宇宙刑事マリー外伝
宇宙刑事犬シャルル
宇宙刑事ケインことこの僕、篠田健一が地球担当となり、警視庁奥多摩駐在所巡査長をを兼務するようになって半年・・・。元敏腕宇宙刑事だったマリーこと妻の真理子に振り回されながら、日夜パトロールに励んでいます。
ただ、「怪人出現」との報で出動しても、熊だったり、「宇宙海賊出現」、と出動するとDQNバイクに過ぎなかったりと・・・。そんな毎日でした。
そんなある日・・・
「見て見てケン坊!このエステサロン一回たった500円なのよ〜♪わたしもいっちゃおーっと!」
「でも真理子・・・。ここ(奥多摩)から池袋までは乗り換え含めて2時間かかります・・」
「ビャッコライダーで送りなさいよ!」
「目だってしまいます!」
「フン!いいわよ、電車で行くから。でもせめて飯能までは送りなさいよ!」
いつものこのわがままにも惚れた弱みでしぶしぶ・・。嗚呼、宇宙刑事ってこんなものなのだろうか・・・。
「美容サロン・マリー・アントワネット。名前からして宇宙刑事マリーに相応しいわね♪」
真理子は意気揚々と乗り込む。しかし予約でいっぱいで行列は店外に続き、この日は徒労に終わってしまった。
「何よ!」ふてくされた真理子だったが、
「ケン坊、あしたの朝一の予約入れたから、泊まってくるわね」
と通信をよこし、帰ってこなかった。
しかし・・・。翌日も、その次の日も、一週間たっても帰ってこなかった。
そして新聞に、
「若い女性を中心に都内で失踪多発、原因手掛かり不明」と記事が載った。
「これだ!」
事件に巻き込まれたに違いない。僕は月面に隠した戦闘母艦ホワイトタイガー本体に瞬間移動すると、銀河連邦警察本部のホストコンピューターを操作し、情報を探るとともに、真理子に緊急連絡を入れた。
返信はなかったが、かすかな反応から、だいたいの居場所がわかった。臨海地帯の廃業したデパート付近が怪しい。
「宇宙刑事ケイン出動!」
コンピューターの指示に従い現場に踏み込むと・・・。
案の定、そこは宇宙犯罪組織ワルモンダーの基地だった。
「真理子さんがここに囚われている。ほかに人質が・・・」
久々の本格任務に腕が鳴る。
その頃、敵アジトでは・・・
「ゴリー様、発送準備は整いました」
透明カプセルに詰められた全裸の女性たち。醜悪な猿人たちが箱詰め作業をしている。
格安サロンで誘拐した女性たちを、性的奴隷として宇宙貴族に売りつけようとする作戦だったのだ。
しかし、容姿の劣るオバハンらは怪獣の食料に振り分けられるのだった。
「オーホホホホ。このブスどもの欲望を利用したあたしの作戦は大成功だわさ。」
派手なドレスを着たメスゴリラが高笑いする。
「ゴリー様、こいつはいかがしましょう?」
「そいつは、このあたしのオモチャにするわ。貸しなさい」
「何するのよこのゴリラ!ブス!デブ!」
なんと真理子が捕まり、いたぶられている。
「生意気な口きくんじゃないわよ!この宇宙一の美女ゴリー・アンタハアッポ様をゴリラ呼ばわりしたブスは生かしちゃおけないわ。ただ、すぐには殺さない。たっぷりいじくってからジワジワと殺してやる」
必死に抵抗するも、怪力で締め上げられ、数々の敵を倒してきた女の武器も通用しない。相手が女である場合のテクニックも、分厚い筋肉に阻まれ通じなかった。宇宙刑事マリー最大のピンチだ。
そこに乗り込んだのがこの宇宙刑事ケイン。
屈強のゴリラ戦闘員を次々なぎ倒し、ガードロボットも破壊した僕はついに玉座にたどり着いた。
「宇宙の無法者ワルモンダーの手先!宇宙刑事ケインが逮捕する!転結!」
転結した僕は、サイボーグゴリラ怪人をも倒し、ゴリーに迫った。
しかし・・・
「威勢がいいわね坊や。でもこれをごらん?」
「ケン坊、わたしにかまわずこの女を倒して!」
「さあ、降参しなさいよ」
「・・・・」
コトっ
まず僕は銃を落とした。
「降参する・・・」
「け、ケン坊、だめよ・・・」
こうして二大宇宙刑事は猿人女王ゴリー・アンタハアッポに捕らえられてしまった。
ゴリーの拷問の対象は、真理子から僕に移った。
「イヒヒ、宇宙刑事を捕まえたからあたしも大もうけね。しかもあの女の方も宇宙刑事だったなんて。
でもそんなことはどうでもいいわ。許せない!」
ふんどし一丁になった僕を激しく鞭打つゴリー。
「なぜだ!一思いに殺せ!」
「お黙り!坊や、逆に聞くけどさ、何であの時あたしを逮捕したり殺さなかったのさ!宇宙刑事ならあたしを逮捕できたはず。ワルモンダー大幹部のあたしを捕らえれば表彰モノのはず。なのにあんたはあっさり降参した!それは・・・!この女が美しいから!わたしはこの宇宙で一番美しいはずだった!しかしこの女には勝てなかった。許せない!でもその女のために手加減したあんたがもっと憎い!だから二人ともなぶり殺しにしてやる!」
どうやら、ゴリーは自らを宇宙一の美女と思い込んでいたようだが、その座を真理子様に奪われたと思い、激しい敵意を持ったようだ。たしかに真理子様は美しい。けれど、それでもなお、ゴリー自分は宇宙で2位と思っている。おめでたい奴だ。しかし僕たちは絶体絶命だ。
しかし・・。真理子様は僕にささやく。
「ケン坊、安心して。ギャバン隊長が助っ人の宇宙刑事をよこしてくれたわ」
目で了承した僕。
真理子様のピアスは右が高性能爆弾、左が高性能宇宙通信機になっているのだ。だから真理子の居場所も僕はわかったのだ。
そして激しい拷問に耐えた翌日・・・。
バリーン
ついに助っ人の宇宙刑事がかけつけた。しかしその顔を見た僕は驚くとともに、狂喜した。
「お前は!」
助っ人は、会津の幼馴染で日新館でも主席を争った、酒井幹冶だったからだ。
「待たせたな健一!」
「ミキジ!お前も宇宙刑事だったのか?知らなかった・・・」高校卒業後ずっと離れ離れだったが、まさか彼が宇宙刑事だったなんて・・・。しかし訓練所でも会ったことはなかった。
ところが、幹冶もまた、サイボーグゴリラに阻まれる。
「オーホホホ、宇宙刑事が三人も揃って惨めなものね・・」
「フ、勘違いしているのはババア、貴様の方だぜ。見ろ!」
幹冶はそう言い捨てると口笛を吹いた。すると、黒い影が飛び出し、一瞬真っ赤に光り、白銀の影に変わって敵に踊りかかるとともに電磁バリヤーの壁を軽々と超え、僕と真理子様のいましめを解いた。
「ババア、宇宙刑事は俺じゃない。こいつだ。そうよ・・宇宙刑事犬シャルルの牙が貴様らの野望を打ち砕くのさ!」
宇宙刑事犬シャルルの活躍で、次々倒される猿人たち。跳べ、走れシャルル!
驚いて手を離したゴリーの手を振り払った幹冶はブレスレッドを投げた。
「姐さん、長官からの贈り物だ」
「でもわたしは・・・」
「いいってことさ、それは私物だぜ好きに使ってくれ。それより二人とも急げ!シャルルは10分しか転結できないんだ!」
宇宙刑事犬シャルルは、犬であるため、舌を格納したままでは10分しか戦えないのだ。
「おのれ〜!いでよスーパーコング!」
一際巨大なサイボーグゴリラが現れ、僕らに迫る。
「いくわよケン坊!」
「転結!」「転結♪」僕たちは迷わず転結した。
宇宙刑事ケイン&マリー、そして宇宙刑事犬シャルルの活躍で、スーパーコングは破壊された。
「待て!」逃げようとするゴリーに迫る僕。
「今だ健一、とどめを!」幹冶が叫ぶ。
「ひえー、命だけはお助けを〜この宝石全部あげるからさ〜」
みっともなく命乞いするゴリー。
だが、「どんな悪い奴でも・・・どんなに心も姿も醜くとも・・僕は女は殺せない。
ゴリー・アンタハアッポ!貴女を逮捕する!」
「あとは俺たちに任せな!宇宙裁判所まで護送するぜ。」
「頼むぜ幹冶!」
こうして事件は解決された。がっちり握手する僕と幹冶
「しかし驚いたなあ・・・幹冶が銀河警察の一員だなんて・・・それに宇宙刑事犬。聞いてなかったよ」
「それは俺の台詞だぜ。女に近づいただけで茹蛸みたいになっちまうお前がこんなべっぴんさんゲットだもんな・・・」
「ハハハハ」
「でも幹冶は子供の頃から犬好きだったもんな」
「まあな。俺んちはご先祖様が犬に助けられているからな。」
幹冶の先祖、白虎隊の酒井峰冶は、激しい戦闘中仲間とはぐれて、たった一人敵の猛攻を受けたが、愛犬の「クマ」によって救出され、ひとり生還したのだ。僕たち白虎隊の子孫は僕も含め、実際には隊員の兄弟やいとこの子孫だが、幹冶は正真正銘の直系子孫なのだ。
その峰冶さんとクマの銅像は今でも会津の飯盛山に残っているほどの伝説なのだ。
しかし真理子様は機嫌が悪い。
「何よ・・でも男の友情っていいものね・・・」仲間はずれにされてやきもちをやいているようだった。しかし・・
「クーン」
「あらシャルルちゃん、おりこうさまね♪」
シャルルをなでなでする真理子様。
「おや?シャルルが俺以外の人間になつくなんて?そんな馬鹿な?」こんどは幹冶がやきもちを。
「ハハハ・・・」
「じゃあ、また何かあったらいつでも呼んでくれよな!浮気しないように・・・ってお前には浮気なんて無理か・・・元気でな!」
幹冶とシャルルはホワイトウルフ号で次の任地へ旅立っていった。
蘇った友情と滅びた悪。そして宇宙の名犬シャルル。銀河警察がある限り、宇宙の悪は必ず滅びるのだ。
完