16話 決戦!関東大会決勝!

 

澄み切った青空。ここ都立運動公園では、全国高校アメリカンフットボール大会決勝戦の火蓋が切られようとしていた。

対戦するのは、昨年惜しくもこの決勝で京王高校に敗れ、涙を飲むも、その京王を倒して勝ち上がった、大巨漢西本剛率いる、神奈川代表・武蔵体育大学付属南武高等学校「ケーターズ」と、2年のブランクを経て再登場した東京第2代表、都立吉本工業高校「クレムリンズ」であった。吉本工業は、10年ほど前まで全く無名のチームだったが、日本アメフト界の重鎮・横山木工助監督が就任以来、関東大会常連にまで急成長、今大会でも、都大会で一旦は敗れた相手・京王と、埼玉代表・殉教学院を破っての決勝進出である。だが、何かと黒い噂の絶えない、問題校でもあった。2年間のブランクは、3年前、部員による集団強盗強姦殺人放火事件があったため、出場停止になっていたからであった。だが、謹慎が解除になった今年、2年生主将の島田を中心に、相手を破壊するような力押しの戦術で強豪を次々撃破し、ここに名乗りを上げたのである。

 赤のユニフォームに銀のメット・パンツが南武。

 深緑のユニフォームに金のメット・パンツが吉本工業である。

選手入場。両校のツワモノたちが、鍛えぬかれた肉体に鎧を纏い、鉄兜を被っての勇ましい登場である。

 南武高校の先頭を行く、一際大きく、巨大な勇姿!彼こそが日本アメフト史上最大最強と言われる大巨人・西本剛18歳、押しも押されぬ南武の大黒柱である。続いて背番号1番は、中学MVPで、その小柄な体からは想像できないパワーとスピード、そして何よりも、頭脳的なテクニックで、1年生ながらもチームのエースにのし上がった天才児・東サトル。他にも有望な選手を揃え、威風堂々の入場である。その中に、背番号2番をつけた選手がいる。他の選手同様、赤いプロテクターを身につけ、銀のヘルメットを凛々しくかぶり、戦士としての風格もただよっている。だが!信じられないことにその選手は、女の子なのだ。もちろん、完全武装したその姿からは、全く想像もつかず、アメフト選手としては小柄ながらも、体格も他の男子部員にヒケをとらず、続いて入場した女子マネージャーよりは頭一つ大きかった。

彼女こそ、この物語の主人公・炎のジャンヌダルク・・・東サトミ16歳。天才・東サトルの双子の妹であった。

 一方、吉本工業高校の選手たちは、私語をぺちゃくちゃし、痰を吐きながらの汚らしい入場であった。フッパンを、だらしなく腰パンにして穿いているような選手さえある。防具の手入れも行き届いていないようだった。どうしてここまで勝ちあがれたか不思議な倦怠感が漂っている。

 対照的な両チームだが、一つだけ共通していたことがあった。それは、指揮を執る監督が、ともに日本アメフト創世紀に活躍した名手、飯田源蔵と横山木工助の、両老将であることだった。二人の皺の一つ一つに、日本のアメフトの歴史が刻まれているのだ。

 整列、だが吉本の主将島田は握手を拒んだ。そしてコイントス。

南武高校が、先攻となった。

 西本主将の、その巨大な手から、今運命のボールが、1年生の天才QB、東サトルにスナップされた!と同時に、激突する両校のラインマン!ガシャーン!金属のぶつかり合う、自動車事故のような音があちこちで響く。両者もんどりうって倒れる者、立ち上がってレシーバーを追う者・・・。

 そして、サトルのパスは、絶妙のコントロールで敵味方のひしめく空間をすり抜け、彼の最良のパートナーである、サトミの手に渡った!他の選手が捕ろうとすると、独特のスピンからはじかれてしまうその魔球が、なぜかサトミにだけはいかなる状況下でも最高のパスとなるのだ。これは3歳から、今まで13年にわたって一日たりとも欠かさず続けられたキャッチボールの成果であり、誰にもまねの出来ない、運命の糸に結ばれたパスなのだ。

 そして、元気よくエンドライン目がけて走り出すサトミ!

だが、そのパスは、吉本工業には十分わかっていた。ルール上、明らかにパスのターゲットとなっている選手にはタックルできない。(タックルすれば、パスが成功したことになる)だが、一旦キャッチして、走り出したその瞬間、ランナーは敵の激しいタックルに襲われることになるのだ。ランのコースのど真ん中に、「殺し屋」の異名をとる、吉本工業の副キャプテンでディフェンスタックル(攻撃時もオフェンスタックル)、西山徳男が待ち構えていた。西山は193センチ110キロ。関東大会参加選手中、身長では5番目、体重では3番目に大きな選手である。しかも、彼はラインとして壁になる必要も、ランナーとして走る必要も無い。相手のランナーをぶっ潰すことだけに特化した、天性の壊し屋なのである。殉教学院の新島、京王の福沢ら名のある選手たちも皆、彼の殺人的タックルの餌食となり無念の敗北を喫したのだった。その西山が、ジャンヌダルク東サトミに正面から立ちふさがる!

「サトミちゃん!」ベンチのマネージャー、西本みゆきが思わず目を反らす。だが!信じられないプレーが起きた。

 「えいっ!」

なんと、突進し、姿勢を低くして絶対にブロックできる素晴らしい、手本にしたいようなタックルを敢行して来た西山が、まさにサトミの小さな体を押しつぶそうとしたその瞬間、サトミはボールを腋に挟み、足を大きく広げ、もう一本の手で、西山の背中を、まるで馬とびのように飛び越えてしまったのだ。勢い余ってつんのめる西山!

「徳男!バカ野郎・・・」

悔しがる島田。サトミはそのまま突っ走る・・・!かと思われた。だが審判の笛が鳴った。

なんと、飛び越えたとき、勢い余ってサトミのフッパンが、ぴりっと縫目に沿って裂けてしまい、サトミの大事なところがご開帳になってしまったのだ。もちろん、南武高校の1stダウンは認められ、攻撃は続行されたが、替えのパンツに穿き替えるため、試合が一時中断したのだった。

「なんだあのプレーは!」

「まるで体操選手みたいだったぜ!」

「でもあれ女の子なんですって!」

「ここ(スタンド)からは見えなかったけど、どうやらパンツが破れて丸見えになったらしい!」

「バカ!」「ガヤガヤ・・・」

驚く観客たち。

「ふふ。もらったわ。またこれでボーナスね。編集長、ごめんね〜」このシーンを、まんまとカメラに収めたポニーテールの女・・・。月刊アスリートの西尾リコ記者だ。彼女は南武高校、ことにサトミの活躍に、他の誰よりも早く着目し、四六時中密着取材を続けていたのだ。彼女は既に、神奈川大会でのサトミの活躍の記事により、編集長より多大なボーナスを得ていた。(だが、それは南武・殉教・京王の生徒らとの焼肉でパーに・・)

さらに同校野球部・バレー部に関する記事でも優れた業績を残していた。そしてその彼女の傍らで、帽子を目深に被って一目を忍ぶ様にして観戦していたのは・・・なんと同校野球部エースで今年の甲子園優勝投手、松崎大介だった。彼はリコに見入られ、10最年長の彼女と交際するようになっていたのだった。だがそれだけではない。サトル、サトミの双子は彼のクラスメートであるとともに、同じ中学の出身のいわば親友なのだ。だが、甲子園優勝投手という立場上、身分を隠し、記者席(これこそ、灯台下暗し!)に紛れ込んでの観戦となっている・・・。

 

 次々と決まるサトルのプレー。自らが走る。そして南武のランナーはサトミだけではない。2年生の馬場、そして同期の桜・武田信彦!彼らの力強い走りにも支えられ、ついに最後にサトミの手に再びボールが!

 そして、先制タッチダウン!キックも鮮やかに決まった。

湧き上がる大歓声・・・・。

 

 一方・・・

「徳男!なんだよそのザマは!」

「紳の字!やっぱ正攻法ではダメダな。次こそ絶対踏み潰してやるぜ」

「踏み潰す?おまえさん、そんなもので満足か?」

「ぶっ殺す!」

「アホ。男ならぶっ殺すでええんや。せやけど奴は女」

「犯す!」

「そうや!それにな、ここだけの話し・・・」

「先生のためにもがんばらなぁ。オレたちにもおこぼれあるかもしれへんで」

「よっしゃ!」

続いての南武高校の攻撃。執拗にサトミを狙う西山だったが、サトルの巧妙なテクニックで、ミスを犯してしまった。つまり、ターゲットのサトミにタックルしてしまったのだ。そのため、次の攻撃はその地点から。ウインクして「あんた、いいとこあるね!」と西山にサインするサトミ!悔しがる島田と西山。だが、そこは西山、転んでもただでは起きるような男ではない。タックルの際、そしてプレー再開時、どさくさにまぎれてサトミのお尻を思いっきり撫でた。

「何するんだタコ!」先ほどの笑顔とはうってかわり西山を睨みつけるサトミ。タックルの際は、接触プレーの一つとして、気にならなかったが、このあからさまなタッチにはさすがのサトミもムッときたらしい。だが、これがこの試合、次々彼女を襲う試練と集中攻撃の序章に過ぎないことは、まだ誰も知らない!

 

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