第62話 さらば太陽系(前編)
隼人と香織による決死の作業により、比叡の修理は完了した。戦死した青山隊長らの宇宙葬と、艦艇の応急修理も終った。
残存艦隊は、榛名の橋本少将に率いられ、イオに引き返していった。比叡はたった一隻、未知の宇宙へ今飛び立つ。
ただ、護衛の駆逐艦は必要である。その広いキャパシティを活かし、駆逐艦「彗星」と「銀河」を搭載した。宇宙駆逐艦は、駆逐艦とは言っても重爆撃機並みの大きさで、翼が小さい分かさばらないので搭載できるのだ。
宇宙艦隊創設時、宇宙は海か空かで海軍に所属するか空軍に所属するか、船舶として分類されるのか航空機として分類されるのか激論の末、戦闘機と軽爆撃機(4人乗り以下)のみ航空機と看做され、それ以外は形状や大きさに関わらず艦船とされた。
戦闘機、軽爆撃機はともに、大気圏内の航空機に匹敵する運動性と安定翼の存在、全長25m以内、乗員4名以内と定められた。
従って、二人乗りでも鈍重で翼のないものは「宇宙ボート」と看做される。
橋本少将らが宇宙服を着て甲板に整列し、手を振って別れを惜しむ。
「よし、野郎共!俺様に命を預けろ!錨を揚げろ!出航!」七海提督の号令で、今比叡は外宇宙へ。
「おじちゃん、由香野郎ともじゃないもん!」
「まあ由香、落ち着きなさい・・・」
水先案内人として、エメロード星人のプラドが移乗してきた。彼は若いが、宇宙航海のスペシャリストだ。他にグロテスターから開放された隼人の姉、真理子も敵情に詳しい。
グロテスター大星間帝国の支配する、無限に広がる外宇宙。天体望遠鏡でしか知りえなかった宇宙へ地球の艦艇として初めて漕ぎ出した比叡。
「あ、太陽が・・・」
太陽系の外周。ここは太陽の引力と他の惑星の引力、太陽の光と他の恒星の光が干渉し合い、虹色に輝く、そして嵐のような空間であった。太陽も冥王星も見えない。
木の葉のようにに揺れる比叡。光と引力の干渉だけではない。大小さまざまな隕石も襲う。
ズガーン
隕石がぶち当たる。「うわーーーっ」
「バカ野郎!俺様に舵倫をよこせ!」隕石に直撃されたショックで蛇輪を放してしまった航海士を怒鳴りつけ、七海提督が自ら操縦する。
「おじょうちゃん、鉢巻をくれ!」
「はいおじちゃん♪」
七海提督は制帽を脱ぎ捨てると、ハゲ頭に鉢巻を絞めた。これにより彼の身体能力や集中力は倍増するのだ。
七海提督は、隕石を避け、または衝撃をものともせず突っ込み、または砲撃して道を切り開く。
「提督、いや親分、だいたい半分は過ぎました。もうすぐです」
「わかった!」プラドの案内も正確だ。
しかし・・・・。
この宇宙の難所を、すんなり通過させるグロテスターではなかった。
「あ、魚雷だ!」
なんと、どこからともなく発射された魚雷が。
七海提督は、魚雷に向かって突進した。
「親分、無謀です」
「黙れ、俺様の腕を信じろ!」
ガツーン!魚雷は正面からもろに命中した。だが、正面は元々、隕石や小惑星を砕いて進むため頑丈に出来ている。
一方、側面には装甲の継目があり、内部に弾薬庫もある。そのため、親分はどうせ避けられないのなら頭からぶつかってやれ、とばかりに突進したのだ。
七海提督の豪胆な性格がにじみ出ている操艦だが、それは強度の裏打ちによる計算されたものでもあったのだ。
「魚雷、第二派が来ます!」
「対空小型レーザー準備!」
「親分、博士!僕に行かせてください!僕の力で魚雷を駆除します!」
「だが隼人、いかにサイボーグとはいえ、その小さな体では、この宇宙気流に流されるぞ」
「いいえ、やらせてください。僕は自分の力と博士にもらったこの体の極限を試したいんです。こんなところで気流に流されたり魚雷に当って死ぬなら、しょせん僕はそれまでの男だったということ。行きます!」
「待って、由香も行くわ!」
「危険だ!女の子の来るところではない!」
「危険なのは隼人君も一緒よ・・・それに2人なら・・・」
そのとき、細川博士が発言した。
「由香、お前も行きなさい。隼人、由香を連れて行かないなら君も出撃は許可できない。いいか二人とも良く聞くんだ。敵が魚雷を撃ってくるということは、近くに戦艦か潜水艦、若しくはロボットがいるということだ。戦艦を見つけたら、その位置を正確に知らせて誘導してくれ。潜水艦やロボットなら見つけ次第合体して叩きつぶすんだ。気をつけて行くんだぞ!」
「はい、叔父様」
細川博士は、自分が作ったバルディバンとバルデイーナの性能に絶対の自信を持っていた。と同時に、親友の忘れ形見・隼人と姪の由香を人間として絶対の信頼を寄せていたのだ。
このやり取りの間に、魚雷1本の命中を許してしまつたが幸いにも大事には至らなかった。
宇宙の闇に身を躍らせる隼人と由香。
「きゃー、流されるわ〜」
「由香ちゃん、噴射ノズルに頼ってはダメだ。踵の重力制御装置を使うんだ。さあ、僕から手を離さないで」
「隼人君、わかったわ。」
2人に迫る第3波魚雷。
「一旦手を離すよ。由香ちゃん、魚雷をバリヤーで足止めして」
「OK」
「よし、叩き斬ってやる」隼人と由香は連携プレーで魚雷を処理した。
ところが・・・・
「隼人君、あれは!」
「あれは奈良で戦った・・・・」
なんと、奈良で戦った阿修羅が現れて攻撃してきたのだ。さらに、その背後には、毒々しい色と姿をした海獣戦艦・クイーン・エイザベスが!
いかに隼人と由香といえども、超人戦士と戦艦を相手には歩が悪い・・・。
阿修羅は、この宇宙でこそその真価むを発揮すると思われた。彼女は6本の腕と3つの顔を使い、隼人と由香を同時に攻撃し、さらに楯で防御できるのだ。
口からの火炎、目からのビームも強力だ。さらにクイーン・エイザベスからの魚雷も手強い。
「おおおおっ!待っていろよ隼人!」
七海提督は敵戦艦発見に勇み、突っ込んでくる。しかしそれでは敵の思う壺だ・・・
クイーン・エイザベスはただの戦艦ではない。戦艦であると同時に、頴娃の形をした巨大怪獣ロボなのだ。
従って、大砲や機銃、魚雷、ビームだけでなく、そのひれはカッター、尻尾は強力な武器となる。
尻尾攻撃でダメージを受ける比叡・・・。
そして隼人と由香も大苦戦。変幻自在の攻撃に、手も足も出ない。そしてついに由香が捕まってしまった。
「由香ちゃん!」
「隼人君!今がチャンスよ!わたしごと、わたしごと斬るのよ!」
「でも・・・」
「わたしには再生能力があるのを忘れたの?阿修羅の全ての腕がわたしを捕えている、今だけがチャンスなのよ!由香を信じているならお願い、早く!」
「・・・わかった!阿修羅め、覚悟しろ! 由香ちゃん、ごめん!」
「キャー」由香の悲鳴がこだまする。
隼人は、由香に再生能力があるとはいえ、胴体や頭を傷つけるわけにはいかなかった。阿修羅の6本の腕を全て切り落としたが、その代償として由香の腕をも切り落としてしまった。
しかし、当初こそ悲鳴を上げたものの、気丈にも由香は叫ぶ。
「今よ隼人君、とどめを!ぐずぐずすると阿修羅の腕が再生するわよ!」
「わかった!阿修羅、覚悟!」
阿修羅は終始無言であったが、断末魔の叫びもなく両断され、宇宙の藻屑と消えた。
「由香ちゃん、合体だ!合体して再生を早めるとともに、姉さんや博士を助けるんだ!」
「OK!」
2人は合体してバルディスターに。だが、そのとき比叡では恐るべき事態が・・・。
急げ、バルディスター!
続く。