メガボウラー第9話 逆襲のリコ

 

シャー・・・・・・・・・。シャワーの音が聞こえる。曇りガラス越しに映るその姿は若い女性のものだ。・・・・ここは宇宙海賊デストラーゼのアジト。シャワーを浴びているのは,首領キャプテンテールのひとり娘、リコだ。彼女の美しい体。だが、その片腕からは醜いメカが露出していた。そう。彼女は以前超高校級投手松崎大輔投手をさらって改造してメガボウラーと戦ったが返り討ちにあい、正気を取り戻した大輔の魔球を肩に受けていたのだ。

 邪悪なサイボーグ集団・デストラーゼ。だが、今やその人体改造技術は、2人の天才医師の登場により完全に地球側より遅れたものになってしまった。つまり、地球人の水野教授と西本博士は、人間としての機能をもちつつ、強力な戦闘ボディにも変身できるメガボウラーをはじめとする改造人間を作り出したのに対し、そもそも水野に人体改造の技術を供与したはずのデストラーゼでは(西本は水野の助手だった)、人間を宇宙空間でも生存できるように体の一部にメカを組み込み(具体的には予備酸素供給装置を仕込んだ人工肺や無重力に耐えられる人工心臓など)または義手義足のレベルのものか、もしくは完全な機械的ロボットに人間の脳を移植した改造「人間」とは呼べないほどのものの両極端の二タイプに分かれていた。前者は幹部であるテール父娘ら及び下級戦闘員、後者は怪人である。

 そのため地球進出後は水野を迎え入れて改造にあたらせるとともに、素材も地球人に求めた。これが加納恭子や多々良麻子をはじめとする、いままでメガボウラーが戦ってきた敵だった。しかし、この水野という男、デストラーゼに従っているようで実は単に自分の人体実験欲を満たそうとしているだけの狂人科学者であり、高齢にも関わらず異常な性欲をも持ち合わせている危険人物でもあった。

 そのため、リコは負傷して片腕を切断するようになったとき、父の薦めに従わずデストラーゼの技術者によって義手を取り付けた。かねて水野が色目で見ていたのを警戒していたからだ。「手術中にへんな所を触られる、いやレイプされるかもしれない、もしかすると怪人に改造されるかも・・・」不安になったリコは自分たち親子に絶対服従する医師を選んだのだった。

 しかし、美貌を誇るリコはその醜い腕がいやでいやでしかたなかった。また、自分をそんな目に合わせたメガボウラーを激しく憎んだ。そして・・・・・・・!

 彼女は、ひとつの作戦を立てた。それは、西本博士を攫って自分を美しく再改造してもらい、さらに人質としてメガボウラーをおびき寄せ部下の怪人に始末させる、という具合。

 さて、うまくいくのやら・・・・。

 

作戦開始

 スポーツ誌の女性ライター、西尾理子が地球での彼女の姿だ。しかし、その正体はすでに西本陣営にはばれてしまっている・・。そこで彼女はいちかばちかの賭けに出た。なんと堂々と西本クリニックに押しかけてきたのだ。驚く西本。(サトルたちは学校)

 そして彼女は、父とけんかして飛び出してきて、海賊から足を洗い、地球人西尾として生きていきたいので、自分を人間に戻して欲しいと懇願してきたのだった。

「ねぇ、セ・ン・セ・イ・・・♪こんな腕じゃお嫁にいけないワ。直して・・。

だって宇宙一のお医者さまなんでしょ?」

「ねぇ、センセイ♪たしか奥様はいらっしゃらなかったわね。アタシじゃ不満かしら♪」

 色っぽい。小麦色に焼けた健康的な肌と高く結んだポニーテール。妻を亡くしている西本にとっては危険な誘惑だった。しかし理性の人と呼ばれる彼はその誘惑に勝った。というよりも、

「しめた!敵の改造水準を知るよい機会だ。復元逆改造手術には絶対の自信がある。うまくいけばこの女に使われている部品からアジトを特定できるものが回収できるかもしれないし、もし本当に彼女が足を洗うという可能性が少しでもあるのなら、情報を聞きだせるかもしれない」という学者としての研究心が欲望を上回ったということだった。

 水野といい、この西本といい、科学者というものは研究のためなら他のことは異常なほどスッキリと外すことが出来るものだ、と作者は思う。

 西本は全裸のリコをまず検査台に載せた。左腕が義手になっている。義手としての機能は地球のものよりずっと巣くれていたが、サイボーグの腕としてはお粗末な代物だ。透視カメラがなめるようにその肢体を照らす。また、念のため生殖機能も確かめてみたが、意外なことに処女だった。

 「・・・・」西本は絶句した。

「水野先生・・・」今まで戦ってきた敵サイボーグは、これで水野が改造したものだということがはっきりしてしまった。デストラーゼの改造水準は、西本以外の地球の人工臓器、義手・義足を若干上回る程度のものだったのだ。しかも、この不自然な腕の継ぎ方では、生身にちかい肩から腐ってやがて死んでしまうほどの稚拙なものだった。西本はすぐにかつて松崎大輔を復元した要領でリコを復元することにした。が、途中で思いとどまりその後一度取り出した人工肺(正確には、生の肺の中に埋め込まれた補助装置)を再び戻し、自分が開発したより高性能な人工心臓を組み込むことにした。万が一脱走されて敵アジトに帰ったとき、その二つが泣ければ死んでしまうと考えたからだった。お人よしかもしれないが、命を救うことを仕事にしている西本はついついそういうことをしてしまう癖があったのだ。手術は無事に終わった。リコは念願のニューボディを手に入れたが、密かに自分をメガボウラーなみの強力かつ、人間としての機能ももつ体にしてくれるのでは、という期待は裏切られた。

「センセイ・・。なんと言ってお礼をしたら・・。」

「そんな。私は医者です.生きとせ生きる全ての命を救うのが使命なのですよ。ところで本当に足を洗っていただけるのでしょうね?」

「ええ、もちろん。あんな化け物の巣や博打と暴力の好きな親父の所へなんか帰りたくないの」

 というといきなり「チュ♪」と西本に口付けをした。フラリと倒れる西本。

「・・・油断したわね、センセイ。」実は口紅に強力な麻酔が含まれていたのだ。万が一わなかも知れないと思っていた西本は彼女の持ち物全てを分析した。しかしそこにはデストラーゼにつながる情報も隠し武器もなく、油断していた。そして、女性なら誰でももっている口紅はうっかり調べるのを忘れてしまっていたのだ。かくして計画通り西本を捕らえる事に成功し、かつ腕も直してもらうことにまんまと成功したリコ!彼女は今、得意満面であった。そしてアジトである自宅マンションに引き上げるリコ。

 サトル・サトミ・剛の3人はこのことを何も知らない・・・・・・・・!

つづく。