第70話 さらばレモネード星
隼人の姉、麻里子(本名は真理)は、少女時代グロテスターに捕らえられ、グロテスターに協力するマッドサイエンティスト三浦博士に改造され、その養女となってサイボーグ魔女ブラッデイマリーとして隼人と由香、そして宿命のライバル香織の前に立ちふさがってきたが、激しい戦いの中傷つき倒れ、由香の生命再生能力で生身の人間に戻り、戦闘力を失っていた。だが、愛する弟のピンチに、持ち前の運動神経を活かし、悪の女官ラエから水晶玉を奪い取り、破壊することに成功した。彼女は中学時代、バスケットボールの選手だったのだ。
だが、水晶玉を破壊されたことによりラエはその正体を現した。なんとラエは、まるでワルモナイトの女性版ともいうべき、髑髏人間だったのである。その妖術で水晶玉をも復活させたラエは、麻里子に逆襲する。
これを好機ととらえた王妃ゴリーは、隼人と由香を倒すため、サイボーグ巨大ゴリラを出動させた。サイボーグ巨大ゴリラは、ゴリラを遺伝子組み換えして巨大化して金属で補強して脳を取り除き、レモネード星人の士官が操縦する生体ロボットだ。かつて、この星出身のグロテスター士官・オッカームラー少佐の操縦する1号機は地球の動物園を襲ったことがある。2号機に乗るのは、ヤーベン少佐だった。
不意を突かれた隼人と由香は、ゴリラボーグに捕まってしまった。一揆軍、七海提督の陸戦隊らは歯が立たない上、ラエの妖術に邪魔されて二人を助けることが出来ない。ライガーの剣も、蚊に刺された程度にしか感じないのだ。大ピンチだ。さらに、ラエは体の骨を分解して飛ばして攻撃できる上、本体の長い髪も強力な武器となるのだ。
その頃、モン吉ことモンタギュー王子はターニャと香織とともに、ラエの妖術を破るため、大神官大仙人エンジー大司教を探しに、エンドの山奥に向かった。
「香織さん、あれがエンド山脈よ」
そこにはエベレスト級の高山が聳えていた。その主峰、エンダラバッタに住むといわれる伝説の仙人、この星の国教ピグモン教の教祖で年齢3300歳と言われるエンジー大司教、彼だけがラエの妖術を破れるのだ。だが彼の住む庵には、正しい心と正しい血統をもった王子でなければ近づくことが出来ない。
「私たちは飛べるんだから、あんな山へっちゃらよ・・あれ、キャー」
二人は空からアクセスしようとするが、見えないオーラに弾かれてしまった。しかし何度も繰り返すうち、なんとか6合目ぐらいに強行着陸することに成功した。そして、モン吉を降ろすと、不思議なことにモン吉だけは、しっかり大地に足を下ろせたのである。
「モン吉くん、ここからは一人で上るのよ。わたしたちはここで待っているわ」
「モン吉、男の子だよね、負けないで!」
「うん、僕がんばる!」
しかし、幼いモン吉には山は険しすぎる。でもターニャと香織には手出しできない。これは、やがてこの星の王となるモン吉が避けることの出来ない試練なのだ。彼の父、ゴリポンもまた、理由は異なるがたどった道だ。
だが、邪悪なゴリーとラエの傀儡である彼の叔父、ゴリポン2世はこの苦行を経ずに即位した偽りの王なのだ。
そのゴリポン2世は・・星中をゆるがす大事にも、何も出来ずに居た。彼に出来ることは、妻を批判するものを牢に入れることだけだった。彼の存在は、あってないようなものだ。ゴリーを批判さえしなければ、むやみに庶民を苦しめることもなく、かといって民を幸せにすることもない。本当に、こんな無意味な王様はどこにもいないであろう。
隼人と由香はもがいてもゴリラの腕から逃れられず、水晶玉の魔力でビームも封じられエネルギー切れ寸前。麻里子は、ゴリーにいたぶられていた。
「貴様の顔も醜く変えてやるわ。あら、この色は・・・あんた処女だね・・。あの黄色い小娘の代わりのドクロ神への生贄はあんただよ。でも・・その前にあたしが犯してやる・・。女のあたしに犯されたとしても、処女には変わりないから。生贄にはできるもんね。へへへ。」
ゴリーは、押し倒した麻里子を脱がせ、嘗め回した。その腕力は、地球人の数倍であり、すでに改造人間ではない麻里子には跳ね除けるすべはなく、わずかな隙から脱出しようとすると、ラエの骨が飛んでくる。
隼人も由香も麻里子も絶体絶命だ。
そのときである。
「うわっ!何をする!」
突如、うろたえるラエ。何者かがラエの髪に火をつけたのだ。
チリチリになった髪。一瞬、妖術が消えて、ゴリラボーグのバリヤーも消えた。
「今だ!」
ライガーはこのチャンスを逃さなかった。全身の筋肉を使ってジャンプしたライガーは、ゴリラボーグの片目を潰した。
ギェー!
痛みで手を離すゴリラ。脱出する隼人と由香。
地面に叩きつけられた二人だが、このチャンスをものにしなくては勝機はない。
「隼人君、いくわよ!」由香は完全に立ち上がれず、上半身を起こすのがやっとだったが、胸から合体誘導バリヤーを照射し、同様に動けない隼人を引き寄せた。
「隼人君、さあ、早く私の中に!」本来、空中でこのエネルギー球を作って合体するのだが、飛び上がる力を無くした二人は、地面の上で合体する。大きく足を広げて促す由香。這い寄る隼人はその上になんとか重なることに成功。
「バルディ・クロス!」二人はこの誘導バリヤーの中で交わると、発生したエネルギーが乱反射して二人は融合し、戦闘巨人バルディスターへと変わるのだ。
いわば、バルディバン(隼人)が精子、バルディーナ(由香)が卵子、そしてバリヤーが子宮の役割をして誕生する巨大サイボーグ武人。隼人の戦闘力、闘争本能、由香の愛と生命力がひとつになった無敵の巨人。エネルギーは無限、制限時間なし。これこそが宇宙最強の戦士なのだ。バルディバン、バルディーナはこれを誕生させるステップに過ぎない不完全な戦士なのだ。
このバルディスターの前に形成大逆転。ゴリラボーグを追い詰める。
ゴリラボーグは腕力は強いが所詮生身のゴリラを巨大化させ、皮膚の一部を金属で覆って強化しただけのもの。バルディスターの敵ではなかった。
しかも、二人はすでに同類の敵と戦っている。ラエが気をとりなおして援護したときはすでに遅かった・・・。ゴリラボーグUは、心臓を貫かれ絶命した。崩れ落ちる巨体。
その間・・・
「おのれ、裏切り者・・」なんと、裏切ったのは、兄・猿紹を裏切って承相にしてもらった猿術であった。仲間だと思って油断したラエは、髪を燃やされてしまったが、すぐに再生して猿術を縛り上げ、口から火炎を吐いて逆に彼を焼き殺した。
「猿術!」「猿術様!」
「あ、兄上・・・わたしは、娘のチッチを囚われ、奴らの味方していたのです。しかし、隙をついて奴らのうち誰かを・・と思い・・・」
「もう話すな。チッチは無事、香織殿が助けたぞ。今は地球の戦艦比叡に避難しいてる。それにしても哀れな奴だ・・・」
猿術は、一人娘のチッチを捕えられ、仕方なく裏切っていたのだった。
「猿術様の仇だ!」猿術の死がきっかけとなり、反乱軍はいっきにゴリーを追い詰める。しかしゴリーは麻里子を盾に・・・。そして、ラエの妖術で、輪をしている者は再び敵となってしまった。大苦戦は続く。
しかし!空からビーム攻撃が。
「お待たせ!」香織が援護する。七海提督は、ついに麻里子を救い出した。
そして・・・。
「あれは、エンジー様・・・」
雲に乗ってやってきたのは、エンジーであった。ターニャとモン吉も一緒だ。
雲から飛び降り、印を結んだまま浮遊するエンジーが「フン!」と叫ぶと、ラエの水晶球は蒸発して消え、ラエはバラバラになった。
そして、ゴリーとゴリポン2世は捕えられた。
「ゴリー、覚悟しろ!」「ゴリーを殺せ!」
隼人と由香も、分離してその渦に巻き込まれていく。だが、
「待て、バルディバン・・・俺と勝負だ!」
声をかけたのは、ヤーベン少佐だ。瀕死の重傷を負っている。
「まて、君はもう十分戦った。傷を癒して新しいこの星のために生きるのだ」
隼人は背を向けた。
「問答無用!」後ろから渾身の力で切りかかるヤーベンだったが、一瞬振り返ってその剣を掴み取った隼人。そして驚く。
「これは、両刃の剣・・・」なんと、両刃の反対側はヤーベンの心臓に刺さっていた。
「由香ちゃん、治療ビームだ」
「わかったわ」
「や、やめてくれ・・・。おれは、お前たちに殺されたオッカームラーとは士官学校時代からの親友で、ともにグロテスター本星に留学した仲だったのだ。そのオッカームラーが、遠征軍指揮官の一人として野蛮な辺境の制圧に向かったと聞き、星を挙げて送り出したのだ。しかし、バルデイバンと名乗る蛮族の戦士になぶり殺しにあって命を落としたと聞き、復讐のチャンスを狙っていたのだ。だが、実は野蛮なのはわれわれのほうだったようだな・・。頼む、俺を奴のところに逝かせてくれ・・・」
なんと、彼はグロテスターやゴリーの支配の悪の実態を知りつつ、ゴリーへの忠誠心ではなく、親友だったオッカームラーの仇を討つために立ち向かってきたのであった。そしてどちらにせよ、自分も死ぬつもりであったのだ・・・。
追い詰められたゴリー一味。今、虐げられた民衆の怒りが頂点に。
「やめて!おじさんを許してあげて!」
「モンタギュー王子様!」
「みんな、このおばちゃんたちがひどいことをしたのは僕も知っている。だけど、おじさんは僕のたった一人の肉親なんだ・・・」
モンタギュー王子の母は、彼を産んでまもなく亡くなり、そして3年前、父のゴリポン国王も急死していた。
「うう、王子様・・お許しください・・」
「おまえはチンパレン署長・・・」
「実は、私が、私が・・・そこにいるゴリーの命令で演説中の王様を刺したのです。しかし王様は不屈の精神力でその場では何事もなかったように振舞われ、数日後に亡くなったため、刺されたことは誰も・・・・」
チンパレン署長は、告白するとその場で割腹した。
「ゴリー、貴様という奴は・・・」
「ものども、鎮まれ」
「エンジー様!」
「これをみよ」
エンジーが空に作り出したスクリーン。
そこに映し出されたのは、ラエの陰謀だった。
ラエは、元々はピグモン教の敬虔な修道女だった。だが、あるとき修行中にドクロ騎士、つまりワルモナイトにレイプされ、そのエージェントとなってこの星の支配をしたのだ。目的は、宇宙で一番多くの天然ワープゲートを近くに持つ宇宙の要衝のこの星を確保すること、資源や人材の確保のためである。そのためには、まず毅然としたゴリポン1世が邪魔であった。そこで、奴隷女のゴリーと、奴隷トンキーを使って王の弟を調絡し、承相の弟や警察署長も、身内を人質にとって脅して王を暗殺するとともに、傀儡の王を立て、そして文明度が低く疑うことをしらない国民性をついて、新たな宗教を流行らせ、支配を固めたのであった。
「ゴリポン2世様。貴方にはたった今、退位していただきます。正当な王位継承者・モンタギュー王子こそ、私たちの王です。本来であれば、あなた方ご夫妻の罪は万死に値しますが、王のたった一人の肉親ということで、王は貴方様の処刑を望んでいません。しかしその罪は許すことが出来ません。貴方を、土牢に幽閉します。」
「ゴリー、貴様もだ!」
「引っ立て!」
ところが・・・ラエの首が・・・。
「イヒヒヒ・・・勝ったつもりか?」その声は、ラエの声ではなかった。聞き覚えのある、毒々しい男の声である。
ラエは、カージ・モトール廟の檸檬の飾りを食べてしまった。暗闇に包まれる星。あの檸檬は、太陽や月の光を加減する力があったのだ。
そして、目からビームを出した。
「ギャー」とっさに、ゴリーを庇ったゴリポン2世は絶命した。この男は、傲慢で乱暴で大飯喰らいで凶暴で邪悪なこの女を、どういうわけか心のそこから愛していたのだった。
「おじさん!」
「王子・・・いや、モンタギュー王。この叔父を許してくれてありがとう。猿紹、あとは頼む・・」
「おじさん!」「あんたぁ・・・」
「おのれラエ!」隼人とライガーは剣を抜いた。
「武器を捨てるのじゃ。喝!」
エンジーの喝で、ラエの骸骨は四散した。だが、エンジーも力を使い果たしてしまった。
そして、その手から小さな檸檬が零れ落ちた。
「王よ。この檸檬を使って再びこの星に光を・・・わしは山に帰ってしばしの眠りにつく」というと、消えてしまった。
モン吉が、カージ・モトール廟に登り、檸檬を載せると、再び光が。
「新しい王様万歳!」こうして、レモネード星に平和が戻ったのだ。
モン吉は正式に即位し、モンタギュー王となり、猿紹が摂政となって補佐することになった。チッチは猿紹が養女とした。のちに后となる。
幼い国王とその婚約者の養育係は、ターニャが任じられた。サルトル博士やサルコジ隊長、それにエンチョも引き続き活躍することになった。
そしてライガーも、武術師範としてしばらくとどまることになった。
歓声があがるレモネード星。
だが、一瞬だけ、再び暗闇が包む。
「ハハハ。欲しいものは全て手に入った。この星はもう用済みだ。いずれブラックホールにしてやるから覚悟しておけよ、イッヒッヒ・・・」ワルモナイトの禍々しい声だ。
「ワルモナイト!貴様の思い通りにはさせないぞ!」
ライガーの読みどおり、この星に起きた不幸や事件は、やはり、ワルモナイトが陰で糸をひいていたのだ。隼人は、ますますワルモナイトに対する怒りの炎を燃やす。一日も早く彼を倒さない限り、また不幸な星が生まれてしまうのだ。
由香は、気になることがあった。ターニャのことだ。
やはり、彼女は今はブラックホールになった白鳥座のスワン星人だった。
天使の住んでいたスワン星は、愛の星だった。そこには翼をもつ美女だけが住んでいた。
だが、星としての寿命がきたとき、彼女たちは愛のエネルギーで卵になり、隕石にまぎれて全宇宙に広がった。地球にも、かつて天使、天女として。また、エメロード星にも似た伝承が。さらに、「鶴の恩返し」の伝説をターニャに話したところ、それも同胞であるとのことだった。ターニャは、直接卵から孵ったので、由香たちにとっては先祖にあたる存在だが、卵になっている間は時間が止まっているので、同世代なのだ。
この愛の天使たちの伝説は、実はグロテスターにもあることを、現時点では誰も知らない・・・。そして、地球には本当に多くの個体が流れ着いていることもわかった。ターニャはいつの日か地球に遊びに来たい、と言っている。
いよいよ、出航が近づいた。
「叔父様、2時間だけわたしたちに時間をください」
「どうしたんだ由香」
「あの海に・・・隼人君とどうしても行きたくて」
レモネード星の海岸の美しさを由香は忘れることが出来なかった。隼人との思い出をどうしても作りたかったのだ。
「よしわかった。行って来なさい。」
その間、七海提督と細川博士は、香織がカナシバル総督から奪い取った、強制ワープ装置の組み立ての仕上げをすることになった。ワープには、ワープゲートを利用する方法と、自ら次元を曲げ、ワープする方法の2つがある。前者にはさらに、宇宙に元々存在する次元のトンネル、天然ワープゲートと、グロテスターが造った人工ゲートがある。後者は、かなり強力なエネルギーが必要で、比叡の出力では装置をとりつけても無駄のはずだったが、隼人と由香の合体パワーで補おうと、細川博士が改良したのだ。
「隼人君、この海、綺麗でしょ?宇宙に平和が戻ったら、また来ましょうね。約束よ」
「うん。わかった。そのためにはワルモナイトを倒さないとね。由香ちゃんにも心ならずとも戦わせてしまうけどごめんね。」
「ううん、いいの。さあ、ここで思い出を。ずっとこうしていたい・・・」
二人は、生まれたままの姿で重なった。
そして、いよいよ出航。
「お元気で、また来てね!」手をふるモンタギュー王子たち。
黄色い大気圏を抜けると、レモネード星は宇宙に浮かぶ檸檬に見える。
「隼人、由香、すまないが頼む。この星での遅れを取り戻すためには君たちの力が必要だ。」
「了解!」
二人は機関室に取り付けられたワープ装置の中に入り、結合した。
「総員、耐ショックベルト着用!火器類全てロックせよ。本艦はこれより連続自力強制ワープに移る!」
虹のトンネルを進む比叡。行く手に待つのは要塞か怪獣か、そしてワルモナイトか・・・
続く