37話 水の妖精ローレライの歌
夏ももうすぐ終わり・・・。秋が近い。芸術の秋である。
芸術といえば、隼人と由香の知人、内藤直人(通称ナット)は、桃李音楽大付属高校の特待生として墺太利の維納に留学していたが、そのバイオリンの才能が現地の音楽学校でも認められ、近くリサイタルをすることになった。その招待状が、隼人と由香に届いた。
「まあ、内藤君からよ♪」
「あいつ、異国の地で頑張っているようだな」
「隼人に由香、行ってきなさい。そういえば・・・お前たちは宇宙や深海ですら行ったことがあるのに、欧羅巴はまだだったな。楽しんでくるがいい。それと、演奏会の後アーデルブルク博士の城にも立ち寄るように。」
「はーい、叔父様♪」
隼人と由香のほか、段田、ジョー先生、ナットの恋人のデイジー、その母恵、計6名が招待されていた。ちなみに、恵はジョー先生の姉である。
6人を乗せた飛行機は、独逸、墺太利に向けて飛び立った。
だが・・・。
「いやーん!姫も隼人君もひどいわ!わたしを置いていくなんて!」珠美は大激怒していた・・・。
それはさておき、ウイーンで内藤と再会した6人は、現地でさらに、ローレンス飛田理事長夫妻(恵美夫人も恵とジョーの妹)と合流し、益々研きがかかった内藤の演奏に聴き入った。
天才と言われた亡くなった内藤の父、清人をも超える才能が開花しつつあったのだ。
さて、演奏会の後、恵たち桃李音大関係者たちと別れた隼人と由香は、2人だけで独逸・ライン川に向かった。観光のためと、ともに地球を防衛するアーデルブルク博士の招きによるものである。
日本の河川の概念を越える悠久の大河、ライン川を行く船。
もうすぐ有名な奇岩、「ローレライ」が見えてくる。
ローレライ伝説とは、ライン川中洲の巨岩に金髪の美少女が現れ不思議な歌を歌い、見とれ、聞きほれた船人たちが岩に激突して死んでしまう事故が多発したことから有名になった伝説である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%A9%E3%82%A4%E4%BC%9D%E8%AA%AC
♪なーじかはしらねど、心わびて〜昔のつたえは、そぞろ身に染む〜
由香は思わずローレライの歌を口ずさむ。由香も美少女の上歌が上手いが、日本語で歌ったため周囲の反応はいまいちだった。そして本物のローレライに差し掛かったとき・・・。
「♪Ich weiß nicht, was soll es bedeuten〜」
なんと、澄んだ歌声が・・すわ、本物のローレライか?
ローレライ岩に、本物の金髪美女が座って歌っている!そして、隼人と由香を手招きしている
。
「隼人君・・・ま、まさか・・・」
「伝説は伝説だよ。昔は航行技術が未発達だったから起きた事故が伝説になっただけなんだ・・」
「でも・・」
「心配ないよ。でもどうして僕たちを・・・ん?判ったぞ由香ちゃん!」
隼人はいきなり由香の手をとり、川に飛び込んだ。
「キャー!冷たいわ!」
すると、2人に手を差し伸べたのがあの美女だった。
「さすがはバルデイバン=隼人君ね。わたしの招待がお分かりになったのね。」
「あなたは、ローレライ=アーデルブルクさんですよね?」
「ええ、そうよ。さあいらして。父と兄弟が待っているわ」
「あーん、せっかくのドレスがびしょぬれ・・・」由香はしょげるが、
「わたしのでよければ、着替えはあるわ。丁度同じぐらいの体格だから。さあ風邪を引かないうちに早く」
ローレライの手引きで、対岸の古城に入る2人。
「ただいま♪お父様、日本からのお客様よ」
「今開ける」
ギーーー
門が重々しく開きタラップが降りた。
長い廊下を進む3人。途中、隼人と由香は衣装部屋に通され、着替えた。
「まあ、素敵♪ほんとうにこれ、下さるの?」
「ええ、わたしのお古だけど。でも本当に似あうわ由香さん」
「ありがとう!」
ドレスに着替えた由香は本物の欧羅巴の姫君のようだった。
ギーーー
「ただ今。紹介するわ。日本から来た加藤隼人君と細川由香さん。そして・・」
「こんにちは。自分、ヘルマン=ラインゴルト=フォン=アーデルブルク空軍少尉です。ヘルマンでいいや。よろしく♪」
小柄で角刈りの金髪の青年、ヘルマン少尉はかつて隼人と由香の留守中を兄弟や香織とともに守った戦士。だがこうして顔を見るのは初めてであった。意外と若く、また独逸人にしてはめずらしく人懐こいので驚いた。しかし・・。
「キャー!」思わず隼人の陰に隠れる由香。
「お兄ちゃん、だめじゃない・・・。人前に出るときは鉄仮面をかぶらなくちゃ。」
「すまん。申し遅れたが私は、ミハイル=カール=グスタフ=ラインハルト=フォン=アーデルブルク陸軍大尉だ。貴君等の活躍は知っている。お会いできて光栄だ」
「こちらこそよろしくお願いします。」
隼人はミハイルの義手と握手した。
アーデルブルク三兄弟 左から長女(2子)・ローレライ=マリア=テレジア=フォン=アーデルブルク海軍中尉(22歳)、次男(3子)・ヘルマン=ラインゴルト=フォン=アーデルブルク空軍少尉(19歳)、長兄ミハイル=カール=グスタフ=ラインハルト=フォン=アーデルブルク陸軍大尉(40歳) |
「お兄ちゃんは、ワルモナイトと相打ちになって爆死したんだけど、奇跡的に脳の左半分だけが助かったから、お父様が新しい体を作って甦ったのよ。ちょっと怖い顔だけど、グロテスターの怪人じゃないから安心して」
「ま、そんなとこ。で、あんたらもアニキと同じサイボーグなんだろ?へぇー、よくできているなぁ・・・普通の人間と変らないよ。いつも親父とアニキは「独逸の科学は世界一」って言ってるけど・・・。この可愛いお嬢さんの顔の下がアニキと同じ機械とは信じられないよ。日本もたいしたものだよな、さすがわが友邦!」
「こら、ヘルマン、失礼ですよ・・・謝りなさい」
「ごめんなさい・・・」
「いいんですよ。気になさらないで」
しかし由香は泣き出しそう。
そこに、重々しい杖の音とともにやってきたのが・・この城のあるじ、ゲオルグ=ハインツ=フォン=アーデルブルグ博士その人であった。
「ようこそおいでくださった。ワシがアーデルブルクじゃ。ゆるりとな。さて、夕餉の時間までまだある。ローレライとヘルマンは近くを案内してやれ」
「はい」
ローレライは隼人と由香を連れて森を散策した。すると湖が見えてきた。
「この湖は、一年中泳げるのよ。それっ!」
ローレライはドレスを脱ぎ捨てると飛び込んでしまった。そして手を振る。
「さあ、2人とも早く!ヘルマンも!」
「隼人君・・・由香、こんなこともあろうかと・・・。ちょっとだけ後ろ向いててくれる?ヘルマンさんも」
「うん。じゃあ10数えるね。1,2・・・・・9.10」
「み、見て〜」
「ひょえー、いいなぁ旦那〜こんな美人の彼女いてさあ」ヘルマンも驚く。
「由香ちゃん、それは・・」
「ちょっと恥ずかしいけど・・ジャーん!初ビキニよ♪」
「よし、僕も」
隼人も褌一本になって飛び込む。
「自分は・・金槌だからここで見張ってるよ。」
「へぇ〜金槌なの?勿体無いわ♪」
ローレライはなんと全裸である。本当に伝説の水の妖精ローレライのようであった。
だが、幼い頃から毎日のように水遊びしたこの湖に悪の手が伸びていようとは・・・。
その頃、日本の山中にある昆虫軍団のアジトでは・・・
「プーーン」
「おお、モスビート!」小型スパイ、モスビートがキングビートル2世とカマキリンダに情報を伝える。数百匹のモスビートが世界中に放たれ情報を収集しているのだ。
「何だと?隼人と由香は外国にいるだと?」
「チャンスよ、キングビートル2世様」
「だが、仮面バッターが敗れ、我々には強い戦士がいない。しかたない。俺様が直接攻撃してやるか・・・」
「ではあちきも・・」
ところがそのとき、ワルモナイトからの通信が入った。
「サイボーグ怪人を送り込んだので援護せよ」との指令だ。度重なる敗北で駒不足の昆虫軍団には渡に船だった。
「ところでモスビート358号?隼人たちはどの国にいるの?」
「ブーーー」
「えっ!独逸ですって?面白くなってきたわ」
「どうしたカマキリンダ」
「あっちにはあちきの従姉のミズカ姉さんがアジトを構えているのよ」
「よし、ミズカたちにすぐ指令を出せ」
「了解!」
水と戯れる3人。
あまり漬かりすぎてもふやけてしまう。丘に上ってワンピースを羽織ったローレライ。だが。
「キャーー」
ローレライを羽交い絞めにし、水の中に引き込もうとするものが居る。
「あっ、カマキリンダ!ローレライさんが危ない!行くぞ!バルディ・チャージ!」
「ヘルマンさんは博士とミハイルさんに連絡して!」
「止めろカマキリンダ!」
「何?あちきはカマキリンダじゃないわ。水の女王、ミズカ様よ。あれ?お前がバルディーナか?長い髪とピンクの服とカマキリンダから聞いていたが・・まあどうでもいい。
いでよ!バスコ・ダ・ガーメ!タイコンウッチー!アーメンボーグ!コオイムーニョ!ヤーゴゾンガー!ゲンゴローダー!」
次々と現れる水棲昆虫軍団。
隼人と由香は彼等と戦いを繰り広げるが、ローレライを捕えられ思うように戦えない。しかも、慣れない水中戦。
ヘルマンのメッサーコンドルが飛来して上空から援護するが・・・。
アーデルブルク博士の作った3体のメカは強力で、グロテスターの怪獣やロボに十分対抗できる性能があった。だが、昆虫など等身大以下の敵には大きすぎて攻撃できないという欠点があったのだ。最も小型のメッサーコンドルのみがなんとか援護に参加できる程度である。従って昆虫軍団と戦うのにはバルディバンの活躍に賭けるしかない。
バルディバンの体は、全宇宙のあらゆる環境に適合できるように作られており、深海での探査も経験済みであるし、水中戦も経験はしているが、一度に7体もの敵と戦うのは初めてである。それに、隼人は苦手、ではないが水中戦は得意ではなかった。優れた運動神経とメカの性能で何とか対応しているだけだ。だんだん押され気味になってきてしまった。
だが、意外にも活躍を見せたのは由香だった。
バルディーナは、バルディバンにはない特殊能力が備わっている。水中では、下半身を鱗で覆い、マーメイドタイプに変身できるのだ。水中を自在に泳ぐ彼女は、敵を翻弄して上手く水際に追い詰めた。そしてそこで隼人の出番となる。隼人はまず、動きの鈍いゲンゴローダーを真っ二つにした。堅い装甲に覆われ銃が効かなかったが、継目に剣を付きたて両断だ。しかし、ローレライが捕らわれている。
「バルデイバンとバルディーナ!よくも可愛い部下を!この女がどうなってもいいのか!」
ミズカは吸血ストローでローレライの血を吸いだした。見る見る青ざめるローレライ。
気をとられた2人は昆虫軍団に囚われてしまった。絶体絶命。
そのとき、黒い影が飛び出した。そしてミズカを一撃するとローレライを助け出した。
「大丈夫か」
「その声は兄さん」
「そうだ。父上がおれを新たにこのような姿に改造したのだ。これで小さな敵にも対抗できる。お前は休め。ヘルマン!ローレライを頼む」
「アイアイサー」
メッサーコンドルに救出されたローレライ。
「ミハイルさん、その姿は?」
「だらしがないぞ二人とも。世界最強のサイボーグはやはり世界に冠たる独逸の技術で造られた私のようだな」
ミハイルは、軽快な動きと信じられないような重火器で次々と敵を倒す。アーメンボーグも倒され、ザコのミズスマショッカーたちも半減してしまった。
「よし、僕も負けないぞ」
隼人はタイコンウッチーの手を振り解くと、由香を捕えたコオイムーニョを撃ち殺し助け出した。それを見たヤーゴゾンガーは羽化してメガネミューラーに進化し、空から襲う。だが、由香はその背中に白い翼・・エンジェルウイングを展開して舞いあがった。
白鳥の力を持つ由香の前に、トンボに過ぎないメガネミューラーは苦戦する。そして、舞い戻ってきたメッサーコンドルのくちばしに刺されて敢え無く戦死した。
「おのれぇ・・!バスコ・ダ・ガーメ!巨大化してやっておしまい!」
巨大化するバスコ・ダ・ガーメ。だが、巨大化したならこっちの番だ。
メッサーコンドルは湖にカプセルを投下した。
中には裸のローレライが入っている。そして渦が巻き起こり、中から巨大な人魚ロボが。その腹部に収納されるカプセル。目が光り、命を持ったその巨体。そう、巨大人魚ロボローレライは、一種のサイボーグなのだ。ローレライが生体パーツ(頭脳兼生体エネルギー電池)となり、彼女の脳波でコントロールされるのだ。
「さっきはよくも遊んでくれたわね」
「由香ちゃん、僕たちも合体だ。エネルギーももうない」
「判ったわ」
「バルディ・クロス!」2人は合体した。
「隼人君由香さん、私の指示通り動いて!」さすがに水中ではローレライは無敵だ。だが人魚型のため、格闘には向いていない。そこでバルディスターが格闘し、弱ったところをバスト魚雷で止めを刺すのだ。
だがバスコ・ダ・ガーメはことのほか頑丈で、その鉤爪も強く、隼人と由香は思わぬ苦戦もを強いられていた。
そこに現れたのかケーニッヒティガー。しかも、新改良版だ。首がない。そして・・サイボーグのミハイルが頭に変形してドッキングした。マーク4に進化したのだ。操縦ではなく合体なので自在にコントロールできる。一種の巨大サイボーグとなったのだ。
「バルディスター!我々2人がかりでこいつを湖に引き込むぞ。そして緊急浮上だ」
シュノーケル装置を取り付けたケーニッヒテイガー4は水中での機動力も発揮できる。バスコ・ダ・ガーメの鉤爪も平気な装甲。「行くぞ」
2体はガーメをがっちりロックし、水中へ。得意の水中も強力な2体の巨人に押さえ込まれては手も足も出ない。そこに迫る2本の巨大魚雷。
「やった!」水柱が上る。
ガーメの最期だ。
「待て、逃がさんぞ!」
分離してメッサーコンドルの背に乗ったバルディバンは、翼を展開して逃れようとするミズカをも倒した。これで独逸・水棲昆虫軍団は全滅だ。
独逸と日本の、優れた若者と科学が、虫けらたちの野望を粉砕したのだ。
「よくやったぞ5人とも。さあ、夕餉だ」
アーデルブルク博士邸での豪華な晩餐。遅くまで語り合い談笑する5人。
ミハイルのパーフェクトサイボーグ化により、アーデルブルク家の弱点は克服されたのだ。もう、これで欧羅巴は任せられる。一日も早く地球に留まる敵を倒し、木星、土星、冥王星の基地を叩き潰しグロテスター本星に殴りこむその日まで、日本と独逸の英雄たちは手を携えて戦い抜くことを誓い合ったのだった。
そして2日後、2人はメッサーコンドルに送られて日本に帰国したのだが、彼等の不在時、日本もまた重大事件が起きていたのだ。次話ではその様子をお話しよう。
続く。