悲劇のプロトタイプ
赤橋高校体育館・・・体育の授業が行なわれていた。男子はバスケットボール、女子は平均台であった。
「次、細川さん」
「はーい♪」
由香が元気良く答える。由香は、ブルマが似あう。バスケをやっている男子も釘付け。
「永田!あぶない!」
由香を見ていた永田の脳天にボールが直撃してしまった・・・。
男子だけではない。女から見てもやはり由香はバツグンに可愛いかった。
「きゃー♪姫(由香の渾名)素敵!」
手を合わせて感激するこの少女の名は中川珠美。アニメ特撮オタクの少女でもあった。
そして授業が終わり、着替えのとき・・・。
「ねえ、姫、「バルディーナ」って、姫なんでしょ?」
「えっ!どうして?」(ギクりとする由香)
「だって・・姫のブルマのモッこりやお尻の丸みがそっくりなんだもん・・・。それに、バルディバン愛好会報によると、バルディーナは黒髪の美人ってあるし・・・。
それだけじゃないわ。バルディバンとバルディーナが姫のお屋敷のちかくでよく目撃されているわ」
「タマちゃん、由香はバルディーナさんみたいに強くないわ。」
「でも・・・」
ドンドン
「さっさと着替えなさい!」
次の時間の組の体育教師に怒鳴られた・・・。
一方、次の授業中もタマミはバルディバンの話題を話しまくっていた。
「わたしはてっきり姫と隼人くんかなぁって思ったんだけど・・・」
「バカだなタマミは。バルディーナの中にも男が入っているんだぜ、きっと。オレのアニキの友達がクワレンジャーショーでピンクボークのバイトしてたからわかるんだ。」
「ちがうわ。バルディバンとバルディーナは本物のヒーローなのよ!」
「こら、永田と中川は廊下で立っていろ!」
先生に叱られる二人・・・。
「というわけなのよ・・・タマちゃんにわたしたちの正体が知られたらどうしましょう?」
「よし、我輩に考えがあーる!見たまえ!」
「お兄ちゃん、何それ・・・」
由香の兄、隆之はダンボールで作ったハリボテのバルディバンを着こんでポーズを取っている。しかし、本物とは似ても似つかない体型である。だが造型はバツグンであった。
「驚くのはまだ早い!カモーン・バルデーナ♪」
なんと、バルディーナまで現れた。
「隆之さん、これは一体・・・?」隼人も尋ねる。
ニセ・バルデイーナはマスクを外した。
「あ、カオリさん!」
中から現れたのは、細川博士の助手(で愛人)の、森村香織嬢であった。
こちらは本物のバルデーナよりも、スタイルがよかった。
「我輩が、怪人のぬいぐるみを使って由香の前でそのタマミちゃんを襲う!そして我輩と香織さんがこれを使って助ける!すると由香≠バルデーナということになり、タマミちゃんはますますバルディバンとバルディーナのファンになる。すると、会長である我輩の収入も増える!」
「まさかバルディバン愛好会って!」
「そのとおり。この我輩・細川隆之様が会長なのである。ちなみに、叔父さんが副会長だ」
「なんですって!」唖然とする隼人と由香。(叔父さん=細川春彦博士)
「でもお兄ちゃんじゃバレちゃうわ・・・」
「しかたない。我輩は怪人の中に入る。所員にバルディバンになってもらおう・・・」
この計画は翌日、実行に移された。
帰り道・・・
仲良く一緒に談笑しながら帰る由香と珠美、そしてその3歩後を「護衛」する隼人。
ところが・・・「キャー!」
一つ目の怪人が、珠美を襲う!
隼人が応戦するも、転ばせられる(もちろん、演技)そこに、颯爽とバルディバンとバルディーナが登場!バルデーナのキックであえなく撃退される怪人・・・。
「こんにちは。あなたは由香さんのお友達ね?」
「は、はい・・中川、中川珠美と申します・・・」
「怪人はいつ襲ってくるかわからないけど、わたしたちが居れば安心よ」
「ば、バルディーナさんは、姫・・じゃなくて由香さんとはお知り合いなんですか?」
「知り合いってほどのものではないけど、私たちは細川博士が作ったアンドロイドなのよ」
「へぇー!てっきり中に人が入っているものと思ってました・・わたし、サイボーグやアンドロイドが大好きなんです。」
「変った子ね。でもまちがってもサイボーグやアンドロイドになりたいなんて思ったらいけないわよ」
「はーい♪」
珠美は感激の余り、失神してしまった。
「タマちゃん・・・」
「か、香織さん・・本気で蹴るなんて酷いじゃないか・・・」
「ごめんね若。今夜お相手してあげるから許して」
「はいはい、喜んで・・・」
香織は博士だけでなく、隆之とも肉体関係を持っているようであった。
「それにしてもお兄ちゃんも香織さんも、名演技だったわ・・・。それにしても・・・ただ突っ立っているだけのバルディバンの中身がまさか叔父様だったなんて・・・・」
「ハハハ。何を隠そう、本来ならば今から20年前に、このわたしがバルディバンになるはずだったのだよ。その夢が、今日叶ったのだ」
複雑そうな顔をする隼人。そう、バルディーナの初代候補は、隼人の母・めぐみ博士だったのだ。しかし、人体の改造や強化服の開発前に隼人の父・加藤博士の子(隼人の姉・マリコ)を身ごもってしまい、開発は次世代へと延期されたのだ。
加藤博士と、細川博士は、よき友、よきライバルであった。しかし、めぐみ博士は才能も財力も権力もある細川ではなく、九州から上ってきた苦学生の加藤を選んだのであった。それから10数年の月日がたち、月面での事故から生き残った隼人と、姪の由香を改造し、細川はついに惑星探査・殖民用強化改造人間・バルディバン(♂)とバルディーナ(♀)の改造・開発に成功した。だが、時を同じくして隼人の両親の命を奪ったグロテスターの侵略が開始され、とりあえずはそれにたちむかう戦士として活躍しているのは御覧のとおりである。
隼人は、父と細川の夢を継ぎ、由香はその隼人に全てを捧げた。そして、自らの改造は叶わなかったものの、科学者としての細川は大成功し、その夢は半ば実現したのであった。
そして翌日・・・。細川家の裏門・・・
キャー!昨日と全く同じシュチエーション。一つ目の怪人が由香を襲う。
「やめてよお兄ちゃん!」
ところが様子がおかしい。怪人は隆之が入ったハリボテではない。本物だったのだ。しかし、その姿は隆之が作ったハリボテと同じだつた。
「由香ちゃん、危ない!そいつは隆之さんじゃない。本物の怪人だ!」
「バルディ・チャージ!」
怪人の捕らえられた由香も同様に変身する。変身すればあるいはその腕から脱出できる、と考えたのだ。だが、思った以上に怪人は強力だった。
由香がガッチリ捕らえられているため、バルディバンは手も足も出ない。得意の剣も、銃も使えない・・エネルギーだけが、どんどん減っていく・・・大ビンチだ。
バルディバンのエネルギーが尽きかけた・・バルディーナは失神直前・・・。
そのとき、なんともう一人のバルディーナが現れた。
「隼人君、わたしとチャージよ!」
「?カオリさん?・・・・何を!そんなハリボテでは」
「キャー」悲鳴を上げるニセ・バルディーナ。怪人の目から放射された火炎が直撃したのだ。ダンボールを主材料に作られたハリボテは瞬く間に炎上した。それを見た本物のバルディーナ=由香は失神した。
だが・・・
その燃えカスのなかから、今度は真紅のバルディーナが現れたのだ。
「説明はあと。とりあえずわたしとチャージして由香ちゃんをたすけなきゃ」
半ば強引に胸から合体誘発ビームを照射し、バルディバン=隼人を逆レイプのようにして結合した香織と思われる赤いバルディーナ。
「ごめんなさいね。由香ちゃんは今気を失っているわ・・・」
それこそ、由香が見たら発狂しそうなシーンであった。だがこのチャージで復活したバルディバンは、怪人の手を捻り上げ、バルディーナを助け出し、仮面を脱いでキスした。すると、バルディーナも甦った。
怪人は巨大化して、屋敷を襲った。庭では、日本刀で巨大化した怪人に立ち向かおうとしている細川元帥がいる!無謀だ!
瞬間、2人は合体し、その勢いで怪人を成層圏の彼方まで運び去り、一刀両断した。大勝利だ。
戦いは終った。
だが・・・
「隼人君!説明しなさい!」
そう、由香にはごまかしはきかなかった。合体することにより、その肉体が完全に一体化するため、何をしたかがわかってしまったのだ。
「わたしから謝るわ。あれは緊急措置だったのよ」
「香織さんも、叔父様やお兄ちゃんだけでなく、隼人くんまで・・」
軽蔑した眼差しで睨みつける由香。
ピシャっ
「あんたに何がわかるというの!」
香織は由香を平手打ちした。そして、赤いバルディーナに変身した。
「見なさい、この体を・・・。私は・・わたしはあんたたち2人の実験台だったのよ。そしてあなたたちなら知っているはずよ。この体がどうやって生きて行くかを・・・」
「そこまでだ、香織くん、由香。」
「叔父様!」
「香織君は、プロトタイプのバルディーナなのだ。由香の前に改造された・・・」
隼人と由香を改造することは、亡くなった隼人の両親の遺志でもあり、細川の執念であった。だが、いきなり完全なサイボーグを作り上げることは、さすがの細川でも無理だった。ここまで20年ちかい年月がたっていた。
まず、細川は生身の人間をすっぽり覆う強化宇宙服を作った。その試作品は、隼人の父が着用した。だが、グロテスターの先遣隊にあえなく敗れた。やはり、宇宙人相手では生身の人間ではダメだつたのだ。続いて、死刑囚を使って何人ものサイボーグを試作して行った。月、海底、マグマの下で活動させ、データを収集し、脳が死滅するまで酷使した。もちろん倫理的には許されることではないが、父である細川元帥の威光を笠に、次々と残虐な実験と改造を重ねていった。もちろん、この危険思想についてくるものは殆どいなかった。それでも彼が学会から追放されなかったのは、父親が細川隆斉だからである。その証拠に、彼の師・三浦博士は改造人間を提唱したため追放されている。だが、そんな細川に共鳴した若者がいた。それが、香織とその恋人の、歌川耕司だった。2人は、進んで細川に協力し、データを収集し、囚人の改造や、四肢を失った者に対する人工四肢の取り付けなどを手伝っていた。そんなある日、2人は遂に細川の野望を知ってしまう。
「是非わたしたちを使ってください」
「だが、危険だ。それに、最終的な素体は既に確保してある・・・。わたしの身内を使うつもりだ・・・若い君たちにそんな危険は・・」
「いいえ、若いからこそ。そして、博士のお考えになっているサイボーグは男女ペアのはず。わたしたちが適任です。姪子さんの成長より前に私たちの改造に成功すれば、姪子さんと親友の忘れ形見を改造することはなくなります」
「それに宇宙は広い。バルディバンが複数組居たほうが都合がいいのでは?」
「君たちの熱意はわかった。よし、では、次に完全な、バルディバンと同じく細胞レベルの改造人間を作る。それに成功したら、君たちを改造しよう。」
「ありがとう御座います博士」
そして、囚人(強盗殺人放火の凶悪犯)の改造に成功、これを陸軍の戦車部隊の演習に使用した。演習終了時に生き残れたら、人工皮膚をつけて顔と名前を変え、社会に戻してやると言って・・・だが、戦車12台を撃破したものの、遂に脳天をキャタピラで踏み潰され彼は刑死した。
そして、ついに・・耕司と香織の改造にとりかかった。
手術は成功。変身、解除、エネルギーチャージにも成功した。さらに、マリアナ海溝の探査、180日間水分・空気無補給での月面生活にも成功した。
「やった!」手をとって喜ぶ二人。細川も大満足。
しかし・・・悲劇が2人を襲った。
次の段階・・・合体・巨大化。これに成功できなければ、太陽系の外に出ることは出来ない。だが・・・。合体バリアの中で結合する2人は赤熱した。本来であればここで溶け合い、融合巨大化するはずであった。だが2人は絡み合ったまま、赤熱して白煙を噴き上げるだけだった。
「やめたまえ、中止だ!」
しかし、遅かった。2人は複雑に絡み合ったまま、半分解けて焼ききれた醜い機械のスクラップのようになってしまったのだった。そして耕司はもろにその熱が脳に伝わり、脳死していた。香織の脳は無事であった。細川は、2人の残骸を溶かし、女性型サイボーグ(メカチップ=人間の細胞核を持ったナノマシーンで構成、バルディバンと同じ)を作り上げ、香織を再生した。そして、それからしばらくした後、幼児連続殺害犯人の女囚の死刑にあたり、その肉体組織を入手して、生身の成分を補給し、香織は由香と同様、普段は生身の人間とほとんど同じで、変身できるほぼ完璧なサイボーグに戻ることが出来たのだ。
パートナーの耕司を失った香織は、細川を憎んだ。だが、原因が自らの女性ホルモンの不足にあると知ってからは自分を責めた。そして、いつしか細川に対する恨みは消え、師としてでも憎むべき相手としてでもない、感情が芽生えた。そして彼女も、由香同様、その肉体の構造上、性交しなければ生きられないようになっていたのだ。
「ごめんなさい・・・知らなかったの」
「いいのよ。でもあなたたちは私と耕司の夢でもあるのよ。これからもがんばってね」
「はい、誓います」
「おう、そういえば今日は耕司君の・・・」月命日であった。
3人は、耕司の墓に、グロテスターの撃退と宇宙開発の成功を誓うのであった。
バルディバン・バルディーナの活躍の陰には、実験の犠牲になった耕司や囚人たち、そして隼人の両親の犠牲、自らの青春を全て失った香織の存在を忘れてはならないと誓いを新たにする隼人と由香であった。