南海の大海戦(その2) いずみの秘密
「由香さん♪」「いずみちゃん♪」
由香には最近、親しい友人が出来た。銀色の髪と緑色の瞳を持つ、愛川いずみ。
不思議な身体的特徴を持つ彼女は物静かでいつも読書をしている。両親は既に他界し、母親は外国人だったという。考古学者の祖父と2人で洋館に住んでいる。
由香も母親を早く亡くし、父も艦隊勤務で殆どいなく、祖父母に育てられた境遇のため、また同じお嬢様タイプということで、話も趣味もよく合ったのだ。由香といずみは、互いにお菓子や手芸を造りあったりして交流を深めていた。
そんな愛川邸に、1人の若者が、人目を忍ぶように訪ねてきた・・・あの大海戦の数日前であった。
「姫・・・。いよいよ時が来ました。太子と提督は、こんどの海戦で活躍すれば、わたしたちの母国、エメロード星を独立させてくれると約束してくれたのです。私は、私は・・・。
姫の名を冠した巡洋艦「エスメラルダ」の名に賭けても、必ず手柄を立てて御覧に入れます。そして、勝利の暁には・・・一緒に懐かしいふるさとに」
「プラド・・。わたしはもう星には帰りません。エスメラルダ姫ではなく、愛川いずみとして、地球のお友達と楽しく暮らしたいのです。その友達をグロテスターの手先になって攻撃しようといるお前の顔など、見たくもありません。出ておゆき」
「姫・・・」
この若者、プラド、グロテスター支配下の惑星エメロード所属の巡洋艦、エスメラルダの艦長を務める若き軍人で、その「エスメラルダ」こそいずみの本当の名前でもあったのだ。銀色の髪と緑の瞳は、エメロード星人の特徴であった。その緑に輝く星は、エメラルドで出来た星であり、今から地球時間で10年前にグロテスターに侵略され、国王夫妻は殺害され、人民はグロテスターに編入されたのだ。彼等は勇敢で、特に海軍力にすぐれ、グロテスターの尖兵となって活躍を続けていた。しかし、その本当の目的は、ある星、すなわち地球に亡命したエスメラルダ姫を擁して星の再興を認めさせるためであったのだ。
グロテスターの進駐直後は、さほどの虐待もなく、国王一家も監視下とはいえ健在であった。それが一変したのは、総督がグロテスター正規軍人のウインタービル卿から、不気味のドクロのサイボーグ、ワルモナイトに代わったときからであった。ワルモナイトは宝石で出来ているこの星を私物化し、また怪人の拠点としてしまったのだ。国王夫妻は殺害され、人民は奴隷化された。このとき、老臣ガイガンに連れられてエスメラルダ姫が亡命できたことだけが唯一の救いだった。
また、既にグロテスター海軍に編入され各地で活躍する軍人たちも、怪人の魔手から逃れることが出来たのだった。
グロテスター海軍総司令官で、エメロード星初代総督でもあったウインタービル卿は、エメロード星人、とりわけ若くて勇猛なプラドに目をかけ、非正規グロテスター人でありながら水雷戦隊司令に取り立て、エドワルド太子にも進言して、エメロード星をグロテスターの奴隷星から、連邦内独立国家に格上しようと思っていたのだ。
それは、大嫌いな怪人を追い出す口実でもある。
それにもまして、年に似合わずプラドの指揮は大胆かつ勇猛で、グロテスター海軍の勝利の影には必ず、巡洋艦エスメラルダとキャプテンプラドがあったのだ。
いずみの祖父は実の祖父ではなく、老臣ガイガンだったのだ。
そして・・・ついに始まった大海戦。約束どおり、プラドの率いるエスメラルダは、七海の「望」と一進一退の攻防を繰り広げ、地球側に得意の肉薄雷撃をさせない活躍を見せていた。
その頃・・
「姫・・・大変で御座います・・・。プラドめが・・怪人に付けられていたようです。ここもあぶのうなりました・・・」
「爺・・・」
「キャー!」
突如、黒づくめの大男につかまれるいずみ・・。
「姫!」
しかしガイガンは一瞬のうちにノックアウトされてしまった。
「よし、姫は確保したぞ・・・だが、クイーン・エスメラルダを起動するにはティアラを探さなくてはならないぞ・・・」怪人軍団の襲撃だった。そのリーダーは、不気味な昆虫のようなサイボーグであった。
彼等は、エメロード星の守護神・クイーン=エスメラルダという巨大ロボを発掘したものの、その起動には姫とそのティアラが必要なことを知り、いずみの行方を捜していたのだ。
プラドを尾行すれば必ず姫に会うだろうというワルモナイトの感はあたった。
捕えられ、無理矢理クイーン・エメロードに乗せられるいずみ・・・。
「さあ、言え、ティアラはどこだ?」
「知らないわ・・」
「嘘だ」
ティアラが無ければ、クイーンエスメラルダも単なる巨大マネキンに過ぎない。ティアラはどこに・・・。
「ねえ、隼人君、叔父様、お兄ちゃんに香織さん見てみて!素敵でしょう?
これ、お友達のいずみちゃんから借りたのよ♪お姫様みたいでしょ?」
なんと、エメラルドティアラは、由香の手に・・・・。
「よし、ティアラなしでも、とにかく姫を詰め込め!ワシが操縦して戦ってやる!」
怪人ハエザードは、無理矢理いずみをクイーン・エスメラルダの中心核に放り込むと、補助エンジンを使って操縦し、暴れだした。
「隼人、由香、怪人ロボ、女性タイプだ・・・」
「判りました!いくぞ由香ちゃん、変身、そしてすぐ合体だ!」
「OK♪」
2人は変身し、すぐ合体して現場に急行した。
エメラルドグリーンの巨大な女ロボがいるが、特に暴れているわけではない。いや、暴れているのだが動きがあまりにも鈍いのだ。
「くそっ・・ワルモナイト様は究極の戦闘ロボと言ったのに・・デク人形ではないか・・」
ハエザードは悔しがる。
そこに颯爽とあらわれたバルディスター。
ところが、そのとき突然クイーンエスメラルダの瞳が輝き、自らの意思で動き出したのだ。ハエザードの操縦を無視して。
「由香さん・・由香さんでしょ?わたしいずみよ・・・」
なんとクイーンエスメラルダはいずみの声でしゃべつたのだ。
「いずみちゃん?」
「そうよ、わたしはこのロボの核になっているの・・・。そして怪人が乗り込んで操縦していたのだけど・・。あのティアラが無いと、本来の力が出ないのよ。由香さんもしかしてティアラつけたままそのロボに乗り込んでいるの?だから反応して私の意志で少し動いたみたいなの・・・」
「ちがうわ。乗り込んでいるんじゃなくて隼人君と合体したのよ。ティアラは・・いけない、変身したときそのままつけていたわ!」
それを聞いたハエザードは、「イヒヒ。そうか・・・バルディスターを分離させればティアラが手に入るのだな?」
そういうとクイーンエスメラルダから飛び出してきた。そして、たまたま通りかかった車を破壊し、中に乗っていた家族を捕らえた。
「バルディバンとバルディーナに告ぐ・・ただちに合体を解除して、ティアラをよこせ!さもないとこいつらはみんな・・こうなるぞ!」
いきなり父親の首を鉤爪で落とすハエザード。悲鳴を上げる妻子・・・。
「仕方ない」
バルディスターは2人に分離した。
すると、「お前がバルディーナだな?その仮面の下にティアラを隠し持っているのだな・・・よし、こうしてくれる」
ハエザードは粘着溶解液を含んだ下あごを伸ばし、バルディーナ=由香の仮面を襲った。
だが、そのとき、仮面の眉間にあるランプ(合体表示灯)が突然緑色に輝き、ハエザードはその光を浴びてのけぞった。
「何?」
「由香ちゃん、その額の石は・・。そうだわ。変身した時、マスクとティアラが一体化してしまったんだわ。」
「え、そんな大切なティアラを・・・」
「今はそんな場合じゃないわ。早く怪人を倒して私をここから出して」
いずみは、グロテスターの怪人や、バルディーナに変身した由香を見ても驚かない。由香は逆に驚く。後で知ったことだが、彼女はクロテスターに侵略された星のプリンセスだった。だからサイボーグ同士の戦いなど慣れていたのだ。
怪人戦闘員たちが繰出す。隼人はそれを次々倒す。
一旦合体した後なのでエネルギーは十分。その間にも、執拗にバルディーナを狙うハエザード。ブーン。翼を広げ、空から襲うハエザード。
そのとき、バルディーナの背中から純白の翼が生えてきた。エンジェルウイング・・・改造者の細川博士が知らない間にいつのまにか生えてきた由香だけの装備である。
ひらひらと舞いながらバリヤーで攻撃をかわす由香に、ハエザードは痺れをきらし、ザコハエたちと合体・巨大化した。
「隼人君、チャンスよ、わたしたちも再合体よ」「よし」
「待って!わたしも力を貸すわ」
クイーン・エスメラルダの胸から強力なエネルギーが照射される。
その中で合体した2人は、ハエザードの羽をむしりとって、叩き落した。大勝利だ・・と思いきや、潰されたハエザードの死体から、無数のウジザードが発生し。足元に絡み付いてきた。
そしてウジザードは合体して巨大な蛆虫になり、バルディスターに糸を吐きつけ、繭になってそのエネルギーを吸収し、一回り大きなハエザードになって復活した。
大ピンチだ。
そのとき、2人を救ったのは、クイーン・エスメラルダだった。
そのコアから放射された緑色の光が、ハエザードを溶かしてしまった。
「隼人君、今よ、ハエザードの脳みそが見えたわ。それを潰して!」
隼人は、溶解したハエザードの中から出てきた脳カプセルを踏み潰した。
クイーン・エスメラルダは崩壊して、中からいずみが投げ出された。間一髪彼女を助け、合体を解除したバルディスターだった。
「いずみちゃん、大丈夫?」
「わ、わたしは大丈夫よ・・それより爺が・・・」
「ひ、姫・・」
「爺!」親代わりに育ててくれたガイガン老人は、瓦礫の下で瀕死になっていた。
隼人は瓦礫を取り除き、由香は胸から治癒光線を出す。
「かたじけない・・。姫、ご無事で何より・・・しかし守護神があのように・・・」
クイーン・エスメラルダは、エメロード星の科学の粋を結集して造った超ロボだ。王家の血を引く王女が、黄金のティアラをつけて乗り込むことによりその最大の力を発揮する。だがグロテスターの来襲時、いずみ=エスメラルダ姫はまだ幼く、父王は男のため、母后は嫁であり王家の血を引いていないため操縦できず、グロテスターの蹂躙を受けてしまったのだ。しかし、エスメラルダ姫を密かにつれて脱出した守役ガイガンは地球に亡命し、姫の成長を待っていたのだった。
しかしハエザードを倒すとき全エネルギーを放射して崩壊してしまった。
また、その起動に使うティアラが・・・。
ヘルメットを脱いだ由香。だが、ティアラがない・・。
「やっぱり、変身したときあなたのマスクと一体化してしまったんだわ。でもよかった。これでもうグロテスターに奪われる心配はないわ。」
「でも、それは王位継承の証しなんじゃ・・・どうしましょう」
「いいのよ。エメロード王国はもうないの。わたしは愛川いずみ。由香さんの友達よ。それでいいでしょ?」
「いずみちゃん・・」「姫様・・」
「姫、ティアラなどなくとも、この老いぼれが貴女様がプリンセスであることの生き証人。守護神もなくなってしまいましたが、いつかきっと帰れる日を信じております」
「爺・・・」
「ところでプラドは・・・」
その頃、海戦は佳境に達していた。
均衡を破ったのは、一隻の独逸潜水艦の活躍だった。
U1987を指揮する、エルンスト=ハインシュタイン大尉は、この日のために作られた特殊魚雷を抱えて、厳重な警戒の中、ミサイルや魚雷にまぎれて潜航し、グロテスターの5大戦艦の一つ、ロイヤルダークを雷撃した。あらゆる砲弾、ビーム、ミサイル、爆弾を跳ね返してきた巨艦が一瞬持ち上がり、くるりと横転、転覆してしまった。大殊勲だ。この魚雷の開発のため、ハインシュタインの父・ハインシュタイン博士は20年も研究を続けてきたのだ。
大成功だ。これで流れが地球防衛軍に変わった。とおもいきや、そのとき円盤の集中攻撃と、ロイヤルダークを除く4大巨艦の巨弾を受けたアメリカの機動要塞レキシントンもまた断末魔の状態となっていたのだ・・・。
海戦の行方は・・・
続く