100話 グロパレスの死闘 序

 

隼人と由香の命がけの一撃で空けた風穴に、一斉射撃が決まり、さしものグロパレスも傾き、その力を半減させた。

そこに、決死隊が突入していく。その中には、エドワルド王子の幽霊戦艦デュークオブダークの姿もあったが、幽霊戦艦のため、だれも気付いていない。

そして隼人と由香も力を失ったまま、グロパレスに流れ着いてしまった。

香織が、二人の救援に向う。

グロパレス内では、決死隊と悪人騎士、兵士たちとの激しい戦いが繰り広げられていた。

そんな中、気付くと破壊された砲塔にいることに気付いた隼人と由香。

「由香ちゃん、しっかりして」

「隼人君・・ここは?」

「うーん、どうやらグロパレスみたいだ。ここにいると味方の砲弾やビームが当たってしまう。とりあえず揚弾筒を通って中に入ろう」

 隼人は由香を抱きかかえ、狭い揚弾筒を通り、弾薬庫に入った。しかし、突然由香が苦しみだした。

「由香ちゃん!」

「は、隼人君、ごめんなさい・・」

由香はいつになく苦しそうだ。そして、変身を解いた。

実は二人は、ロイヤル星系に来てから一度も人間の姿に戻らず、艦内でも仮面だけ外しただけでずっと機械の体で過ごしていた。戦いに即応するためである。

「由香ちゃん、き、君は・・・」絶句する隼人。

「ごめんなさい、ほんとに・・・」

なんと、由香は妊娠していたのだ。

「今まで、機械の体で大きくなるのを押さえてたの・・・でももう限界・・」

由香は、もともとが戦闘用サイボーグではない。宇宙を開拓し、開拓した星で子孫を残すために改造された改造人間、極論すれば、人工子宮を備えた卵子の永久保存容器というのが、その実態である。妊娠すること自体は、決して不可能ではない。だが・・・。

グロテスター、そしてワルモナイト(その黒幕は、グロムウエル)との戦いに身を投じ、その装甲された肉体を、戦いのために捧げて今日まで戦い続けてきたのである。そして、誤って妊娠しないよう,避妊回路を取り付け、また、それ以前にその肉体には、胎児の成長を自在にコントロールし、出産次期を任意に調整できる機能もついていた。

「いつ?」

「レモネード星だと思うわ。避妊回路は、だいぶ前に焼ききっちゃったの・・・。だって、由香、女なのよ。女は、赤ちゃんを、命を生み出すもの。愛する貴方の胤を宿し、産まないことは我慢できなかった・・・。この戦いが終わるまで間に合うと思ってた。でも、もう限界・・・。」

「あのときか・・・・」隼人は心当たりがあった。

「由香ちゃん、僕たちはグロムウエルを倒すまでここにきた。だけど、君にはもう戦うことは出来ない。博士のところへ帰るんだ!」

「嫌!私を最後まで連れて行って・・・。お腹に赤ちゃんがいても、わたし戦えるわ!」

由香は、バルディーナに再び変身した。だが、その体は機械で作られているにもかかわらず、お腹が大きく膨らみ、妊娠していた。ここまで大きくなると、もはや胎児を小さくは出来ない。というより今まで無理やり押さえつけていたため、苦しんでいたのだ。

「もう、大丈夫よ。もともと私の体は、どんな過酷な環境でもお腹の赤ちゃんを守り、産み育てることが出来るよう作られているはず。さあ、連れて行って・・・」

「だめだ!どうしてもというならお腹の子を降ろせ」

「ひどいわ!貴方の子なのよ・・。ならば私も死ぬわ。さあ、殺して!」

「由香ちゃん・・・。」隼人は、由香を強く抱きしめた。そして・・・

「ごめん・・君を連れてはいけない。君はその子を強く産み育てて欲しい。僕はグロムウエルと刺し違える。さよなら・・・」

由香の胸にあるコントロールボックスを叩き割り、中にあった非常停止ボタンを押した。

機能を停止し、崩れ落ちる由香。

その姿勢を抱き起こして直すとともに、博士と香織にそのことを伝える非常サインを発し、そしてもう一度だけ抱き押して口付けをして、隼人は駆け出した。何度も振り返ったが、部屋から出たあとは一直線だった。

 

 一方、事前に二人の救援に駆けつけた香織は、信号をキャッチしたものの、由香のところにたどり着けなかった。なぜなら、彼女の前に、最大のライバルが立ちふさがったからだ。

「どこに行くの香織!私との勝負を避けるつもり?今度は負けないわよ。私も改造したから!」

「ニジーナ!」プロテイーナ・香織とワルディーナ・ニジーナは、ともに由香と同じバルディーナの設計図を元に改造されたサイボーグだ。しかし、由香がその女性としての機能を、愛と命を生み出すために使うのに対し、この二人はそれを武器として戦う、驚異の女戦士なのだ。その実力はまさに互角。真っ赤な香織と漆黒のニジーナの、金属の体がぶつかり合い、絡み合う。

それは、生身の人間ではなく、機械人間どうしの戦いであるため、火花を散らし、鈍い金属音を立てながらの格闘であった。そして、同時に二人は、戦士ではあるが男ではない。女同士の戦い特有の、淫らで陰湿でしなやかな格闘でもあるのだ。

二人の激しい戦闘は果てしなく続く。このままでは香織は、隼人と由香を救えない・・・。

 

一方、エドワルド王子も、グロパレス内部に侵入していた。麻里子も一緒だ。群がる敵を切り払い、グロムウエルの姿を求める太子。彼は、グロムウエルのために両親と兄を失い、姉を廃人にされたしまった。また、彼自身も、陰謀により亡き者にされ、影武者となったリョナサン少佐の尊い犠牲で生きながらえたものの、影の存在となってしまったのだ。そしてたくさんの部下たちも死なせてしまった。その怒りと憎しみは、誰よりも深い。

麻里子にしても、グロムウエルの人体実験に繰り返し使われた挙句、怪人に改造されてしまったのだが、由香の愛の奇跡により、生身の人間として再生されたのだ。しかし彼女は、いつしかエドワルドを愛するようになり、生き別れの弟である隼人ではなく、太子を選び、ともに生きる覚悟を決め、ロイヤル王家に伝わる純白の女鎧に身を固めて、ともに戦う道を選んだのだ。実は、エドワルドの漆黒の鎧は、ロイヤル王家歴代最強の存在であったジョーズ2世の父、テリー王がはじめて着用したもので、以来王家の次男に受け継がれてきた伝説の鎧(ただし、ジョーズ2世は長男だが継承。また、テリー王は次男で、兄ドリー王子が戦死したため王位継承)であり、麻里子の鎧は、ジョーズ2世の母であり、テリー王の妃であった伝説の武后・シーマ王妃が実家の古ロイヤル家から持参し、以来王室の長女及び皇后に伝わってきたものである。

(長女が嫁ぐと、嫁、すなわち次代王妃に継承される)ただし、実際には、シーマ皇后以降,誰も着用していなかった。シーマ大后はこの純白の鎧を着て夫とともにグレートロイヤル星を統一するために戦い、夫の死後は息子のジョーズ2世を厳しく育ててともに戦い、ついにその偉業を達成させた、この星の「国母」と称えられている存在だった。だが、その遺志の宿った鎧は、地球人である麻里子を選んだのだ。二人は今、宿敵グロムウエルと対峙していた。だが・・・。

 

そして、愛する由香を残してまで、戦い続ける隼人の前にも、避けることのできない、宿命のライバルが現れたのである。

 漆黒のしなやかでかつ強力なその男・・・。記憶を消され、黒豹のような仮面に閉じ込められているが、隼人はその漢を知っていた。

「段田・・・」

友であり、強敵でもあったその男。この男を倒さない限り、グロムウエルとの決戦は望めない。しかも、彼自身がグロムウエルとの何らかの因縁を持っているようなのだ。

隼人は、剣を抜き、飛び掛るジャガーナイトと激しく戦う。

ジャガーナイトは手に武器を持っていないが、鍵爪と、キック、パンチ、レスリング技で翻弄し、その力も、生身の人間が鎧を着ただけとは思えないほどだ。なにしろ、グロムウエルの腹心で、麻里子の養父、細川博士の恩師でもある三浦博士が姿を変えたゾンビナイト、改造人間製作の宇宙的権威の彼が、「改造により、元より弱くなってしまう」と異例の判断をしたほど強い男なのだ。そして、その力を引き出す鎧と、その感情を消し去り、戦うこと以外は一切考えなくするためのマスクを与えられた、生きている蛮刀としたのだ。その果てしない闘争本能と野生の叫びが、隼人の剣を全てかわして逆襲する。

隼人も負けずに、剣を捨てて格闘する。その戦いも、いつ終わるかしれない激しいものであった。

しかし隼人は由香がいないため、フルパワーを発揮できないため、徐々に押されてきた。改造により、パワーと戦闘力は増し、単に生きているだけなら半永久の命を得たものの、人間としての生命力に制限がかかること、それだけが最強戦士バルディバンの唯一の弱点なのだ。それを補う由香はいない・・・。

 

エドワルドとグロムウエル、香織(プロティーナ)とニジーナ(ワルディーナ)、そして隼人(バルディバン)と段田(ジャガーナイト)が、それぞれ死闘を繰り広げる。ほかに、決死隊や、ライガー率いる獣人血盟軍もグロパレスに突入した。七海提督は駆逐艦で肉薄し、小型砲塔を片っ端から叩き潰している。

そんな中、お腹に新たな命を宿した由香は、グロパレスのからっぽの弾薬庫の片隅で、お腹をさりながら意識を失っていた。

そんな由香に、ささやく声がする。

「ゆか、ゆか・・・。わたしのかわいいゆか。目覚めなさい」

その優しくやわらかい、懐かしい声に目を開けた由香は驚く。そこにいたのは、母であるマザー・ガラシャだったからである。

「ママ!どうして・・・」

マザー・ガラシャは白鳥座星人の末裔とはいえ生身の人間であり、この戦いに同行しているはずもなく、埼玉県の某所にある聖ポピー修道院にいるはずであった。

「おどろくことはありません。わたしの本体は地球にいます。さあ、由香、戦いなさい。愛する人のため。愛のためだけにに戦えるのは、この広い宇宙におまえだけです。おなかの赤ちゃんは、母が預かります。さあ、はやとが危ないわ。グロムウエルの邪心を封じられるのはおまえとはやとくんの愛だけなのよ。さあ、宇宙の明日のため、行きなさい由香・・」

マザー・ガラシャの生体離脱霊?が由香の腹を優しくなでると、不思議なことに、由香のお腹の赤ちゃんはいなくなり、代わってマザーガラシャのお腹が膨らんだ。そして、手を振って微笑むと、すーっと消えてしまった。

「ママ!」

そして声がする。「行きなさい由香」

由香は、決意を込めて走った。「バルディ・チャージ!」その柔らかく、優しい姿は、真っ赤に燃え上がり、硬い機械に変わった。

そしてその機械はさらに赤熱し、ピンク色のオーラに包まれ、それが消えたとき、彼女は愛の装甲機械人間・バルディーナにその姿を変えたのである。愛する隼人を求めて、今由香は迷路のようなグロパレスを疾駆する!

 

つづく。