メガボウラー15話・月の決戦(ライトニング姉妹。編その5)

 

 ヒューーーー。デストラーゼの妨害も受けず、飛び立った日本武尊号。ボスはじめ、隊員たちの決意は固い。世界に先駆けて、来る宇宙時代の戦いの先陣を切ろうとする熱い心を胸に秘めて。彼らもまた、特殊装甲宇宙服に身をつつんでいる。これも、西本が開発したもので、メガボウラーで培った強化パーツ理論を生身の人間用にデチューンしたものと宇宙服の組み合わせなのだ。

 もうすぐ、月の引力圏に突入する。「ピ。あの高い山の陰から声が聞こえる。(突然)プ♪きっちん一休さんみたい・・・かおるの交信が始まった。敵地は近い。それどころか、ここにきてかおるの超能力はさらにアップして、映像をも一部見えるようになったのだ。によると、きっちんはすでに改造の準備のため、頭髪を剃られているという・・・。急がねば。

 格納庫のサトル・サトミの前のモニターに、西本からの通信が入った。

「サトルくん、サトミくん、もう少しだ。敵ポイント上空に達したら投下する。空中でスカイパーツに換装して突っ込むんだ。引力の関係で地球とは勝手がちがうから、気をつけてくれ」プチ。

「・・・投下・・・か・・。先生までぼくたちを兵器あつかいか・・・ふてくされるサトル。そのとき、後ろのドアが開き、ピンクの宇宙服をまとったみゆきとやっすぃが、差し入れを持ってきてくれた。カタパルトに固定されている二人はメットを自分で脱ぐこともできないが、みゆきたちがやさしく脱がしてくれた。手にはチューブ入りの飲み物が。

「サトルくん、サトミちゃん・・。がんばってね!」

「まかせておけよ、みゆ!」「ありがとう、みゆきちゃん、やっすい・・・」飲み物・・・。何の変哲もないジュースだが、今のサトルにはとても美味いものに感じた。「ジュースか・・。美味いなぁ・・・。ロボットはジュースなんて飲まないよなぁ・・・。やっぱり、僕達は人間なんだ・・」心の中でつぶやくサトル。そして、こんな姿になっても人間扱いしてくれるみゆきのやさしさに感激した。

「じゃあ、がんばって・・」パタン。みゆきたちは戻っていった。

ブリッジへの帰り道、フイにやっすいがみゆきに訴えた。

「あたしは・・。あたしは何をすればいいの?飯田さんは、宇宙人の言葉が分かるし、サトルくんたちは軍団のひとたちと同じように・・。いやそれよりずっと厳しい戦いを・・。あたしも・・あたしも何か役に立ちたい!」

「安川さん・・・。」アイドルとよばれるこの長身の少女に、こんな熱い正義の心があったとは・・・。みゆきは驚きを隠せなかった。アイドルなんて・・・チャラチャラおどっていっぱいお金もらうだけの安っぽい人間だと見下していた自分の心が恥ずかしくなった。

 その心を西本は知っていたようだ。メガボウラーの秘密を知ったとき、野口とともに戦いを志願したのもこのやっすぃだった。

「やっすい、ごらん・・・・!」そこには軍団員用の戦闘服が用意されていた。ただし、レディス用だ。

「先生、あたしがんばります!」

「でも君は生身だし戦闘訓練も受けていない。無理は禁物だよ。そのスーツは護身用だ」

 

 そのころ、「安田恵」だったロボットは、ゲップフロントミュージック事務所に迫った。洗脳され心を消された彼女は本能的にここにやってきた。

岩原長官自ら指揮する戦車隊が攻撃を開始、上空からは武装減りが乱舞する。

「撃て!」岩原の号令で、一斉に火を噴く戦車、乱れ飛ぶロケット弾。それが当たるたび、ロボは手で胸や顔をガードしながら反撃してくる。

 グチャ。ついにゲップフロントミュージックの社屋は倒壊した。ライトニング姉妹。や源氏みちるなどの偉業を収めた栄光は吹っ飛んだ。

 ロボは、デストラーゼの中でも高性能なほうではないらしく、攻撃は致命的なモノは与えられないまでも進撃を食い止めることはできた。岩原は時間を稼ぎ、都民をより安全な場所に避難させるとともに、メガボウラーの帰還を待て、とどめを指す作戦なのだ。すでに、研究所の助手らに、メガボウラーのスペアボディ一式をそろえさせ、万が一大破して帰還した場合でも直ちに攻撃できるように段取りを進めていた。岩原もまた、メガボウラーを兵器として考えているようであった。

 

 さて、ついに元の地球連邦月面観測所まで1宇宙キロに迫った。

「サトルくん、サトミくん!日ごろの鍛錬を見せてくれ。戦いもフットボールと同じで、腕力だけでなく、頭脳も大切だ」西本は訓示した。

さきほどとは違い、暖かい人間味ある言葉だった。

 「ボス!、長さん!絶妙の降下位置です!」部下たちの合図だ。

「よし、前部突撃ハッチオープン!メガボウラー射出!」

 サトルたちの前のモニターに発進の合図が表示された。同時にエアロックが解除され、真空が入ってくる。壁のランプが緑に変わると、サトルたちの前の機首がゆっくりと左右に広がる。ゆっくりと、サトルとサトミを乗せたコンテナがカタパルト上を滑る。コアに差し込まれていたエネルギーチューブが引き抜かれ、コアハッチが閉じる。両手両足ががっちりとロックされる。そして、急加速したかと思うと・・・サトルとサトミは月の空へと打ち出されていった。

 スカイパーツは必要なかった。空中で手枷足枷が解除され、雄雄しくその姿を輝かせるメガボウラー1号、ブルーギア=サトルと、2号レッドギア=サトミ。二人はついに、月の大地に降り立った。

 それをブリッヂから、見送る軍団員と西本親子、やっすぃ。

「オウ、俺たちも行くぞ!」組長とゴジさんに率いられた軍団員も、準備が万端。彼らは人間なので射出できないため、下部ハッチから次々降下していった。横綱を最後に、ボス、長さん、そして参謀の山さんを除く全隊員が降下完了していった。

 

いつのまにか迷路のような防壁ができている月面基地。かつてここに勤務していたことがある組長たちも、なかなか突入できない。逆に、閣下、パスタ、ドンドンらが敵にやられて戦死していく・・・。

 その頃、メガライダーに変形して月の砂漠を駆け抜ける二人は、ついに秘密の入り口を発見。ドリルパーツに換装して、ついに基地内に突入した!

連絡を受けたゴジさんたちも急行。そこにかおるの通信が入る。

「地下8階の手術室に、きっちんがいる・・・。あ、サトミちゃんのうしろ・・うしろ・・・・」

敵兵士をなぎ倒し、隊員たちを突入させたメガボウラーの背後から、ソミンとユウキが迫る・・・・。

 

 場面変わってここはゲップフロントミュージック跡。岩原は焦っていた。都庁の庁舎を改造し、太陽エネルギーを照射するソーラーバーンシステムが折からの雨で準備できないのだ。彼は、メガボウラーの力を借りなくとも敵を倒し、実力を誇示したいという野心があったのだ。

 そんな岩原に、緊急伝が入った。

「長官!種子島宇宙センターが二人組みの金髪の女に襲われ、気象ロケットが奪われました!もしかするとデスなんとかの女スパイもしれません!」

「何?で、ホシの風体は」岩原は何故か落ち着き払っていた。

「ひとりは腕を包帯で釣っていて関西弁、もう一人は奇声を発するチビです」

ハハハ・・・。やるな、お嬢ちゃんたち・・・。「気象ロケットの1つやふたつ気にするな。それよりロケットを月に誘導してやれ」

  

 「祐子!大成功だぞ!おいらたちを置いて月旅行なんてゆるせないんだぴょん!」

「のぐちぃ・・・。うち怪我人なんやでぇ・・・。」

 西本たちが月に出撃したことを知った真理は、その意味も知らず、まだ怪我人の祐子を無理やりつれてトラックなどをヒッチハイクし、途中防衛軍のヘリを奪って宇宙センターへたどり着き、自分たちも月に乗り込もうとしたのだ。

 だが、当然ロケットの操縦など知らない。

「なぁ、ゆうちゃん!早く月にいこうぜ!」「せなことゆうたって・・ウチ車の免許しかもっとらへんねん。」

「じれったいなバカ祐子!適当にここらのボタン押せばいいんだよ!」真理は赤いボタンをぽちっと押した。するとぐんぐん舞い上がり、空へと飛び出してしまった・・・。

 

 場面を月に戻そう。

「待ちな!ここから先はアタイらが通さない!」

「出たな!偽者!」

メガボウラーVSギガイキングの第三ラウンドの始まりだ。

しかし宇宙人に改造されたギガイキングに対し、初めての宇宙戦のメガボウラーは終始押されぎみ。この戦いに備えて、体のあちこちにバーニアを追加したのだが、思うように動けない。というより、重量級ボディの利点が無重力により生かせず、翻弄される一方だった。

 蝶のように舞い、はちの様に攻撃するソミンとユウキ。こちらはこれを受け止め、隙を見てロケット弾を撃つのが精一杯だった。

一方軍団員たちは奥へ奥へと突き進む。そのときまたかおるの声が。

「その扉を開けてはだめ」しかし遅く、ある団員が開けてしまった。

その様子を超能力で見たかおるは失神した・・・。

 きっちんこと魔鬼・・・。人気ナンバー1娘は。無残な姿に変わり果てていた。頭部は脳髄が露出し、手足や胸には外付けの機械が差し込まれていた・・・。

改造手術の途中だったのである。

「遅かったか・・・」そのとき背後から、1機のロケットが火星方面に飛び立っていった。水野たちが形成不利とみて脱出したのだ。

 日本武尊のハッチが開く。制止を振り切ってやっすぃが飛び出していったのだ。ライトニング姉妹。のなかでも同い年ということもあり親友だった魔鬼を助けようと、危険も顧みず飛び出していったのだ。彼女もまた、勇気のある戦士だった。

 「きっちん!今アタシが助けてあげるから・・・。死なないで・・・・」

隊員たちの要請で、西本も手術室に急行した。絶句する西本・・・。手術は工程4割ぐらい、もっともグロテスクな状態で終わっていた。すぐに手術を続行しないと、命が危ない!

 そのとき、こんどは一機のロケットが基地に命中し、大爆発を起こした。大変だ。基地の動力系統がスパークした。脱出しなくては・・・。しかしきっちんと西本が手術室に取り残されてしまった。

 その数秒後、2つのパラシュートが降ってきた。うち1つは手足をぷらぷらさせている・・・。祐子と真理だった。真理の場合、宇宙服のサイズが合わず手足があまってしまったのだ。

「 正義の味方、のぐちまりりん参上!」状況がまったく掴めない、というより、自分がこの状況を作ったことを全く理解していない二人・・。

 

 さて、こちらは地球。恵ロボ対戦車師団の戦いに、場違いな一羽の蝶が舞い込んできた・・・。正確には蝶ではないが・・・。

それは、あまりにも美しく、あまりにもこの場にミスマッチだった。

「やすださん!」甲高い、甘い声が響き渡る。防衛隊も一時砲撃を中止し、その声の主を捕まえて戦場の外へ保護しようとする。しかしロボには聞こえない。

「あ、少女が!」ついに、少女はロボに摘み上げられてしまった。

 しかし、少女はひるまない。「やすださん・・・眼をさまして・・・やさしかったあなた・・」ロボの動力系にアンモニア系の物質が使われているらしく、汗のように硫酸が飛び散る。その雫が少女のピンク色の、ふりふりのワンピースに付着した。その部分が焦げる。

 しかし少女はひるまず、ロボの唇にキスをした。

動きがとまるロボ。ロボは少女をふたたび摘み上げると、ビルの上に降ろした。そこは、戦車隊の砲撃からは安全なところだった。

 「今だ!都庁レーザー発射!」岩原の号令が飛ぶ。一斉に後退する戦車。

「やめてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」少女の叫びもむなしく、日本軍の誇る最終兵器都庁レーザーが火を噴いた。この兵器はも太陽光線を収束して打ち出すものだが、万が一敵国が攻め込んできた場合、東京が狙われるはず。そこで逆に敵陸上兵力をある地点に誘い込み、蒸発させて一気に殲滅しようとする発想に基づくものだった。

「や、やすださん・・・・」美少女・・・西川梨香は自分の無力さを知って泣いた。ライトニング姉妹。のなかでも、安田は自分の教育係だったのだ。

 岩原に保護された梨香は、「バカバカバカ・・・・。長官なんてしんじゃえ・・・」と泣きながら岩原の胸をたたくのだった。もっともあまりの非力さに、痛くも痒くもなかったが・・・。岩原もまた涙した。敵に改造されたとはいえ、ロボの正体は本来守るべき自国民、しかも若い女性だったのだ・・・。

 

 さて、また月。22の闘いに圧倒的不利を悟ったサトルたちは、先に合体して巨大戦を挑もうとした。「ジェミニシンクロン!」

当然ソミンたちも・・。「合体・・・・・?あ!」合体しようとしたユウキとソミン。しかし突然現れた影が、ソミンを突き飛ばし、すでに合体体勢に入っていたユウキと合体したのだ。驚くギガボウラーとソミン。謎の新ギガイキングは、ソミンを掴み宇宙へ放りだすと、サトルたちに語った。その声は、なんときっちん!

 「弟の不始末はアタシがつけるから、あんたたちはみんなを連れて早く地球へ!」と言うや、爆発する基地のガレキを取り除き、みんなの脱出口を開いたのだ。しかし、しばらくしてスパークしたかと思うと、合体を解いてしまった。そこにはユウキと、まだ完全には改造が終わっていないきっちんが・・・。そこにやっすいと西本が駆けつけた。

「きっちん!帰ろう!この先生がきっと体を直してくれるよ」生身とも、サイボーグともつかない憐れな姿になったきっちんを抱き起こすやっすい。

そのときだ。「あ、あぶない!」動けなくなったと思われたユウキが、ビームを撃ってきたのだ。そのとき、やっすいときっちんの前に仁王立ちになったのは・・・横綱だった。「よ、よかった・・・・。」その巨体に風穴を開けられ、倒れる横綱。サトルの怒りの鉄拳がユウキに炸裂。つづいてその首をむしりとろうとした。そのとき、かおるが飛び出してきて、制止した。『「弟をゆるしてあげて」ときっちんが言っている・・・・。』

もう話すこともできないきっちんにかわって、かおるがしゃべったのだった。

 サトルはユウキの両手両足を引きちぎると、スカイパーツのロケットにくくりつけて、宇宙へと放りだした。「命だけは助けてやる・・。サイボーグだからしばらくは死なないだろう」

 きっちん、横綱、閣下、ドンドン・・・尊い犠牲を払い、宇宙での戦いはからくも勝利することができた。

 「帰ろう・・・・。」西本は言った。やっすいの腕には、うごかなくなったきっちんが抱かれていた。帰りはサトルたちも座席で帰った。

     ・・・「おーい待てよ〜」あ、祐子と真理を忘れていた・・・・。サトミは緊急変身すると二人を連れ帰ってきた。

 さて、地球では、闘いの傷跡の復興を急いでいた。そして、ライトニング姉妹。全員が西本研究所にあつまった。

「みんな、朗報だ・・・。鬼頭さんと安田さんは、死んではいなかった。」

「やった〜」「よかったのれす・・・。」「恵ちゃんは、なっぴぃにお寿司ごちそうする約束だったべ。死なれたらこまるべさ」

 奥の部屋では、綺麗にもとの体になったきっちん・・・だが、頭はツルツル・・・がいた。再改造→復元の難手術を終えると、その若さゆえか驚異的な生命力で肉体が再生され、明日にも動けるようになるという。そのとき、やっすいが4本もの輸血をして、フラフラになったことをみんなは知らない。

一方、脳だけになってしまった安田・・・。あの爆発のとき、転がったこの脳髄カプセルをまるでお骨のようにかかえて梨香は泣きながら帰ってきた。

「先生なら生き返らせるはずです・・・・」

奇跡的に、脳髄の損傷はなかった。だが体の全てを失い、かつ成人している恵の再生には、かなりの時間がかかる・・・。脳だけになって仲間と対面した恵。

「あ、恵ちゃん笑っているよ・・・・・」超能力者かおるには分かるのだった。

 そんな時、祐子が突然口を開いた。

「あのな、・・・・こんなときに言うことやあらへんのやけど・・・・。ウチ、ライトニング姉妹。から卒業するわ。つかれたしぃ〜、恵坊や鬼頭がこんなんになったのもウチがいたらなかったせいや・・。かんにんや・・・」

「それに・・・・ウチもう30やし・・・。ダンスとかついていけへんようになっとんねん。あとはかおる、あんたにまかせたで・・」

 みんな、「ひどいよ祐ちゃん!」「あんまりです長沢さん!」「姐さん・・・・」「祐子のバカ!」幼いのののん、あいちんは泣き出した。

 「うるさい!あのな、あんたらのなかにほんまのおねえちゃんおるやつおるか?あんたらのねえちゃん、お嫁にいったら、ねえちゃんやなくなるんかいな?えーか、ウチはな、卒業しても、ずーっとあんたらの姉さんやで・・・」こうして長沢姐さんの卒業と安田恵の長期休養がマスコミに発表された。長沢脱退は、安田の休養の実態をカムフラージュするためにとっさに思いついたもので、実際にはテレビやコンサートなどは、以前と変わらずだった。

  しかし・・・「結婚したらあんたらの姉さんやなくなるんか?」の部分だけを盗聴していたマスコミの犬がいて、「長沢姐さん、川崎市の医師と結婚準備のため卒業か?という記事がスポーツ紙をにぎわせた・・・・。(川崎市の医師=西本)

 

 さて、一連の闘いだが・・・。正月、やはりライトニング姉妹。の映画として公開された・・・。「豪華!ライトニング姉妹+岩原軍団!サイボーグ帝国の野望を砕け!」とかのサブタイトルがつけられ、一部撮りなおし・編集の上、とらわれの身になったプリンセス梨香ちゃんを、正義のサイボーグヒロイン、メガエンジェル・レッドスター=マキと、おなじくブルースター=ヒトミが助けるというストーリーに仕上げられており、そのために新しくブルーギア用のライトアーマーが作られ、サトルとサトミもスタントマンとして活躍したとさ・・・。(ただし、二人とも設定上サトルは男、サトミはペチャパイなのに大きな胸のパーツをつけたのだった。)

 

  ライトニング姉妹。編 完。