嗚呼我等の宇宙戦艦「比叡」
夏休みも折り返し・・その間、隼人と由香は、初めての宇宙滞在実験、そしてキャンプを・・・しかし、グロテスターの襲撃を受けてしまい楽しさも半分・・いや、仲間たちとそれを克服して、楽しさを逆に倍増して苦難を乗り越え、宇宙へ旅立つ日を夢見る2人。
その2人は今日も水遊び・・
だが、細川博士からの緊急連絡が入ったのだ。
「叔父様ったら・・・」
「そう怒るなよ由香ちゃん・・・」
「おお、来てくれたか!2人には急で済まないが、また宇宙に飛んでもらう」
「え、宇宙?」
「そうだ。我々地球科学の粋を集めて、敵から分捕った宇宙戦艦「金剛」を元に、我々の技術をプラスして、新たに同型艦の「比叡」が完成したのだ。このわたしをはじめ、造船学の権威、平野譲造船中将及び菊本富士雄造船大佐、独逸のアーデルブルク博士らが中心になって、そう、仁子君も外装セラミックの設計に協力してくれた・・・。その「比叡」の処女航海の護衛を頼む。厄介なことに、今回「比叡」に父上が・・父上が乗り込んでしまったのだ。艦の指揮は七海少将に任せてあるが・・・。今回はあくまで試運転。だが父上と七海さんのことだ、そのまま冥王星の敵基地に攻め込んだりしかねない。そして君たち自身の長距離宇宙航行の試験も兼ねて、火星まで飛んで欲しい」
「え、お爺様が・・・」
「判りました。由香ちゃん、行くぞ」
「ええ、隼人君!」2人はまず「比叡」の打ち上げに立ち会った。
「ガッハッハ・・・第一宇宙戦隊は、このワシ、細川隆斉元帥が直卒するのじゃ!七海よ、わかっておるのぉ?」
「ヘイ、大旦那!俺様も腕が成りますぜ!」
「ガッハッハ・・・!」
設計者の菊本大佐も同行した。
打ち上げ後、一旦月面基地に行き、ワープゲートを設置の上、火星を往復し、ワープゲートを使って地球に帰還するという行程である。地球には宇宙を航行できる艦艇は「金剛」と「比叡」、それに小型の「和泉」(元エメロード星巡洋艦「エスメラルダ」)しかない上、「金剛」は「比叡」の建造のため一旦分解して,再組み立て中であった。護衛する駆逐艦はない。そこで隼人と由香の合体した「バルディライナー」に護衛させることになったのだ。
地球連邦の実質的指導者細川総統と、最高の科学陣を乗せている為万が一にも失われてはならない。
楠球が割れ、秒読みが開始される・・・そして遂に「比叡」の巨体は宙に浮き、ぐいぐい加速して大気圏を突破して行った。
「さあ、隼人、由香、君たちも追うんだ」
「了解!行くぞ由香ちゃん!目指すは火星だ!
」隼人と由香は合体し、バルディスターになった。さらに、手足を折り畳み、巡航体型の重爆撃機「バルディライナー」に変形し、空に消えて言った。
「頼むぞ隼人、由香・・君たちに我々地球人類の宇宙進出の全てがかかっているのだ・・」
一方で細川博士は、思いがけずグロテスターから「金剛」を拿捕したことにより、計画よりずっと早く宇宙戦艦を手に入れ、かつ他の技術陣とともに、早くも国産の「比叡」を建造した。だが未知の部分も多く、細川博士は平野造船中将とともに地球に残り、「金剛」の改良に励むことにした。もし、「比叡」が成功したら、民間の造船所に追加発注し「榛名」「霧島」(現在の巡洋戦艦霧島は、櫻島と改名予定)の2隻を加えた4隻で「第一宇宙戦隊」を編成し、グロテスターの基地のあると思われる土星のタイタン、木星のイオ、海王星、天王星、冥王星を叩き潰すと細川元帥は鼻息を荒くしていた。
バルディライナーは、あっという間に「比叡」に追いつき、2人は一旦分離して、「比叡」に乗り込んで行った。
「こちらバルディライナー。乗艦許可願います」隼人と由香の声がだぶった音声で通信が入る。
「おお由香や・・はやくおいで」
「お爺様!」ヘルメットを脱ぎ捨てた由香は元帥に飛びつく。
「おお、由香や・・・春彦の奴は護衛しろと命じたそうじゃが、ここでじじと一緒にいてもええぞ」
「でも・・わたし隼人君と一緒のほうがいいわ」
「そうか・・由香もワシより隼人のほうがええと思う年頃になったか・・。それもええのぉ。とりあえず、内部の見学をしていきなさい」
「はーい♪」
比叡には、グロテスターの最新技術に加え、地球科学の粋を込めて独自に改良した秘密メカがぎっしり詰め込まれていた。主設計者の菊本大佐は、原形になった「金剛」の3割り増しの性能だと自負している。
「総統!月が見えました」
「よし、七海、降りるぞ」
「比叡」は、その昔加藤博士の研究別荘、つまり隼人の生まれたところだったものを拡張した月面基地に碇を下ろした。初めての航海の最初の目的は無事に果たしたのである。ここで宇宙船の外装に必要な鉱物を積み込み、基地職員の交代を済ませ、いよいよ火星に。
その前に、隼人と由香は、隼人の両親の墓に、航海の成功を祈った。
「父さん、母さん・・・」
そしていよいよ抜錨。火星に向けて出帆した「比叡」と「バルディライナー」。
航海は順調すぎるぐらいだった。グロテスターの基本設計の素晴らしさに加え、わずか数ヶ月でそれを複製できる地球の科学力もたいしたものである。
一方隼人たちは合体してバルディライナーになったが、こちらも宇宙をすいすいと進む。
2人は将来、人生の大半を何十万年もこの姿のまま宇宙を旅することになっている。そして、全宇宙に地球人類の胤を蒔くのだ。
「大親分!あんまりにも順調なんで退屈でさぁ」
「七海よ、そうぼやくな・・・」
光速の9割の速度でぐいぐい火星に近づく「比叡」
その頃、細川博士は声を荒らげていた。
「本当ですか平野中将!あれほど言ったのに・・・」
「すまん春彦君・・地球の優れた科学者を全員集めろと、陛下と細川総統に命じられた都合上、あのお方を抜きにすることはできなかったのじゃ・・・」
「嗚呼・・比叡が・・父上が危ない・・・隼人よ由香よ・・頼む・・」細川博士が天を仰ぐ・・・。一体?
比叡とバルディライナーは、火星にまもなく到着する。真っ赤に焼けた大地の広がる火星・・・。
「大旦那、接岸します。席についてくだされ」
「見ろ由香ちゃん、火星だ・・・本当に赤い・・。まるで暖炉の中の石炭みたいだ」
「本当ね・・」
バルディスターは2人が合体した姿だが2人の思念は結合したまま中枢部で思念として胴体と独立した感情を持っている。
火星・・ここも、人工降水と気象コントロール衛生の設置でいずれテラフォーミングして人を住まわせる計画であった。だが・・既にこの赤い砂漠に住んでいた、というより駐屯していた人間が居た。そう、グロテスターだ。
比叡が着陸態勢(海軍用語を用いるため接岸)にはいったそのとき・・・
「隼人君!イセキダーよ!」
なんと、敵火星基地からグロテスター怪人・超人軍団の戦艦「イセキダー」が迎撃に上ってきたのだ。円盤も編隊を組んで飛来する。
「おおお、やっこさん出てきたな!腕がなるぜ」
「七海よ、おもいっきりやれ!」
思いがけず敵が現れ、大喜びする細川元帥と七海少将。だが
「ああ、なんということだ・・どうして敵が・・わたしの比叡が・・」設計者の菊本大佐は壊れてしまうのではないかと心配になりおろおろする・・・。
「行くぞ由香ちゃん、バルディスターに変形して円盤どもを比叡に近づけるな」
「わかったわ!エネルギーは任せて」
隼人はロボ体型に変形し、剣をふるって円盤を叩き落す。あたかもハエをハエ叩きで落とすようであった。
「おお、隼人めなかなかやるな。七海、わしらも負けないぞ。敵旗艦に魚雷をぶち込んでやれ」
「へい、そうこなくっちゃ!」好戦的な七海少将が最も愛する兵器、それは魚雷だ。15歳で海軍に入って以来、魚雷とともに30年生きてきたような男だ。そしてこの「比叡」には、命中率100%という必殺魚雷が搭載されていた。
「ひょっひよつひょつ・・・やっとワシの傑作を披露するときがきたのぉ・・・」
「あ、ドクター・若松!いつのまに乗り込んでいたのですか?」なんと、国際科学者連盟総裁で、世界一多くの特許を持つ科学陣の長老、若松教授が勝手に乗り込んでいたのだ。そして、この「比叡」には彼の発明品が満載されているという・・・。しかし、細川博士が危惧したのは、まさにこのことだったのだ。
「地球人め・・・我々から奪い取った戦艦を真似て偽者を作るとは・・・けしからん、真っ二つにしてやる」
イセキダーからは、宇宙戦闘ロボが出撃した。
「出てきたなロボットめ。僕たちが相手だ!」
比叡を真っ二つにしようとするロボに、バルディスターが挑む。まさに大正解。こんなこともあろうかと、同行させたのだ。細川博士の頭脳の冴えはすごい。
一方、敵旗艦に対する比叡の攻撃は・・・
「七海よ・・いくらなんでもこの距離では魚雷は命中せんのではないか?」
「それが旦那、若松のオッサンの作ったこの魚雷はなんでも命中率100%、月から発射して火星まで届くって寸法なんでさ」
「ひよつひょつひよ・・その通り」
「魚雷発射!」
比叡の前部舷側の発射管から、魚雷(ミサイル)が打ち出された。
すると、比叡のメインパネルに、なにやら罫線が映し出された。
的が映し出される。
「いまじゃ、横線を追加するのじゃ!早くせんかい、隕石やザコに命中してしまうぞ」
若松教授が絶叫する。
この「阿弥陀魚雷」は、一旦発射されたら必ずターゲットに命中するが、そのターゲットは前方に位置すねあらゆる物体が対象となり、誘導を誤ると前方に居る味方や隕石に命中してしまうのだ。しかもその威力は絶大。なんとしても敵戦艦に当てなくてはならないのだ。
「なんと悠長な兵器なのだ!」細川総統は大激怒。だが七海は「よっしゃ!全部大物に当ててやる」
魚雷のことになると目の色が変わる・・・。
「そうか・・まあ、その程度なら七海さんがなんとか使いこなしてくれるだろう・・」報告を受けた細川博士は胸をなでおろした。
ドクター・若松は、まちがいなく細川春彦と同等かそれ以上の天才であった。今まで90年に渡り優れた数々の発明をして人類の発展に尽くしてきた功績は大きい。だがそれらの発明の多くは、彼の変態的遊び心が加味されていたり、通常では使いにくいほどの高性能であったりして、危険性もはらんでいたのだ。以前、彼は高速車椅子「カールル椅子」を発明し販売したため、死亡事故を続出させてしまい、発売中止になり、一時学会から追放されたこともあったのだ。なにせ時速100キロ出る車椅子である・・・。
1本目の魚雷がまず円盤に命中、回りの編隊ごと吹き飛ばした。
「畜生!戦艦に当てるつもりが・・」
そして2本目、3本目が次々とイセキダーに命中する。
「うわーっなんて強力なミサイルなんだ!」無敵のイセキダーも一部欠落する。ワルモナイトと工藤博士は狼狽するが決定的ダメージはない。4本目は岩に、5本目、6本目もイセキダーに命中した。だが、7本目は・・・
「危ない隼人!どけてくれ!」
「無駄じゃ。阿弥陀魚雷は一度狙った目標には必ず命中する。阿弥陀様の思し召しなのじゃ。まあ、その程度でくたばるようではバルディスターもその程度ということじゃて」
「なんだと!」七海は怒り、若松教授の首根を掴んだが・・
「バカモノ!隼人ならなんとか自力で耐え忍ぶ!それより8本目の魚雷の制御をしろ!必ず砲口か円盤発進口に当てるのじゃ」一度に発射される魚雷は8本であった。
そして7本目の魚雷は・・・隼人を狙う。
「隼人君、右下に避けて」
だが、魚雷は追ってくる。また魚雷を避けようとしても、円盤が襲う。
「由香ちゃん、この魚雷は絶対に命中する魚雷なんだ・・・だから避けられない」
「そんなぁ!由香死にたくないわ」
「僕たちの体なら耐えられるかもしれない。いや・・そうか、かならず命中するなら・・・」
由香ちゃん、剣にエネルギーを集中してくれ。」
「OK!でも怖いわ・・・キャーーー」
「堪えるんだ由香ちゃん!」
開き直って魚雷に正面を向けた隼人は・・・「南無阿弥陀仏!阿弥陀さんよ・・本当にいるなら僕たちを守りたまえ!」
「エイ!」隼人は、迫り来る魚雷に剣を付き立てた。真っ二つに裂ける魚雷。爆風で流されるバルディスター・・・だが、もし直撃していたら・・という威力であった。
「剣に命中させたのさ」だが、剣が無くなってしまった。新しく生成するには時間がかかる・・・。一瞬の隙をついて、敵ロボに羽交い絞めにされてしまった。
それを見た七海は、
「隼人、今たすけるぞ」
海図にめちゃくちゃに線を引き、魚雷のコースを大きく変えた。
「何をする七海!」敵戦艦に命中寸前だった魚雷は、突如反転して隼人の方に向かう。
「隼人・・頼む。一瞬でいいから身を翻してくれ!」
「隼人君、由香がイケば瞬間に力が出るわ。だから隼人君も出して」
「判った!行くぞ・・」
「アアアアーーーン!」
「今だ!」
隼人と由香は愛の力で、ほんの少し身をかわした。すると魚雷は、敵ロボに命中した。
のけぞって手を放したロボは火星に降り立つ。
「よし、地上なら負けないぞ」バルディスターも追う。火星は地球とも月とも引力や大気が異なっているが、即座に順応した2人は、ロボと一進一退の攻防を繰り広げる。そしてついに、ロボの首をへし折り、手足をもぎ取って勝利した。敵パイロットは脱出したが隼人は追わなかった。比叡が心配だったからだ。
比叡は都合4本の魚雷をイセキダーに命中させたが、小破しかさせられなかった。あの強力魚雷でさえである。逆に態勢を立て直したイセキダーから発進した円盤の波状攻撃で、防御火器がやられてしまった。細川と七海は発進口を叩けなかったことを悔やんだ。だが隼人が駆けつけ、円盤をおとしてくれた。
「おお、無事だったか!」
「ロボも倒しました」
「くそっ地球人め・・・退却だ!その前にこれでも喰らえ」
イセキダーは、退却しつつ巨大ミサイルを放ってきた。当れば月が砕けるほどのものである。
「よし、艦首拡散メガ粒子砲を試す。もしダメなら・・」
「わかっています。僕たちが・・・」
「発射!」全エネルギーを艦首に集めて、ミサイルを迎撃・・・
光に包まれるミサイルはなおも迫る・・・ダメか・・・
だが、間一髪ミサイルは蒸発した。
「ふー」胸をなでおろす一堂。だがエネルギーがなくなってしまった。
「僕たちに任せてください」
隼人と由香は分離して乗り込み、エネルギー室の中でクロスした。そのエネルギーで、比叡のエネルギーは瞬間的に充電されたのだ。
「よし、でかしたぞ隼人、由香。このまま火星基地を叩き壊せ」
火星の大気圏に突入した比叡は砲甲板を展開して猛烈な艦砲射撃を行い、火星基地を破壊して、占領、投錨した。
「隼人、由香・・ありがとう。お前さんたちがいなかったらあぶなかったぜ」
「おじちゃんも助けてくれてありがとう。由香魚雷怖かったわ」
「うむ。皆無事で何よりじゃった。若松は魚雷を威力はそのまま変な誘導装置ははずすように。誘導などせんでも七海なら半分以上は当てられる」
「うう・・おかしいのぉ・・」若松教授はしょげてしまった。
「よし、帰るぞ!」
比叡とバルディライナーは、こうして実験航海を成功させ、その上火星にまでその勢力を伸ばしたのだ。グロテスターは土星に後退した。だが、既に地球上に昆虫軍団を初めとする尖兵が潜んでいるのだ。だから深追いは出来なかったのだ。
隼人と由香は、明日も戦う。
続く