メガボウラー第4話―――――狙われたエース

 

 バシッ!バシッ!南武高校のグランドに、キャッチボールの音が聞こえる。スポーツの名門・南武高校に今年、

ひとりの怪物が入学した。その名は松崎大介。中学校野球大会で全国制覇を果たした左腕。100年に1人の逸材。あの永嶋監督が

「うーん。そーですねー。中卒で採ることは出来ないんですかねー。いわゆる一つの職業選択の自由とか・・」といって世間をさわがせたあの天才少年が南武校校野球部に入部したのだ。

 「大ちゃん」早めに練習が終わったのかサトルたちが声をかける。実は、大介は東兄妹とは

同じ中学の出身で大の仲良しなのだ。

 「大ちゃん、やっぱ巨神?それとも東武?」

「サトミー!俺まだ1年だよ。それに今は都大会が先さ」

 「それじゃじゃましたね」

さて、激しい練習が終わった午後8時。野球部のクラブハウス前に真っ赤なキャディラック・エルドラドが横付けした。

 中からは、ちょっと太めだけど、健康的な肌とポニーテールの似合う綺麗なおねいさんが現れた。

「ちょっと監督いますーぅ。アタシ広知新聞の西尾っていうんですけどぉ!松崎君の取材させてくださーい」

 この美人記者の正体は・・・いずれ判ることとして、大介は、取材を受けることになった。

しかし、いつになっても開放されない。

「おねーさん、明日朝練あるんでそろそろ・・・」

「何いってんのよ。夜はこれからよ。それにあたしは「おねーさん」じゃないわ。「リコ」って呼んで。リコ!」

リコの胸は大きくてやわらかく、その色香にすっかり大介はとりこになってしまった。(リコは完全サイボーグではないため、胸は本物なのだ。改造箇所は、胴体内の胃腸にあたるところにエネルギー変換装置、小脳にコントロールボックス、喉の奥に火炎放射器、あとは手足の強化、といったところで、骨格やその他は人間と同じ)

 こうして大介は、リコによって拉致されてしまった。六本木のバーで無理矢理酔わされて眠らされた大介は、古びた洋館に運び込まれた。しかも、リコは酔いつぶれた大介の写真を学校に送りつけ、「松崎選手は預かる」と脅してきた。もちろん、広知新聞の西尾利子記者としてではなく、謎の女としてだ。

 その洋館とは、水野博士の別荘だった。

「おはよ。だーいちゃん」

 ここはどこだ!

「いいこと、大ちゃん。あなたに強―い力をあげるわ」

 こうして日本球界の宝になるはずだった大介はデストラーゼと水野によって改造されてしまった。

エースのいなくなった南武校衡では緘口令がしかれ、大介は盲腸で西本クリニックに入院した、ことにした。しかし、ファンの女の子がお見舞いといっておしかけてくる。そこは何とか切り抜けたものの、いないのがバレルのは時間の問題だった。

 そして、数日後、事件が起こった。高校野球の西の名門・大阪の吉本工業高校に、デストラーゼのサイボーグが乱入し、まあ、投げる方は誰も打てないとしても投手にわざとぶつけ、打てば野手の脳天直撃と大暴れし、しまいには校舎を破壊して去って行った、というのだ。そして、その陰に、白衣の老人とポニーテールの女の姿が。

 「博士!あれはきっと大ちゃんだ。何とか捕まえて元にもどさないと!」

 「大ちゃんと戦うのなんてイヤ!」

そうしているうちに、今度は大介と思われるサイボーグは、名古屋の愛商大名店高校を襲った。

 「つらいことだが、すぐ止めてくれ」

西本の号令でビルドアップした二人は、新装備スカイパーツで空を飛び、名古屋に急行した。

 そして、すぐ戦闘になった。大介はすでに洗脳されているらしく、二人の「大ちゃんやめろ」の声も聞こえないようだった。

 激しい戦いの末(ちょっと手抜き)さすがに2体では分が悪いと見たリコは、大介を巨大化させた。

「ジェミニ・シンクロン!」サトルたちも合体してギガボウラーとなり、巨大戦に突入。大介の投げる魔球も、頑丈なギガボウラーには無力。すると今度は、鋼鉄のバットで殴りかかってきた。これは堪える。

 そのときだ。サブパイロットとして肉体の管理をしているサトミの意識が、コントロールボックスを持つ女に気づいたのは。そして、その受信機が、帽子にあることをサーチした。(サトル・・帽子よ。帽子を壊せば大ちゃんわれに返るはずよ。)(よし・・やってみる)

 「うおーーーっ!」ギガボウラーは突進した。そして、アームドリルで肩を貫き、それをかわした大介の一瞬の隙を突いて帽子を奪い取った。突然苦しみだす大介。

 しかし、かえってコントロールが効かなくなった彼は凶暴化してしまった。

「くそ!大ちゃん狂っちまった」手も足もでない。かといって今回はなんとしても生け捕りにしなくてはならない。彼は二人にとってまたとない親友なのだ。

 「アタイにまかせて!」サトミの意識がそう叫ぶとギガボウラーはシフトチェンジした。シフトチェンジ、とは、左右のポジションを入れ替えて主導権を交代することで、外見上は、右青、左赤だったギガボウラーが一瞬全部銀色になり、左右の色が入れ替わる(他に、頭が360度回転)するだけだが、実は股間の装甲版の下では、人工ペニスが引き込まれて先端だけとなり、睾丸を模した球形エネルギーパックも引き込み、それらを包み込むように左右から装甲板が伸びてきて女性型の股間メカに変わるのだ。もちろん、外観からは絶対「女」とは判らない)

 一か八かにかけるぜ、サトル!なにを思ったか、サトミ主導にシフトチェンジしたギガボウラーは暴れるメカ大介に抱きつくとフェイスガードを上にどけて、キスをしたのだ。もちろん、その顔はサトミの顔ではなく、銀色のメカの顔なのだが・・」

 するとどうだろう。大介はわれにかえった。「き、君はサトミなのか?どうして俺はこんな姿なんだ?」

「大ちゃん」と呼びかけたそのとき、水野とリコが大介の自爆装置を作動させ、大介とギガボウラーはふっとんだ。

 幸い、緊急分離した二人は軽傷で済んだが、内部から破壊された大介はショートして危険な状態だった。

「だいちゃん、もう大丈夫だ」

「サトル、サトミ・・・俺・・」「もうしゃべらないで」

 そのとき「オーホホホホ。地球人大好き友情ごっこかい?あたしはリコ。デストラーゼのキャプテンテールの娘よ。おぼえててねぼーや」と捨て台詞を残したリコが去っていこうとした。そのとき、最後の力を振り絞った大介の白球がリコの肩に当り、鈍い音がしてリコが転んだ。「もうゆるさないんだから!次に逢った時がぼーやたちの最後よ」といってリコは消えた。

 

 戦いは終わった。二人は、いそいで大介の残骸を研究所に運んだ。

 「博士。どうですか。脳は無事なはずです。」「お願い!大ちゃんを生き返らせて」

「宇宙の金属が使われている・・・修理は不能だ」

「それじゃ大ちゃんは!」「いや、方法は一つだけあるんだが・・・・」

「何ですか。どんなことしてでも生き返らせてください」「どーして暗い顔するの?むずかしいの?」

「簡単だ。幸い生体部分に無傷の部分があるからクローン技術で欠けた部分を培養して、そこに元の脳を移植する」

(注 既に実験の結果、クローンには人格が宿らないことが判明し、元の脳を移植するしかないことはわかっていた)

 

「なーんだ。それじゃ大ちゃん人間にもどれるんじゃない」「よかった」横で聞いていたみゆきも、「それじやいずれサトミちゃんたちも、人間にもどれるってことよね。」と大喜び。

  「彼の場合、よくないんだ・・・・」

「何故」と一堂。

 たしかに、彼がふつうの高校1年生だったら、元の人間にもどれるよ。しかし彼はスポーツ選手だ。クローンの体は、今まで取得した運動能力はないんだ。ただの人間になってしまうんだ。天才としてのプライドがある彼にそれが耐えられるか・・・しかしこれ以外に彼の命を救う方法はない。・・・・・

 かくして、大介の蘇生手術は成功した。2週間後、回復した大介をサトルたちが見舞った。

「大ちゃん、この前はこわしちゃってごめん。」「大ちゃん、ほんとにごめんね。痛くなかった?」。

 「水臭いぞサトル。あれは俺がだまされていたんだ。そしてありがとう、サトミ。きみのおかげで目がさめたんだ」

 「あっあのキス?やだーっ」

 「まあな、俺はファーストキッスの味は覚えてたからな」

「ファーストキッス?」「サトミ、お前大ちゃんとそんな関係だったのか」「えーこの前一か八かでやってみただけだよ」

 「サトミ、おぼえてないのか?中学のとき廊下走っててぶつかっただろう?あのときだよ」

「でも、あれって事故じゃない。」「君にとってはな。でも俺にとっては大切なことだったんだ」

 「大ちゃん、趣味悪いぞ、やめとけやめとけ」

バシッ!サトルは吹っ飛んだ。「もーサトルったら!」

 「でも俺、巨乳好きだから、今のサトミは遠慮させてもらうよ。あの「リコ」さん・・・よかったなぁ」

「もう大ちゃんまで!言っておくけどね、あの巨大サイボーグ、半分サトルだったんだよ。だからあんたは

サトルともキスしたことになるの!判ったこのタコ!だーいっ嫌い!」

 「うっサトルと・・?おえー」

 「ところで話変わるけど、大ちゃん野球どうする。?もう今年の大会は間に合わないし、博士に聞いたと思うけど、今まで身に就けていた変化球はもう二度と投げられないし、体そのものも一から鍛え直さなっきゃいけないんだぜ。同だこの際ぼくたちとフットボールやらないか?」(いつのまにか戻ってきたサトル)

「ダメ!野球やってない大ちゃんは大ちゃんじゃない」

 「フフフフ・・俺を誰だと思ってるんだ。天才・松崎大介だぜ。それに高校生活は3年あるんだ。3年の夏までに甲子園行って、吉本をぶっつぶしてやるさ!」

 「大ちゃん!それでこそ男だ」「それでこそ、アタシのファーストキツスをあげた子よ」

 

 やがて・彼はその言葉どおり復活し、甲子園を5連覇し、その後東武パンサースに入団して旋風を巻き起こすことになるのだが、この時点ではまだ未来のお話であった。