第47話 隼人と由香・大いなる旅立ち
年が明けて天智22年1月4日・・・赤橋高校では新学期を迎えた。だが隼人たち3年生は3学期は授業がない。受験や就職活動で始業式の後は3月1日の卒業式まで学校には来ないのだ。
隼人と由香は、始業式の後、担任の哲子先生に伴われ、校長室へ向かった。
「失礼します」
「どうぞ」
赤橋高校校長・雅楽川桂祐73歳。痩せた体に禿た頭で、どことなくきゅうりと亀が合体したような風貌だが、見識・理念ともに崇高な教育者の鏡である。
「加藤君、細川さん、よくがんばってくれた。君たちのことは七海先生や細川殿から伺っているが、成績優秀な模範生の2人には卒業式の答辞をお願いしたかったものだが、事情が事情だけに仕方あるまい。今は無事に帰ってきてほしい、それだけだ。」
「校長先生・・・いろいろとご迷惑をおかけいたしました」
「校長先生・・・。」
隼人と由香は、校長と哲子先生の4人だけで繰り上げ卒業式をしたのだ。1週間後、ついに2人は、グロテスターとの最終決戦のため、宇宙へと旅立つのだ。それは未知の世界。グロテスターだけではなく無限に広がる宇宙の危険や闇との戦いもあるだろう。
だが、元々2人は、グロテスターの襲来がなくとも、いずれその宇宙へ漕ぎ出し、人類の種を蒔くためその肉体を宇宙用に改造された改造人間なのである。それは今は亡き、隼人の両親、加藤武夫・めぐみ博士夫妻の悲願であり遺志でもあったのだ。
「隼人よ・・・。実は、君のお母さんのめぐみ君もここの卒業生でな。目のぱっちりとした髪の長い、そして頭のいい生徒じゃった。由香君ともよく似ておる。実はワシは若い頃、彼女の担任じゃったのだ。たしか君の父親は九州の出身だったな」
「校長先生・・母のことを?」隼人の目に思わず涙が光る。
「隼人よ、母の夢をかなえるためにも、そして由香くんのためにも、無茶はせず必ず生きて帰るのじゃぞ」
「校長・・・!」
「隼人君・・」「加藤君・・・」由香と哲子先生ももらい泣きであった。
「七海先生のご主人もいっしょじゃったな。身重で大変じゃが、あの男の闘志はきっと宇宙人にも勝つであろう。今は丈夫な子を産むことだけを考えなさい」
「ありがとう御座います校長先生・・・」
哲子先生も、卒業式翌日から産休に入るのだ。そしてその夫、七海玄八中将(新たに昇進)は、グロテスターに決戦を挑む、地球防衛軍第一宇宙艦隊司令長官に任命されたのだ。ここ2年で中佐から4階級もの異例の昇進だが、その抜群の活躍と、細川忠之中将(戦死後元帥)はじめ上級者が豪州沖海戦他で多数戦死したための措置であった。
そして翌日から、細川博士と香織は、2人の肉体の調整や、自らの旅立ちの準備に追われていた。
隼人と由香は合体してバルディライナーになり、博士と香織を収容して月面基地で七海提督や外国勢と合流し、アステロイドベルトを抜け、木星のイオ観測所をまず奪回してエネルギーのイオニウム(グロテスター式宇宙艦艇のエネルギー源。太陽系では木星の衛星に存在)を補給し、土星を抜いて冥王星にあるとされるグロテスター前進基地を叩き潰す。そしてその先は、隼人と由香を収容した七海提督の「比叡」と、水雷戦隊だけでグロテスター本星へ特攻するのだ。「金剛」以下他の艦艇は犠牲を省みず、どんなことがあっても比叡を太陽系突破させる作戦になっている。
水雷戦隊旗艦は軽巡洋艦「和泉」。艦長は緑川武人。実はエメロード星人のキャプテンプラドである。彼は元グロテスター海軍の士官であり、敵情に詳しいため道案内をかねて先陣を切ることになっている。 そういうつもりは毛頭なく、また扱いも極めて良いのであるが、彼の婚約者で、エメロード星皇女の愛川いずみ(エスメラルダ姫)は、細川邸に匿われており、万が一の際の人質となっている。しかし、故郷の解放に燃えるプラドが、万が一にも裏切るとは思えなかった。
従う8隻の駆逐艦は2つの小隊に別れ、赤い駆逐艦「彗星」に率いられる第一駆逐隊は、貴昴少佐が、第2駆逐隊は駆馬少佐が指揮することになった。2人ともまだ20台のヤングエリートである。
「プラド・・・必ず帰ってきて。そして、次に星に飛び立つときは・・・わたしを連れて行ってね。それまで私待ってるわ」
「姫、プラド必ず約束を果たします。そしてそのときこそ・・・」
「うん、わかっているわ」
それにしても、地球の技術力はすさまじく、金剛を拿捕してからわずか半年で宇宙艦隊の組織に成功してしまった。
グロテスターのリバーバッテン卿をして「地球人は、独創性はないが、一度未知の技術を取得すると、短期間でオリジナルを凌駕してしまう。しだって、絶対に我々の兵器は拿捕されてはならない」と。しかし、それは既に現実のものになっていたのだ。
そしていよいよ翌日に迫った日曜日・・・。
「隼人君」
「由香ちゃん?」
由香は、いきなり全裸になり、生まれたままの姿を晒した。別に毎日一緒に風呂に入り、毎日性交し一つの布団で寝ているので、珍しくもないが、今日の由香はいつになく大胆であった。
「隼人君、由香のこと好き?由香って綺麗?」
「うん、大好きだよ。でもどうしたんだい急に改まって?」
返事はなく、いきなり唇を奪われた。
「由香の全てを見て!そして触って・・・・!この由香の全てを包んでほしいの」
「由香ちゃん・・・」
「明日変身したら、地球に帰るまでこの由香の柔らかくて白い体には戻れないの。帰って来れないかもしれないし、帰れたとしても何年も先になるかもしれない。もちろん、変身していても私たちは男と女だし、お船の中では仮面ははずせるけど・・・今はこの柔らかい体を抱いて欲しいの。そしてその感触を永久にその体に刻み付けて・・・お願い!」
「わかった。それにしても・・・由香ちゃん、君は美しい。そして柔らかい・・・」
隼人と由香は、改造され、始動する際に初体験を済ませて以来、一日も欠かさず体を交えていた。また、バルディバンとバルディーナに変身すると、体を交えることが生命の維持そのものとなる構造のため、生身の体のとき以上に重なり合い、時には融合巨大化もしていたのだ。
しかし、今日の由香は、いままでで一番激しく、情熱的に隼人を求めたのである。
そしてそれは隼人も同じ思いであった。ふたりの脳裏に浮かぶ思い出の数々・・・。
そしていよいよ旅立ちの朝を迎えた。
ここ由比ガ浜には細川元帥・同夫人、兄の細川隆之、母のマザー・ガラシャをはじめ、校長、新教頭の相楽太郎、哲子先生、仁子、珠美・永田以下バルディレンジャーの仲間が集まる。
「みなさん、ありがとう。僕たちは必ず帰ります。」
「ママ、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん、タマちゃん、仁子さん、校長先生、哲子先生、みんな・・・。由香、絶対帰ってくるわ」
「うう・・・由香よ・・・我輩の宝・・・」隆之も号泣。
「では皆さん、行ってまいります。博士と香織さんも準備はいいですね。」
「こちらは準備万端よ隼人君」
「じゃあ、行くよ由香ちゃん!」
「OK、隼人君。」
手をとり海に向かって走り出す2人。
そして叫ぶ。
「バルディ・チャージ!」
隼人と由香の肉体が一瞬燃え上がった。そして、その中から金属の鎧に包まれた改造人間・バルディバンとバルディーナが現れた。
そのまま海に突き進む2人。やがて海中から火の玉が飛び出して空高く舞い上がる。
そして海中で2人は激しく結合・・・。
2人が合体した戦闘巨人、バルディスターの誕生だ。
バルディスターは元の浜に戻ると、手を差し出し、細川博士と香織を乗せ、胸のコアに2人を収容した。
「姫、わたしも連れて行って!」
「オレもだ!」
珠美と永田が絶叫する。
「ばーか。あんたたち2人はそれどころじゃないだろう?教室に戻って補習だ補習。受験どころか卒業もやばいぞお前たち」
「教頭先生・・」
「それにである。貴様等バルディレンジャーは、本日より、海軍特務少尉であるこの我輩の指揮下に入り、地球に潜むグロテスター残党の掃討作戦を遂行するのである。これは非常に名誉のあることであるぞ」
「それに、この機に地球のテロリストたちも活動を活発化しているわ。」仁子は、特務戦隊参謀兼、細川研究所所長代理となった。なお彼女と遠藤は、東大工学部への進学が決っていた。山田と秋山は3流私大へ推薦が決っていた。
「さあ、みんなで2人を笑顔で見送ろうじゃないか!」
「うん」
「みなさん、お元気で!必ず帰ります」
隼人と由香の声がスピーカーから聞こえる。
その頃、コアの中では全裸になった博士と香織が、へその緒チューブの接続を完了していた。
「隼人君、由香ちゃん、わたしたちの準備もOKよ!羊水の注入お願いね」
そしてその準備が完了すると・・バルディスターは海に向かって走り助走して飛び立ち、手足を畳んで宇宙重爆撃機バルディライナーに変形、高度をぐんぐん上げていく。見上げる珠美たちからも点のよにになり、やがて見えなくなった。
「隼人!」「由香!」いつまでも手を振る一堂。
そして、感傷に浸るひと時も過ぎ、それぞれの場所へ戻るそのとき。校長は、ふと教頭に呼び止められた。
評判の悪い前の教頭は僻地の分校へ左遷され、前校長の息子の相楽が新しい教頭になったのだが、彼はある生徒の担任でもあった。
「校長・・これを」
「うむ。」破り捨てる校長。それは退学届けであった。
「もう1人、私たちの教え子が宇宙「そら」に向かいました。」
「止めても無駄だな、奴も・・・」
再び空を見上げる校長と教頭。
そして、大気圏を突破した隼人と由香は月にまっしぐら。
「見て、地球があんなに青いわ」
「僕たちのふるさとだ。絶対帰ってこようね由香ちゃん」
隼人と由香は、ついにこの無限の宇宙へ漕ぎ出した。青いふるさとを胸に抱き、黒い宇宙へ永遠の愛と無限の冒険心を秘めて。
戦え隼人!お前の真の力を今こそ見せるのだ。
続く