりはできないんだ。このサトミだって、僕たちと一緒、いや女としてのハンデを克服するため僕達の倍の努力を1年間してきたんだ。それが出来るなら、キミも選手として入部させてあげてもいいよ。ね、キャプテン」
「うん、そうだね。だけどキミ、どうだい?マネージャーになってくれないだろうか?」
「はい、よろこんで・・・。」
最も体力のあると思われるこの子が音を上げたことから、他の選手希望の女子も、みな諦めてマネージャーになったり、去っていったりした。
「ところでキミ、名前は?」
「エーと、1年・・」
「あっ!誰かとおもえば宏美!」
「あっお兄ちゃん!」
なんと彼女は、馬場鉄平の妹、宏美だったのだ。
宏美は男勝りで長身だった。兄の影響で元々フットボールが好きだったが、サトミの活躍を見て部員として入部しようと思ったのだが・・さすがの彼女も防具の重さには音を上げてしまった。もっとも素質のある彼女のこと、時間をかけて鍛えればあるいは・・・とも思えるのだが、特別扱いはしないのが鉄の掟。そしてその掟に1年間耐え忍んできたのが我等のサトミなのだった。
他にも、新入マネージャーがたくさん入った。
「まなみたんです!」
「かなみたんでーす!」
「おっ、去年は双子の選手だったが、今年は双子のマネか!」
双子の古津まなみ・かなみ・・・。とても高校生には見えないロリっとした双子である。中学ではバドミントンのダブルスを組んでいたという。右に髪を縛っているのが姉のまなみ、左が妹のかなみである。それ以外、見分けはつかなかった。
「小林花子」
「村雨四葉」
その他入部したがこの5人が、結局この年度がんばることになるマネージャーである。
「ハーイ♪新入マネージャーのみんな♪わたしが主務の入間千佳よ。「チカねぇ」でいいわ。
アメフトのマネージャーは、ある意味選手と同じぐらい走らなくちゃいけないし、分担もあるけど、千佳が教えてあげるね。よろしく♪」
「ああ、優しそうな先輩でよかった・・・マネ長ってすごく怖いって聞いてたから・・」
「それは去年のマネ長よ。お兄ちゃんなんてしょっちゅうひっぱたかれてたんだから」
「ヒロミのお兄ちゃんが?」
「こらヒロミ!よせ!」
こうしてマネージャー5名を含む30名(昨年はマネージャーを含む20名)の新入部員を迎えたゲーターズ。待ち受けるのは嵐か風か!
こうして嵐の新学期は始まったのだ。