宇宙刑事 マリー

 

 僕は篠田健一。会津日新館高校・東大を経て、バード星の宇宙刑事学校を主席卒業し、念願の宇宙刑事見習いに任官し、これから任地に派遣されるのだ。

 さすがの僕にも緊張が走る。

コム長官から、ついに辞令が・・・。

 「ケイン(僕のコードネーム)、君を地球担当の宇宙刑事補に任命する。働き次第で正規の宇宙刑事に昇格できる。まあ宇宙警察始まって以来の秀才の君の実力ならその日も近いだろう。任地は君の故郷だ。宇宙暴力団ヤザンの活動が活発化しているという情報がある。さあ、ヤザンを倒し、故郷に錦を飾るのだ。」

「は、はい!」

 感激の余り涙が出そうだ。この2年間の厳しい特訓と、会津の掟に従って悪を必ず倒してみせる、僕の決意は熱く、堅く、心が高まっていた。。

しかし・・・。

 

「ケイン。君の指導をしてくれる先任宇宙刑事を紹介しよう」

 たしか、僕たち新人宇宙刑事は、ベテラン宇宙刑事の助手からスタートすることになっている。そして、噂ではアクバー星雲の犯罪組織を壊滅させたという凄腕宇宙刑事が僕の指導係になる、と聞いていた。

 だが・・・。

僕はいきなり後ろから目隠しされた。

「だ〜れ〜だ〜?」

無邪気そうな女の声だ。

振り返ると・・・・。

 そこには、ショートカットにミニスカートの、僕より23歳ぐらい年上の地球人女性が無邪気に微笑んでいた。

 僕は失神しそうになった。

 というのも、会津の「什の掟」で、女と口を聞いてはなならかったからだ。

 掟は厳しく、

1つ、年上の人にはお辞儀をしなくてはなりません。

1つ、目上の人に逆らってはなりません。

1つ、弱いものをいじめてはなりませぬ。

1つ、嘘をついてはなりませぬ。

1つ、卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ。

1つ、戸外でモノを食べてはなりませぬ。

1つ、戸外で女と口を聞いてはなりませぬ。

 白虎隊の昔から連綿と受け継がれるこの掟。とくに僕は、先祖が白虎隊のリーダーで、この精神の体現者であった篠田儀三郎であったから、特に厳しく教え込まれていた。日新館高校は全寮制の男子校だったし、大学や宇宙刑事養成所でも女と口を聞いたことはなかった。母を早くなくしていた僕は中学校を卒業してから祖母以外の女性と話したことがなかったのだ。


健一の先祖、篠田儀三郎。白虎隊のリーダーで、生まれてから死ぬまで一度も嘘をついたことがなかったと言われている会津魂の塊であった。

 それがよりによって、上官は女、それも軽薄そうな・・・。てっきり、筋骨隆々の40代後半ぐらいの武骨な人が上官になると思っていたし、アクバーを滅ぼしたとなればそう思うのも当然だった。

僕はめまいがしてきた。

しかも彼女はやたらなれなれしくべたべた触ってくる。

「ハーイ、ケン坊!わたし、宇宙刑事マリー!本名・上原真理子よ♪キミと同じ地球人なの。さあケン坊、行くわよ!

「・・・」僕は黙って深く頭を下げた。

     年上の人にはお辞儀をしなくてはならない、・目上の人に逆らってはならない、からである。

「なに照れてるのよ・・ふふ、可愛いんだから・・・♪、さあ、行くわよ

それじゃ、コム長官、ギャバン隊長、いってきまーす!」

 

唖然とする僕の手を取ると、真理子様は僕たちの母艦、ホワイトタイガーに乗り込んで行った。ホワイトタイガーというのは先祖の白虎隊にちなんだもので、僕のために作られた母艦だという。その期待に応えなくてはならない、という決意と、このぶっとんだ上官と上手くやっていけるのか、という不安を乗せて、ホワイトタイガーはワープした。

 ところが、目的地の月面にたどり着く前に、ちょっとした事故が起こり、木星のあたりにワープアウトした。本来じわりと通常空間に戻るのを、次元に巻き込まれないよう次元急ブレーキをかけたため、いきなり投げ出されてしまった。

ムニュ

 真理子さんのたわわな胸が僕の顔に覆いかぶさる。

く、苦しい・・・。でもちょつと気持いい。独特の甘い香りにうっとりする。

「ケン坊、大丈夫?ワープ装置が壊れちゃったわ。これから月や地球までは、普通航法で1ヶ月よ。この母艦はひととおり暮らしが出来るから、安心よ。

 さーて、わたしはシャワー浴びようかな」

 

「ま、真理子さま・・!」なんと真理子様はいきなり脱いだのだ。

 白く輝く象牙色の肌。

「なにじろじろ見てるの?ケン坊も一緒に浴びる?シャワーはそのドアよ。あ、この司令室がリビングで、キッチンで、寝室なの。トイレとシャワー以外は部屋はここだけ。更衣室なんてものはないのよ。キミとわたしと、2人だけのお部屋♪」

なんということだ・・・。

宇宙警察機構では、独身の男女をこうして2人きりでプライバシー皆無の環境において平気なのであろうか・・・。

 しかしギャバン隊長はミミーさんと、シャリバン先輩はリリーさんと、同郷福島県の先輩でもあるシャイダー先輩はアニーさんと、やはり一緒に戦い、その後結ばれている。

だが、先輩たちの母艦はワンルームタイプではなかったはずだ。羞恥心皆無のこの真理子様の誘惑の前に、ヤザンと戦う前にノックアウトされてしまいそうだ・・・。

 

そして最初の夜がやってきた。

なんと、ベットは一つしかなかった。枕が二つ・・・。

僕はシーツに包まり、床にうずくまった。

「ケン坊、風邪引くわよ。この母艦は予算の都合で居室スペースが削られているのよ。上官の言うことが聞けないの?」

 もう、どうにでもなれ・・・。

真理子様の熱い吐息に息子は膨らんだが、婚姻届を出す前に女の人に触れてはならない、と祖母や父から言われていたので、必死に耐えた。

 そんな日々を重ね、いよいよなつかしい故郷へ。

ホワイトタイガー本体を月面に残し、居室を大気圏突入カプセルとして降り立った。

「うーん、いい気持♪」

宇宙暴力団ヤザンに蹂躙されているとは、ちよつと思えない清々しいなつかしいふるさと地球。

 だが、真理子様はただのぶっとびギャルではなかった。やはり、凄腕の宇宙刑事だったのである。

 そのことを僕は、これからの戦いで思い知らされることになる。

 

「ケン坊、下北沢に遊びに行くわよ」

誘われるままに僕たちは下北沢に。東大時代同級生たちはよく遊んだ街だが僕は古書店に参考書を買いに行ったぐらいだった。

真理子様は任務そっちのけで服を買ったりアイスクリームを食べたりしている・・・。

 この下北沢には、東京を支配する、帝都急行電鉄総裁の衛藤啓介会長が総力をかかげて建設したグランドマーク、下北沢テカリエか゛完成しつつあった。

 

「ケン坊、ヤザンの狙いはここよ。手は打ってあるわ」

僕は、真理子様に無理矢理怪獣の着ぐるみを着せられてしまった。

「ケン坊、明日のオープニングセレモニーのヒーローショーとSKZ47ライブ、それがヤザンの狙いなのよ。だからキミは怪獣、わたしは司会のお姉さんになって潜入するのよ」

そして翌日・・・。

 

鳩ヶ谷首相はじめ、国会議員も臨席して、テカリエの竣工式が。下北沢駅をすっぽり覆い隠す摩天楼には150万人が収容されていた。

 人気アイドルグループSKZ47のライブと、SKZ47士がキラキラ星人と怪獣をやっつけるショーがメインのイベントだった。僕は何が悲しくて怪獣に・・・

真理子さんは名司会。

「さあ、みんな、あゆゆにパワーを!」オタクや女の子、小さい子供たちの大声援・・・。

「あ・ゆ・ゆ!」

 SKZのリーダー、綿貫亜友は人気者だった。

 ボコボコにされる僕・・・。こんなはずじゃ・・・。

僕がやっつけられて大歓声。しかし、この瞬間が悪夢の序曲だったのだ。

いきなりゆれるテカリエ。地震か?

そうではない。テカリエ自体が巨大ロボットになって新宿方面へ動き下したのだ。

 

「キャー」「助けてー」客や、SKZの女の子たちが黒服に捕えられる。パンチリーゼントの親玉は、あゆゆを捕まえている。

「ハハハハ、俺様は宇宙暴力団ヤザン組長・バン・ブーン様だ。建設作業員にまぎれさせてうちの若いものを入れ、テカリエを破壊ビルロボットとして完成させたのだ!これからはヤクザもここの時代よ」と指で頭をつつく。

 「イヒヒ、これから新宿は火の海だ!」

しかも、国会議員だけでなく、かれら経済的に操っている帝急の衛藤会長と、超人気グループSKZ、そしてそのリーダーのあゆゆこと綿貫亜友の祖父で、この国の黒幕である綿貫常夫押売新聞会長、さらに関連して押売巨神軍の中島重人監督など、政治・経済・運輸・芸能・スポーツの主要な人材が全て人質にとられているのだ。

 国防軍も警察も手も足も出ない。しかし、わずかに岩原裕太郎知事が、非常事態として彼に呼応した一部の国防軍・警察を率いて都民を誘導しつつ応戦していた。

 だが、巨大ロボの前に風前の灯だった。

テカリエロボを倒すには・・操っているバン・ブーン組長を倒す以外にない。

しかし、それは誰がやるのか。

そう、この僕、宇宙刑事ケインが!

 倒れた怪獣の気ぐるみに入っている僕にやくざたちは気づかない。

真理子様の合図で、怪獣の姿のまま、ヤクザどもに挑みかかる僕。

 「いいわよケン坊!」

「何事だ?」

真理子様もキックや肘うちでヤクザどもを次々倒していく。容赦ない・・・。

その戦いぶりはサディステッイックで、自由奔放だった。

「う、上原真理子・・・サディステッイクなやつめ・・・」僕は思わず心の中でつぶやいた。

ロボの進撃は、代々木上原の手前でなんとか止まった。

 岩原知事が全幅の信頼を寄せる、渡辺鉄也警部らが突入してきた。

 僕は、怪獣のきぐるみを着たまま、人質たちを彼らに託した。

真理子様の作戦は見事的中したのだ。

 

しかし!

  本物の怪人が現れて、僕たちに挑んできたのだ。

僕のパンチも真理子様のキックも通じない。レーザーブラスターさえ通じない。

 真理子様は追い詰められ、怪人に胸をまさぐられる。絶体絶命か・・・。

そのとき、真理子様が一瞬真っ赤に燃え上がった。

「転結!宇宙刑事マリー!」

 真理子様は一瞬のうちにメタリックピンクのコンバットスーツ姿に変わった。僕はまだスーツを持っていない。いや、僕のスーツは真理子様が持っている。彼女の許可がなければ僕は変身できないのだ。

怪人は一刀両断された。

「ケン坊、人質は?」

「ほとんど逃げました」

「OK♪」

 

 「畜生、宇宙刑事が紛れ込んでやがったのか!だがこれをみろ!

このガキを殺してやる」
「キャー、助けて!」

「何をするんだ!金ならいくらでもやる。いや、日本をくれてやる。孫だけは返してくれ」

 バン・ブーン組長はあゆゆと綿貫会長をなお人質にしていたのだ。

「宇宙刑事、このガキとジジイの命が惜しければ降参しろ」

「誰が貴様たちになんか!」

ところが・・。

「ケン坊!武器を捨てなさい!命令よ」

真理子様はコンバットスーツを脱いだ。

「組長さん、そんな小娘よりこのわたしの方がよろしくてよ。宇宙刑事を捕えた、となればあなたの出世も思いのほかよ。さあ、どうぞ召し上がれ」

真理子様は薄着になると、組長のほうへ近づいていった。

「その手には乗るか!」というものの、真理子様の色仕掛けに組長はデレデレした。

 その一瞬を真理子様は逃さなかった。

真理子様は、ピアスを投げつけた。大爆発するコントロール装置。テカリエはもうこれで動けない。

「おのれ、このアマ!」組長は醜悪な怪人の正体を現して、真理子様を襲う。

 しかし、真理子様はピアスを投げたとき、ブレスレッドも投げつけていた。それは跳ね返り、僕の足元に落ちた。

「ケン坊、今よ、転結しなさい!」

僕は腕輪をはめ、真理子様と同じように叫んだ。

「転結!宇宙刑事ケイン!」

 「いいわよケン坊、その調子♪け初めての装着に一瞬立ちくらみたものの、僕は雑魚たちを一瞬のうちに倒してしまった。

「おのれ若造め・・・」組長は口から無差別に火を吐いてきた。

「キャー、たすけてー」

僕は、あゆゆを庇っていて闘えない。しかし、一瞬の隙をついて真理子様は再び転結した。

 ついにダブル転結が実現したのだ。

しかし、組長の舌が長く伸びて、あゆゆが再び捕らえられてしまったのだ。このままではあゆゆが食べられてしまう。

 「こうなったら最期の手段よ。ケン坊、あとは頼むわね・・・」

「真理子様!」

「マリー・ピンクフラッシュ!」

真理子様はレーザーブレードでハート型の光の輪を作ると、それが彼女を包み込んだ。

 そして、ピンクの火の玉になって組長に突進していく。

「うわぁ!」一瞬手を離した組長を見逃さなかった。その隙にあゆゆを助け出した。

そして・・・。

ピンクの光は再び人の形になった。

 「組長、あなたの最期よ・・覚悟しなさい。」それは、裸の真理子様の形のピンクの光だった。

真理子様は組長に絡みつき、めろめろにしつつ、がっちりと固めた。そして、叫んだ。

「ケン坊、今よ、ケイン・グランクラッシュよ!さあ、今すぐ、わたしごと・・・。でないとこの怪物は倒せないわ。命令よ!早く」

「し、しかし・・」

「命令よ!」

僕は仮面の中を涙でぬらしながらも、最大奥義を繰り出した。

「ケイン・グランクラッシュ!」

 「うわーーーーーっ!」炎の中に、宇宙暴力団ヤザン組長・バン・ブーンは消えた。そして、宇宙刑事マリーも・・・。

 

 巨大な悪は滅んだ。

だが、虚しさだけが残った。

 変身を解いた僕は、ケインブレスレッドを叩き付けた。

「はじめて・・・・はじめて好きになった女の人を守れなくて、何の宇宙刑事だ・・・。

辞めてやる・・・。真理子さん・・・」

僕は男泣きに泣いた。

 すると、背後に誰かの気配がした。どこかでかいだことのあるにおいがする。

「ふーん、ケン坊、はじめて好きになった女の子って、わたしだつたんだーーー♪」

「ま、真理子様・・・!?」

「何驚いているのよ、ちゃんと脚生えてるわよ」

「で、でも・・、確かに組長ごと僕がこの手で・・。それに、後は頼むと・・・」

「バカね・・わたしが死ぬとでも思ってたの?まだ原宿のマリチャンクレープ食べてないのよ。でも、泣いてくれてありがとう。それに・・・さっきの言葉、嘘はないわよね?会津の男は絶対嘘つかないんだよね?」

 真理子様は強く抱きついてきた。よく見ると裸だった。

「はい、これ・・・。大事なブレスレッド・・・。これはコンバットスーツの転送装置であり、警察手帳でもある大事なものよ。今日から、君が、地球駐在の正規の宇宙刑事よ。コム長官からの辞令もこのとおり。

 がんばってね、宇宙刑事ケイン!

真理子様は僕にそういうとほっぺにキスをした。

「で、でも真理子様は・・?」

「わたし?わたしは、一着1京円するコンバットスーツをなくしたから、首よ。だからケン坊のお嫁さんにしてもらうことにしたの♪」

「そ、そんな・・・。急に言われても・・・それにスーツはどうして・・?」

「マリー・ピンクフラッシュは、スーツそのものとわたしの生体エネルギーを敵にぶつけて動きを封じる最後の手段。止めを刺すためにはほかにもう1人の宇宙刑事が必要だったのよ。わたしは、ただのか弱い女。でも、生体エネルギーとスーツを結合できる体質だったから、宇宙刑事に選ばれただけだったのよ。それに、30前にお嫁に行きたかったし、美味しいもの食べて可愛い服着たかったから・・・コム長官に辞表出してきたのよ。

 でも、条件としてキミを一人前にして後任を育てることを言われたの。

合格よ、ケン坊、いいえ、宇宙刑事ケイン!」

「で、でも・・」

「あのね、地球担当宇宙刑事っていっても、要するに村の駐在さんみたいなものなのよ。駐在さんは交番で奥さんと2人ですんでいるでしょ?だからわたしはケン坊のお嫁さんになるって決めちゃったのよ。よろしくネ、ケン坊♪」

聞けば真理子様のお父さんも駐在さんだったと聞く。そして、両親はアクバーの先遣隊に殺され、シャリバン先輩に助けられた真理子様はバード星で訓練を受けたのだという。

 

 こうして、僕は晴れて地球担当宇宙刑事となり、業務提携している警視庁の計らいで、ホワイトタイガーは山奥の駐在に偽装し、表向きは駐在のおまわりさんとして、ヤザンの残党と戦うことになりました。

 そして、真理子は、僕と結婚して・・・

「篠田真理子」になって・・・あいかわらず、元気いっぱいに、天真爛漫に、そしてセクシーに駆け回っています。そして、人妻なのに・・年上なのに・・・なんとSKZのメンバーになってしまいました。

 真理子・・・年上のキミだけど・・・。

僕にはいつだってキミは天使さ!