聖母機マミー #1

聖母機マミー

西暦20××年。日本
そのころ、日本、特に都内各所で、ロボットのような怪人による金融機関や公共施設、商業施設の襲撃が相次いでいた。銃で撃たれても跳ね返し、金庫を素手でこじ開けるバケモノたちの襲撃に、市民は戸惑うばかりだった。初めは、金目のものの強奪だけだったが、次第に女性をレイプしたり子供を惨殺するような凶行が目立つようになった。だが、政府も警察も対処できない・・・。
 僕、南条英樹、警視庁巡査長、新高井戸駅前交番巡査も、時折怪人出現の報に緊急出動したが、何もできなかった。
そんなある日・・・。奇蹟が起きた。

 職場の近く、京王銀行新高井戸支店に、奴らの襲撃があった。所長に留守を任せ現場に急行した僕と加藤先輩だったが、僕たち交番のおまわりさんがとてもかなう相手ではない。とりあえず現場近くに非常線を張り、逃げる人々の誘導をするしかなかった。機動隊が突入するも、押し返され、なすすべもない。
 その時である。突然、空から一筋の光が差したかと思うと、僕たちの目の前に、純白のロボットが・・よく見ると女性型が現れ、悠然と入っていくではないか。


 ロボギャングは矛先を彼女?に変え、指から機銃弾を乱射するが、軽快な音を立てて、全てはじき返してしまった。
 そして「あなたたち、これ以上悪いことはやめて。盗んだものは返して、ここから帰って」
(
あ、しゃべれるんだ…)と驚いたけど、そんな説得がきくなら僕たち警察なんていらない。
 逆上したロボギャングは、彼女に対して、殴る、蹴る、発砲するなどの暴虐の限りを尽くした。
だが、ロボットである彼女には全くダメージがない。ただ、純白のボディに弾丸がこすった跡が黒くかすれていた程度だ。そしてついに、彼女は押し倒されてしまった。そしてメカ乳房や、股間のハッチを踏みつけられたり揉まれたりして弄ばれた。そのたび、疼き声を上げて苦しむ彼女。だけど僕たちには何もできない・・・。
その時。
「もう、十分暴れたでしょう?こんどは私の番よ」というと、メカ乳房からピンクの光線を出した。
 「さあ、私の中に入ってきて」
彼女は脚を大きく広げ、ロボギャングに中に入るように促す。
誘われるままに彼女を抱いたロボギャングは、狂ったように彼女を犯した。
 初めて見た、ロボット同士の性交に、思わず興奮して白いものを出してしまった僕。
周りの人たちもあっけにとられてみているだけだ。するとどうだろう。純白だった彼女が真っ赤に光ったと思うと、おなかが大きくなり、そして上に乗っていたはずのロボギャングはどんどん小さくなって、おなかの中に入ってしまった。そして、さらにしばらくして、彼女は叫んだ。
「だれか鋏を持ってきて」たまたま、アタッシュケースの中に、鋏が入っていたので駆け寄った。すると、
「オギャーオギャー!」 彼女は男の子を出産した。
 「さあ、へその緒を切って」恐る恐る切ると、彼女は男の子を抱き上げ、乳を吸わせた。いつのまにか、片胸だけが豊かな生身の乳房になっている。気持ちよく吸い付く赤ん坊。
 「皆さん。犯人はこうして、汚れない赤子として生まれ変わりました。警察にお預けしますから、里子を探してあげてください。」というと、今度は倒れていた機動隊員に胸から発射したビームを発射すると、けががみるみる治ってしまった。そして背中の翼を広げると空高く飛び上がり、光となって消えてしまった。

 何か,夢か幻を見ていたようだった。こうして一つの事件は終わり、翌日から何事もなかったようにパトロールを続けていた僕。
 
その後も、都内や神奈川、埼玉各地で謎のロボット海賊と女性ロボの戦いがあったようだが、僕たちの城南地区は平穏だった。
 ところで、駅のすぐわきに僕たちの交番があるが、向かいには古臭い修道院があった。大正時代にカナダから来たシスターが建て



たらしいが、今も玄関先をシスターたちが掃除していた。

 その中に、若くてムチムチとしたぽっちゃり型のシスターがいることに僕は気づいた。
 シスター服越しにも、豊満な肉体、乳房、少したるんだおなか、盛り上がった土手などがはっきりわかる。でも、目が合ったとき挨拶するぐらいで、特に何の付き合いもなかった。
 ところで僕たちは、修道院とはロータリーをはさんで反対側の向いにある、麺麺亭という中華料理屋で食事をしたり、出前を取っている。中華料理店だが、もちろんカツどんもある。警察官と犯人は、かつ丼を食べなくてはならない。これが、定年延長して務めている関根所長の口癖で、新人教育でもあった。いつもどおり、勤務に入る前に、麺麺亭でチャーシュー麺とカツどんを頼んで食べようとしたときである。
 茶髪のセミロングを後ろで編み込んだ女性が、隣のカウンターに座った。
「マスター、わたしカツカレー大盛と餡掛け麺、ギョーザ2枚つけて」と頼んだ。
若くて肉体が資本のこの僕よりも、さらに多い量の料理を頼む女性に驚いた。しかしマスターとは顔なじみのようで、たまたま僕と時間が被らないだけであちらも常連さんのようだった。
 でも、見たことのない人だった。出来上がった料理を、凄い勢いで豪快に平らげる彼女。
「マスター、ラーメンお替り!」
 たまらず、声をかけてしまった。「お嬢さん、そんなに食べて大丈夫ですか?」
「平気よ。君ももっと食べなきゃ。マスター、若いおまわりさんにも餃子1枚頼むわ」
「え、どうして僕が警官って・・・?」
「だってお向かいさんでしょ?」改めて彼女を見た。いつもシスター服に包まれて顔は良く見えなかったが、あるぼっちゃりシスターに間違いなかった。
 「改めまして。わたしはシスター・マミー。本名は三村真美です。よろしくネ」
「あ、僕は南条英樹巡査長です。よ。よろしく」
「でも、シスターがこんなところで食べてていいんですか?」
「だって、修道院のお料理では足りないんですもの。いいこと?このことはマザーヘレサには内緒よ。」というと、シスターマミーは、いきなり僕の唇を奪った。ファーストキスだったが、それは中華料理の油と豆板醤とニンニクの味のするものだった。
 こうして僕は、マミーこと真美さんに恋してしまった。
だが一つ困ったことがあった。実は僕の実家は神社で、親父が75歳になったら警察辞めて跡を継ぐことになっていたのだ。それに一度シスターになった人は結婚とかできないらしい。
 それでも、それから麺麺亭に行く時間を示し合わせて食事を重ね、非番の時にはデートの約束もする仲に進展した。


 年は僕より少し上らしいが、丸い顔、大きな目、大きな口、豪快な笑いと豪快な食べっぷりがすっかり気に入ってしまった。笑うとできる巨大なえくぼもまた可愛い。そして、歩くたびに揺れる巨大な胸と尻。どんな服装でも、それはその存在を強くアピールしていた。
 
 そんなある日・・・またしても宇宙海賊バテレーンの襲撃が、なんと幼稚園を!逃げ惑う子供たち!運悪くその日は僕は非番。そして真美さんとの初デートの日だった。
 「真美さん、ごめん。事件です。行かなくちゃ・・・」
「待って、私もいっしょに行くわ」
「でも、危険です。相手は人間じゃないんですよ、ロボットのバケモノなんですよ!」
「大丈夫。私も同じだから。ぐずぐずしてられないわ。今すぐ行きましょう!」
「え、何言ってるの!」と思うよりも前に、目の前の真美さんがピンクの光に包まれた。すると真美さんだったモノは、いつかの女性ロボットに変わってしまった。
 「さあ、着替えたらつかまって」僕は促されるまま制服に着替えると、真美さんだったロボットは背中の翼を展開し、僕をつかんで飛び立った。そして、あっという間に現場の幼稚園に。
 「子供をいじめる者は、この私・・・聖母機マミーが許さない!」
 胸からピンクのビームを乱射すると、そのビームにからめとられた敵下っ端はみんな縛り上げられてしまった。
「南条君、今のうちにけが人と保母さんを外に逃がすのよ!」聖母機マミーは、真美さんの声で僕に指示する。ちょうど関根所長と加藤先輩も駆けつけてきてくれた。三人で必死に誘導する。実は、年配の関根所長と加藤先輩、僕の三人は、警視庁の黄門・助さん・格さんと呼ばれている。
 しかし、今度の敵は手ごわかった。それもそのはず、バテレーンの日本攻略隊長、ザビエックス中将だったからだ。
 聖母機マミーは、いつものように、ザビエックス中将に説得を試みたが、聞く耳を持たない。そしていつものロボット怪人の攻撃には耐えられたマミーのメタルボディが、無残に破壊されていく。
それでも、けっして相手を傷つけようとしない聖母機マミーは、一切攻撃せず、必死に耐えている。しかし、ついに、みぞおちの当たりにドリルアームが突き刺さり、火花と血と機械油をまき散らしてしまった聖母機マミー。顔面もひしゃげ、はぎ取られた仮面の下からは、ふっくら優しい真美さんの顔ではなく、醜い機械の顔が覗き、さらに透明な容器に入った脳みそもむき出しになっていた。
 「畜生、バケモノめ!」
「やめろ南条!」
僕は思わず飛び込んでしまった。拳銃を乱射するも、全く効かない。そんなことはわかっていても目の前の悪党を許すことはできなかった。
 しかし、その刹那、僕の視界は一瞬真っ赤になり、何も見えなくなった。ザビエックス中将のかぎづめが顔面を直撃したのだ。(ああ僕は死ぬんだな)
 その時である。「南条君、私の中に入ってきて」吹き飛ばされ、倒れた僕はもう目が見えなかったが、同じように倒された聖母機マミーが這いより、僕に重なった。
 すると、突然視界が開け、力が湧いてきた。自分がどうなったかは知らないが、なぜか手にした剣をザビエックス中将に突き立てると、彼は大爆発し、そして僕も気を失った。そのあとのことは何も覚えていない。

 そして目が覚めた。
「ここはどこだ?ステンドグラスが見える。ここは天国なのだろうか。嗚呼僕は死んだんだな。でも異教の天国に行ってしまっては先祖に申し訳ないなあ・・・」と思い、恐る恐る目を開けると、そこには真美さんとマザー、それに所長と加藤先輩、そして他のシスターたち、そしてなぜか陳マスターがいた。
 そして、あの時のことを聞かされた。そして、そのことを目撃したのは所長と加藤先輩の二人だけで、他の群衆はただただまばゆいピンクの光しか見えていなかったという。
 瀕死の僕に重なった聖母機マミー。そして僕は彼女の中に取り込まれると、聖母機マミーは男の姿に変わり、背中の翼を引き抜いて剣に変え、ザビエックスを倒した。
 そして宇宙犯罪組織バテレーンはアンドロメダ第105惑星から来たコンピューターに支配され、攫われあるいはスカウトされた悪人たちが改造されたサイボーグ軍団で、マザーヘレサはその人体改造を担当する科学者だったこと、だが、自分の作った怪人が、自分の前身と同じシスターを襲って殺害したことに怒りを感じて組織を裏切り、真美さんをマミーに改造したことなどを話してくれた。
そして、戦いの後、僕は赤子ではなく元の姿で産みなおされて生き返ったこと、真美さんが大食いなのは、生身の女性の姿を維持したり、人間を人工子宮を使って産みなおすための栄養分が必要であるからであり、普段から大食いなわけではないことも聞かされた。マザーから陳マスターにはそれとなく事情を話してあり、食事代はタダにしてもらっていたそうだ。
 そして、「ナンジョウさん。マミーハテキをタオスコトガデキマセン。カミサマにツカエル身ダカラデス。デモ、バテレーンの攻撃ハマダツヅクデショウ。ドウカコレカラモマミートイッショニヤツラトタタカッテクダサイ」
「南条君、私からもお願い。」
「南条、男ならやるしかないぞ、ワシらも本署にばれないよう、全力で支えてやる」
「そうだ南条、しかし貴様、うらやましいぞ。」
所長と先輩にも励まされ、僕は真美さん、聖母機マミーのパートナーとして、悪と戦う決意をしたのだった。